帝の侍衛(初仕事)
家に着くと、古典語に苦しんでいるシルヴィアーナと、先輩風を吹かせて彼女に勉強を督促するアデリナが目に入った。シルヴィアーナを見ていると、トルニクがどれほど偉いかがよくわかる。ミハイルが私に課した訓練を終えた後、私はソティリオスに鎧を注文したいと父親に言った。父親は同意し、ミハイルがソティリオスとの面会を予約すると言った。
夕食のとき、父親は今日の試験の詳細を私に尋ねた。彼も試験官がひどいだと感じていた。特に軍事学の試験官について言及した。彼はまた、学院は教会が独立で運営しているので、教授は主にオーソドックス貴族出身であり、軍事学の授業が帝国軍に有能な人材を提供できなくなっていることを指摘した。いわゆる学院の「有能」な卒業生は、戦場に出るとおかしな決断をすることが多いのだ。
私は夕食を食べながら、父親が今回の遠征で学院出身の軍官が引き起こした失敗談を聞いた。記憶の中では、私は父親とこんな風に一緒に食事をしたことはほとんどなかったようだ。アドリア領に初めて行ったとき、母親は私の部屋のドアの前に食べ物を置いていた。衣装棚の中で飢えに苦しみながら、私はネズミのように慎重に衣装棚を抜け出し、ドアを開けて食べ物を取りに行った。およそ半年後、食堂で食事をすることがようやくできた。でもあの時は話をすることがほとんどなかった。父親と普通に会うのは冬の間だけで、普段はアドリア領で母親と一緒に食事をしていた。これから帝都で父親と一緒に食事をすることに慣れなければならないのだろうか?このようなとき、どんな表情をすればいいのだろう?
初めての侍衛の当番は、早番になった。したがって、明け方の鐘が鳴る前に私は出発した。家で礼服に着替え、馬車で皇城に向かった。これなら皇城で着替える必要はない。帝都に来てからというもの、毎朝早起きするのが辛い。足がまだ少し痛むが、今日は持ちこたえられるだろうか。
「ルチャノ、来たな。今日の午前中、皇帝陛下の侍衛はお前と俺だ。今日はお前の初勤務だから、ミスがないか見守ってやる。」侍衛の待機室に入ると、イオナッツが声をかけてきた。
「イオナッツ様、おはようございます。」私は恭しく挨拶をした。皇帝陛下の侍衛は通常二人で、他の皇族は一人である。もちろん、私たち侍衛以外にも、皇帝には親衛隊がついている。親衛隊は皇帝に直属の軍隊で、大将軍や首相の管轄外にある。そして、その親衛隊の長が、目の前にいる侍衛長のイオナッツだ。
「お前の剣がどうしてこんなに地味なんだ。丁寧に選んだものじゃないだろうな。侍衛は陛下の鎧だから、貧相なものは使えない。見せてみろ。」イオナッツは眉をひそめながら私に手を伸ばし、私は急いで鞘を解いて手渡した。
「うむ、鞘と柄は実用性を重視しているようだ。剣身もしっかりと鍛えられた。使用の痕跡もある。お前がこの剣の初めの所有者か?」イオナッツは剣を抜いて確認し、鞘に収めてから言った。
「はい、そうです。」私は答えた。
「この剣を実際に使ったことがあるのか?」イオナッツは問うた。
「もちろんあります。」私は答えた。
「訓練ではなく、戦場でだ。」イオナッツは眉をひそめて尋ねた。
「もちろん戦場でよ。帝都に来る前に、パイコの反乱部族を鎮圧する戦争に参加しました。」私は胸の勲章を指差して言った。
「お前の軍功は本物か、それともお前の父親が作り話をしたのか?」イオナッツは問うた。
「イオナッツ様、それはいくらなんでも失礼すぎます。私はこの剣でルシダ部族の将軍を討ちました。毒矢に当たり、北方で死にかけました。ふくらはぎには傷跡があり、太股にもあります。」私はズボンをたくし上げて、ふくらはぎの傷跡をイオナッツに見せ、太股の傷の位置も示した。しかし、礼服のズボンがきつくて太股までたくし上げることができず、太股の傷を見せることはできなかった。
「どうやら本物のようだな。帝国の貴族は既に堕落している。大陸統一戦争の英雄たちはほとんど平民出身だ。オーソドックス貴族は熱意だけで大した功績を立てていない。しかし、お前は若くして帝国に多大な貢献をしているようだ。銀のグリフォン勲章は当然の報酬だ。」イオナッツは言った。
「ありがとうございます。」私は頭を下げて言ったが、心の中は複雑な気持ちだった。大陸統一戦争のせいで、私は家族と国を失った。でもこの勲章は帝国に奉仕して得たものだ。生き残るために仕方なかったとはいえ、私は何をしてしまったのだろうか。
「さて、雑談はここまでだ。昨日、陛下が急遽命じて更衣室を改装し、侍衛一人一人に個室を用意した。現在工事中だが、狭いながらも待機中に休息が取れる。鎧もそこに置くことになる。お前は鎧を着て戦うことができるか?」イオナッツは小さな扉を指差しながら言った。私は彼の指差す方向を見たが、以前は食堂のような部屋だったようだ。しかし、今は壁を作っている。部屋の一つはすでに完成していたが、まだドアが取り付けられていなかった。部屋には行軍用ベッド、箱と机が一つずつ置かれていた。私が他の男性侍衛と一緒に着替える必要がないようにと、皇帝陛下が配慮して急遽改装を命じたのだろう。心の中で皇帝陛下に感謝した。
「鎧を着用できます。パイコの領地での戦闘でも、鎧があったおかげで命を守ることができました。」私は答えた。
「そうだろうな。鎧を着られない学生侍衛が多いからな。運良く今年はお前が来た。さて、準備をしろ。もうすぐ交代だ。」イオナッツは立ち上がり、部屋の隅にある鎧台に向かって歩き始めた。
私も立ち上がった。学生侍衛たから礼服を着ているので、起き上がったのはイオナッツの鎧を手伝うためだった。
厨房から朝食が運ばれてきた。待機室の中央のテーブルには、布で覆われた篭にパンが入っているのが見えた。横には牛乳、バター、ジャムが置かれている。今日の朝食は鴨の脚、パン、牛肉のスープ、そしてワインだった。これは完全に正餐ではないか!私が驚いていると、イオナッツは三交代制の侍衛に配慮し、朝食はいつも正餐であると教えてくれた。朝食以外にも軽食がいつでも提供される。また、皇族の侍衛だけでなく、当番の文官もここで食事を取り、待機をする。侍衛はすべて貴族または跡継ぎであるため、城の食堂がこのように細やかな配慮をするのだ。
「お前も覚えておけ。勤務中は酒を飲んではならない。仕事が終わった後に飲むだけだ。」イオナッツは鴨の脚を大口でかじりながら言った。
「ありがとうございます。私はお酒に弱いので、仕事が終わった後でも飲むことはありません。」私はバターとジャムを塗ったパンを小口で食べながら言った。パンは焼きたてではなかった。でもフライパンで温めたので、端が硬くなり、香ばしくなり、バターとジャムを塗るとおいしかった。
一人の親衛隊が入ってきて、イオナッツに城の安全確認の結果を報告した。特に異常はないようだった。イオナッツは朝食を取りながら、その報告を聞いていた。
夜明けの鐘が鳴る前に、イオナッツは私を連れて皇帝陛下の寝室に向かった。夜勤の侍衛が寝室の前の小部屋で待機している。私たちは交代した。行事がなければ、皇帝陛下が皇城にいる場合は、二人の侍衛が配置される。早番と遅番の侍衛は常に皇帝陛下の背後に立って護衛しなければならない。しかし、夜番の侍衛は陛下が就寝した後は近くで交代して待機し、待機中は座ってもよい。夜勤がない場合、実際には早番と遅番の侍衛よりも楽だと言える。
イオナッツは私を連れて皇帝陛下の寝室の前に立った。しばらくして、侍女たちが動き始め、他の侍衛たちも集まってきた。イオナッツは私に彼が二皇妃の侍衛であることを教え、私たちを互いに紹介した。昨晩は二皇妃が陛下と共に過ごしたようだ。当番の秘書もやってきて、大量の資料を手にしていた。
「今日の陛下の予定は?」イオナッツは秘書に尋ねた。
「はい。夜明けの鐘の後、食堂で朝食をお取りになり、その後すぐに内閣会議にご出席されます。会議は三刻間続く予定です。その後、近衛軍本部の軍営に赴き、パイコ遠征の軍官代表に演説を行います。その後は昼食の時間です。午後は教会街に向かい、新しい壁画の除幕式にご出席され、主教たちから冬の祭典の準備状況についての報告を受けられます。夕食は数人の貴族と共にお取りになります。」秘書は手帳を開いて答えた。
「よし。陛下もそろそろ起きるだろう。」イオナッツは廊下の窓の外を見ながら言った。
部屋の中から鈴の音が聞こえてきた。侍女たちは寝室のドアを開けて中に入り、室内はにぎやかになった。皇族の側近を務める侍女たちは多くが貴族出身であり、この仕事を誰でもできるわけではない。私はドアの前で直立し、イオナッツは私を見て「そんなに緊張する必要はない」と言った。
しばらくすると、皇帝陛下が部屋を出てきた。後ろには二皇妃が続いていた。クリナって名前だと覚えた。イオナッツは私たちを率いて陛下に礼をし、皇帝陛下も私たちに頷いた。彼と二皇妃は平服を着ていた。
「ルチャノ、今日はお前の初仕事のじゃ。しっかりやれ。」皇帝陛下は私に言った。
「承知しました、陛下。」私は背筋を伸ばして皇帝に答えた。
「ハハハ、そんなに緊張しなくてもいいのじゃ。さあ、行こう。」皇帝陛下は笑いながら歩き出した。二皇妃もその後を追った。
皇帝陛下は歩きながら、秘書に今日のスケジュールについて尋ねた。イオナッツは私を連れて皇帝陛下の後ろを歩いた。彼は一見リラックスしているように見えたが、目は常にカーテンやドアなど、誰かが隠れているかもしれない場所を警戒していた。皇城内でも常に警戒を怠らないのは、さすが侍衛長だ。
私たちは廊下と階段を通り抜け、食堂に到着した。すでに食堂には多くの人々が座っていた。皇帝陛下には四人の妻がおり、五人の息子と四人の娘がいるが、今朝は二皇妃を除いて全員が揃っていた。教会の教義では一夫多妻は禁止されているが、数百年前、当時の皇帝が跡継ぎを持たなかったため、帝国は大規模な内戦に陥だ。それ以来、帝国の皇帝は複数の妻を迎えるようになった。教会は当初反対していたが、最終的には特別な例外として皇帝にその特権を無問した。父上と母上は生前とても両思いで、前世とリノス王国での経験から一夫多妻の制度を嫌っていた。
皇帝陛下が部屋に入ると、食堂の全員が立ち上がった。彼は手を振り、全員に座るように言った。
「皆、こちらはわしの侍衛であるルチャノのじゃ。彼はアドリア伯爵の跡継ぎでもあるのじゃ。ルチャノ、お前は皆の顔をしっかり覚えるのがよい。」陛下は私に指示した。
「承知しました、陛下。」私は答え、皇帝陛下の言葉通り、テーブルを見渡して全員の顔を覚えるよう努めた。
「陛下、新しい侍衛が加わったことをお祝い申し上げます。十月になって、まだ驚きがあるとは。」皇后陛下は言った。
「ハハハ、彼はパイコの反乱部族鎮圧戦で負傷したのじゃ。だから学院の秋分の入学を逃したのだ。しかし、昨日、彼は学院の特別入試に合格したのじゃ。フィドーラ、お前はわしが選んだ夫に満足しているじゃのう?」皇帝陛下はフィドーラ殿下の方を向いて言った。「夫」という言葉は本当に奇妙だ。
「父上。わたくしは彼が家柄のために父上の寵愛を受けたと思っていましたわ。しかし、彼は神学の特別入試に合格し、教授たちも驚かせたのですもの。父上の配慮に感謝いたしますの。私は既に満足していますわよ。」フィドーラ殿下は嬉しそうに言った。良かった、フィドーラ殿下がこの政略結婚を認めてくれた。しかし、私は少し不安を感じた。許嫁に認められるのは良いことだが、フィドーラ殿下はただ見せびらかすための夫を求めているだけではないかと感じた。彼女にとって私はただの値段が高い純血種の犬のような存在なのだろうか。
「それなら良い。わしは二人が近いうちに婚約することを望んでいるのじゃ。しかし、二人ともまだ学生なので、正式な結婚式は卒業後に行うじゃのう。」皇帝陛下は言った。侍者が朝食を運び始め、皇帝陛下もナイフとフォークを手に取った。今日の朝食の最初の料理はポーチドエッグとパンケーキのようなもので、ソースとハムが添えられていた。
「喜んでお受けしますわ。」フィドーラ殿下は笑顔で答えた。
「御配慮に感謝いたします。」私も陛下に感謝の意を表した。
「それじゃ、しっかり働け。ルチャノ。」皇帝陛下は言い終えると、卵黄とソースを絡めたパンケーキの一片を口に運んだ。彼の意図を察し、私は「御意」と答えた。
しかし、よく考えてみると、フィドーラ殿下が本当に感情を重視せず、夫を純血種の犬として扱うだけなら、彼女との仲良く任務は逆に簡単になるかもしれない。彼女に栄光をもたらす夫である限り、たとえ私も女の子でも構わないのだろう。
皇族の方々もナイフとフォークを動かし始めた。昨晩、父親は私に、皇室は他の貴族の家庭とは異なると話していた。アドリア領では、父親が帝都に常駐していたが、私が部屋を出ると母親と一緒に食事をしていた。普段も一緒に過ごすことが多かった。しかし、皇子や公女たちは、今日の朝食会のような特定の場面でしか皇帝に会うことができない。そして、家族が多くても、皇帝陛下が深い感情を持っているのは皇后陛下と皇太子殿下だけである。皇帝になる前の家族だからだろう。
皇族の年齢差も大きい。最も若い五皇子は今年五歳で、一人で食事ができるようになったばかりだ。彼の後ろには乳母が付き添っていた。最年長の皇太子殿下はすでに二十五歳だ。彼は既に結婚しており、現在は皇城を出てキャラニ市街の御苑に住んでいる。父親が言ったことによると、親衛隊や侍衛は皇城の安全を担当し、キャラニ市内には常駐しない。そのため、皇太子殿下の護衛は帝都の警備部隊が担当している。しかし、彼のそばにはまた侍衛がある。今日皇太子妃も出席していた。しかし、彼らにはまだ子供がいない。今日の皇太子殿下は特に疲れているように見えた。明らかに睡眠不足の目で、ぼんやりと食べ物を口に運んでいた。
朝食が終わった後、内閣会議まで少し時間があったため、皇帝陛下は執務室に向かった。そこには署名を待つ書類が山積みされていた。レオンティオは既にそこにおり、多くの文官を連れていた。私はイオナッツと一緒に皇帝陛下の背後に立ち、レオンティオが皇帝陛下に次々と書類を渡すのを見守った。皇帝陛下はレオンティオを非常に信頼しているようで、彼の説明を聞いただけで書類に署名していた。しかし、いくつかの書類には異議を唱え、文官たちと議論することもあった。年を取っても、彼は本当に精力てきだ。私はもう少し眠りたいと思った。




