嵐の名残り(私がペーガソスライダー?)
その日私は父親と夕食を共にした。本当に久しぶりだったが、実際にはそんなに日数が経っていなかった。商会が試作した蒸留酒を父親に渡した。父親もその味を気に入ったらしく、少なくとも軍隊では多くの人が好むだろうと言っていた。これで蒸留酒の販路に困ることはないだろう。そうだ!ニキタス商会にまず親衛隊と近衛軍団に酒をキャンペーンすると提案しよう。ロインのところにも送らなければならない。彼は昨晩私に感謝の手紙を送ってきた。手紙に蒸留酒をどこで手に入るかを控えめに尋ねていた。夕食後、ミハイルはフィドーラ殿下からの手紙も私に渡してくれた。私に社交ダンスを教えると書いてきたのだ。
父親が戻ったから数日が経た。親衛隊の仕事は徐々に軌道に乗ってきた。ヒメラ領地に向かう近衛軍団がキャラニの軍営に到着した。各貴族の領地を巡回する使者が出発する前に、私たちは先に近衛軍団に親衛隊兵士の募集を知らせた。結果、ただ二日で多くの志願者が集まった。ラドたちはふるいにかけ、履歴書だけで合格した者は数百人いた。これはしっかり時間をかけて選ばなければならない。親衛隊の軍官の昇進はすでに完了しており、センチュリオンの人数も8人に戻った。軍官たちの会議時間も長くなり、私の残業も増えてきたように感じた。
親衛隊兵士の選抜をしているほか、皇族の安全を守るも私の仕事だ。毎日の午後、秘書の文官が翌日陛下や皇族たちの日程を私に渡し、それに基づいて警備を手配している。私は毎朝と夜に皇城を二回巡回し、皇城の隠し通路もひとつずつ回った。さらに監督として、通路を少し改築させた。これで敵が前回侵入した場所から皇城に入ることはできないだろう。その他、私は陛下の侍衛も務めることがある。親衛隊の軍官はすべて専任侍衛だからだ。フィドーラ殿下も私に彼女が作った美味しいお菓子やおやつを時々持ってきてくれる。彼女がもうやけどをしていないのは本当に良かった。さもなければ、私は罪悪感でいっぱいになっていただろう。すごし太ったと感じてしまって。このような生活も悪くないと感じ始めていた。
今日は冬の珍しい晴れた日で、風もあまり強くない。ラドは兵士の募集の手配に忙しく、私も珍しく暇を得た。今私は皇城の南側の兵舎にいる。フィドーラ殿下は私にグリフォン騎士になってほしいと言っていた。ただの理想だと思うが、彼女は皇帝陛下の許可も得ていた。私は父親からの許可も得た。今グリフォン軍団の半数以上がヒメラ伯爵側に寝返ったため、新人を拒まない状況だと父親から聞いた。
「我々は今多くのグリフォンと経験がある騎士を失った。だから今では一部の見習い騎士が正式騎士の役割を担うことになった。予備のグリフォンもいない。ダミアノス様が君がペーガソスに乗った経験があると言っていた。しばらくはペーガソスライダーとして務めてもらおう。今回が上手くやったら、次回でグリフォン騎士の訓練を行うことにする。」ロレアノは私が装備を整えているのを見ながら言った。彼はグリフォン軍団の新任軍団長だ。
「了解しました。」私は落ち込みながら言った。パナティスたちはいつも私の体格をからかい、小柄な女性しかなれないペーガソスライダーに私がぴったりだと言っていた。まさか今日本当にみんなの前でペーガソスライダーの装いをすることになるとは思ってもみなかった。恥ずかしくてたまらない。
「ルチャノ、君は誇りに思うべきだ。大陸全体でペーガソスライダーとグリフォン騎士の両方を務める者などいないんだから。」近くでペーガソスライダーの装いをしている女性の軍官が言った。彼女はソリナ。グリフォン軍団の首席ペーガソスライダーだ。私は首を横に振った。それは事実だった。グリフォン騎士は通常貴族出身の男性だけが資格を持ち、厳しい選抜を経て選ばれる。彼らがペーガソスライダーになることはない。だからこそ、パナティスたちはペーガソスライダーを使って私をからかっていたのだ。
「ルチャノ、まさか君がペーガソスライダーの制服を着る日が来るとは思わなかった。まるでペーガソスライダーにぴったりだ。ああ、君を侮辱するつもりはなかったんだ。ただの感想だ。」ユードロスが目を大きく開けて言った。ペーガソスライダーは革鎧と革製のヘルメット、そしてゴーグルを着用する必要がある。ここの革鎧は小さめだが、私にぴったり合うものがあった。
「仕方ないだろう。私が自分の意思でこんなに小柄に育ったわけじゃない。」私は自嘲気味に言いながら鎧を着た。隣でアデリナが手伝おうとしてくれたが、私は断った。一人でこの鎧を着られる。こういう時に女性の従者に手伝ってもらうと、ルチャノの評判がさらに悪くなる。
「ルチャノ、シートベルトはしっかり締めるんだ。後でチェックするから。」ソリナが横から言った。
「了解しました。」私は隣のペーガソスの首を撫でから乗った。革鎧は金属鎧より安いで軽い。防衛力が金属製の鎧よりもかなり低いが、ペーガソスに乗るならこれ以上は無理だ。
「ルチャノ、君は完全にペーガソスライダーだわ。」フィドーラ殿下が私がシートベルトを手際よく締めるのを見て言った。ため息が出る。確かにそうだ。リノス王国にいた時、私はすでにペーガソスライダーの訓練を終えていた。ひとりでペーガソスに乗ることができる。実際、15歳になれば、正式的にペーガソスライダーになれたのだ。アドリア領に来てから、一度はもう空を飛ぶことはないと感じたが、今は男性のペーガソスライダーとして再びペーガソスに乗ることができた。なんか妙な気持ち。
「フィドーラ殿下、どうか言いないでください。本当に恥ずかしいです。」私は顔を赤らめて言った。セレーネーとしてペーガソスに乗るのは普通だが、ルチャノとしてのはまた別のことだ。ペーガソスライダーは女性が務める仕事だ。私は小柄で痩せていて、アドリア領にずっといたため、一部の貴族の子弟から
「アドリアの姫」と呼ばれることがあった。だからこそ、ペーガソスライダーになるのは本当に避けたかった。
「仕方ないだろう。今は君に与えるグリフォンがないんだ。グリフォン騎士の訓練もしていないだろう。それに、君はまだ学院を卒業しておらず、正式なグリフォン騎士になることができない。今は人不足で、普段グリフォン騎士が担う連絡任務の一部もペーガソスライダーが行った。彼女たちは今とても忙しいんだ。君が来てくれたおかげで本当に助かる。見習いグリフォン騎士として登録し、次回からグリフォン騎士の訓練を開始しよう。」隣でロレアノが言った。
「ロレアノ様、私はまだ親衛隊の仕事があるんです。陛下も訓練だけを命じられ、日常業務を任されたわけではありません。」私は訂正した。フィドーラ殿下の要望に応じて、皇帝陛下はわざわざ私にグリフォン軍団に加わるよう直接命じられた。陛下はもうロレアノにメモも渡していた。またため息が出る。フィドーラ殿下は本当に熱心だ。ロレアノから「ペーガソスからやろう」と聞いたとき帰りたりと思うけど、フィドーラ殿下が強引に演習場に連れた。
「うん、シートベルトは合格だ。ルチャノ、君は以前アドリア領でペーガソスライダーの訓練を受けたことがあるのか?大陸全土の男性ペーガソスライダーを全て知っているが、君のことは聞いたことがない。」ソリナが私の締めたシートベルトを引っ張りながら言った。
「好奇心で乗ることがあるが、練習にはならない。」私は自分でも聞こえないような小さな声で答えた。
「ルチャノ、恥ずかしがる必要はないわ。君がペーガソスに乗れるおかげで、あの日わたくしは救われたんだわよ。もっと自分に誇りを持って。」フィドーラ殿下は笑いながら言い、懐から取り出した箱の中からクランベリーのクッキーを私にくれた。わあ、相変わらずおいしそう。
「ありがとうございます、フィドーラ殿下。頑張ります。」私は微笑んで答えた。はあ、私は本当にフィドーラ殿下には逆らえないな。
「それでは、君の実力を見せてもらおうか。ルチャノ。」ソリナもペーガソスに乗り、私の隣で言った。
「うん、慌てないで。もし落ちたら私が君を受け止めるから。」ユードロスが後ろの方で言った。彼はすでにグリフォンに乗っていた。
私は再びペーガソスの首を撫で、ペーガソスは嬉しそうに首を振った。そして、水晶で作られたゴーグルを下ろした。ペーガソスは助走を始め、翼を大きく広げて空に舞い上がった。ソリナとユードロスも私に続いて飛び立った。
私はまず低空でペーガソスを操り、周囲を一周した。ペーガソスは今日も嬉しそうで、元気よく飛んでいた。フィドーラ殿下が手を振っているのが見えたので、私も手を振り返した。そして、ペーガソスを操って南へ向かって飛び出した。ソリナは私の隣を飛び、ユードロスは少し後ろで低い位置を飛んでいた。私は胸元の赤い宝石のペンダントに手をやり、子供の頃神々に祈ったように、今日の飛行の無事を祈った。
冬の冷たい風が顔に当たり、すぐに寒さが限界に達したので、両手で顔を覆った。下には広大な演習場が広がっていた。演習場の北には平原が広がり、南には森があり、その中を川や池が流れていた。この一帯は近衛軍団の各部隊の訓練場であると同時に、皇族の狩猟場でもあった。毎年の新年には皇族が貴族を招いて狩りを行うのだ。
子供の頃とは違い、今ではただペーガソスに乗って空を飛ぶことに喜びを感じることはなくなっていた。ふと、幼い頃のことを思い出した。バシレイオス兄上は私にペーガソスライダーとして彼に伝令するように言っていた。私は当時嫌がっていたが、今になって彼にあんなことを言ったことを後悔していた。
もう12月になろうとしており、雪が降ったばかりだ。演習場の池には薄い氷が張っていて、川もいくつかは干上がっていた。木々の葉は地面に落ち、裸の枝だけが残っていた。そして、地面には白い雪が積もっていた。森の中では鹿やイノシシが驚いて走り出た。葉がないせいで、空からはとてもよく見える。ペーガソスに乗って羊を追ったり狩りをしたりすれば、とても便利だろうなと思った。空に浮かんでいる間、私はそんな無駄なことを考えていた。今日は快晴で、空には雲一つない。だから雲に飛び込んで遊ぶこともできない。私は子供の頃、この遊びが大好きだった。しかし、一度雨雲に突っ込んでしまい、厳しく叱られたことがある。それ以来、どの雲が飛び込んでいいかを覚えるようになった。
東の空には一群のグリフォンが飛んでいた。それはグリフォン軍団の部隊が訓練しているのだった。ああ、早くグリフォンに乗りたいなあ。と私は心の中で思った。
「ルチャノ、どうだい?」ユードロスが私の隣にやってきて言った。気がつけば、ソリナはもう遠く後ろに飛んでいた。あれ?ユードロスは私に何か個人的なことを言いたいのだろうか?
「寒すぎるよ。空飛ぶには夏の方が向いている。」私は不満げに言った。
「それは仕方ない。ペーガソスライダーもグリフォン騎士も、陛下に仕えるために存在している。寒いからといって空飛ぶのをやめることはできない。君は今や貴族であり、陛下の親衛隊の副隊長だ。そんなことを言ってはいけない。」ユードロスは先輩らしく私を諭した。
「すみません、気をつけます。」私は答えた。ああ、不満だけれど、反論できない。むかつく!
「ルチャノ、君の侍女のルナはとても優秀だと思う。彼女はペーガソスライダーにぴったりだし、文官の仕事も十分こなせるだろう。彼女は小貴族の出身で、アドリア伯爵の後ろ盾もある。軍隊での昇進も、文官になるのも障害はないだろう。彼女がただの侍女で終わるのは惜しいとは思わないか?」しばらくして、ユードロスは慎重な口調で私に言った。ああ、やっぱりこの話か。
「私も彼女が惜しいと思っている。ルナはとても才能だ。でも彼女は幼い頃にいろいろあったから、出世を望んでいないんだ。」私は正直に言った。ルナはセレーネーの幻影であり、私が経験できなかった人生だ。彼女は私の内なる夢でもある。だからこそ、ルナをもう一人のルチャノにはさせたくないし、彼女を責任や血統に縛らせたくない。彼女が守るべきものは母上との約束だけだ。もし私がルナになれたらよかったのに。ああ、でもそうしたら、私の正体は早々にバレて、ここまで生き延びることはできなかったかもしれない。
「私は彼女が幼い頃の悪夢から救い出せると思う。ルチャノ、私を信じてくれ。君や彼女の婚約者ができないなら、彼女を私に任せてほしい。」ユードロスはさらに続けた。甘すぎる。幼い頃の悪夢から簡単に救われるなら、どれほど良いことだろうか。
「ユードロスさんが彼女のことをそんなに思ってくれるのは本当に感謝しています。ですが、私は彼女を束縛していません。彼女がしていることは、すべて彼女自身の望みなんです。アドリア家を離れてエリュクス家に行かないのは、彼女自身がまだそうしたくないからだと思います。」私は言った。
「本当かい?そんな才能のある人材を、アドリア家は大切にしないのか?」ユードロスは驚いて言った。
「アドリア家に尽くすことよりも、彼女が自分のやりたいことをできることが大事だと思います。ルナはまずルナであり、アドリア家の道具ではありません。彼女はキャラニに来ることさえも嫌がっていましたが、侍女としての責任から来ざるを得なかったんです。」私は答えた。これも嘘ではない。私もキャラニには来たくなかった。
「そうか。私は彼女をキャラニに連れ出して案内したいと思った。この地に長くいるから、彼女が興味を持ちそうな場所も知っている。でも最近、彼女とはあまり会えていなくて、手紙でしかやりとりできていない。彼女はいつも忙しく、夕食の誘いを何度も断っている。彼女にもっと私の誘いを受けてほしいと説得してもらえないか?」
「わかりました。実はルナはこの前の茶会に豪華すぎて緊張したと言っていました。次に誘うなら、別の場所を考えてみたらどうでしょうか?でも、ルナは二、三日前に婚約を解消するつもりはないと言っていましたよ。」私は正直に言った。以前父親や皇帝陛下と相談し、ユードロスをうまく断ることが賢明だと感じていた。ちなみに、あのお茶会が豪華すぎたというのも私自身の感想だ。
「わかった。気をつける。でも私はあきらめない。少なくともルナ自身から聞くまでは。」ユードロスはため息をついて言った。ああ、彼はどうしてこんなにも頑固なんだろう。次回セレーネーとしてフィドーラ殿下に会う時、ルナの口からはっきり伝えなければならないな。まがまがしい。
「もし君が秘密を守ってくれるなら、もっとルナの情報を教えてあげてもいいよ。」私はユードロスを慰めるために、ルナの情報を使って彼を励ますことにした。それに、彼がさっき私に説教した仕返しをしたくもあった。
「もちろん。」ユードロスは急にこちらに顔を向けた。動きが大きすぎて、彼のグリフォンが少し揺れた。
「ルナは平民地区の料理を試すのが好きだが、普段はなかなか食べる機会がないんだ。それに、彼女は踊りも得意だ。陛下も彼女の踊りを絶賛している。」私は抑えきれない興奮を隠しながら言った。
「食べ物についての情報はありがとう。ルナが踊りが得意だということは、フィドーラ殿下からすでに聞いている。」ユードロスは言った。
「ああ、そうだ。陛下が以前、フィドーラ殿下に話していたんだった。」私はぎこちなく笑った。忘れていた。以前、公爵の爵位を辞退した時に、確かに皇帝陛下がフィドーラ殿下にルナが踊れることを話していた。
「ルチャノ。私と競争しよう。もし私が勝ったら、フィドーラ殿下がルナを皇城に招いた時、彼女に踊ってもらうことにしよう。」しばらくして、ユードロスは興奮を隠そうとしながら言った。
「嫌だ。」私は即答した。
「どうして?」ユードロスは驚いた様子で言った。
「ユードロスさんに勝ったとしても、私は君に何をしてもらいたいかわからない。」私は答えた。私は損をするだけの勝負なんてしたくない。
「わかった。いい考えがあるんだ。行くぞ。」ユードロスは言った。彼は悪巧みをしているような表情を浮かべていた。
「え、何?」私は聞き返したが、ユードロスはすぐに遠くへ飛んでいった。本当にひどい、ちゃんと話を終わらせてくれよ!
ああ、早くユードロスをきっぱりと断っておくべきだった。ここまで引き延ばしたのは本当に間違いだった。そして、フィドーラ殿下に自分の秘密を打ち明けることについても。今となっては、フィドーラ殿下は私の秘密を漏らさないだろう。でも、本当にフィドーラ殿下と結婚する準備ができているだろうか?お互いの愛は、私たちのを支え続けることができるだろうか?フィドーラ殿下が秘密を知った後も私をそばに置いてくれるだろうか?どの質問にも自信がなかった。私はただため息をつき、ペーガソスに乗ったまま空に漂い続けた。




