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侍女と王女(身バレ)

「アデリナ、手伝ってくれる?コスティンがここで昼食を取ることになったから、これから食堂で準備をするの。」ダナエが小部屋の扉を開けて私に言った。


「えっ、それじゃあカハとジゼルは?」私は驚いて言った。


「彼らは今日の昼、フィドーラ殿下と昼食を共にする予定よ。フィドーラ殿下の侍女たちが世話をしてくれるわ。お疲れ様ね。」


「お疲れなんてことはありません。記録をとりながら、侍女の仕事をする姉貴の方が大変です。」私は急いで部屋を出た。ダナエは私に椅子を整えさせ、机を拭いた後にコップを全て洗わせた。彼女自身はずっと会議記録を整理していた。


「次はお茶を淹れる練習も必要ね。」ダナエはようやく記録を整理し終えると、茶器を手に部屋に入る私に向かって言った。私はうなずいて理解を示した。今まで自分でお茶を淹れたことはほぼなかったが、今日誰も私の正体を疑わなかったのは幸運だった。


昼食の準備は大変だったが、私の担当は客が来る前に食器やアペタイザーを並べ、料理をダイニングルームに運ぶだけだった。ダイニングルーム内の作業は、メイド長がダナエや他の貴族出身の侍女たちと共に行っていた。コスティンの奇妙なこだわりは、ある意味私を救ってくれたのだと実感した。


しかしこの安心は早すぎたようだ。食器を並べ終えた後、空のトレーを持って台所に向かう途中、食堂を出たところでコスティンとアルカイオスたちに鉢合わせしてしまった。メイド長とダナエも隊列の最後にいた。私は慌てて脇に下がり、頭を下げて礼をした。


足音が私の前で止まり、鎖帷子を纏った太った腹が視界に入った。何が起きたのだろう?不吉な予感がした。そして直後、同じく太った手が私の顎を掴み、顔を無理やり上げさせた。やはりコスティンだ。この角度から見ると、彼の黄色い巻き毛はまるで変異した羊のようだった。


「名前は何だ?」コスティンは私の目をじっと見つめながら言った。


「アデリナと申します。城の侍女です。」私は慎重に答えた。


コスティンは私を見続けた。視界の端でダナエとメイド長がアルカイオスと何か話しているのが見えた。私はコスティンの剣を引き抜き、彼を刺し殺したい衝動を必死で堪えた。何よりも大切なのはフィドーラ殿下の救出だ。しかし次の瞬間、コスティンは私のウィッグを引き剥がした。ウィッグを見て、私の短髪を確認すると、両手で私の首を締め始めた。


視界が黒く染まり、反射的に腰に手を伸ばしたが、剣はそこになかった。必死にコスティンの手を引き剥がそうとしたが、力が入らなかった。ああ、私はここで死ぬのか。フィドーラ殿下を救出する前に。しかし、父親やロレアノが言った通り、正体がばれればひどい目に遭うと知っていた。この後はダシアンとロレアノに任せるしかない。唯一の慰めは、フィドーラ殿下のために死ねることだ。きっと彼女は私のことを覚えていてくれるだろう。そして私も彼女も、私の秘密にとって、これからも悩みする必要はないだろう。


まるで夏の夕立のように、コスティンの手が突然私の首を離した。私はその場に崩れ落ち、左手で体を支えながら大きく息を吸った。ようやく視界が戻り、涙で滲んだ目で見ると、コスティンが剣を抜いたアルカイオスとグラムと対峙していた。


「アルカイオス、もう一度言う。こいつはルチャノだ。パナティスとアウレルを殺した張本人だ!財務大臣を務めていた時、彼を何度も見た。私が見間違えるはずがない。この髪と瞳の色が一致する人間は他にいない!」コスティンは怒鳴り、剣を抜こうとしたが、二度目でようやく鞘から抜けた。やなり剣は慣れてないな。


ダナエが駆け寄り、私を立たせてくれた。彼女は背中を叩きながら「大丈夫?」と聞き、アルカイオスたちの背後へと私を連れて行った。私は弱々しくうなずくだけで、言葉は出なかった。


「コスティン様。私もルチャノのことを知っていて、復讐したいと思っています。しかし、コスティン様がさき襲撃したのは私の侍女です。賢明な領主とは言えませんが、敵の性別を間違えるほど愚かでもありません。そして数日前、私の息子と娘が城の料理人に襲われた際も、彼女が身を挺して助けてくれました。そんな人が敵だと思いますか?」アルカイオスは剣を鞘に納めながら言った。


「コスティン様に剣を抜いたことはお詫びします。しかし、たとえコスティン様でも、貴族の礼儀と我々ヒメラ家の紋章を尊重してください。主人の館で従者を攻撃するなど、高貴なオーソドックス貴族にふさわしい行為ではありません。」グラムも剣を納めて言った。


「お前たちはルチャノが『アドリアの公女殿下』と呼ばれていることを知らないのか?もともと女みたいな顔をしているんだ。」コスティンは私を指さして怒鳴った。本当に失礼なやつ!まあ、彼の言うことは間違っていないけど。


「でもアデリナは本当に女の子よ。昨夜寝る前に、私が体を拭いてあげたんだから!」ダナエも私の隣で怒りを露わにした。


「本当か?」今度はコスティンが驚いていた。


「もちろんです。彼女はヘクトル商会のマカリオさんの紹介で来たんですよ。それに、私もまだそこまでボケていませんから、男が城の侍女に紛れ込むなんて許しませんよ。」メイド長が横で微笑みながら言ったが、その声色にはまったく笑みが感じられなかった。


「では、なぜ彼女はウィッグを被っているんだ?」コスティンは地面に落ちたウィッグを剣で指しながら怒鳴った。


「コスティン様、それは私自身の髪です。ヘクトル商会から領地に潜入して情報を届けるために、商会が通行証を用意してくれました。ただその通行証は短髪の人間だったので、関所を通る前に髪を切り落としました。そして後の町で職人に頼んで、切った髪からこのウィッグを作ってもらったんです。」私は弱々しく答えた。


コスティンは信じられないという表情を浮かべた。彼は私に近づこうとしたが、グラムに遮られた。グラムは目でコスティンの剣を示し、コスティンはようやく剣を収めた。そして私の前に歩み寄った。


私はダナエの肩からなんとか身を離し、先ほどと同じようにコスティンに頭を下げて礼をした。すると、コスティンが突然右手を伸ばし、昨日メイド長がしたように私を調べ始めた。私は思わず避けようとしたが、ぐっと堪えた。いまは我慢しかない。この借りはフィドーラ殿下に返すことにしよう。次に彼女と一緒に風呂に入るとき、倍返ししてやる!


幸い、コスティンのセクハラは長くは続かなかった。彼は半歩後ろに下がり、私に向かって頭を下げながら言った。「お嬢様、申し訳ありません。私の無礼をお許しください。別人だと勘違いしました。」


「コスティン様、大丈夫です。私も好きでこんな見た目になったわけではありませんから。」私は簡単に謝意を示した。コスティンは顔を上げ、私の肩を軽く叩くと、そのまま食堂に入っていった。アルカイオスも私を一瞥し、皆を連れて部屋へ向かった。私はようやく深いため息をついた。


「ふん、あの豚野郎め。」ダナエがそばで憤慨して言った。


「命拾いできただけでもありがたいですよ。アルカイオス様やグラム様が私のために立ち上がってくれるとは思わなかったです。」私はそう言いながら、地面に落ちていた皿とウィッグを拾い上げた。金属の皿で良かった。


「まずは食堂で食事をしてから部屋に戻って休みなさい。貴族の家出身ではないから分からないかもしれないけれど、オーソドックス貴族の社交界では、主人の家で従者を襲撃するのは非常に重大な非礼なの。だからあの豚野郎もあなたに謝罪したのよ。従者が襲撃されたときに守れない主も不合格と見なされる。アルカイオス様は当然のことをしただけよ。」ダナエは皿を拾い上げながら、私を部屋の方へ押しやった。いや、新貴族だってそんな行動は許さないだろう。コスティンの振る舞いは本当に酷い。


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