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嵐の名残り(職場の紹介)

「リノス公爵になりたくないと言ったのか?」皇帝陛下は左手で顔を支えながら私を見つめ、隣に座っているフィドーラ殿下に視線を移した。


「はい、陛下。私はまだ陛下と帝国に対して十分な功績を立てておりません。そして私は皇族ではないので、慣例によると公爵にはなれませんと思います。」私は背筋を伸ばし、真剣な口調で答えた。これは皇帝陛下に謁見した翌日の午前のことだ。ここは皇帝陛下の執務室だ。昨日の午後、フィドーラ殿下が去った後、城内の文官が私に皇帝陛下が謁見を決定したと知らせてくれた。それは私を親衛隊副隊長に任命する儀式を行う前に、少し話をしたいとのことだった。フィドーラ殿下はどこからかこの情報を知り、今朝私と一緒に謁見に参加した。


儀式があるため、私は今日は礼服のみを着ている。皇帝陛下が以前、私の侍衛の資格を奪わったため、私は皇城で剣を持つ権利も失っている。今日の儀式が終わるまではそのままだ。


「これはお前の考えか、それともフィドーラがそうするように言ったのじゃ?」皇帝陛下は私を見つめながら尋ねた。フィドーラ殿下、今日の会議は他の誰にも知られないようにすべきだと主張したため、秘書や侍衛は全員退室させられた。しかし、私はここで侍衛の役割も兼ねることができる。侍衛の資格は剥奪されていったが。


「陛下、私自身もこれが適切ではないと感じております。昨日もその旨をお伝えしました。昨日の午後、フィドーラ殿下も私の家にいらっしゃいました。フィドーラ殿下も私が公爵になることを望んでいないと言っていました。」私は緊張して答えた。部屋はそれほど暖かくないはずなのに、汗が出そうだった。


「フィドーラ、どうして自分の婚約者が公爵になることを望まないのじゃ?お前は夫の爵位が高いほど良いと思っていたのではないか。」皇帝陛下はフィドーラ殿下に向かって言った。


「父上、今のこの時期はあまりにも不適切ですわ。ルチャノがオーソドックス貴族たちに恨みを買うでしょうね。」フィドーラ殿下は答えた。


「フィドーラ、ルチャノはお前に彼の過去を話したのか?」皇帝陛下が尋ねた。えっ、どういう意味だ?皇帝陛下が今、フィドーラに私の秘密を明かすつもりなのか?


「既に話してくれましたわ、父上。ルチャノは9歳までリノス王国の孤児院で過ごしていたと言っていました。リノス王国が滅亡した後、アドリア伯爵が彼を領地に連れて行ったのも話しました。だから彼は幼少期に貴族の教育を受けていませんの。しかしご安心ください。わたくしの見る限り、彼は貴族の礼儀作法も古典語も優れており、わたくしに見合わないことはありませんわ。」フィドーラ殿下は嬉しそうに言った。


「お前が喜ぶと思っていたが、そういうことじゃな。」皇帝陛下は私を一瞥し、再びソファに寄りかかって考え込んだ。えっ、皇帝陛下は私が喜ぶと思ってリノス公爵にしようとしていたのか?しかしフィドーラ殿下の前で秘密を明かされなかったのは幸いだ。

しばらくして、皇帝陛下は引き出しを開け、リボンがかけられた丸筒を取り出した。彼はそれを開けて、美しい装飾が施された羊皮紙を私に渡した。


「これはお前を名誉公爵に任命する文書じゃ。お前が公爵になりたくないのなら、まずは名誉子爵を与えよう。お前の名誉子爵の受封式、叙勲式、そして婚約式は新年の間に一緒に行うことにするのじゃ。功績を立て、旧リノス王国の土地を早くお前に渡せるようにしてくれ。」皇帝陛下は再び丸筒を私に投げた。フィドーラ殿下は羊皮紙を受け取り、丸筒に納め、再び皇帝陛下に渡した。


「ありがとうございます、陛下。しかし、リノス王国を目標にするのは少し僭越ではないでしょうか。」私は言った。現在、皇帝陛下こそが大陸の支配者であり、私は復国に対する執念をほとんど持っていないからだ。


「僭越も何もない。それはお前が当然得るべきものじゃ。しかし、親衛隊副隊長の件でお前は怠けることはできない。副隊長の軍階はキャプテンで、すぐに君の就任式が行われるのじゃ。」

私は目を閉じ、深呼吸を二回し、右手で平らな胸を押さえた。皇帝陛下に伝えておかなければならないことが一つある、それを言わなければ私は心の中で不安を感じ続けるだろう。


「陛下。私は自分が周りの人々に災いをもたらす存在ではないかと思っています。リノス王国を離れてからずっと考えていたのですが、私が幼少期にリノス王国にいたからこそ、リノスの王族は不幸に見舞われたのではないかと。そして今、帝都キャラニに来たばかりなのに、陛下は妻と跡継ぎを失われました。私は自分が不吉な存在であると感じています。本当に私をお側に置き、このような重要な役割を任せて良いのでしょうか?」私は皇帝陛下の目をじっと見つめて言った。フィドーラ殿下が隣にいるので、私は自分の本当の身分を隠していた。


「ハハハ、お前が何を言うかと思ったが。お前の言う通りなら、わしの兄弟は皆皇位継承の争いで死ぬか、皇族と貴族の資格を剥奪されて修道院に入る運命にあったのじゃ。メライナとアウレルもわしの身近にいた者だ。皇位そのものが災いをもたらす存在なのじゃ。その災いが自分に及ばないようにするためには、あらかじめ対策を講じる必要があるのじゃ。例えば、お前に親衛隊の再編を任せるように。」皇帝陛下は私の目を見つめながら言った。


「しかし、なぜ私なのでしょうか、陛下?」私は疑問を感じながら尋ねた。私は学院に入ったばかりで、以前は専任侍衛としての役割を果たしたことがない。皇帝陛下にお目にかかるのも先月のことだった。私が侍衛を務めた経験からすると、親衛隊はイオナッツのような筋肉質の男しか入れないと思っていた。親衛隊は私を受け入れてくれるだろうか?私は皇室の警備をしっかりと担当できるのだろうか?私は深い疑念を感じた。


「いい質問じゃ。まず一つ、わしはお前を信頼しているからじゃ。親衛隊はわしと家族の最後の盾であり、信頼できる者にしか任せられないのじゃ。お前と知り合ってからの時間は短いが、お前にずっと注目していた。お前は帝国で頼る者がなく、頭が純粋で誓いを大切にしているのじゃ。そして爵位や権力にも興味がない。さらにダミアノスとの関係から、お前はわしを裏切らないと確信している。だからこそお前をわし侍衛に任命したのじゃ。お前はアウレルの反乱中の活躍で、わしが間違っていなかったことを証明してくれたのじゃ。二つめの理由は親衛隊の再編や新年の間の警備には近衛軍との連携が必要じゃ。そのため、親衛隊の責任者は彼らと良好な関係を持つ必要があるのじゃ。親衛隊内部についても心配はいらない。お前が副隊長に任命されたのは、私とイオナッツの意見が一致したからだ。警備計画の策定については、イオナッツの副官であるラドが手配してくれる。親衛隊兵の募集や軍官の昇進も、主に数人のケントゥリオたちが相談して決めるのじゃ。重要な文書はイオナッツがすべて確認する。お前はイオナッツを助けて書類に署名し、外部との交渉を代表して行うだけで十分じゃ。」皇帝陛下は私に説明した。


「分かりました、陛下。全力を尽くします。」私は答えた。具体的な業務はラドという副官が担当し、重要なことはイオナッツに任される。この仕事、はやりフェンリルや普通の犬さえもこなせそうだ。

「よし。親衛隊の再編については、ロインとマティアスから兵士を選べ。親衛隊の定員は800人だが、今回300人を補充する必要があるのじゃ。また、親衛隊の軍官は現在の成員から選抜する。頑張れ。」皇帝陛下は私を見つめながら言った。


「承知しました、陛下。ロイン様とは?」私は尋ねた。


「わたくしの叔父であり、現タルミタ侯爵だわ。帝都警備部隊の長官を務めているわよ。」フィドーラ殿下が隣で言った。なるほど、アウレルの反乱の際に帝都警備部隊が多くの者が職務を守っていたのも納得だ。皇帝陛下は本当に信頼できる者を重要な役職に配置しているのだ。


「ハハハ。親衛隊は面白い場所だ。多くの貴族が耐えられないが、お前なら大丈夫だろう。さて、他に何もなければ、お前を親衛隊副隊長の就任式に連れて行こう。」皇帝陛下は立ち上がろうとした。


「父上、わたくしにはもう一つお願いがありますわ。」フィドーラ殿下が突然言った。


「何のことじゃ?」皇帝陛下は再び座り直した。


「わたくしはあなたの跡継ぎになりたいのです。」フィドーラ殿下は真剣な表情で言った。

皇帝陛下の表情も真剣なものに変わった。彼はしばらく考えた後、尋ねた。「誰かとこのことを相談したのか?」


「ルチャノにだけ話しましたわ。彼も賛成してくれました。」フィドーラ殿下は答えた。


「彼がお前に皇位継承者になりたいと言ったのか?」皇帝陛下が尋ねた。その口調からしても、それはあまり信じがたいことのように感じられた。


「違います、これはわたくしの考えですわ。」フィドーラ殿下は答えた。


「そうだろうな。ルチャノはきっとそういった厄介なことからできるだけ遠ざかりたいと思っているのじゃ。お前が次の皇帝になりたい理由は何だ?」皇帝陛下は尋ねた。皇帝陛下が私のことをこれほどよく知っているとは。どうやら本当に私に注目していたようだ。


「わたくしは最も父上の功績を継承し、大陸を一つにすることができると考えています。地域や民族の区別をなくし、旧王国と皇帝直轄領が一つに結びつき、オーソドックス貴族と新貴族の区別がなくなる世界を作りたいのですわ。そして功績ではなく、わたくしは父上の願いも継承しますわ。」フィドーラ殿下は勇敢に言った。


「分かったが、それで本当の理由は?」皇帝陛下は尋ねた。


「父上が私に与えた婚約者があまりにも愚かなので、他の誰かが皇帝になれば彼がいじめられるのではないかと心配しているのですわ。」フィドーラ殿下は少し不満そうに言った。


「ハハハ、それはいい理由だ。ルチャノ、フィドーラ。おめでとう。フィドーラ、お前がわしの跡継ぎになりたいのは、ロインやイリンカにはまだ話していないのだろう?」皇帝陛下は笑いながら言った。そんなに面白いのだろうか?


「はい、まだ彼らには話していませんわ。」フィドーラ殿下は答えた。


「分かった。まずはイリンカとロインと相談してみるといい。お前とエリジオを同時に支持することは、お前たち二人とも選ばれない結果になるだけじゃ。」皇帝陛下はフィドーラ殿下を見つめて言った。


「分かりましたわ、父上。」フィドーラ殿下は頭を下げた。


「そして、もしお前が本当に皇帝になったら、お前の跡継ぎも同じように苦労することになるだろう。まあ、それはお前らの問題じゃ。わしは今何も言わなかったことにしよう。」皇帝陛下は頭を振った。


「どんな問題があるのでしょうか?」フィドーラ殿下は皇帝陛下の目を見つめながら尋ねた。


「そのうち分かるだろう。今はまだ時期尚早じゃ。」皇帝陛下は右手の人差し指で軽く机を叩きながら言った。


「分かりました、父上。ところで、ルチャノにはルナという侍女がいることをご存じでしょうか?」フィドーラ殿下が突然尋ねた。えっ、えっ?どうしてそのことを話題に?


「知っているじゃ。彼女は素晴らしい踊り子だ。わしは彼女にみんなの前で踊ってもらいたいと思っているが、彼女はいつも恥ずかしがってしまうのじゃ。」皇帝陛下もまたフィドーラ殿下と同じく悪戯っぽい笑みを浮かべた。本当に父娘なんだな。


「えっ、そんなに詳しくご存じなんですか?彼女の踊りを見たことがあるなんて?ルチャノ、これをわたくしに教えてくれなかったの?」フィドーラ殿下は途中で私の顔をつつきながら尋ねた。


「だって、聞かれなかったから。」私は心配しながら小さな声で答えた。


「あなた!もういいわ。父上、実は私の侍衛であるユードロスがルナに恋をしてしまったのですわ。彼はエリュクス伯爵の後継者です。しかし、ルナには既に婚約者がいますわ。わたくしはここに父上にお願いして、ルナの婚約を解消し、ユードロスにもチャンスを与えてほしいのですわ。」フィドーラ殿下は言った。えっ、どうして皇帝陛下にこんなことを話すの?本当に恥ずかしい!


「ハハハハハ!」フィドーラ殿下が言い終わると、皇帝陛下は腹を抱えて大声で笑い始めた。しばらくしてようやく笑いが収まり、手元のティーカップを取って一口飲んだ。続いて私に向かって尋ねた。「ルチャノ、ルナも婚約しているのか?わしは知らなかったじゃ。お前は自分とルナを混同しているのではないか?」


「そうですか?それは父親が私に話したことです。詳細は彼が戻ってきたら聞いてみてください。」私は心配で頭を下げた。


「そうだな、お前の言う通りだ。それはお前の家族の問題だから、わしには分からない。さて、フィドーラ。婚約を解消するのは良くないことじゃ。しかし、ダミアノスに聞いてみるとしよう。」皇帝陛下は言った。


「ありがとうございます、父上。ルチャノ、後でちゃんとわたくしに説明してもらうわよ。」フィドーラ殿下は再び私の顔をつついた。


「はい、分かりました。」私は頭を下げて答えた。ああ、フィドーラ殿下は本当に手強い。彼女の嗅覚はフェンリルよりも鋭い。


「さて、ルチャノ、お前を就任式に連れて行こう。」皇帝陛下は立ち上がり、私とフィドーラ殿下もすぐに後を追った。


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