がんばれ!鶴子先生!!
ピピピ、ピピピ、ピピピ、ピピピ。
まだ薄暗い部屋のワンルームに目覚まし時計のアラームが鳴り響く。現在時刻は6:00。
ベッドの布団の中にいるこの部屋の住人はゆっくりと手を伸ばし目覚まし時計のアラーム止める。
布団からノソノソと出てきて軽く伸びをしながら、窓の方へ眠たい目を擦りながら部屋のカーテンを開ける。
一気に部屋に明るさが灯る。今日はとてもいい天気、雲一つない。
「んー、いい天気。今日はなにかいいことありそう」
再度伸びをしながら外を眺める彼女の名は鶴崎 鶴子。職業は幼稚園の先生をしている22歳、彼氏募集中。
黒髪ロングヘアーで前髪の一部だけ赤く染まっている髪。スタイルも良い普通の女性に見える彼女。
ぬるま湯で顔を洗い、朝食のパンを温めながら軽くメイクをする。メイクが終わるころにはパンも出来上がるので
コーヒーを飲みながらパンを食べる。朝食を済ませると、時刻は7:00。
「よーし、今日も頑張ろう!いってきます」
靴を履いて玄関の扉を開け、職場へと向かう。
そんな彼女、実は…前世が鶴の恩返しに出てきたツルなんです。
このお話は前世がツルの彼女と愉快な園児と仲間たちの物語です。
7:05。家を出て横断歩道を渡り、少し歩いたところにある自宅から徒歩5分の距離にある私の職場、私立りゅうぐう幼稚園に到着した。
家から近いってのはいい。通勤は楽だし、疲れて帰ってもすぐだしね。やっぱりここにしてよかったなぁ。
りゅうぐう幼稚園は見た目はおとぎ話に出てくる竜宮城にそっくりである。その理由は後から話そう。
園の中に入り私はその足で職員室へ向かうと、自分の席につき、今日の書類の準備を始める。そろそろお遊戯会の演目も決めないといけないなぁ。
やっぱりダンスとかがいいかなぁ、と考えていると
「鶴子ちゃん、鶴子ちゃん」
隣の席の見た目から言動までロリっ子…もとい少女チックな彼女、下木 スズメ先生が話しかけてきた。
「下木先生おはようございます、どうかされましたか?」
ナチュラルに頭を撫でながら、もう片方の手でカバンからお菓子を取り出して「どうぞ」と差し出しながら下木先生に尋ねる。
「わーい、ってだからいつも子ども扱いしないでくだしゃい、あうぅぅ。」
下木先生はお子様舌…もとい舌足らずなのでよく噛んでしまうことがある。今日も可愛いなぁ。なでなで。
「うがー!!そうじゃなくて!このあと朝礼で話されると思うけど、今日鶴子ちゃんのクラスに編入してくる子がいるみたいよ。」
頭を撫でられ恥ずかしくなったのか手を払いのけながら伝えたいことを話す下木先生。うん可愛いなぁ。
それにしても編入生か、どんな子か楽しみだなぁ。
ガラガラ。引き戸が開かれそこから乙 姫奈園長が入ってきた。今日もキラキラ輝いていて直視すると眩しすぎる。
横をみると、小さな男の子が園長の隣で緊張しているように立っている。
「はい、皆さん。本日からこの竜宮幼稚園に新しい生徒が編入します。じゃあ常仁くん、挨拶してくれるかな?」
園長がそう告げると、隣の男の子はうんと頷き一歩前に出てハキハキ挨拶をした。
「今日からここでお世話になります常仁 太助です!よろしくおねがいします!」
5歳児とは思えない自己紹介を終え、私は太助君を連れて我がクラス、クラゲ組に案内する。
仲良くできたらいいなぁ。
太助君は本当にしっかりした子だった。教室に入りみんなを集めて自己紹介をすると一気にみんなと仲良くなった。
先ほど私の前世は鶴の恩返しのツルという話をしたが、竜宮幼稚園はそのような子が何故か集まってくる。理由は知らない。
例えばさっきのロリ…コホン。下木先生の前世は舌切り雀のスズメ、乙園長はうらしま太郎の乙姫様が前世なんだそうだ。どうりであんなに輝いているんだと思う。
今、太助君と話しているクラスの子たちも前世が物語の子が複数人いる。
例えば…
「へぇ、太助君南町に引っ越してきたんだぁ。」
赤い頭巾を被り太助君に話かけているのは赤羽 紅ちゃん。前世は赤ずきんちゃんなんだけど…
赤頭巾被ってる以外はもうギャルなんだよねぇ、爪のネイルとか凄いし幼稚園児の服装じゃないよ!ここの幼稚園は身だしなみ等は自由だし、もう慣れたけど
初めて見たときは本当にびっくりしたなぁ。
「てことは、ウルフの家の近くなんじゃん?」
目線を横にずらし、紅ちゃんの斜め後ろに立っている口数の少ない子は大神 ウルフ君。赤ずきんちゃんに出てくる狼が前世なの。人見知りなのか前世のせいなのか
紅ちゃんの声掛けに目を逸らすウルフ君。でもねそうするといつも
「おい、ウルフ。今、紅が話しかけたよね?何シカトしてんの?マジなんなの?あん」
「う、紅さんすみません。」
ゴゴゴって効果音が聞こえてきそうなくらい紅ちゃんが凄んでる。これもいつもの光景なのよね。
この二人、物語と立場逆転してんだよねぇ。まぁ現実通りでも困るけど
でもなんだかんだいつも一緒にいて仲良いんだよねぇ。いろいろ言われてるけどウルフ君も嬉しそうなのよね、なんか尻尾振ってる犬に見えるくらいに。
向こうで1人、本を読んでいるのは瑠璃月 輝夜ちゃん。その名の通り前世がかぐや姫で和装をして登園している。本が大好きでいつも1人で読んでいることが多いのだが
「はっぁぁぁぁぁ!とても素晴らしき作品ですぅぅ!」
恍惚した表情で悶えている。彼女は本が本当に大好きで、大好きすぎて自分の世界に入り込むことがある。たまに怖いくらいに。
今日は何を読んでたんだろう?えーと、、、金太郎!?金太郎にそこまで熱くなるシーンあるかしら?
「はぁぁぁ///何度読んでも金様がクマを投げ飛ばすシーンは最高ですぅぅ…ぐへへ」
金太郎のことを金様って、まぁいいか。このように私が受け持つクラスは個性豊かなメンバーが多いのだ。
あ、もうこんな時間。時計を見ると9:00を回っている。
「はーい、みんな!外で遊ぶ時間よ、全員片付けして外に集合してね」
元気よく「はーい」と返事が聞こえると園児たちは外に駆け出して様々なことをしている。砂場で遊ぶ子、滑り台で遊ぶ子、虫を探している子と他のクラスの子も集まって
賑やかに遊んでいる。
さて、私のクラスの子たちはどこにいるかな?
おや、あそこにいるのは太助君と灰君ね。
太助君と一緒にいるのは花咲 灰君。前世がはなさかじいさんでお花とか生物とか育てるのが好きな草食系男子。違うか。
「太助君、灰君、何してるの?」
そっと背後から近づき話しかけると、灰君がこたえてくれた。
「あ、先生!太助君がね、水やりとか草むしりとか手伝ってくれたんだ!」
「先生!凄いんだよ!灰君、毎日幼稚園で花壇育ててるんだって!」
ここは、灰水やりだけは君を中心にみんなで育ててる花壇。そしてみんなが遊ぶ時間に灰君はいつも手入れをしている。ちなみに私は日曜日にやってきてしている。
家が近いって本当に便利。行けないときは園長先生にお願いしている。本当に感謝だ。
「そっかぁ、灰君はいつもありがとね、そして太助君も手伝ってくれてありがとう、これからもよろしくね」
笑顔でそう言いながら二人の頭を撫でてあげる。「任せて!」と二人が作業に戻ったので私も草むしりを手伝おうとしたら
「てんてー!たいへんだよぉ!はやくきてー!」
隣のクラスの子が慌てた様子で私の腕を引っ張りながら走っていく。あぁごめんよ灰君、太助君。花壇は任せた。。。
手を引かれ走っていくとグラウンドの真ん中は異様な空気に包まれていた。そしてその中心にいるのは私のクラスの二人。
「フッフッフッ、キョウコソアナタニホオヅエツカセテミセマスネ!ベニ!」
「毎回めんどくさいわね、あなたには日本流土下座を教えてあげるわ。」
グラウンドの中心で物騒なことを言っているのは紅ちゃん。片言の日本語を話しているのはドクリン=マジョリーヌ、通称マジョちゃん。
彼女の前世は白雪姫で毒りんごを食べさせた魔女でいたずら大好きっこで目立つのが大好きな子。クラスの中心の紅ちゃんに対抗意識をもっており
よくよくこう勝負を挑んでは敗れ去っているのだった。どうやら今日はドッジボールで勝負を挑むようだ。
「紅さんには指一本触れさせねぇぞ」
ガルルッと聞こえてきそうな紅ちゃんの番犬、番狼かな?ウルフ君が紅ちゃんの前に立ちふさがる。
すると、「お願いねェ」といいながら後ろに下がる紅ちゃん。そっか今日のネイル的にドッジボールはきついかも。最初から任せる気だったな、策士。
おっと、見てる場合じゃなかった。早くこの異様な空気をなんとかしないと、私は二人に近づいて声をかける。
「はいはい、二人ともそこまでy」
「ジャマスルナラオマエカラネ!オオカミ!クラウネ!ヒッサツ、ドクリンビーム!!」
ドクリンビームは見事に命中した。私のお腹に。。。
溝に直撃し、悶え苦しむ痛みの中、聞こえてきたのは心配する園児たちと下木先生の笑い声…、あのロリッ子許せん。
「もぉー、だからごめんってば鶴子ちゃん」
今日の勤務を終えた私たちは、よく通っている焼鳥居酒屋「ちゅんちゅん」で一杯飲んでいた。
苦しんでいる私を横目に大爆笑していた下木先生と共に。
「そんなに可愛く言ったって許してあげないんだからねェ、店長!カシオレおかわり」
残っていたカシオレを飲み干し注文しながら拗ねながらこたえる、奥から店長の「あいよー」という声が響き渡りお店も活気づいていた。
そんなに大きなお店ではないけれど、味もいいし雰囲気もいい。そしてここの売りは
「はーい!カシスオレンジ、お待たせしましたー!」
お酒を運んでくれたのは看板娘の魚海 藍莉ちゃん。可愛くて、元気があって、可愛くて、癒されて。
この子に会いに来るお客さんがいるといっても過言ではない。
「ありがとう藍莉ちゃん、今日も可愛いねェ」
「いつもありがとうございます、あまり飲みすぎないように気を付けてくださいね」
なんて可愛いんだろう「となりの可愛いだけのロリっ子とは大違いね」
クスクス笑いながら仕事に戻る藍莉ちゃんも前世は人魚姫なんだって、優しいし可愛いし、ほんと癒される。
となりのロリっ子は「声に出してますよー」と涙目になりながらキュウリをポロポリ、ハムスターみたい。あーお酒がおいしいわ。
「それ以上はセクハラとパワハラになるから控えてくださいね」
カルピス酎ハイを飲みながら私の逆サイドから話しかけるのは、同僚の寒空 雪萌先生。前世は雪女である。
色白で黒髪、スラっとしたスタイル、幼稚園でも生徒たちに人気なのである。ただ弱点もあって極度の恥ずかしがり屋なのである
いつかご披露できたらいいなぁ。
「たくっ、落ち着いて飲めねーのかよお前らは」
焼酎ロックを豪快に飲みながら凄んでくるのは桃山 鬼虎先生。桃太郎に出てくる赤鬼が前世で、実際怒らせるとめっちゃ怖いです。
さすがに手を出してきたりはしないけど、口喧嘩で負けたことはないそうです。彼女には決して逆らってはいけないのです。
トゥルルルル、トゥルルルル。あれ?
「鬼虎先生、電話鳴ってますよ?」
着信画面を見ると慌てて店の外へ、そっと覗いてみると…
「ダーリン、どうしたのぉー?えー声を聴きたくなったってもぉ、恥ずかしいじゃんかぁ、うん、私も大好きだぞ!ダーリン!!」
鬼虎先生は実は既婚者で旦那さんは桃山 太郎さんでなんと桃太郎が前世みたい、とってもラブラブで旦那さんが絡んじゃうと
性格が本当に変わっちゃうんだって、てか変わりすぎだよね。おっとバレル前に席に戻ろう。
席に戻ると、雪萌先生と下木先生が幼稚園談義をしていた。
「鶴子ちゃんも気にしてた方がいいんじゃない?最近マジョちゃん結構暴走してるし、注意しとかないと」
「そうですね、何かあってからじゃ遅いですし。マジョちゃんのご両親はドクリンカンパニーの会長さんですからね」
確かに二人のいう通り、最近マジョちゃんはイタズラも増えてきたし、友達にもよく絡むし、要注意人物ではあるけど…むむむ。
「そうね、とりあえず私から言えることは一つ。下木先生!ゴチになります!」
下木先生は驚いた表情をみせ、雪萌先生と戻ってきた鬼虎先生も一緒に「ゴチになります」と。
涙目になりながらお会計を済ます下木先生の頭を撫でながらそれぞれ帰路についた。もちろん奢りは冗談でしっかり割り勘しましたよ。
空を眺めるとたくさんの星が見えた。こうゆっくりと空を見上げるなんて最近なかったなぁ。
学生時代はよく、星みてたんだけど。
星を眺めながら歩いていると、背後から聞きなれた声が聞こえた。
「だーれだ!」
こんな夜中に女性の背後から急に声をかけ、しかも相手の目を塞ぐってよく考えたらめっちゃ不審者じゃないかと思いながらも
私にはこの声に聞き覚えがあった。昔から何度も聞いてきた声だ。
私は相手の名前を呟く。
「亀代でしょ、私にこんなことするのは」
目隠しされた手を外しながら振り向くと「あったりー」と笑いながらたたずむ、私の親友亀ヶ谷 亀代。前世はうらしま太郎の亀だ。
亀代とは幼稚園のころからの幼馴染でなにをするのも一緒だった。就職も最初は同じ幼稚園を希望していたがだったが、
「鶴子が幼児を相手に天下をとるならウチは高齢者を相手に天下をとるわ!」と意味の分からないことを言って介護職に今は勤めている。
彼女なりに頑張ってるみたいで、孫のように可愛がってもらってるのだとか。
職場は違えど、今でもかけがえのない私の大切な友人だ。
「それでー?なんか悩んでるんでしょー?」
ほんと、この幼馴染はエスパーなんじゃないかと思うほど私の少しの変化に気付く。「なんでわかるの?」と尋ねると
「鶴子のことはなんでもわかるだって」うん、怖い。でも昔から亀代はこんな風に私を助けてくれていた。
だから私は思っていることを話した。
他の先生たちが言っていることは本当にわかる。マジョちゃんは最近確かに問題ごとを起こすことが多い。
今はそんなにトラブルになっていないが、大ごとになる前に対処した方がいい。ここでの対処というのは保護者連絡しての、クラス替えである。
でも私は。
「マジョちゃんはそんな悪い子じゃないの。素直ないい子。だから注意しておくのは大事だけど、マジョちゃんの良さを奪うこともしたくないなぁって。
でも無理よね、やっぱり他の先生が言うようにしたほうが…」
そう話している途中に「とお!」と亀代に背後から頭をチョップされた。
キョトンとしてる私に向かって
「鶴子らしくない。らしくないよ、やる前に諦めるなんて。」
亀代は私の前に来て目を見つめて話を続ける。
「私さ、鶴子の中の辞書には『無理』とか『諦める』とかないと思うんだよね。なんかみんなが諦めようとすることをなんとかしたくなっちゃうっていうか
鶴子さ、高校の時の織田事件覚えてる?」
織田事件。高校のクラスメイトに織田信子って子がいたんだけど、その子が学校で悲しんでいた。理由を聞くと下校中にキーホルダーを
落としてしまったようだ。さらに詳しく聞くと誕生日プレゼントで幼い弟と妹がお小遣いをためて買ったんだと。
「そしたら鶴子、信子と一緒に教室飛び出して探しに行くじゃん?そしたら輪が広がってクラス全員参加で捜索が始まってさ。4時間くらいかな?
落とした場所もわからないから必死で探してやっと見つかってみんなで大喜びしてさ、そして学校帰ったら授業ボイコットしてたからめっちゃ怒られてさ
みんなで仲良く反省文書いたよね」
今思えばすごい黒歴史だよなぁ、クラス集団ボイコット事件でいまだに学校では語り継がれてるんだとか。
「落とした場所もわからないのにさ、1人で探そうとしたり無謀なとこあるけど、そんな姿を見て私たちはみんな動いたんだよ。
だから鶴子は無理を可能に出来るの。それにさ、今も昔も鶴子は一人じゃないんだからさ。」
背中をポンッと叩かれ、ニカッと笑う亀代。昔っからこの笑顔に助けられてきたんだよなぁ。
そっか、まずは諦めないで私が思うようにやってみよう!
「お、決心がついたみたいだねぇ」
なんで表情を見るだけでほんとわかるんだよ、と疑問に思いながらも「ありがとう」と伝え微笑みかける。
「あ、じゃあ鶴子にお願いがあるんだけど、この手紙を乙園長に渡してね」
ウインクをしながらポストカードの手紙を私に預ける。見ていいとのことだったのでみてみよう。えーと、なになに
乙 姫奈さんへ
いつもお世話になっております。
あ、島太郎さんは渡しませんよ
亀ヶ谷 亀代
なるほどなるほど、ちなみにここに書いてある島太郎さんは浦 島太郎さんでもちろん浦島太郎さんが前世で亀代と乙園長と三角関係って聞いたことが…
って!!ちょっと!!!
これ以上ストレスになりそうな修羅場もってこないでよーーーーー!!!
私の心の断末魔が夜空の星の輝きを余所にに夜の闇に消えていった。
あの飲み会から数日後。私たちはいつものように幼稚園で仕事をしていた。
私が勤める幼稚園ではお昼過ぎに主活動という時間が1時間ほどあり、普段は粘土遊びやお絵かきをしたりするのだが
今日はもうすぐお遊戯会があるからそこで披露するダンスの練習をすることになった。
「はーい、みんな!席について!主活動の時間だよー」
お歌の時間が終わって、ピアノ前でワイワイしてるクラスのみんなに声をかける。
そして各自の席に着席すると今日の主活動の内容を説明する。今日はお遊戯会の練習なので隣のサンゴ組と合同だ。
ちなみにクラゲ組の担任が私で、副担任が下木先生。サンゴ組の担任が雪萌先生で副担任が鬼虎先生である。
今日はクラゲ組が主となり練習を行うので他の3先生は補助に入ってもらっている。
「今度のお遊戯会では6曲のダンスをします、この前みんなで決めた曲になっているのでわからないことがあったらなんでも聞いてくださいね」
子どもたちの「はーい」という元気の声で練習がスタート。今回のお遊戯会のテーマが季節なので演目もそのような形になっている。
一所懸命している子もいれば、飽きはじめた子、隣の子と話し始める子と様々だが練習は続いていく。
さて、私のクラスの子はどうかな?
灰君と太助君と3匹の子豚の三男が前世の豚塚三郎君はやっぱり真面目だからしっかり練習してるわね。長男の一郎君と二郎君はやっぱりサボってる。
あとでお説教ね。おや、女性陣のところが少し騒がしいわね。
「あれっ、姫華のそのブローチ、めっちゃ綺麗じゃん!映える!」
紅ちゃんが白雪姫が前世の白雪 姫華ちゃんが胸元につけていたキラキラ輝くブローチを見ながら会話する。
「えへへ、お母様が誕生日プレゼントに買ってくださったんですよ、とてもお気に入りなのです」
ブローチを褒められ嬉しそうに話す姫華ちゃん。そこに輝夜ちゃんとマジョちゃんも合流しブローチをみている。
紅ちゃんからブローチの話を聞くと、「よかったじゃん!いいなぁ」と話すと
「ヒメカ!チョットソノブローチヲワタシニモツケサセテネ!」
羨ましそうに見ていたマジョちゃんが閃いた顔をすると姫華ちゃんに驚きの提案をする。
「え、ちょっと…それは…。」
物事をはっきりというのが苦手の姫華ちゃんはゴモゴモとはっきりいうことが出来ていない。
紅ちゃんと輝夜ちゃんもそれはやめなよと援護するもマジョちゃんは止まらず。
「イイカラワタシニモツケサセルネー!」
姫華ちゃんの胸元からブローチを取ろうとするマジョちゃん、それを防ごうとする姫華ちゃん。
二人の攻防の結果は、二人の間にブローチが落ちていき
パリン。
ブローチが欠けてしまったのだった。
壊れてしまったブローチを見て号泣する姫華ちゃん、それを宥める紅ちゃんと輝夜ちゃん。
そして
「ワ、ワ、ワタクシハワルクナイデスワー!!」
声を震わせながら教室を走って逃げていくマジョちゃん。でもあの時のマジョちゃん…ってマジョちゃんを追いかけないと!
「私と下木先生でマジョちゃんを追います、雪空先生と桃山先生はここをお願いします!」
先生たちに指示を出して私と下木先生はマジョちゃんを探す。そしてついに見つかった。体育道具室の中に逃げ込んだらしい。
下木先生が扉を開けて中に入ろうとしたとき
「下木先生、ちょっと待っててください。」
私は下木先生にそう告げるとダッシュでクラゲ組に戻り、辺りを見渡して姫華ちゃんを見つけ、一緒に来てと告げた。
周りからなにか聞こえたが私は姫華ちゃんの手を取り教室を後にして体育道具室に向かった。
「鶴子ちゃん、なにをしているの?」
下木先生の言葉をスルーしつつ私は姫華ちゃんに中に入ってと告げ、中に入ったのを確認すると扉を閉めた。
「ちょ、ちょっと鶴子ちゃん!?中には今マジョちゃんと姫華ちゃんしかいないのよ?何かあったらどうするつもり?
そこをどいて、私が中に入るから。」
いつもの可愛らしい下木先生が真顔で私に問い詰めてくる。それもそうだよね、さっきの二人をみてたらこうするのは本当はよくない。
でも、私は、私は…。
「下木先生、ここは鶴崎先生に任せてみましょう。」
声がする方を振り返ってみるとそこにはキラキラ輝く乙園長がいた。
真顔の下木先生の背後をとり、頭を撫でながら
「責任は私がとります、なので鶴崎先生。やりたいようにしてください。」
にこっと微笑みかけられ「ありがとうございます」と頭を下げながらも
私は内心確信をしていた。私たちが何もしなくてももう大丈夫だと。
体育道具室の中。
ビクビクしながら佇む姫華ちゃんと跳び箱に座って動かないマジョちゃん。先に動き出したのは
もちろんマジョちゃんだった。
急に跳び箱から立ち上がり、姫華ちゃんの前まで行き、両肩を掴んで
「ワーン、ヒメカ、ゴメンナサイナノダー」
顔をクシャクシャにし、鼻水も流しながら号泣するマジョちゃんもびっくりする。
いつもプライドの高い彼女がここまで豹変することはないだろう。
「コワスツモリハナカッタデス、ヒメカガカワイカッタカラワタシモツケテミタクナッタノデス
デモ、デモ、ワタシイツモエラソウニシテルカラスナオニアヤマレナカッタデス。デモ、オトモダチナカセルノダメナノダ」
泣き崩れてしまったマジョちゃん。
それを見ていた姫華ちゃんも釣られて泣き出してしまい
「ううん、私も素直にマジョちゃんに貸したらよかったの、ごめんね。マジョちゃんは私の大切な友達だよ?」
二人で抱き合いながら号泣する姿を見る私と下木先生と乙園長。
「鶴子ちゃんはこうなるってわかってたんですか?」
下木先生は二人が抱き合う姿を目に焼き付けながら、私に問いかけてくる。
もちろん100%大丈夫って自信はなかった。もっと拗れてしまう可能性もあったかもしれない。
「マジョちゃんはそういう子じゃないって思ったんです、だってブローチが落ちたあの時、本当にツラそうな顔してましたから。」
そう、ブローチが落ちる瞬間のマジョちゃんの表情は今にも泣きだしてしまいそうな後悔の念のような顔をしていた。
だからマジョちゃんと姫華ちゃんが1対1で話す機会を与えればちゃんと解決するんじゃないのかなって思ったんだよね。
「はいはい、仲直りしたことだし教室に戻ってお遊戯会の練習しますよ」
乙園長がそういうと二人は涙を袖で拭いて、手を繋いで教室に駆けていく。その後ろをついていく下木先生。
私は園長に「ありがとうございました」と頭を下げた。すると
「鶴崎先生は常に周りを見てますからね、相手の思いも考えて。困ったらまた私に言いなさい」
乙園長はそう私に語り、にっこり笑いかけ園長室へ戻っていった。信頼してもらえたのも嬉しかったな。
そう思いながら私は下木先生を追いかけていった。
しかし、クラゲ組が近づいてきたときに思った。みんなにどう説明すればいいか、結構目撃者もいたし、二人に問い詰める子もいるかもしれないし
うーんと唸りながら教室に入ると
「せんせー、おそいよー!みんなもう始めてるよー?」
教室に入ってみると、私が考えていたことが意味をなくすくらいみんな普通にしていた。
紅ちゃんと輝夜ちゃんも姫華ちゃんとマヒョちゃんも普通に迎え入れてるし、頭の中ハテナマークでいっぱいにしていると
雪萌先生が教えてくれた。
「太助君のおかげよ、太助君がね、みんなに声をかけてくれたの。「二人が戻ってきたらそっと迎え入れよう!そしたら鶴子先生は喜んでくれるから」ってね」
私たちが教室を出て行ったあと、太助君がクラゲ組のみんなに話をしてくれたみたい。大好きな先生を困らせないようにしようと。
なんて嬉しいんだろう。私はダンスを練習している太助君に声をかけに行った。
「太助君、みんなに声をかけてくれてありがとう、先生ほんとに助かっちゃった。」
太助君はダンスを一旦止めて、先生の方を向き直り笑顔で
「先生が困ってたんだもん、助けるのは当たり前だよ!」
その時私の脳裏に前世の記憶がふぁっと駆け抜けていった。雪の降る日に罠にかかって動けなくなってしまった私を助けるために
笑顔で話しかけてくれた青年を…あの時青年は確か
「先生?先生!」
ハッ!と現実に戻ると私に「ここってどう踊るの?」と尋ねてくる太助君。
そうね、そろそろしっかり全体練習しないとね。
「じゃあみんな!一回合わせてみるから先生たちの動きを見て練習してね!」
園児たちの「はーい」という声に私はステレオのスイッチを入れ、音楽を流し始める。
よーし、今日もみんなでがんばっていこう!!
がんばれ!鶴子先生!!