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嵐の名残り(面倒くさい職場)

親衛隊の軍官たちだけが大広間に残った。皆の視線が私に集中していることに気づいた。正直、ものすごいプレッシャーを感じていた。まるで東京タワーの森に迷い込んだような気分だった。なぜ誰も「ここは公女がいるべき場所ではない」とは言わないのかと、心の中でため息をついた。


「ルチャノ様。当番の者を除いて、親衛隊軍官が全員ここにいる。皆に一言お願いします。」ラドが言った。


「皆さん。ルチャノと申します。多くの方はもう私を知っているでしょう。以前も陛下の侍衛を務め、皆さんと共に働いていました。陛下のご許可を得て、本日正式に親衛隊に加わることができ、光栄に思います。陛下と皇族の安全を守るために、皆さんと共に努力していきたいと思います。よろしくお願いします。」私は簡単に言った。文官が教えてくれた手順は先ほどで終わって、スピーチがあるとは聞いていなかった。


しばらくの沈黙の後、ラドが最初に拍手を始めたが、やがて拍手はすぐに止んだ。親衛隊の軍官たちも多くが包帯を巻いていたと気づいた。皇城の戦闘は非常に激しくだから、これも当然でしょう。


ラドは再び指示を出し、全員が持ち場に戻るようにと言い、軍官5人だけを残した。ラドは一人ずつ紹介してくれた。残ったのは各百人隊のケントゥリオで、彼らも包帯を巻いていた。親衛隊には8つの百人隊があり、したがって8人のケントゥリオがいるはずだったが、アウレルの反乱で2人のケントゥリオが殉職し、さらに1人が重傷を負って引退した。残っているのは5人だけだった。


これで3人のケントゥリオを見つける必要がある。本当に難しい仕事だ。残った5人のケントゥリオの中には、アウレルの事件で城門を守ったベリサリオがいた。私は彼に軽くうなずいた。まさかこんなに近いうちにもう一度会うなんで、本当に予想外でした。ベリサリオもうなずき返してくれた。


「副隊長がこんな人物だとは思わなかった。陛下がどうしてこんなことを決めたのか、イオナッツ様は知っているのか?」他の者が大広間を去った後、フェルミンというケントゥリオが私を指差しながらラドに言った。


「フェルミン、言葉に気をつけろ。親衛隊の一員として、陛下の決定を疑う資格があるのか?」ベリサリオが言った。


「ベリサリオ。親衛隊は陛下の盾であり、いつでも身を挺して陛下を守るべきだ。こんな小さな盾を見たことがあるか?」フェルミンは私まだを指差している。それはさすがに失礼すぎるだろう!


「黙れ、フェルミン。お前も陛下とイオナッツ様に選ばれて辺境軍団からここに来たんだ。ルチャノ様の任命は二人が同意したものだ。親衛隊にいるのが嫌なら退役届けを出せばいい。」ベリサリオはフェルミンの手を払いのけながら言った。まさか初日の仕事からこんなことになるとは。自分がこの職場に合っていないとあっさり感じた。皆が私より背が高く、私が着ることができない全身のラメラーアーマーを身に着けている。彼らの上司としてうまくやっていけるのだろうか?たとえ名ばかりの上司だけど。


「もうやめてくれ。さて、ルチャノ様。これから親衛隊の会議室で今後のことを話し合いましょう。」ラドが争いを終わりにする。


「その必要はないと思う。ルチャノ様、私たちは心から陛下とイオナッツ様に従っていますが、貴族の坊ちゃんに指示されるのはごめんだ。例え名ばかりの指示であっても。私は今回の戦闘で親衛隊は人手不足になったのは分かっているが、さすがに納得できない。ルチャノ様、私と試合をしていただけますか?」フェルミンは威圧的に言った。試合?これは親衛隊の暗号なのか?


「そうだ!ラド、我々の意見をイオナッツ様に伝えていなかったんだろう?お前が一時で親衛隊隊長の役割を果たせば十分だ。陛下はなぜ貴族の坊ちゃんを我々の上に置く必要があるんだ。」ジェナアロというケントゥリオもフェルミンの意見を同意した。


「前から言っているが、私はこの仕事を引き受けることができない。イオナッツ様自身が侯爵であり、陛下に信頼されている。だから彼の言葉は貴族に通じるが、私はだめだ。すべてを陛下に任せるわけにはいかない。理解できるか?」ラドは少し無力そうに言った。イオナッツの副官として、彼は普段からケントゥリオ同士の争いを処理するのが仕事の一つだろう。確かに親衛隊以外では彼には権威がない。


「イオナッツ様に会いに行って、彼の意見を聞いた方がいいと思う。戦闘や護衛には長けているが、親衛隊責任者の仕事はそれだけではない。アウレルの反乱以来、イオナッツ様に会っていない。医者が行かせてくれないだから。だが、新しい副隊長が任命されたからには、イオナッツ様に会うきっかけかもしれない。」ギオルギという別のケントゥリオが私を助けるためそうに言った。


「貴族は親衛隊に来るべきではないと思う。半端な学生侍衛なども存在するべきではない。数日前は学生侍衛だったのに、今日は侍衛と親衛隊の責任者だと?私は納得しない。」オタルという若い侍衛が言った。


「フェルミン、ジェナアロ、そしてオタル。なぜそんなに貴族に偏見を持つのか?私は出自だけで人を評価するのは愚かだと思う。反乱を起こしたアウレルも、実は公正の一面を持っている。オーソドックス貴族の中にも、ユードロスのように忠誠かつ有能な侍衛がいる。私はあなたたちに貴族を差別しないでほしいと思う。」私は両手を胸の前で組みながら言った。


「そうおっしゃるなら、お前も親衛隊を管理できる能力があると納得させてくれ。親衛隊は全員平民出身ですが、貴族を贔屓する軍隊では昇進の機会がない。私たちは自分の能力と忠誠心で親衛隊に入ったのだ。お前が責任者としてふさわしい能力を示すなら、評価を変えることもできる。一つの機会を与えましょう。」フェルミンが一歩前に出て言った。どうやら彼が最も反対しているようだ。


「能力?古典語で勝負しようか?私は古典語が得意です。親衛隊の責任者も古典語ができなければならないはずです。読み書きの仕事が多いのだから。」古典語なら、私は親衛隊の誰にも負けないだろう。


「ハハハ、本気かよ?親衛隊に送られる文書にはすべて通用語の翻訳が添付される。知らなかったか?」フェルミンは腹を抱えて笑い、オタルも笑い崩れた。私は彼らを不満そうに見つめた。


「弓術、剣術、馬術、そして槍術。これらはすべて侍衛に必須の技能だ。しかしペーガソスはいらない。ペーガソスライダーは危険を察知すると、遠くへ逃げ去るだけだ。彼女たちは陛下の盾にはなれない。」オタルも私を見下しながら言った。彼は私が陛下の前でペーガソスに乗れると言ったことに腹を立てているに違いない。私も怒りながら彼を睨み返した。


「ルチャノ様は2日前、皇城の戦闘で南門から謁見の間まで戦いました。アウレルを倒したのもルチャノ様です。皆も見ていたでしょう?」ラドは両手を広げながら言った。


「お前たちも包囲されていたのではないか。ルチャノ様が救援に来なかったら、お前らだけで謁見の間で陛下を救えましたか?」ベリサリオも言った。


「それは彼の鎧が良かったからだ。金があれば誰でも良い鎧が買える。そして二人の従者も何度も彼を救った。従者と従者がなければ、彼はもう死んでいただろう。さらに、イオナッツ様から聞いた話では、彼は力が足りず、全身のラメラーアーマーを着ることができない。自分を守ることもできないものが陛下の盾になれるのか?従者を連れて護衛任務に就く侍衛を見たことがあるか?それは親衛隊の恥になる。」フェルミンは譲らなかった。


「フフン、お前は物の良し悪しを見極める力があるな。私と従者の鎧は、私自身が設計図を作り、商会に注文して作ってもらったものだ。道具を使いこなすのは当然ではないか?お前たちも陛下を守るために鎧と盾を使うだろう。」私は得意げに言った。フェルミンは私が自分で板金鎧を設計したとは思っていないようで、しばらく言葉に詰まっていた。


「親衛隊に必要なのは工匠ではなく、戦士だ!」ジェナアロが横から助言した。私は無力感を感じながらケントゥリオたちを見つめた。彼らの認めを得るのは本当に難しい。陛下、この仕事は本当に簡単ではありません。


「ルチャノ様。では、彼らと剣術で勝負してください。イオナッツ様から君の剣術は悪くないと聞いています。」ラドが横から提案した。


「そうだ!親衛隊の責任者も侍衛の頭領でもある。もしプードル犬のような人間をその地位に置けば、貴族たちに陛下と我々親衛隊が嘲笑されるだろう!」ジェナアロも賛成した。プードルなんで、本当にひどいことだ!せめて番犬だよ、番犬。私も陛下が私を親衛隊副隊長に任命したのは、彼の番犬として使うためだと思っている。


「ルチャノ様。一緒に戦った兵士たちからも君の剣術は侮れないと聞いた。フェルミンに一矢報いてやってください。」ベリサリオはフェルミンの左肩を叩いた。フェルミンは叩かれた部分に痛みを感じたようで、不快そうにベリサリオの手を払いのけた。


「分かった、やってやるよ。」私はため息をついて言った。負けても、陛下に辞任を申し出る口実になるだろう。それも悪くないかもしれない。


ラドは私たちを皇城内の親衛隊の兵営へと連れて行った。皇城には何度も来たことがあるが、今日が初めて兵営に来ることになった。ここには武器と物資を保管する倉庫や、衛兵たちの寮があった。これまでの部屋はすべて連絡通路で繋がっており、冬でも外套を着る必要がなかった。しかし、兵営に行くには外套を着なければならなかった。こんな天気の中で鎧を着ていると寒くはないのか?私は周りの軍官たちを見ながら思った。


私の対戦相手はフェルミンに決まったらしい。剣術の試合では、当然ながら本物の剣は使わない。今回は訓練用の木剣を使用する。この剣は鉄の重りが付いており、外側には革が巻かれている。重量と手触りは本物の剣にできるだけ近づけてある。剣先には布で包んだ部分が特別に取り付けられている。布の上には石灰が塗られた。それでも実際に相手を打つとかなり痛いだから、防具を着けなければならない。ベリサリオは私に黒い木製の防具と金属の兜の着用を手伝ってくれた。相手に命中した場合、石灰が相手の黒い鎧に白い痕跡を残す。何と面倒な作りだが、試合をするしかないのか。


ラドは私たちを本館の壁際に立たせ、そこが試合の場所だと指示した。防具を着けている間に、周囲にはすでに親衛隊の軍官や兵士が集まっていた。オタルは試合の目的を簡単に説明し、結果的に人々はますます集まってきた。私は彼らを見ないふりをしたが、心の中ではやはり緊張していた。アドリア領で防具を着けてミハイルと剣術の稽古をすることはあったが、これだけ多くの人に見られるのは初めてだった。私は少し体を動かし、緊張をほぐそうとした。頭の傷は少し痛むが問題はなく、ただし激しく動くと左肩が痛む。私は再びため息をついた。


ラドは私たちに準備をするよう命じた。私は胸の前の赤い宝石のペンダントを手で押さえ、母上に武運を祈った。そして剣を構え、フェルミンに目を凝らした。フェルミンは私よりずっと体格が大きく、筋肉も発達しているようだ。彼は私と同じ片手剣を選び、剣がまるで箸のように見えた。しかし彼は私ほど身軽ではないかもしれない。彼の左肩も私と同じように負傷している。ベリサリオが彼の肩を叩いたとき、彼が痛みを感じたのは明らかだった。これは利用できるかもしれない。


「先に言っておくが、試合中に剣を手放してはならない。だから、以前のように剣を投げるのも禁止だ。」フェルミンは突然言った。


「なぜ?私はその技でアウレルを倒したじゃないか?」私は不満そうに言った。剣を投げることは効果的な戦術であり、私の得意技でもある。試合の前に特にその技を禁じられるのは、特別入試の試験官と同じではないか。


「投げた剣は鎖帷子さえ貫けないあら、本当の戦場では役に立たない。お前が成功したのはアウレルが鎧を着ていなかったのだ。」フェルミンは言った。ラドも同意するようにうなずいた。なんてことだ!私は怒りを抑えてラドを見つめたが、兜越しに私の表情は見えなかったのだろう。彼はただ冷静に背を向けただけだった。私は気持ちを整え、再び剣を構えた。


「始め!」ラドが大声で叫んだ。私はフェルミンを注視して、警戒を保ちながら足を動かした。フェルミンもすぐには攻撃せず、ただ足を動かして私の隙間を探っているだけだった。私も彼の動きに合わせて動き、彼の攻撃範囲の外に留まった。周りの親衛隊の兵士たちが騒がしく声を上げていたが、どうやら試合が少しも激しくないと言っているようだった。私は彼らを反論するつもりはなかった。そもそもこれは彼らに見せるためのものではない。


探り合いに飽きたのか、フェルミンが最初に仕掛けた。彼は剣を持ち上げ、私に突き刺してきた。私は一歩後退し、フェルミンの剣をかわした。フェルミンはさらに2回探りを入れたが、私はそれをすべてかわした。フェルミンはまだ全力を出していないのが明らかで、彼の攻撃はどれも手加減されていた。しかし、彼は主に左足を使って体を動かしていることが分かった。右足は少し不自然だ。そして左肩の傷が剣を持つ右手の動きも制限している。これは利用できる隙間だが、もしこれが彼の策略であればどうする?私は試してみることにした。


私は素早くフェルミンの右側に移動し、彼の剣を持った右手を攻撃するつもりで動いた。フェルミンは素早く体を回転させ、逆に前に出て剣を持ち上げて私に突き刺してきた。その瞬間、彼の右足が不自然に歪んだのを見逃さなかった。やはり彼は怪我をしている。演技ではなさそうだ。さて、ここからは私の攻撃だ。


私は少し後退し、再び剣を持ち上げてフェルミンに向かって突進した。今回は彼の左側に向かって移動した。フェルミンも私の動きに合わせて体を回転させたが、私の速さにはついてこれず、私が剣を振り下ろすと彼は後退せざるを得なかった。私は追撃せず、さらに動き続けた。周りの兵士たちは歓声を上げ始めた。試合が急に激しくなったからだろう。フェルミンは守勢に回らざるを得なかった。兜の下のフェルミンの表情は見えなかったが、彼の呼吸は明らかに荒くなっていた。フェルミンは明らかに劣勢に立たされていた。この状況では彼の反撃に警戒しなければならない。ラザルの教えを思い出した。


何度かの攻撃の後、フェルミンはやっと私の動きについてこれなくなった。彼の右足はさらに不自然に動いていた。恐らく追い詰められるのを嫌がり、彼は突然全力で剣を持ち上げ私に突進してきた。私は横に跳んで避け、そのままフェルミンの腹部に向かって剣を突き刺した。剣の先端に巻かれた布がフェルミンの防具に白い痕跡を残した。ほぼ同時に、私はフェルミンの斜め後ろに飛びて、フェルミンの反撃を避けた。


「終了、ルチャノの勝利!」ラドが叫んだ。フェルミンはよろめきながら足を止め、息を切らせて兜を外した。周りの親衛隊の軍官や兵士たちも静かになった。多くの者は黙って立ち去り、一部の者は試合を振り返るように小声で話していた。ジェナアロはフェルミンの腹部の白い痕跡を見つめ、信じられないような表情をしていた。オタルは驚いた様子で私に近寄り、私の防具や兜に石灰の痕跡がないか確認しようとしていた。ギオルギも大いに驚いた表情をしていた。ベリサリオだけは驚いた様子を見せなかった。彼は私が戦う姿を見たことがあるのだろう。


私も息を切らしながら兜を外した。先ほどの激しい動きのため、左肩がさらに痛みを感じていた。疲れていたが、最終的な勝者は確かに私だった。兜を無造作に投げ捨て、防具も脱がずに地面に座り込んで叫んだ。自分の力で帝国の皇帝親衛隊のケントゥリオに勝ったのだぞ!バシレイオス兄さん、あなたにこれができるか?


「ふん、右足が怪我をしていなければ負けることはなかった。」フェルミンは不満そうに防具と兜を脱いだ。


「負けは負けだ、フェルミン。私も2日前の戦闘で負傷したんだ。」私は得意げに言った。今は形勢が逆転しているので、先ほどの屈辱に対する怒りを発散させる時だ。


「傷が癒えたらもう一度試合をしよう。」オタルが突然言った。


「それは無理だ。お前が治った頃には新年の休暇も終わっている。新年の間に陛下を危険にさらすつもりか?」ラドが大声で言った。オタルは圧倒され、自然にうなずいた。


「あるいは馬術でもいい。競馬でも荒馬をならす競技でも、私はどちらも付き合おう。」ジェナアロがインスピレーションを受けたように言った。


「それではキリがない。もし親衛隊の全員が私に試合を挑むなら、新年までかかってしまう。親衛隊もまともに運営されなくなるだろう。」私は不機嫌そうに言った。なぜ彼らは自分の敗北を認めようとしないのだろう?フェルミンもまた不満そうに私を見つめ、次に何を言おうか考えているようだった。


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