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04. 孤児 前編

 都市アーナに住む奴隷や貧困者の間で、自然発生的に共同体が形成されていった。相互扶助の為のその共同体の名は、"かがり火の同胞"という。


 家柄や生まれに関わらず、望めば誰でも同じ火で暖を取り、語らい合い、助け合う、友愛を標榜する共同体だった。

 かがり火の同胞はいつからか火の神を信奉するようになり、外部の者から"拝火教"と呼ばれるようになった。


 人間社会は犠牲と偉業の両輪で発展してきた。貧困者のような弱者達は、いつの時代も虐げられる運命にあり、"犠牲"の方を担い続けてきた。

 悪意のある者から暴力を受け、悪意のない者からも怪訝な目を向けられ、無視され捨てられる。善人でさえ無意識に"下の者"と見下す態度を取る。

 憐れみ、同情、慈悲さえ本質は自己満足で、善人は貧困者に優しく振る舞い、僅かな施しを与えることで、自分が善人であることを確認し、自分に満足する。

 社会が不安定になった時に真っ先に足切りされるのは、いつも弱者だった。


 貧困者達は、人の悪意に敏感になっていった。

 日頃から有形無形の差別を受け、刹那に滲み出る悪意の表情を敏感に読み取れるようになり、無くても悪意があるように見えてしまうほど、猜疑心が不信と怒りを増幅させていった。

 "どうせコイツも俺をバカにして憐れんで見下しているんだ"、と。


 楽しい思い出は忘れてしまうこともあるが、いじめの記憶は消えることなくトラウマとなり心に残り続ける。差別、迫害、暴力、いじめ、これらは拝火教徒を確実に変えていった。


 虐待されて育った子が大人になり、今度は自らの子を虐待する…虐待の連鎖。

 それと同じように、最初は子供のように小さく少数派だった拝火教は、数を増やし大人になり、今度は暴力を振るう側になっていった。

 これまで差別してきた者達が今度は攻撃される側になった。見て見ぬ振りをしてきた者も次第に攻撃されるようになった。

 彼らは訴えた、"我々は不当に攻撃され暴力を受けている!我々は善人で拝火教は邪教だ!"と。

 その言葉が拝火教徒の火を更に激しく燃やし、対立は決定的となった。

 拝火教徒達の怒りは頂点に達し、自らの身体に火を付けることで火の神に命を捧げ、武装する有力者達を呪い殺していった。命を投げ打って戦いに臨む者と、命惜しい者とでは勝負にならなかった。炎の呪いは都市と議会を浄化し、拝火教は勝利した。


 敵対勢力が崩壊すると、拝火教は次の段階に進んだ。奴隷制の撤廃と貧困解消を目指し、本格的な政治活動に乗り出した。

 先の成功体験から、数と暴力と呪いを好んで用いるようになった拝火教は、すぐに議会の半数近くまで影響力を及ぼすようになり、奴隷制は撤廃された。

 それは偉業として市民から受け入れられた。貧困に耐え、試練に打ち勝ち、敵を滅ぼし、運命を手にした拝火教のことを、"神々に祝福されていない"とは誰も思わなかった。

 人々は彼らを正当な集団と認めた。


 だが、人々の期待に反して拝火教の快進撃はここで止まる。ここから先は一転して、破滅へ向かって突き進むことになる。


 貧困者の為に戦うには正義と勇気が必要だったが、奴隷制撤廃後の新しい秩序の運営には知恵と公平な精神が必要となった。

 貧困者の中に高度な教育を受けた者はおらず、行政経験者もいない、ましてや金の誘惑に弱い者ばかりだった。拝火教による内政は、社会の混乱と腐敗を助長させた。

 そして貧困層出身だった指導者は、貧困者ではなくなっていった。金と権力を手にし、大きな邸宅を買い、子供の為に家庭教師を雇い、学問都市へ留学させ、官職への就職を斡旋した。もはや富裕層と化していた。


 彼らの正義はこうして骨抜きになり、輝きを失っていった。

 大義をなくし既得権益側になり、"攻める側"から"守る側"になっていった。


 都市の人々は奴隷を雇えなくなり、次々と解雇していき、街は職を失った浮浪者で溢れ返った。そうして奴隷は浮浪者に降格となり、貧困化は進み、以前より格差のある社会になっていった。

 奴隷制を撤廃するだけでは、格差は解消どころか広がっていくだけ、そう人々は理解し始めた。


 拝火教は、浮浪者や宗教団体、共同体などの他の集団から轟々と非難を受ける立場となった。

 暴力による対決、呪い、暗殺、内政の失敗、金絡みの不正、挙げればキリがなかった。


 そして自らが反対してきた奴隷制を復活させたことで、非難は更に大きくなった。

 拝火教徒は為政者となり、能力不足を自覚し、奴隷制が社会秩序に必要不可欠と思い知り、自らの夢が"叶わぬ夢だった"と悟った結果だった。

 社会は混乱の末、元に収まった。正しい行いが必ずしも良い結果をもたらすとは限らなかった。


 ここまで来ると拝火教に残されたカードは、手にした権力が離れぬように癒着することと、敵対勢力を排除し続けることくらいだった。友愛に始まり、正義を信じて突き進んだ少年は、いつしか醜い老害に変わり果てていた。


 拝火教の暴力と不正行為を非難し、都市から排除された集団の一つが"ウズの囲い"というわけだった。

 




 ここは都市アーナの城壁外。そこには拝火教によって追放された集団、ウズの囲いの生き残りが集結していた。


 サリサは心許ない人数まで減ってしまった仲間達の顔を見渡して言った。

「残ったのはこれだけのようですね。他の方々は捕まって拘束されたか、殺されたのでしょう。殺されると直近の記憶ごとアカウント消去されますから、いつ何処で誰に殺されたのかさえ分からなくなります。後のことは私達で何とかするしかありません。」


 仲間の一人が言った。

「邪教徒共の目的は反対勢力の排除だけでしょう。四方儀式の杖の価値には気付いていないはず。一刻も早く奪還しないといけません。ですが…。」


 サリサは言った。

「この中に杖を扱える資格保持者、"未経験者"は…いませんか?」


 手を上げる者、名乗り出る者は誰もいなかった。


「そうですか…。うーん、若気の至りだったと言う他ないですね…。」


 サリサは頬に手を当て、昔を思い出しているかのように呟くと、各々が口を開いて話し合いが始まった。


「賭け…かもしれないが、余所者にでも依頼しますか。」


「それは危険過ぎるでしょう。」


「その者達が裏切りでもしたら、それこそ紛失してしまう。」


「そこはお金を多く積めばいいのでは?」


「ガグラ、あなたの追跡系ギフトがあれば最悪の事態は防げるはず。」


「他者に依頼して戻ってくれば良し、追跡が途絶えた時は、私達の身代わりになってくれた、そう考えてはいかがか?」


「危険だ…我々だけで判断して良いことではない…。」


「我々の他に誰がいると?幽霊にでも聞くんですか?」


「現実世界に戻り、そこでメンバーを集めて決めてもいいだろう。」


「時間が経てば経つほどこちらに不利になる。」


「サリサ、あなたのギフトで潜入だけでもできないか。」


「誰が行く?奴等の中には擬態を見破る者もいるぞ。」


……。


「皆さん、この答えの出ない議論こそが私達の答えなのです。」


 まとまらない意見を静観していたサリサは、意見を述べ始めた。


「安全な場所では威勢を張るが、危険な状況になると我が身の安全を優先し、勇敢な行動を誰も取ろうとしない。それが私達です。勇気や正義だけなら…拝火教の方が備わっているようです。」


 サリサは誰からの反論もないことを確認して続けた。


「自らが動かないのであれば、他者に委ねるしかないでしょう。もし反対者がいるのであれば…その者が潜入して奪還しなさい。誰かいますか?」


 先程まで喧々諤々(けんけんがくがく)だった議論が嘘のように静まり返る。合意という名の沈黙だった。


「ただし、誰に依頼するかは慎重に決めましょう。若くて意欲があり、お金を持ってなさそうな者が適任でしょう。」





 なの、よわみ、ハンサムの三名はサリサから報酬の前金を受け取った。それで人頭税を払い、外国人登録を済ませ、都市内に入場していた。


「わー、人いっぱいだ。」


 なのは視界に入って来た大通りの人だかりと街並みを見て、遊園地に一歩足を踏み入れた時のような期待に胸を膨らませていた。


「ねえあそこにある像みたいなのは何?」

 なのは建物の四隅にちょこんと置かれた像を指して言った。


「あれは商売の神の像ですぞ。」


「じゃあ正面の大きな像は?」


「この都市での主神アーナ、守護女神ですぞ。」


「じゃあ、あっちの像は何の神様ですか?ハンサムさん。」

 今度はよわみが十字路の脇に置かれた像を指して言った。


「あれは友と旅人の神ですな。」


「もしかしてあの猫の足跡みたいな模様も?」


「あれは福の神。軒先にあの模様があると福を招き寄せると言われておりますぞ。」


 まかろんチームとは異なり、なの達は観光気分でのんびりと街を楽しんでいた。この世界の住民であり半神でもあるハンサムが、ガイドと護衛をしてくれているのだから頼もしいことこの上ない。

 しかし今のハンサムの姿はそのギフト効果である甲冑を仕舞っている為、体格の良い強そうな人間のお兄さんにしか見えなかった。


「神様だらけなのね。」


「古代世界と言えば多神教の時代ですから、数え切れないほどいそうですね。」


「様々な神に守られ信奉しながら暮らすのがこの世界ですな。」


「僕は出会いと交際の神様を信奉したい。」


「何それキモい。出会い系なの?」


「いえいえ違います。シンプルに色々な人と仲良くできたらいいな、と。」


「フーン。」


「僕には無縁なものなので、憧れもありますし。」


「フーン、無縁。」


「そもそも僕の周りにはいい子がいなくて。」


「は?…フーン、いい子。」


「ほら、僕って清楚で透明感のある子が好きだから。そういう子って中々いないんですよねぇ。」


「はぁ?…フーン。」


「1人でもいいから欲しいですね、可愛い子の友達が。」


 なのは右手に拳を作ったが、間髪入れずによわみは続けた。


「暴力を振るわない可愛い子が。」


(ぐぬっ…。)

 

 よわみはなのを弄りつつも上手く牽制し、何も気付いていない素振りで、新しい話題を提供した。


「ところでなのちゃんは、どんなタイプが好みなの?」


「あたしは強くて可愛い金髪お姉さんが好み。」


「…へ、へえ…お姉さん?」


「あたしの周りにいい男がいないの。」


「ぐぬぬ…。」


「何よ?」


「いえ何でも…。そう言えば、半神のハンサムさんはどんな神様の血を引いてるのですか?」


「拙者の父は酒の神ということしか。人知れず神殿で生まれ、それからずっと転移者の守護をしてきた故、天涯孤独の独り身なのですぞ。」


「ずっと…一人で生きて来たの?」


「左様。」


「そっか、でもこれからは…あたしを守ってればいいよ。」


「かたじけない。お心遣いに感謝しかない。」


「……。」


 ハンサムの孤独な過去話で一気にしんみりした空気になり、無言になってしまった。


(まあ、そもそもチュートリアルAIですし…。)


——フッ。


 よわみは一息付くと一計を案じた。


(なのちゃんの身内への優しさに免じて、ここは私が"汚れ役"を買って出て、しんみりした会話を修復しますか。)

 よわみは意図を読み取られぬよう、下品な顔を作って言った。


「子供の守り神、ここに誕生というわけですか。ハンサムさん、なのちゃんの処女をしっかり守ってあげて下さい。」


「キモっ!」

 なのは間髪入れずに、よわみの腹部に強烈な一撃を加えた。


「女の子は暴…をふ!」





 その商店は、表通りの清潔な街並みに溶け込んでいた。石材同士の目地は隙間がなく、遠目に見れば垂直だが、近くで見れば一つ一つが滑らかに繋ぎ合わされていた。


「あたしたち、まだ駆け出しだからお金持ってない。だからタダで何かちょーだい。」

 なのは入店するなり不躾に店主に話しかけた。


「何を仰ってるんですか?」

 腰が悪いのか杖を突いた小太りの店主が、聞き返した。


「だから何かよこしなさいよ。」


「はあ?何言ってんだこのメスガキが!さっさとどっか行け!それともわからせてほしいのか?あぁ?」


「ハンサム、コイツの攻撃力いくつくらい?」


「この様子なら素手で7くらいですかな。健康的な成人男性なら10以上でしょうが。」


「ハンサム、やれ。」


「御意。」


 ハンサムは店主に襲い掛かり、服を剥ぎ取り始めた。


「あ、あぁ!んんふ!いや!やめ、やめて!あーん!」


 店主は身体をくねらせたり手で押しやったりして抵抗をしてみたが、強靭な力を持つハンサムになす術なくいいようにされていった。


 なのは無表情で腕組みしたまま言った。

「誰も得しないシーンだから早くしてよね。」


 ハンサムが店主を全裸にさせたところで、なのはすぐにギフトを発動した。


『ざこは隷属。』


 なのがそう言うと、店主のぽっこりとしたお腹の下腹部に淫紋が浮かび上がり、隷属化は成功した。


「服を着て。それよりなんか良いアイテムないかなー。」

 なのはだらし無い全裸の男から背を向けながら言った。


「このバッグとかどう?たくさん入るので便利そうですよ。」

 大きめで容量のあるバッグを取り出しながらよわみが言った。


「あたしはこの椅子が良い。デザイン良いじゃん!」

 なのは何に使うか分からないような小型の椅子を選んだ。


「え…椅子…ですか?」


「ほら見て?丁度良いの。」


 なのはそう言って椅子に座って笑顔を向けた。

 確かになのの体型にぴったりな小型の椅子だが、"今必要なアイテム"ではなかった。よわみにはサンダルで山登りに行くような、舐めた態度にしか見えなかった。


「ちょっとおっさん、何か飲み物ないのー?」


(なのちゃんに任せたら危ないから、旅に必要そうなものは僕が見繕っておきますか…。ピピ丸さんも気苦労してそうですね。)


「甘い物はー?グミ的でハリボー的なやつ。」

 なのは飲み物を受け取りながら追加オーダーした。


「は、はい?」


「一回言えば分かるよね?」


「お、お待ち下さい。グ、グミー?を探してみます。」


(何を探してるのか分かってるんですかね…。)

 よわみはそう思いつつも、成り行きを見守った。


「周りにすっぱい粉付いてるやつー。」


「へ、へへー!」


「柔らかいのはダメ。固いグミね。」


「は、はい、カタイグミーですね!?」


(店主…不憫だ。)


「ねえ分かってんの?」


「は、はいー!今探しております!」


「じゃあ、何色のグミあるの?」


「へ、えーとですね。確かいくつか揃えていたはずでして。」


「甘いやつ?それとも塩っぱいやつ?」


「え、えーえー確か、塩っぱいやつだったかと…。」


「はあ?塩っぱいグミとかふざけてんの?」


「あいや、甘い、あの、甘いやつだったかもしれません、はい。」


「あとさー、服とかないの?ショッピングしたい。」


「衣服は…ご、ごさいません。」


「じゃあどっかにないの?」


「この都市で一級品の衣服を扱っている店があります。ここから中心地へ向かってすぐでのところです。」


 なのは脚を組み直しながら言った。

「じゃあそこ行こ。それから感謝の証としてお金出して。」


「へ?」


「早く言う通りにして。バカなの?」


「は、はい!」


「なのちゃん、僕ら完全に小悪党ですけどいいんですか…?」


「無理矢理じゃないし。投げ銭みたいなもんでしょ?それよりそのバッグ丁度良さそうじゃん。おっさん、グミはもういいからバッグにお金詰め込んどいて。」


「…はい。」


「あくしろ。」


「はいぃぃぃ!」


 よわみは悟った。なのが椅子にドンと座り、そこへ店主がせっせと飲み物やお金を運ぶ。そして自分で選んだバッグを背負い、そのまま荷物持ちになる。人間関係や力関係はこうして決まるのか、と。


(やっぱり僕って脇役がお似合いな"弱者"でしかないのか…。)





 なの達は10分ほど歩いてすぐに目的地に着いた。


 数人の客が衣服を閲覧しており、中央奥には店主と思われる筋骨隆々の男が分かりやすく立っていた。


 体格の良い店主を見て、なのはハンサムに確認をした。

「ハンサム、いけるの?」


「無論。」


 ハンサムは店主に歩み寄ると店守は話しかけた。

「何かお探しか?」


 向き合って並んだ二人は、ほとんど変わらない背丈体格だった。本気でやり合えばなかなか決着が付かないのではないかと、なのを心配させた。

 ハンサムは左足を強く踏み込み、右足を後ろに振った後、前へ大きく蹴り上げる。その膝先が店主の股間に勢い良く直撃した。


「んあふっ…!」


 店主は目玉が飛び出るような痛みで悶絶し崩れ落ち、その場でプルプルと体を震わせた。


「うわぁ…。」

 よわみは見てるだけで自分まで痛くなりそうになり、咄嗟に目を背けた。


「ハンサムさんそれは酷い!卑怯過ぎる!騎士道は!?」


「勝てば官軍、これこそ金色に輝く正義ですぞ。んなっはは!」


 よわみにはお世辞にも笑える心境ではなかった。

「酷い…。かわいそ過ぎる…。」


 よわみのギフト効果で店主とよわみの筋力が0になった。


「よく分かんないんだけど、そんな痛いの?それともハンサムが単純に強いってこと?」


「なのちゃんには理解できない男の弱点…弁慶の泣き所なのですよ…。」


「あ、ぁぁ、くっ、ゃ、やっ!」


 そうこう言う間に、ハンサムは服を脱がしにかかり、店主は半分気絶したような状態で抵抗など出来ず、されるがままに衣服を脱がされ、あっという間に全裸になり……


『ざこは隷属。』


 店主の下腹部に淫紋が浮かんだ。

 半ば気絶している状態の店主に攻撃力はなく、なののギフト効果の発動条件を満たしていた。


「あたしたちに合う服出して。あとお金も。」


「……。」


「返事は?」


「……ぁぃ。」


「いつまで痛がってるの?返事は?」


「…んはい。」


 店主はぎこちない様子で衣服を取りにバックヤードに向かおうとしているが、まだ上手く動けずにいた。


「もう、自分で選ぶ。」



 なの達は亜麻色の下地に臙脂色のカーディガンで合わせた、アーナ人らしい服装に衣装チェンジした。なのはフリーサイズ系が好みの為、男性サイズの大きめの服を緩く着て、鈍く光る真鍮の首飾りを合わせていた。


 なのはその首飾りを、人差し指に絡ませながら言った。

「なーんかようやく始まったって感じ。あたしたちの冒険がさ!」


「動きやすい、悪くないですな。」


「まかろんちゃんの分の服も持っておきますね。」

 よわみはそう言うと、自身のバッグに一着仕舞い込んだ。


「ところで、北西エリアに赤鹿亭という美味しいお店があると聞いたんですが、場所は分かりますか?」

 なの達はそこでピピ丸達と合流する手筈になっていた。


「はい、赤鹿亭は評判の良い料理店です。行き方は…。」





 赤鹿亭は中央通りから2ブロック外れた位置にあり、広くはない庭園とアーチを潜り抜け、右手のカフェテラスを横目に入店する小洒落た店構えだった。

 味だけではなく、女店主が若くて美人ということでも評判の店だった。


「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ。」

 明るい声と笑顔で若い店員が接客してきた。


「女の子…?うーん…女の子、女の子かぁ。」


 なのは少しの間首を傾げて見せたが、すたすたと席へ向かって行った。どうやら普通に食事を取るようだった。


「わからせないパターン…ですか。」

 よわみとハンサムも後に続いて席に着いた。


「ご注文は何にしますか?」


「あたしはハニーウォーターで。」


「はい、そこのカッコいいお兄さんは?」

 店員はハンサムにも聞いた。なのは直感的に色目を使っているように見えた。


「は?」


「拙者は…うーむ、同じものを。」


「それじゃあ優しそうなあなたは?」

 店員はさり気なくよわみの肩に手を置いた。


「は?」


「私も同じものを。それにしても綺麗ですね。美人って言われませんか?」


「……。」


「そんなことないですよ、お兄さん。」

 そう言うと、店員はやたらとよわみにボディタッチして続けて言った。


「追加でパンとスープはいかがですか?今日入ってきたばかりの、柔らかくて美味しいお肉も入ってるんですよ。」

 店員はよわみの視界によく入るよう、胸を突き出しながら言った。


——プルンッ。


 よわみは柔らかそうに揺れる大きな胸に向かって返事をした。

「あ、じゃ、じゃあもらいましょうかね。そ、その…柔らかそうなお肉を。」


「……。」


「カッコいいお兄さんもいかがですか?」

 店員はハンサムの方へ向き直って聞いた。


——プルンッ。


「では頂くとしよう。拙者も柔らかい肉は好物だ。」


「……。」


「えと、そちらの妹さん?小っちゃいからスープだけでいいかしらねぇ。」


「あ?」


「ではご用意しますので、お待ちになってて下さい。」

 店員は足早に調理場への方へ移動していった。


「…なんかムカつくんだけど。」


「なのちゃんもあれくらいの愛想があれば、いや何でもないですよ。」


「看板娘ですな。」


「柔らかいお肉も楽しみですね。なのちゃんもあれくらいお肉が、いや何でもないですよ。」


 なのはよわみのネチネチした挑発を無視することにして、自分の思うことをそのまま吐露した。

「ねえ何であんな胸が出る服なの?半分くらい見えてたんだけど。」


「なのちゃんも色々と成長するようになったら分かりますよ。」


「…フーン。別にどうでもいいけど。」


「持てる者がただそこにいる…たったそれだけで、周りに幸福を運ぶこともある。」


「拙者はその詩的表現、嫌いじゃないですぞ。」


「そうは思いませんか?持たざる者よ。」

 よわみはなのの小振な胸を見ながら言った。


「さっきからマジでウザいんだけど。」

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