嵐の名残り(機嫌がいい姫様)
いよいよ連載を再開しました!読者の皆さん、ここまでお読みいただき、心から感謝致します。今回の部分は戦争がなかなかないが、主人公がこの世界をだんだん馴染んでいく話です。ご興味がございますなら、せひ読んでください。
「ルチャノ、わたくしは君がリノス公爵になるなんで、望んでいないわ。」フィドーラ殿下はソファに横たわり、帝国の姫たる自信満々な口調で私に言った。
「はい、分かりました。えっ、何?」私は反射的に返事をした。でも彼女が何を言ったのか理解してから、信じられないので身を起こして彼女を見つめた。
「だから、わたくしは君がリノス公爵になることを望んでいないと言ったわよ。」フィドーラ殿下も私をじっと見て言った。
「それは本当にありがたいです、フィドーラ殿下!私も同じように思っています。陛下を説得して、決定を撤回してもらうことができるように助けていただけませんか?できれば親衛隊副隊長の任命も取り消していただきたいのですが。」私は興奮してフィドーラ殿下の手を握った。今度は彼女が驚いた表情を浮かべた。
これは皇帝陛下に謁見するその日の午後に起こった出来事だった。フィドーラ殿下は暖かそうな紫の長いローブを身にまとい、私の家の客間のソファに座っていた。彼女の白い毛皮のコートと帽子は横のコートラックに掛かっていたので、以前よくかぶっていたティアラやベールは着けていなかった。
ユードロスは礼服を着たまま彼女の後ろに立っていて、コートと帽子も掛けられていた。私は彼に座るように促したが、彼は侍衛として立っていることにこだわり、私はそれ以上言うことができなかった。どうせ今の間、私はもう侍衛ではないのだから。
今は冬で、もうすぐ12月になった。キャラニは帝国の南部に位置しているので、アドリア伯爵領ほど寒くはないが、それでも冬は凍傷になるほどの寒さだ。部屋のストーブはちゃんと燃えており、私は厚手の部屋着を着て隣のソファに座った。不安を感じていたせいか、少し汗をかくほどだった。頭の傷の包帯も少し湿っていた。普通の男の子にとって、婚約者が初めて家に来ることは、多少の不安もあるだろう。しかし、私の不安の理由はそれだけではなかった。
さっきアデリナにこの部屋着を着てさらしが見えないか確認してもらい、ボタンも全部留めていた。幸いにも、私はあまり発育していなかった。身長も低く、女性としてのボディーラインもアデリナには遠く及ばなかった。ミハイルが私に多くの訓練を課したが、筋肉や力は普通の男より少し強い程度で、精鋭兵士にはほど遠かった。以前は自分の体に不満を感じていたが、今では感謝ばかりだ。それに、私はさっきまで寝ていたのだ。本来、教会ではこの時間に寝るのは品行が悪いとされている。私はさらに踊り子を抱いて寝ている。もしフィドーラ殿下にそれを知られたら、彼女はどう思うだろうか。
そう、私は公に「ルチャノ」と呼ばれるアドリア伯爵の一人っ子だが、本当の身分は既に滅亡したリノス王国の王女だ。帝国は独立していた各王国を滅ぼし、大陸を統一した。私の両親と兄も亡くなった。今まで私はアドリア伯爵と皇帝陛下の庇護で生き延びだ。皇帝陛下は政治的な理由から、彼の娘であるフィドーラ殿下を私の婚約者にした。私は学院を卒業して正式に結婚する前に、フィドーラ殿下の信頼を得て、彼女が私の身分を受け入れてくれるようにしなければならない。
フィドーラ殿下は何か考え込んでいるように頷いた。私は急いで手を放した。ちょうどミハイルが紅茶とクッキーを運んできて、フィドーラ殿下はティーカップを手に取った。彼女が紅茶を飲む様子を見て、私は違和感を感じた。フィドーラ殿下は私が爵位を得たことを最も喜んでくれるはずだと思っていた。彼女にとって政略結婚とはそういうものだと思っていたのだから。夫の地位が彼女にとって最高の飾りだから。
「フィドーラ殿下が私の爵位取得を喜んでくれると思っていました。」私は視線をテーブル上のティーポットに移して言った。ミハイルが紅茶とクッキーを持ってきてくれてから部屋を出て行ったが、アデリナはまだ部屋に残っていた。
「何を言っているの。夫婦は愛し合うのが一般だと言ったのは君でしょう。わたくしはただ公爵の爵位より君を失いたくないの。君はまだわたくしに一生忘れないほどのプロポーズをする義務があるわよ。」フィドーラ殿下はティーカップを置き、両手を胸の前で組んで言った。
私はまた目をそらした。フィドーラ殿下が私を完璧な夫だと思っていたが、私は自分が男性すらないことをよく理解している。彼女にどう向き合うべきかわからなくなった。以前、フィドーラ殿下がそれはただ政略結婚だけだと考えていた時の方がまだ良かった。しかし、今では彼女も私に対して真剣になり始めている。もしフィドーラ殿下がすでに好意を持っている相手が実は同じ女性だと知ったら、きっと傷つき、悲しむだろう。フィドーラ殿下との未来について真剣に考える時が来たのだと思わずにはいられなかった。彼女を政略結婚の道具として見ることはできないし、彼女を傷つけたくもないのだ。
「まず君が公爵になりたくない理由を話してから、わたくしもそっちの理由を話しますわ。」フィドーラ殿下は思考が逸れている私に近づき、両手で私の頬を押さえて、顔を彼女の方に向けさせた。今日の彼女は化粧をしていないようだった。
「フィドーラ殿下の素顔はこんなに美しい。私は知りませんでした。」私は思わず言った。普段のフィドーラ殿下が完璧な姫だとすれば、今の彼女は同級生に近い感じがする。この距離で見ると、フィドーラ殿下の眉がとても細いことがはっきり分かる。最近眉を整えたのだろう。粉を塗っていないため、きめ細かい肌が露出している。アイシャドウもしていないので、普段より少し小さく見えるが、逆に可愛らしかった。
「本当に?父上が君を公爵にしようとしていると知ったのが午前中だったので、化粧をする暇もなく、すぐに会いに来たの。不便をかけてごめんね。」フィドーラ殿下は急いで手を放し、ティーカップを取り上げ一口飲んだ。彼女の視線も逸らされていた。明らかに照れ隠しをしているのだろう。
「フィドーラ殿下、二人だけのときは化粧しなくてもいいです。いや、どうか化粧をしないでください。素顔が本当に美しくて、見惚れてしまいました。それに化粧品は肌に良くないものもありますから、やはり健康が一番です。」
「婚約者からのお願いだから、約束しますわ。でも違う、なんでこんな話になっているの!まずは君がなぜ公爵になりたくないのか教えてください。」フィドーラ殿下は突然思い出したように、再び私の目を真っ直ぐに見て言った。
「私は幼い頃から孤児院で育ったので、貴族社会にあまり馴染めません。できれば平民になりたいと思っています。また、公爵は皇族の中で皇位を継承できない者にしか与えられません。そして通常は名誉爵位でしかありません。しかし陛下が私に授与しようとしているのは領地付きの公爵です。今回のアウレルの事件の影響で、多くの貴族が処罰を受けることになります。この時で私が公爵になると、間違いなく皆に嫉妬されるでしょう。」私は頭を下げて言った。本当の理由は、リノス地方の人々にどう向き合うべきか分からないということもあるが、この理由はフィドーラ殿下には言えない。
「うん、意外だね。君は孤児院出身だと言っているのに、そこまで分かるのも賢いですわね。」フィドーラ殿下は少し嬉しそうに言った。
「陛下がフィドーラ殿下のために選んだ婚約者ですから、このくらいなら当然でしょう。」ユードロスは後ろから口を挟んだ。
「では、わたくしの理由を話しますわ。父上がこれから何をしようとしているか知っていますわね?」フィドーラ殿下は真剣な表情に戻り、私に言った。
「分かりません。私は最近ずっと家で引きこもっていますから。」私は言った。ここ数日は頭の痛みや傷口の痛み以外は、家で快適に過ごしていた。特にぽかぽかの暖炉のそばで窓の外の寒風や積雪を眺めながらお茶を飲んで本を読むことは、帝都に来てから久しぶりの休暇のようだった。
「まったく、君はもっと積極的に情報を集める必要があるわ。とにかく、皇城の親衛隊は大きな損失を受けたため、父上は親衛隊を再編することになったの。レオンティオとイオナッツは負傷して仕事ができないので、君が親衛隊の副隊長として一時的に勤務を任すことになったの。父上は安全を重視しているから、親衛隊は彼を守る最後の防衛線ですわ。そのため、親衛隊の責任者は必ず信頼できる人でなければならないの。君が親衛隊副隊長に任命されたということは、彼が君を本当に信頼していることだわ。だから、しっかりと頑張ってね。父上を守り、わたくしも守ってください。」フィドーラ殿下は私を見下ろして言った。
「私はフィドーラ殿下の侍衛になりたいです。しかし陛下は私の侍衛の資格を奪うので、彼を守る誓いももう終わりました。実は、今はもう働きたくありません。」私は心の中の本音を言った。
「そんなことは許されませんわ。君は完璧な夫になる男性なのだから、わたくしに見合う人物でなければいけません。わたくしがまだ君の婚約者である限り、そんなだらしない考えは許しませんわ。まさか今さら父上に婚約を取り消してほしいと言うつもりじゃないでしょうね。」フィドーラ殿下は明らかに少し怒っている様子で私を見た。私は彼女の気迫に圧倒され、黙って頷いた。
「次には征服された各旧王国の処理だわ。オーソドックス貴族たちはこれらの土地を彼らに授けることを望んでいましたが、父上は皇帝直轄領にすることを主張しました。アウレルの反乱には多くのオーソドックス貴族家が参加したわ。でもヒメラ伯爵を除いて、他の貴族家は子弟が個人的に参加した程度だ。父上は族長の責任を問わない代わりに、そのオーソドックス貴族たちが旧王国の土地を皇帝直轄領とすることに同意させるつもりだわ。それで軍事占領の状態が終了し、帝国は占領用の軍隊を削減することができるの。また、これらの地域からの税収も確保でき、帝国の財政も改善されるでしょう。旧王国の貴族も父上に忠誠を誓い、彼に対するオーソドックス貴族の勢力を制衡する力となるでしょう。」フィドーラ殿下は言った。
「陛下が旧王国の人々を大切にしてくれることを願います。」私は心からの思いを言った。リノスの民が幸せに暮らすのを願っているが、私は復国の執念が少ない。たとえ復国しても、家族は戻ってこないのだから。これもまた私がリノス公爵になりたくない理由の一つだ。
「それはもちろんですわ。他の皇帝直轄領と平等に扱われるでしょう。次に帝国を安定させる必要もありますわ。皇太子であるアウレルは死んだ。そして今からいくつかの変化も続きますの。貴族たちも不安になるでしょう。新たな反乱も起こるかも。幸い、ダミアノス卿は禁衛軍団を率いて戻ってきたので、帝都の安全も確保できるわ。しかし、ヒメラ領が既に父上に反対する中心となって、多くの貴族が彼らに情報や物資を提供していることを聞いている。また、人々がそこに逃れて反乱軍に参加しているようだ。さらに、グリフォン軍団の部隊は、ダミアノス卿が連れて行った数十人を除いて、残りの人の多くは反乱に参加している。その数は百人ぐらいだわ。現在もヒメラ領に向かっている。西北総督が防御をしているが、反乱を鎮圧することはできないの。そのため、来年近衛軍団が再び討伐に向かうことになります。わたくしは父上に頼んで、君も討伐に参加するつもりだわ。戦功を積み続け、爵位の授与も当然のことだわ。」フィドーラ殿下は続けて言った。
「フィドーラ殿下、私は戦争に向いていないと思います。見てる通り、私は背が低く、毎日訓練しても筋肉はあまりつきません。もし従者たちが助けてくれなかったら、私はもう死んでいたかもしれません。」私は言った。実はそれだけではない。私は今やっているのはただ補給の護送や主を守ることだ。軍隊を率いて他の領地に侵攻することは全く異なることだ。私は6年前にリノス王国を滅ぼした帝国軍と同じことをしたくないし、リノスの悲劇が再び起こるのを望んでいない。少なくとも私にはその役割をさせないでほしい。
「何を言っているのよ。ルチャノ、君はあまりにも消極的だわ。帝国貴族として、自分の権力を求める自覚を持つべきだ。貴族同士の争いに敗れた者はとても惨めな目に遭うのだから、誰も同情してくれないわ。幸いにもわたくしが君を支えているのだから、そうでなければ他の貴族に食べられるわよ。」フィドーラ殿下は再び両手で私の頬を押さえ、強く揉みながら言った。
「分がいあしあ!」私は口ごもりながら、「分かりました」と言った。
「君も自分に自信を持つべきだわよ。軍隊には力だけではなく、頭脳も重要なのだから。わたくしは君が戦場で正しい選択をする能力があると思うわ。それに、君はペーガソスにも乗れるじゃない。空を飛ぶ男性の指揮官なんてそうそういないのよ。ああ、それから、わたくしは父上に頼んで君をグリフォン騎士にしてもらうつもりよ。君も自分のグリフォンを持つことになるわ。」フィドーラ殿下は楽しそうに言いながら、私の顔を放した。
「近衛軍の指揮官になるのにグリフォンに乗れる必要はないでしょう?」私は小声で言った。
「何を言っているの。グリフォン軍団はみな貴族出身で、将来的には昇進も容易ですわよ。退役後に文官になるグリフォン騎士も多いわ。君は同僚と良好な関係を築く必要があるの。それが貴族間での評価を高めるのよ。君は今、オーソドックス貴族から敵視されていることを知っている?本当に貴族間の関係を改善する必要があるわ。」フィドーラ殿下はまたしても私の顔をしっかりと捻りながら言った。やめてください、これはセクハラじゃないですか!
「ありがとうございます、フィドーラ殿下。」私は顔を揉みながら言った。私の顔を揉むのがそんなに楽しいのですか?しかし貴族間での評価に関しては、私はあまり気にしていない。もともと私は帝国の貴族ではないのだから。私が何もしていなくても、父親のおかげで帝国のオーソドックス貴族たちからの評価は高くならないだろう。




