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プロローグ

炎。炎がこのヤスモス城の至る所にある。雪のような白い城壁も炎に黒く染めた。今はまだ秋で雪は降っていないが、灰が雪のように舞い落ち、鉄製の格子蓋を通り抜けて私の髪に降りかかった。この灰は燃える前は絹だったのか、それとも羊皮紙だったのか?私は中庭の下水道に隠れ、無言で涙を流し、血のような真紅の瞳も光を失っていた。両手で肩をしっかりと抱きしめ、粗布でできた穴だらけの服を握りしめて震えていた。靴が泥に沈み、湿っぽくなり、汚水が腰まで達していた。まるで自分がカエルのように感じた。普段なら母上は絶対に泥遊びを許さなかったが、今日は自ら私にこのボロボロの服を着せ、長い髪を匕首で切り落とし、そして下水道に押し込んだ。


男たちの喊声と女たちの悲鳴が中庭に響き、大広間の方から足音が次第に中庭に広がってきた。下水道の水は次第に赤くなり、もともと汚れていた悪臭も血の匂いに変わった。何が起こったのか理解し、体が一瞬で冷たくなり、吐き気が何度も襲ってきた。


私の考えは数刻前、家族と別れた瞬間に戻っていた。パニオン帝国に包囲されでも、他の国は全てパニオン帝国に攻め滅ぼされても、父上もこの城を守れることを疑わなかった。母上とバシレイオス兄さんもそれを信じている。リノス王国自体は険しい地勢で守りやすく、この白亜の城と呼ばれるヤスモス城も山と水に囲まれる。だから城が建てた千年間、幾多の苦難を経ても一度も攻略されたことがなく、大陸で最も難攻不落の要塞と見られる。しかし、わずか三日後、敵軍は城内から現れ、この城を汚した。


絞首台に吊るされるよりも、戦場で戦死するほうがましだ。父上とバシレイオス兄さんは最期の時を迎えることを決意した。近衛軍たちは必死に敵と戦い、父上とバシレイオス兄さんが最後の戦闘を行うための時間を稼いでいた。


私は母上と城の侍従が父上とバシレイオス兄さんに鎧を着せるのを見て、手足が次第に冷たくなっていくのを感じた。なぜこうなるか?一ヶ月前には、私はまだ教会の歴史書を読めることを教師から褒められ、城の使用人たちと一緒に作ったクッキーを父上の仕事の合間にお茶菓子として贈った。私は単独でペーガソスに乗ることもでき、先生からも踊りの進歩を褒められた。バシレイオス兄さんはどこかで私が父上の跡継ぎとして推される噂を聞いて、わざと私に対抗するような素振りを見せた。私は王国を継ぐつもりはなかったが、バシレイオス兄さんを緊張させることに自分でも満足していた。国境地帯にいくつの反乱が起きていると聞いていたが、父上が仕事に忙しくなった以外は、誰も特に気にしていなかった。なぜ一ヶ月後私は亡国の姫になる?


私は袖で顔を拭った。すべてはあの男のせいだと分かっている。父上は食卓で歯ぎしりをしながら話していた。あの男は数年前にリノス王国を裏切り、パニオン帝国の没落皇族に寝返った。その後、戦争で各国の王族を次々と絞首台にかけ、クーデターや反乱で主君を皇帝の座に押し上げた。主君に帝国皇帝の功績を築かせるため、リノス王国を攻略することを皇帝の宝冠の最後の珠宝とすることを決めた。


大臣は父上とバシレイオス兄さんに逃亡を勧めたが、彼らは拒否した。逃げてもどこに逃げるのか?帝国に滅ぼされた国々では、降伏や逃亡を問わず、王族は皆帝国に殺された。リノス王国の千年の栄誉を背負って、絞首台で死ぬよりもこのアスモス城と運命を共にするほうがよい。母上は彼らに兜をかぶせ、炎のような短髪を隠し、まるで戦争の女神が神界で戦死した英雄王に冠を授けるかのようだった。


「セレーネー。見るが良い。最後に父上と共に戦いの中で殉国するのは俺だ。君ではない。俺は父上の跡継ぎとしての意味だ。」バシレイオス兄さんは鎧を着て誇らしげに言った。


私や母上と別れの抱擁を交わした後、父上とバシレイオス兄さんも近衛軍の戦列に加わった。侍従たちも皆去って行った。母上は彼らの後ろ姿が扉の向こうに消えるのを黙って見つめ、外の喊声と煙の中で匕首を手に取った。


「母上。」私は小声で呼んだ。


王族の女として、王国が滅びるときの運命を既に理解していた。それは王族の名誉のために死ぬことであり、決して敵の手にかかって辱めを受けることはない。


「母上。私は怖くない。お願い、母上の腕の中で死にたいです。」私は目を閉じ、体が生まれたばかりの小鹿のように震えながら、小声で言った。


怖くない、怖くない。私は心の中で繰り返した。私は一度死んだことがある。これはただもう一度死ぬだけだ。ただ今回は「地球」という名の世界での前世の記憶をまだうっすらと覚えているが、次回はすべてを忘れるだろう。


初めて前世の記憶を思い出したのは、5歳で最初の文字を覚えたときだった。そのおかげで、それ以来読み書きが速く進んだ。でも前世の記憶はずっと秘密にしておいた。7歳で毎日図書館に通い、学院で教えられる本を読むことができるようになった。父上と母上は私を天才だと褒められ、私は両親の称賛とバシレイオス兄さんの僅かな嫉妬に溺れていた。


しかし、すべてには代償がある。リノス王国には前世の記憶を知っていると主張する人も時折現れる。しかし教会は転生を認めず、そのような人々を異端と不吉の物と見なす。教会によると、そのような人は災をもたらすものだ。そのため、私はこの秘密を守り続けた。もし私という不吉な存在が生まれなければ、リノス王国も滅びなかったかもしれない。


母上は私を抱きしめ、血のような赤い長い髪を撫でた。後ろ首の汗が空気に触れて、一瞬の冷たさを感じた。私はもう一度震えた。


母上は私の髪を掴んだ。そして私は素直に首を伸ばして喉を露わにした。さらばだ、この世界。すぐに会いましょう、母上。


しかし、匕首が切り裂いたのは私の頸動脈ではなく、髪だった。その後、私の背中のドレスが裂け、全身が服の束縛から解放された。涙でぼやけた目を開けると、母上が私のドレスと長い髪を暖炉に投げ入れるのが見えた。母上は振り返り、その赤い瞳で私を見つめ、小声で言った。「あなたは生きるのです。ダミアノスは約束してくれました、あなたを生かすと。」


ダミアノス、あの裏切り者?母上は戸棚から城下町の貧しい人々が着る粗布の服を取り出し、手際よく私に着せた。さらに古びた小さな木靴を取り出して履かせた。その後、粗布で作られた小さな袋を取り出し、ひもをつけて私の首にかけた。すると母上は私を中庭に連れて行き、下水道の格子蓋を開け、私をその中に押し込んだ。


状況がまだ理解できず、ただ母上の手を引かれて歩いているだけだった。それが母上の最後の体温だと気づきもしなかった。母上はそのまま私を下水道に押し込み、格子蓋を引っ張って閉じた。「カン」という音とともに、母上の姿が格子で分断された。


「ここでしばらく静かにして。何も言わない。泥で髪を汚して。城が静かになったらダミアノスを探して、小袋の中のものを見せなさい。兵士に会ったら、自分は彼の隠し子で、城の孤児院で育てられたと言いなさい。そして今、父さんに会いたいと。」母上は身をかがめて急いで言い終え、振り返って去って行った。


「母上!」私は小声で泣き叫んだ。母上は振り返り、「静かに!」というジェスチャーをした。私は驚いて手で口を押さえた。


「さようなら、セレーネー。どんなことがあっても生き延びるのよ。約束して。」母上は私の目を見つめて言った。私はうなずき、「うん」と言った。母上もうなずき、右手で涙を拭い、振り返って去って行った。母上の濃い茶色の長い髪が足音とともに揺れ、そして彼女の姿は大広間の方へ消えた。私は無言で泣き始めました。灰は雪のように降り、下水道の液体も赤くなり始めた。目を閉じ、火の光に包まれた私は、体温が冷たい血の流れとともに失われていくと感じました。まるで冬の霜は朝の中で消えるように。


読者の皆さん、こんにちは。モッツァです。一ヶ月間更新がなく、本当に申し訳ありませんでした。前作の第二部分は先月の初めに完成しましたが、自分もいくつの不満があります。そこで、新作の執筆を始めることにしました。新作では前作のいくつかの設定を参考にし、前作の一部の後続のストーリーもこの作品に移しました。皆さんに楽しんでいただけることを願っています。

ありがとうございます。そして引き続き、よろしくお願いします。

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