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06. ソロ活の始まり

 都市アーナ、赤鹿亭。


 無事に合流したなの達は、食事をしながら雑談していた。


 なのは追加で注文したスープを飲みながら言った。

「お店を何個か隷属化したから、なーんもしなくてもお金と服とご飯には困らない。」


「順調過ぎるくらい順調ですね。」


 "飽きる前にやめる"が信条のなのは、次の目的に飢え始めていた。

「これから何しよっかな~。」


「わたしはお金溜まってきたらお家ほしいなぁ。おっきいやつ~。」


「拙者は、そろそろ戦う機会がほしいですな。」


「僕は、レアアイテムとかレア防具を収集したいですね。」


 其々が会話に夢を膨らませる中、ピピ丸だけは場の雰囲気とは違うシリアスな話を始めた。


「なの様、実は懸念事項がある…ピピ。」


「確かに柔らかいわね…。その話つまんなそうだけど続けて。」

 なのがスープに入った柔らかな肉を頬張りながら答えると、ピピ丸は話を続けた。


「なの様達の呪い系ギフトは、別のギフトやアイテムによって解除される可能性があるピピ。実際にサリサの祝福系ギフトによって、まかろん氏のギフトがリセットされたピピ。」


「そう言えばそうでしたねっ…それがなければやられるところでした。」


「今回のケースではたまたまプラスに働いたピピ。だけど本来なら呪いを解除されるというリスクになるピピ。」


「呪いギフトは祝福ギフトによって上書き解除されるケースが多い。それが祝福ギフトに弱いと言われる所以ですな。」

 ハンサムが補足するとよわみが続いた。

「あー…そうなると厄介ですね。なのちゃんの隷属が解けちゃう可能性は…かなり高い。」


「対策として、隷属した人物には相互監視と密告の仕組みを作っておくことを推奨するピピ。被害が出た場合にすぐ察知できるようにするしかないピピ。」


「防止策より事後策ということですね。」


「防止は諦めるしかないピピ。この世界に安定と安心はないピピ。」


 やっぱりつまんない話だ、という表情でなのが言った。

「面倒なことはピピ丸がやっといて。」


「ピピ。」


「もしかしてこうして話してる相手が実は別人!なんてこともあるのかな。」


「私達がお互いを確認するための合図も必要かもしれないですね。」


「そういうのはあたしが考えとく。」


「このゲーム死んだらアカウント消去されるしね。」


「それってどうなるんですか?」


 よわみは真面目な面持ちで説明をしていった。

「今まで手に入れたアイテムはなくなるし、一定期間は再ログインできなくなるし、この異世界ギフト内の記憶も消える。」


「記憶も消えるんですかっ…。」


「このゲームに関する記憶は電脳デバイスの専用エリアにまとめられているんだけど、そのエリアごと綺麗にされてしまう。」


「楽しかったこととか色んな経験も…全部消えちゃうんですか。」


「細かいことは消えてしまうけど、人生経験に関わる記憶は"ダイアリー型メモリ"として、残り続けるんですよ。」


「うわー…なんていうか、その、死にたくないっ。」


「このゲームは気軽に死ねないから、現実世界と同じような、保守的な行動を選択させがちですね。」


「でもギフトがあることによって、大胆な行動も取れるピピ。」


「左様、ギフトには一撃で相手を死に至らしめるものもある。祝福系ギフトに弱いとはいえ、呪い殺せるギフトは最も強いと言われてますな。」


「ハンサムって呪い系ギフトで殺されることなんてあるの?」


「神を呪いで殺したらどうなるか…呪い返しに遭って相手が自滅するでしょうな!んなっはは!」


 よわみは"呪い系ギフトで隷属されてる癖に"とは言えなかった。

「それは頼もしいですね…。」


「ギフトって…もう運なんですよね。わたしも運が良ければもっと違うギフトだったはずなのに…。」


「まかろん氏のそのギフトがなかったらあの時、間違いなく透明人間にやられていたピピ。」


「そ、そうかな…。」


「そうだよ、そのギフトを使いこなせるのはまかろんだけだよ。知らんけど。」


「拙者もそのギフトには目を見張るものがあると、そう思っていたところですぞ。」


「そうですね、そのギフト名…"卑猥な視線"でしたっけ。やっぱり強力ですよ。」


「あれ?"エッチな視線"じゃなかった?」


「ピッピッピ、違うピピ。"恥ずかしいポーズ"だったはずピピ。」


「はて、拙者は"娼婦の誘惑"と記憶してたですぞ。」


「"脱衣の視線!"あーもういいですっ。」



「ハンサムさぁ、この世界の半神なんでしょ?これから何したらいい?このゲーム何したら勝ちなの?」


 なのはこの世界の住人であるハンサムに珍しく意見を求めた。なのが求めるものは斬新で新鮮なもの。ハンサムもそれを十分理解していた。


「実は…つい数時間前に新しく小エリア——ルプ島が解放されております。そこに行くのもいいかと思いますぞ。"未踏の地"故、良い探索ができるでしょうな。」


「未踏の地!良いねぇ!良いじゃん!」


 喜んでみせるなのとは逆によわみは訝しげに聞いた。

「でも偶然ですかね…なんでそんなタイミングで解放されたのでしょうか。」


「それは拙者、半神の騎士ハンサムが倒されると解放される、特別エリア…だからですぞ。」


「お前そんなにすごいイベントキャラだったの。おい、早く言ってよそれ!」

 なのはハンサムのいかり肩をバンバンと叩いた。


「いやあの…自分で言うのも恥ずかしくて…。」


「基本的には倒されない前提で作られてそうですしね。」


「それって地中海に浮ぶ別荘的な島かも〜っ。」


「ハンサムさ、それって海を渡るってことだよね。」


「ん?…そう言うことになりますな。遠くはないはずですぞ。」

 ハンサムは先程からなのの発言に疑問を感じていた。ハンサムにとどめを刺したなのは、ルプ島への転移石がドロップされているはず。なのに、こんなことをいちいち聞くのは何か理由があるに違いない、と。


 なのは全員の顔を見回しながら言った。


「あたし船に乗って見たかったんだよね。それにみんなもビーチで遊んだりしたいでしょ?」


「わたしビーチなら行きたいっ。」


「こことは違うロケーションも見てみたいですね。」


「人混みの多い街よりかは好きピピ。」


 なのは全員の顔をもう一度見回して、妙に調子を上げて言った。

「よおおし!じゃあ次の目的地はルプ島でいいよな〜!?」


「お、おお~!?」


「ルプ島に行きたいか~!?」


「おお~!!」


「海で!遊びたいか~!?」


「おお~!!」


「冒険したいか~!?」


「おお~!!」


「野郎ども!出航だァァァァ!!」


 次の目的地が決まり、一同は大いに盛り上がった。


——が。


「じゃあ、ルールを発表する。よく聞け。」


 なのは急に真顔になり低い声で言った。そこにいる全員に"悪い予感"という閃光が横切った。


「え?」


「え?」


「え?」


「だって普通に行ってもつまんないじゃん。」


「いやこの世界のルールがそもそもハードだって話をさっきまでしてたはずですが…。」


 なのはよわみの話を聞かなかったことにして続けた。

「そのルプ島っていうのが、どこにあるのかよく分からない。ふむふむ、でも考えてみて。…逆に、それがいい、と。」


「は?」


 なのが何を言いいたいのか、誰にも想像出来なかった。


「ソロでそのルプ島とやらを目指そう。ここから先は誰かと一緒に行動したらダメ!ハンサム!お前は場所を教えたらダメ!」


「ちょっと待って!何処にあるのか分からないその島を一人で探すんですか…無理ゲー過ぎる。」


「だーいじょうぶ。1週間後のお昼に現地集合だから。」


 なのは1週間も猶予があるからそれで何とかなる、と言いたかったようだが、その意図は誰にも伝わらなかった。


「いや何が大丈夫何ですか…。島っていうけど、そもそも都市アーナ(ここ)は平野の真ん中ですよね?」


「なのだ先輩、ちょっとそれはわたしには無理かもです…。」


「ピピ丸が無力な小鳥さんということを忘れてないかピピ。」


「反対な人いるぅ?いるわけねえよなあ?じゃー解散!」


——スッ。


 なのはそう言うと、返事をしないままログアウトした。ピピ丸は"やれやれいつもこうだ"と観念して、仕方なくなのに続いた。


「これだけは言えるピピ。なの様の考えるゲームにはだいたい罰ゲームが用意されてるピピ。」


——スッ。


 取り残された三名は、暫くその場で硬直することしかできなかった。

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