嵐の名残り(父親の帰還)
あの日、結局ラドが私を家まで送ってくれた。私はまだ意識があったが、ラドとジェナアロ以外のケントゥリオたちは全員酔っ払った。翌朝目を覚ますと、ソティリオスがもう前日に私が求めていた材料を届けてくれた。さらに様々な種類の木材も持ってきてくれたが、どれも私には馴染みのないものばかりだった。ようやく精油制作の実験を始められる!私はアデリナを呼び寄せた。精油を作るには、まず原材料を水に浸す必要があるので、今日は制作を始めることができなかった。
翌日の予定は親衛隊の軍官選抜を続けることだったが、朝食を食べている時、父親の従者が家にやってきた。彼は私を見ると、「若様、伯爵様はすでに帝都に到着されています。現在皇城にいらっしゃいます。陛下が皇城の内閣執務室へお越しになるようにと仰せです。」と言った。えっ、父親は二日後に戻られるはずだったのでは?私の疑問を見抜いたかのように、従者はさらに「伯爵様は軍隊を後に残して、先にご自身と私たちだけ馬でこちらへお越しになられました。」と言った。
私は急いで立ち上がり、アデリナに礼服に着替えるように求め、さらにハルトに馬の準備を頼んだ。着替えを終えると、テーブルからパンを二切れ掴み、馬に乗って邸宅を飛び出した。父親が帝都を離れてから十数日しか経っていないが、何ヶ月も離れていたように感じられる。この間、本当に色々のことが起こった。父親に話したいことがたくさんある。
今は夜明けの鐘からの一番の鐘が鳴ったばかりで、街にはほとんど人がなかった。皇城の門前に立っている衛兵が私を見ると、敬礼しながら私を通してくれた。アデリナとハルトも一緒に城内に入った。私は馬を皇城の軍営に預け、急いで内閣会議室へ向かった。文官に通報してもらい、しばらく待つと、ようやく会議室の扉が開かれた。私は急いで中に入る。そして皇帝陛下が鎧を着た人物と共に朝食を取っているのが目に入った。皇帝陛下はまだ寝間着姿だった。その人物が私に気づいて振り返ると、それは確かに父親だった!
父親は立ち上がり、私は急いで駆け寄り、彼を抱きしめた。話したいことはたくさんあったのに、涙で視界が滲み、声も出せなかった。最初は小さくすすり泣いていただけだったが、次第に大声で泣き始めた。胸の赤い宝石のペンダントが少し痛かったが、それでも母上も私と父親の再会を喜んでくれているように感じた。
父親は私の帽子をかぶった頭を軽く叩いたが、傷に触れたせいで、さらに痛みを感じた。私は帽子を取り払い、父親は代わりに頭の後ろを撫でてくれた。正直に言うと、鎧を抱くのは冷たくて硬くて居心地が悪かったが、そんなことは気にしなかった。泣くのをやっとの思いで止めると、私は涙を拭い、父親を放した。おそらく長旅のせいで、父親の髭は全く手入れされておらず、目の下にクマができて頬骨も突き出ていた。明らかに痩せたのがわかり、また泣きたくなった。なぜ私は父親を心のよりどころとして見てしまうのだろう。パイコ領地の戦争以降、私は本当に変わってしまった。
「よし、もう泣かないで、ルチャノ。お前はよくやったよ、聞いているぞ。お前の決断力と勇気がなければ、今こうして朝食を食べていることもなかっただろう。」父親は笑顔で私に言った。私は涙に濡れた顔を拭い、黙って頷いた。
「はあ、ダミアノス。あの時お前の言う通りじゃ。もっと早く近衛軍団の野戦部隊を皇城の防衛に投入していればよかったのじゃ。しかしお前の息子も本当に優秀じゃ。もしアウレルが彼のようだったらよかったのに。」皇帝陛下が続けて言った。
「はは、彼のようにですか?陛下、それは冗談が過ぎます。」父親が答えた。なぜ私の不快な思いを引き合いに出して冗談を言うのだろう?アウレルが私のようだったら、陛下はとっくに死んでいたはずではないか。私は不満げに父親をもう一度抱きしめた。
「どうであれ、また会えてよかったのじゃ。アウレルのことは残念だが、過ぎたことは仕方がないのじゃ。これからのことを考えなければな。ルチャノ、抱き合うのは家に帰ってからにするのじゃ。まずは座って話を聞け。」皇帝陛下が言った。私は不満げに父親の隣に座り、彼の皿からパンを取ってかじり始めた。
「陛下。アウレル殿下があのようなことをするとは思いもしませんでした。もし私がその時帝都にいたなら、彼らも反乱を起こす勇気はなかったでしょう」。父親はため息をつきながら言った。
「すでに起こったことを悔やむのはやめるのじゃ。ヒメラ伯爵領を討伐するよう命じたのはわしじゃ。一番後悔すべきのもわしじゃ。アウレルについては、最近わし自身も反省しているのじゃ。彼を閉じ込めて反省させたうえ、メライナを修道院に入れたことで、彼は多分わしが跡継ぎを変えるつもりだと思い込んだのじゃ。」皇帝陛下も嘆きながら言った。
「陛下にはもちろんそのようなお考えはありませんでした。」父親が言った。
「そうじゃ。ただ彼に冷静になって考えさせたかっただけじゃ。わが死んだ後、彼はメライナを皇城に迎えてもよかったのじゃ。ミラッツォ家もそうじゃ。しかし、ミラッツォ家とヒメラ家が彼の不安を利用したのじゃ。ずっとメライナに尋ねたいのじゃ。わしらはまだ即位のずっと前から愛し合ってはないか。彼女の目にはわしは何に映っていたのじゃ。オーソドックス貴族とは何なのか。ミラッツォ家とわし、どちらが重要だったのか。そしてなぜアウレルの反乱を支持したのか。」皇帝陛下はいった。私は彼の目が赤くなっているのに気づいた。
「本当に朝の話題にはふさわしくないのじゃ。夜だったら、酒を飲みながら話せたばいい。この話はここまでにしましょう。アウレルの反乱を利用して、オーソドックス貴族たちに各旧王国を皇帝直轄領に組み込むことを議会で承認させたいのじゃ。さらに新しい内閣の大臣たちを選出しなければならない。だから、お前には軍隊を率いて帝都を守り、他の反乱を企てる貴族たちを威圧してもらいたいのじゃ。」皇帝陛下が続いて言った。
「承知しました。全力でお役目を果たします。」父親が言った。
「イオナッツとレオンティオは重傷を負っており、春まで職務を果たせないのじゃ。現在、レオンティオの息子スタヴロスが首相の職務を一時的に代行しており、各大臣の仕事も彼らの部下がこなしているのじゃ。しかし、親衛隊には指揮官がいない。そこでルチャノを親衛隊の副隊長に任命したのじゃ。彼はかつてイオナッツと仲が良かったし、親衛隊の再建に適任するのじゃ。近衛軍から人材を選ぶように彼に命じた。昨日、彼は親衛隊のセンチュリオンたちを酔わせてしまったが、いい働きをしているじゃのう。」皇帝陛下が言った。
「近衛軍の人材を親衛隊に選抜できるのは光栄なことです。ルチャノ以上にこの職務に適した者を思いつきません。陛下の信頼を得て、さらに親衛隊の兵士や軍官たちを納得させることができるのは、陛下と親衛隊を救ったルチャノだけでしょう。しかし彼は親衛隊の雰囲気には馴染んでいないようです。」父親が言った。
「でも、私はラメラーアーマーを着ることができないし、以前の鎧も壊れてしまって修理が春までかかるんです。昨日、親衛隊のセンチュリオンたちが私に訓練に参加するように言ってきましたが、何とか見学だけで済ませました。」私は不満げに言った。
「それは良かったじゃないか。イオナッツから聞いたが、お前は彼の筋肉が好きなんだそうじゃ。親衛隊には筋肉質の男がたくさんいて、彼らは訓練中ほとんど褌しか履いていないんだ。お前の好みにぴったりじゃのう。」皇帝陛下は笑いながら言った。
「陛下、それはセクハラですよ。」私はふざけて本来の声で言った。父親と皇帝陛下は共に笑った。
「彼はイオナッツに、レオンティオには筋肉がないから会いに行きたくないと言っていた。」皇帝陛下は笑いを堪えながら父親に話した。
「そのことをレオンティオは知っているのか?」父親も笑いを堪えながら言った。
「彼を見舞った時に伝えたのじゃ。すごく怒って、筋肉がなくてもルチャノよりは良いと言っていたよ。ははは」皇帝陛下はついに笑い出した。
「アデリアの公女と筋肉で張り合うことになるとはな。」父親も笑い出した。私は一人で不満げに唇を尖らせた。。
「さて、話を進めよう。次はわしの後継者を選ぶことになる。アラリコが次の皇帝になる意思を表明しており、シッラー侯爵家とその一派の貴族たちも彼を支持している。しかし、私に最初に後継者になることを申し出た人物が誰か、お前はきっと予想できないだろう。」皇帝陛下は笑顔で言った。
「エリジオ殿下ではないでしょうね。彼は皇位に興味がないはずです。おそらくフィドーラ殿下でしょう。ですが、ルチャノが手紙で教えてくれましたから、これは予想とは言えませんね。ああ、そして彼に公爵の爵位を授けようとしていることも。」父親が言った。
「うむ、彼はすでにわしに公爵の爵位を辞任する意向を伝えてきた。考えた末、それも無理はないと判断した。年末年始に彼に名誉子爵を授けることにするのじゃ。最初に後継者になりたいと申し出たのはフィドーラで、ルチャノを引っ張り込んだのも彼女じゃ。だが、それはフィドーラ自身の意思じゃ。エリジオは後に嫌々ながらも後継者争いに参加する意向をわしに伝えてきたが、これはイリンカに強いられたのじゃのう。ロインは彼に対し、エリジオとフィドーラを今平等に支持すると言っているが、二人から一人を選んてアラリコと競争すると言ったのじゃ。」皇帝陛下は言った。
「陛下、ルチャノが後継者争いに巻き込まれてしまったことをお詫び申し上げます。私たちアデリア家は、近衛軍の責任者として、中立を保つべきだったのです。」父親が真剣な表情で言った。
「これはお前のせいではない。アウレルとメライナが反乱を起こした時から、シッラー家とタルミタ家が後継者争いをすることは避けられなかったのじゃ。ルチャノとフィドーラの結婚を決めたのはわしじゃ。皇位を継ぐことができない皇子を使って、帝国の状況を和らげようと考えていただけだが、まさかこうなるとは思わなかった。ルチャノ自身も皇位には興味がないし、彼がフィドーラを支持しているのは単に彼女への思いやりからだろう。」皇帝陛下は言った。
「二人の関係は順調に進んでいるのですね。」父親が言った。
「順調どころか、フィドーラが皇帝になりたい理由は、他の誰かが皇帝になったらルチャノをいじめるだろうと思ったからだ。」皇帝陛下は頷いた。
「お前たちの関係がいつこんなに深まったのだ?」父親が振り向いて尋ねた。
「たぶん、アウレルのクーデターの時でしょう。私はコンラッドの手からフィドーラ殿下を救い出しました。」私は答えた。
「うん、思ったよりもうまくいったようだ。」父親が言った。うまくいったわけがない!毎回フィドーラ殿下に私の正体を知られることを考えると、頭が痛くなる。
「とにかく、議会でこの問題を提起するつもりだが、すぐに決定するつもりはないじゃ。やるべきことが山積みだからだ。わしがこの間に死んだ場合は、伝統に従ってアラリコを後継者にするべきじゃのう。ダミアノス、お前は異論がないか?」皇帝陛下が真剣な表情で言った。
「承知しました、陛下。私は陛下の剣であり、陛下の意思を貫くために生きています。異論はありません」父親も真剣な顔で答えた




