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辺境の騎士(辺境の朝)

私は夢から目を覚めた。炎はまだ目の前で揺らめいているようで、耳には槍が肉体に突き刺さる音がこだましているようだった。冷や汗がすでにパジャマを濡らし、ベタベタと体に貼り付いていた。喉もとても乾いていた。父上、母上、そしてバシレイオス兄さんと別れてからもう6年が経つが、あの日のことを今でもよく夢に見ることがある。


窓の隙間から光が漏れている。もう夜が明けているが、太陽はまだ昇っていないようだ。今は6月なので、起きた時間まではまだ少しある。シャワーを浴びたいが、朝早くではお湯はないだろう。私はもがきながら起き上がり、左手で乱れた赤い短髪を揉みながら、またヘッドボードに寄りかかった。


「若様、目が覚めましたか。また悪夢を見ましたか?」甲高い女性の声がドアの外から響き、続いてドアが開く音がした。私は頭を上げ、シャツと白いズボンを着た少女が入ってくるのを見た。


「アデリナ、おはよう。どうしてこんなに早く起きたんだ。」私は軽く挨拶をした。


「まったく、今日は出発の日じゃないですか。若様、また服を全部濡らしてしまったんですね。体を拭くために水を持ってきます。」アデリナはそう言うと、ナイトテーブルの水差しから一杯の水を注いで私に渡し、その後窓の方へ歩いていった。彼女の黒い長髪はポニーテールにして、今は無造作に揺れていた。アデリナは私より一歳年上で、父親が私に付けた従者だ。彼女はこの部屋に入られる数人の一人で、したがって使用人の仕事も少し担当している。


「ありがとう。」私は水の杯を受け取り、怠惰に答えたが、ベッドから降りるつもりはなかった。そうだ、今日は初めての戦へ出発の日だったのをすっかり忘れていた。

アデリナはカーテンを引き、窓を開けた。部屋は一瞬で明るくなり、目が眩んだ。目が慣れると、アデリナはすでにいなくなっていて、部屋には私一人だけが残っていた。


もう少し横になっていてもよかったが、どうせ眠れないし、今日は忙しいので早めに朝食を摂らなければならない。水を一口飲んでベッドから起き上がり、適当に綿のパジャマを脱いで、ベッドの脇の椅子に投げかけた。同じ木製の机の上には開かれた本とノートがあり、ほとんど灯油が残っていないランプもあった。昨晩は何時まで本を読んでいたのだろう?


この本は数百年前の帝国の動乱期の歴史を語っている。英雄の皇帝がすべての反乱軍を打ち負かし、皇帝の権威を再建した。もちろんその中には皇帝に対する賛美の言葉があふれているが、父親が言うには、この人物は帝国皇室の血統を持たず、ただの野心家だった。しかし彼は皇室の女性と結婚したので、現在の帝国皇室も先代皇帝の血統を持っていないわけではない。


私はただ時間をつぶすために本を読んでいるだけだ。帝国の歴史は私のような籠の鳥にはあまり関係がな

い。パジャマを脱ぎ、洗面所で移動し乾いたタオルで汗を適当に拭き取った。そのタオルを肩にかけ、ベッドの端に座ってアデリナが来るのを待った。そして再びナイトテーブルの引き出しを開け、粗い麻布の小袋を取り出した。この袋は元々染色されておらずの灰白色だった。しかしかつて血に浸かったため、何度も洗浄されでも、まだ淡い黒褐色が残っている。袋を開けると、私の瞳と同じ血のような赤い宝石のペンダントを取り出し、小袋とペンダントを胸に抱いて目を閉じた。


「母上、また一日生き延びました。約束した通りに。天国の神があなたを安らかに導きますように。」私は静かに言った。


7月ですか、アドリア領地の朝はまだ少し寒く、すぐに冷気を感じた。小袋を片付け、ペンダントを首に掛けた。アデリナはいつものようにあまり待たせずに、小さな蒸気の立ち上る水桶を持ってきて、肩にかけていたタオルを受け取った。


「まったく、後ろを向いてください。どこの主人が15歳になっても従者に汗を拭かせるのかしら。」私は素直に立ち上がり、アデリナに背を向けて立った。そしてアデリナは水桶の中でタオルを濡らし、絞ってから私の背中を拭き始めた。


「こんな主人でごめんなさい。」私は無造作に言った。


「こんな自覚がしっかりあるじゃないの。前を向いて。腕を上げて。」アデリナは背中を拭き終えると命じた。私は操り人形のように回転し、アデリナに好きにさせた。私がアデリナよりもかなり背が低いため、彼女は腰を曲げて私の体を拭いていた。


「ここがまだ小さいのは幸運ね。そうでなければすぐにバレていたわ。」アデリナはいつもの調子で意地悪いことを言いながら、下から私の胸を拭いていた。本当に私の従者に問題はないのかしら?


「それは私の信仰が神を感動させたからかもしれません。」私は頭を横に向け、彼女の深い茶色の目を見ながらてきどに言った。


「はいはい、目を閉じてください。次は顔を拭きますよ。」アデリナは言った。


私は目を閉じ、アデリナが仕事を続けるのを許した。実際、普段は自分で顔を洗うことができるが、今日はまた悪夢を見たので自分でしたくない。あの日の地獄のような出来事から6年が経った。もし本当に男だったなら、もう悪夢を見ることはなかっただろう。


アデリナは汗を拭き終え、タオルを洗って元の場所に戻し、クローゼットから今日着る服を取り出した。もちろん、最初にさらしを巻かなければならないし、下着も男性用のブリーフに替えなければならない。アデリナは私に両手を上げさせ、さらしを巻いた。私の女性用の下着は名目上は全てアデリナのものなので、洗濯室に出せず、アデリナに頼んで洗ってもらうしかない。


「アデリナ。もう7月だし、暑すぎるからさらしを巻かないでいいですか。どうせ胸が小さいし、誰にもバレないでしょう。」私は不満を言った。


「まったく、ダメなものはダメです。伯爵様が特に命じたのだから、ちゃんと監督しますよ。」アデリナは不満そうに言った。


「分かってるよ。君は私の従者じゃなくて、父親からの門番だ。」私はぼんやりと答えた。


「門番じゃない。門番があなたを弟のように世話するか?それに女性もコルセットを着るから、それほど快適ではないよ。」アデリナはさらしを巻き終えると、私の髪を揉んだ。血のように赤い宝石もさらしの中に隠され、これで鎧に押しつぶされる心配もなくなった。


私はズボンとシャツを着て、アデリナがボタンを留めてくれた。アデリナはさらに私の髪を整えてくれた。髪は朝の冷汗で湿っており、ベタベタして不快だった。今夜は風呂に入れないかもしれない。それを考えると、気分が暗くなる。


私はため息をついた。私は厳重に囲まれた籠の鳥であり、男装は最も目立つ籠の一層である。リノス王国が滅亡した夜、私は下水道からダミアノスに引きずり出された。彼は何も言わず、私が彼の隠し子であると宣言した。リノス王国の王、王后、そして王子の遺体はすでに古代の魔導具によって確認されていたが、セレーネーと呼ばれた王女はまだ見つかっていなかった。処刑を免れるため、彼は私を息子と宣言し、私は彼の名義上の息子となり、実際の養子となった。母上との「生き延びる」という約束を守るため、私は彼を「父親」と呼び、男装をすることを強いられた。それからもう6年が経った。


父親はリノス王国の滅亡後、さらに地位を上げ、今ではパニオン帝国の大将軍であり、アドリア伯爵でもある。アドリア伯爵領は帝国の西北に位置する。広大な領地を持っているが、山が多いため人口は少ない。西側は高山と蛮族の居住地である。これらの蛮族は名目上は帝国に従っているが、しばしば反乱を起きる。辺境伯爵の義務の一つは彼らを監視することである。


貴族に言えば、パニオン帝国の貴族制度はリノス王国のよりやや複雑だ。領地を持つ貴族は領地貴族と呼ばれ、帝都からの距離によって辺境貴族と畿内貴族に分かれる。辺境貴族の最高位は伯爵であり、領地の面積が大きい。畿内貴族の最高位は侯爵であり、帝国に大きい影響力を持つ。父親は例外で、今では軍隊を統括する大将軍であり、文官を統括する首相と並んで大臣の頂点に立っている。領地貴族はすべて貴族の義務を果たす必要があり、皇帝や軍の命令に従って帝国軍の軍事行動を支援する義務がある。伯爵以上の高級貴族は毎年年末年始に帝都に行き、皇帝や教会が主催する行事に参加する義務もある。


領地貴族の他に、帝国には名誉貴族も存在する。しかし、これは礼儀的な称号に過ぎず、領地を持たない。通常、領地貴族の義務を果たす必要はなく、爵位の継承ごとに降格され、最終的には平民になる。皇帝だけでなく、領地貴族も爵位を授与できるが、自分より低い爵位しか授与できず、皇帝の承認も必要である。


帝国の最高爵位は公爵であり、新しい皇帝が即位する際に王族から離れる者にしか授与されない。

帝国の慣習では15歳で成人し、領地貴族の子供はこの時点で名誉騎士の称号を授与される。したがって、私は今、「ルチャノ」という名の名誉騎士となっている。領地貴族の爵位を継承する場合、この名誉騎士の称号は自動的に無効になる。私は今、父親の跡継ぎと見なされているが、この伯爵領を継承することはできないだろう。結婚しても子供を持つことはできないからだ。世界中に娘として育てられた貴族の息子がいるはずがないだろう。


父親は今では非常に高い地位にあるが、彼は帝国の新貴族である。領地貴族の多くは由緒正しい名家であり、「オーソドックス貴族」と称している。その中の多くの貴族は父親を見下している。父親はすでに結婚しており、妻はアナスタシアと呼ばれている。彼女は私の秘密を知っている数人の一人である。なぜか、父親と母親には子供がいない。それゆえか、実の子ではないにもかかわらず、母親は私にできる限りの母の愛を与えてくれている。私は彼女に感謝し、心から「母親」と呼んでいる。


着替えた後、しばらく部屋で座っていた。夜明けの鐘が鳴ってから一刻(つまり前世の1時間)が過ぎると、朝食の時間がやってきた。アデリナと一緒に食堂に向かった。


「母親、おはようございます。」私はやや低めの男声で言った。そして母亲を抱きしめ、しばらく離れたくなかった。


「アナスタシア様、おはようございます。まったく、若様もう15歳なのに、まだお母さんにそうなに甘えているなんで。」アデリナは横から言った。


「まだ時間があるから、もう少し抱かせてあげてください。それに、また出発するんだから、いつ戻ってくるかわからないわ。アデリナ、おはようございます。」母親は私の背中を撫でながら言った。


「やっぱりお母さん大好きです!」私は笑顔を浮かべながら母亲の温もりを感じていた。たとえ偽りの親子関係であっても、私はその愛を心の穴を埋めたかった。


「また悪夢を見たのですか、ルチャノ。」母親は尋ねた。


「どうしてわかったんですか、母親。」私は尋ねた。


「悪夢を見た後の朝は、いつも抱きしめる時間が長くなるからよ。」母親は言った。

私は黙って母亲を抱き続け、しばらくして手を放した。さて、今からはルチャノという伯爵の跡継ぎの役割を演じる時間だ。


「母親、おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」私は一歩下がり、頭を下げて尋ねた。


「あなたのおかげで、よく眠れました。今日も良い一日を。」母親も微笑んで答えた。こうしてルチャノとしての一日が始まった。


母親と私は食卓の両側に座った。アデリナは私の後ろに立ち、母親の後ろには侍女長のビアンカが立っていた。料理人が朝食を運んできた。燻製されていない白いソーセージが大きな白い器に盛られ、良い香りが漂っていた。この白いソーセージは毎日出るわけではなく、豚を屠った朝にだけ食卓に現れる。パンかごには黄色い結び目のあるパンがいくつか入っており、その上には粗塩の粒が数粒乗っていた。ビールが満たされた大きな木の杯が私の左手に置かれた。さらに小さな皿には黄色いソースが入っていた。


朝からビールを飲むのは大丈夫かと思うが、やっと飲める年齢になったばかりだ。前世でも夜にしか飲まなかったし。しかし、このアドリア伯爵領の周辺では、確かにこのような朝ご飯の習慣があるようだ。私は眉をひそめ、背後からアデリナが唾を飲み込む音が聞こえた。申し訳ない、アデリナ。早く食べ終わるからね。


「朝ご飯の前で祈りをしましょう。」母親はそう言うと、目を閉じて胸の前で手を組んだ。私も急いでそれに倣った。


「全能の神々、昼の神と夜の神、農耕の神と工芸の神。私たちに命を与え、食べ物を与えてくださることに感謝します。」母親は祈りを唱えた。私も母親の後に続いて唱えた。


祈りが終わると、使用人が食器を運んできて、部屋を出て行った。食堂の扉がノックされ、年老いたがまだ元気な男が現れた。彼の髪はすでに白くなっていたが、きちんと整えられていた。髭は卵白で丁寧に手入れされ、服の下に贅肉は見当たらなかった。彼は私と母親に一礼し、「アナスタシア様、ルチャノ様。おはようございます。今、少しお時間よろしいでしょうか?」と言った。


「おはよう、ミハイル。」母親も頭を下げて挨拶を返した。


「ミハイル、おはようございます。どうぞ始めてください。」私はソーセージを皿に取る間に言った。ミハイルはアドリア領の執事で、現在は名誉男爵である。彼は以前、父親の従者であり、父親がリノス王国を離れた時からずっと仕えていた。だからミハイルは武芸にも優れており、父親と共に戦場を駆け巡ったこともある。彼は私の剣術と兵学の師匠でもある。正直、ミハイルは王国の大臣になれるほどの人物であり、伯爵領の執事としてはもったいない。


ミハイルは普段からこのように、毎朝の食事時に領主に一日の予定を報告する。父親はいつも帝都におり、現在は北方の戦場にいる。アドリア伯爵の「息子」である私は、数年前から父親に代わって領主としての責務を果たしている。それもその「家事」の一環といえる。


「それでは、始めます。ルチャノ様は本日、領地の軍を率いて出発し、商隊を北方の戦場まで護送する予定です。これは領地外での初めての作戦となるため、ご武運を祈ります。朝食後、すぐに出発の準備を整えなければなりません。軍の人数を確認し、補給と装備の状況を点検します。商隊はすでにオルビアに集結しています。我々は正午の鐘の時刻に出発し、今日中にオルビアで商隊と合流する予定です。明日から正式に護送任務が始まります。」ミハイルは報告した。


ミハイルの報告を聞きながら、私はソーセージに集中している。ナイフで白いソーセージの皮を縦に切り、ナイフとフォークを使って皮を剥がした。フォークで肉の部分を持つ、黄色いソースにつけて口に運んだ。豚肉と香草の香りが口いっぱいに広がり、黄色いソースのほのかな辛味が豚肉の脂っこさを中和し、とても美味しかった。


「分かりました。オルビアには馬で行くんですか。」私は尋ねた。


「はい。船だと時間がかかりすぎます。」ミハイルは答えた。


「出発前の準備は城の中庭で行うんですか。」私は尋ねた。


「その通りです。ハルトはすでに中庭で準備を進めています。朝食後、すぐに中庭へお越しください。」ミハイルは言った。


「うん。了解した。」私は答えた。ハルトも私の従者で、私より二歳年上だ。私の従者はアデリナとハルトの二人だけで、彼らは父親が養子にした戦争孤児である。戦争孤児といえば、実は私もそうだ。ハルトは忠実で強い騎士であり、私の護衛を担当している。彼も私の秘密を知っている。


私はパンかごからパンを取り出してかじった。パンはとても硬くで、噛み応えがあった。塩味が特に際立っていた。アドリア領に来たばかりの頃、パンの上の白い塩粒を砂糖と勘違いし、その塩味に驚いたことがあると覚えた。そしてビール杯を手に取り、一口飲んだ。母親も私の前でソーセージを切っていた。


「アデリナ、若様の荷物はもうまとめてあるのかしら?」母親は私の後ろを見た。


「はい、アナスタシア様。昨晩すでにまとめてあります。」アデリナは答えた。


「帰るまで約半月間、領地にはどのような予定があるのか?」私は尋ねた。


「特に予定はありません。現在、麦やとうもろこしの成長は順調で、農繁期でもありません。若様が領地を離れている間、私は帝都へ行く準備を進めます。若様は今年15歳になりました。帝国の習慣に従い、8月には皇帝陛下の侍衛として帝都へ赴き、帝都の学院に入学する必要があります。その前に、新しい礼服と剣を準備しなければなりません。多くの辺境貴族は子供が学院に入る前に家庭教師を雇いますが、若様はその必要はないと思います。」ミハイルはそう言った。確かに伯爵以上の領地貴族の子供の一人は、15歳になると皇室の侍衛を務める必要がある。特に問題がなければ、侍衛を務めるのは爵位の跡継ぎである。この子供は帝都の学院に試験なしで入学でき、皇帝陛下から奨学金が与えられる。


「私もそう思います。準備をよろしくお願いします。」私は答え、ビールを一口飲んだ。このビールは麦の香りが濃厚で、酸味があり、夏の朝に飲むのにぴったりだ。特に悪夢を見て大量に汗をかいた後には。そしてアルコール度数も低く、夏の暑さを和らげる飲み物のようだ。


「ルチャノは学業で私を心配させたことがないものね。」母親は得意げに言ったが、私は釘が突き刺さるように胸が切なかった。私の「賢くさ」は前世の記憶があるからだ。しかし教会の教義によれば、私のような人間は周囲に不幸をもたらすと言われている。もし私がいなければ、もし前世の記憶が目覚めなければ、もし幼い頃に死んでいたなら、6年前に家族は死ななかっただろう。


「どうしたの、ルチャノ様。顔色が急に真っ青になってしまいましたが、体調が悪いのですか?」ミハイルの声が耳元で聞こえた。私は顔を上げると、ミハイルと母親が私を見ていた。


「アレのせいですか?でも時間が合わないわ。」母親は小声で尋ねた。部屋には母親、アデリナ、ビアンカ、ミハイルだけがいて、皆私の秘密を知っている。男装をしているが、今は隠す必要はなかった。


「違います、母親。私は大丈夫です。ご心配をおかけして、申し訳ありません。」私は微笑みながら言い、両手で顔を軽く叩いた。前世の記憶については、ただ静かに天国の父上と母上に懺悔し、祈るときにしか触れない。母親はこのことを知らず、私が落ち込んでいることを見せてはいけない。


「ごめんなさい、ルチャノ。ついあなたを悲しませることを言ってしまいましたね。」母親はナイフとフォークを置き、テーブルを回って私のそばに来て、私の右手を握った。


「大丈夫です、母親。もう平気です。さあ、ソーセージを楽しみましょう。これは毎日食べられるものではありません。」私は言った。


「そうね、それなら良かったわ。」母親は私のそばに座り、ビアンカに自分の食器を持ってくるように命じた。


「では、私は続けます。帝都に向かう前に、帝都での生活に必要なあらゆる物品を準備しなければなりません。他には特にありません。」ミハイルは続けた。


「ルチャノは毎年冬に帝都に行くけれど、こんなに長く滞在するのは初めてね。私はあなたのことがとても心配です。」母親は私のそばで言った。冬には領地で特に何もなく、領地貴族も新年前後には帝都に集まり、社交行事に参加する。帝国の議会も冬に開かれ、教会もこの時期に重要な儀式を行う。だから、私は数年前から父親の手伝いとして毎年冬に帝都に行っている。


「大丈夫ですよ、母親。私は秘密がバレないように十分に気を付けます。そして私は皇帝陛下の侍衛になるよ、ブフは必要ありません。父親も私を守ってくれるでしょう。」私は言った。ブフだと服の露出度が高いから、すぐに正体がバレてしまう。


「私も一緒に帝都に行った方がいいのかしら。」母親は尋ねた。


「もし母親が一緒に帝都に行ってくれたら、私は本当に安心します!」私は母親を抱きしめた。


「だめです、アナスタシア様。帝都は危険すぎます。ダミアノス様がルチャノ様を守るだけで精一杯ですから、アナスタシア様は領地に残った方が安全です。」ミハイルは言った。


それでは仕方がない。背後から再び唾を飲み込む音が聞こえた。私は急いでソーセージをフォークで刺し、皮を剥がさずに口に運んだ。そしてビールを一口飲み干し、立ち上がって言った。「ごちそうさまでした。アデリナ、お疲れ。早く食べに行ってきて。」


「はい。」アデリナは言いながら、急いで外に出て行った。ミハイルは不満そうな顔をして彼女を見つめて言った。「ルチャノ様、あまりアデリナを甘やかさないでください。彼女には従者の自覚がないだと思いませんか。」


「アデリナも大変なんです。私は使用人がいないので、彼女がずっと私の面倒を見てくれます。他の従者に比べて、彼女には多くの仕事をさせているんです。」私は言った。アドリア伯爵領には多くの騎士がいる。彼らの家族の女性は多くが城で侍女や文官として働いている。しかし訳があって、私の場合は主にアデリナが私の世話をしてくれる。ビアンカも手伝ってくれるが、他の人に仕事を頼むと秘密をすぐにバレる。前世の記憶がそう教えてくれる。


「ルチャノがそう思うならいいが、彼女が帝都で恥をかかないように気を付けなさい。」母親も言った。


「そうですか。私は帝都に行ったら彼女がルチャノ様や伯爵様に恥をかかせるのではないかと心配しているのです。」ミハイルは首を振った。


「ルチャノ、食事が終わったらミハイルと一緒に出発の準備をしなさい。まだ食事が終わっていないから、私を待たないでいいわ。正午の鐘の時刻に出発だから。」母親は私に急かした。


「分かりました、母親。ゆっくり召し上がってください。」私は言って、ミハイルと一緒に食堂を出た。ビールのアルコール度数が低すぎて、酔いは全く感じられなかった。


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