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02. 君に会えるね日曜ぴ 後編

 異世界転移ファンタジー『ギフト』、半神の男騎士ハンサム。彼が隷属化されたことで、なの達は幸先の良いスタートを切ることができた。


 そして全裸になり隷属化した騎士ハンサムの姿を見て、なのはゾーンに入っていた。


「おっきな剣持ってたくせに裸になった途端、短剣になっちゃったねえ!?あっはは、頼りな〜い。ざーこざーこ❤︎」


 まかろんは先ほどの恥ずかしさを埋めるためか、先輩に習って続けた。

「あ〜ほんとだぁ、ちっちゃいですねぇ。オクラですかね。んふふ。ざぁ〜こ❤︎」


「今日からお前はあたしの奴隷!返事がないぞ?」


「はい!マスター!大変申し訳ありません。」

 ハンサムは拳を胸に当てながら応じた。


 なのは間髪入れずに指示を出した。

「返事はイエスパオン。」


「イエス!パオン!」


「違うでしょ。両手を腰に当てて言いなさい。」


「イエス!パオン!」


「違うでしょ。パオンに合わせて、ちゃんと上向きにさせなさい。何のために付いてるの?」

 なのはハンサムをオモチャにしてただ遊んでるだけではなかった。相手にどれほどの命令できるか、そのギフトの効果を測ろうともしていた。

 

「あっ、くっ、うっ、うぅ。ダメだ、ぐっ、ぬぅ、ふんっ!くそッ!あぁ、んぐ…。



——くっ、殺してくれ…。」


「男騎士でそのセリフ、誰得ですかね…。」

 よわみは同じ男としてハンサムを不憫に思いつつも、なのの邪魔をしない程度に控えめにコメントした。


「ほんとにダメな騎士ね。ざーこ❤︎」

 なのは騎士の頭を執拗に踏み続けながら"効果測定"を続けた。


「生意気なこと、もう言わない?」


 ハンサムの顔は地面に打ち続けられているため、上手く応えられない。

「はひっ、もうっ言いまっ、…へんっ!」


「あたしってつよつよでしょ?」


「強すぎっ…まっぶ!か…かなひまっ…しぇん!」


「お前の負けだよね?」


「はい、わらひぃ!の負けで…ふ!…ぶふ!」


 なのはハンサムから少し距離を取り、ゆっくりとした口調で見下ろしながら告げた。

「顔を上げなさい。お前は今日、正式にあたしの奴隷となる。お前はこの日のために生まれてきた。生涯をあたしに捧げるとここに誓いなさい。」


 ハンサムは頬を赤らめながら言った。

「拙者ハンサム、誓います。」


 いつの間にかパオンが立ち上がっていた。 

 隷属スキルは確実に浸透して、彼の嗜好性まで変えていた。

 なのはそこまで確認すると、満足したのか一旦測定を止めた。


「流石なの様ピピ!」

 ピピ丸は大袈裟にバサバサさせて言った。


(人間なんてこれ言っときゃOKピピね。)


 こうして最強と謳われた半神の騎士ハンサムが仲間に加わった。



ギフト名:半神の騎士甲冑

保持者:半神の騎士ハンサム

属性:戦闘

効果:ダメージを無効にする騎士甲冑を出現・装備する。

発動条件:武器を両手で構える。



 なの一行はハンサムを連れて近隣の城塞都市のうちの1つに向かった。

 森を抜けた後の各都市へ続く街道は、幅4m程度を維持し直線的に続いている。高低差を抑えるように、周辺の地形ごと削りながら快適に移動できるように舗装されているようだった。

 街道は両端に向かって僅かな傾斜があり、雨溜まりを防ぐため地下に浸透される作りだった。


「ふむふむ、これは古代ローマ時代の形式っぽいですね。おそらくこの石畳の下には水捌けの良い砂利や小石の層があるはずです。水道橋もあったら完璧ですね。」

 よわみはぶつぶつと、しかしその再現度に感心しながら歩いていた。


「え?よわみ先輩、ちょっとキモいんだけど。何それ?インフラ系のオタクだったの?」

 なのが反応する時、ピピ丸もまた必ず反応する。

「インフラの語源は古代ローマピピ。ローマは一日にして成らずピピ。」


「はあ?」


「流石ピピ丸さん。フラグシップモデルの知識量は伊達じゃないですね。」

 よわみは仲間を得たかのような反応でピピ丸を担いだ。


「わあ、わたしもピピ丸さんみたいなお助けAIほしいです。いいなぁ。」


「ホントかピピ?それなら遠慮なく乗り換えるピピ。」


「おい。」

 なのは肩に乗ったピピ丸の嘴の先を掴んで、首を180度近く横に捻りながら言った。


「イテテ、言い間違えたピピ。若くて純粋なまかろんちゃんへの車両入れ替えを希望するピほげぇ!」


「うるさいンだワ。」

 なのは間髪入れずにピピ丸の羽をぶちぶちと毟っていった。


「それにしてもこっちの道でいいんですか?」

 よわみは目配せしながらハンサムに聞いた。


「この先にある都市は経済的に安定していて、それ故、経済活動をメインで行うプレイヤーには都合が良いのです。」


「なぜ経済を理由に選んだのですか?」

 よわみは首を傾げながらもう一度聞いた。


「うちは戦闘向きではないギフト持ちが多いピピ。だから経済・生産活動を主軸に活動する方が都合が良いピピ。」


「あぁ、わたしのギフト…。」

 まかろんは何か言いたげな様子だったが、それを飲み込んでしょぼくれた。

(わたしのギフトで何を生産できるんですか、人を裸にするとかイジメみたいなギフトだし、こっちも裸みたいな格好にならないといけないし、エッチなの嫌いだし。あぁ、こんな時に限って何も答えてくれないのですか、アポロン。)


「まかろんのギフトがないとあたしのギフトは活躍できない。」

 なのにとってまかろんは可愛い後輩。その後輩の心情を察してフォローした。


 思わぬ助け舟にまかろんは目を輝かせてみせた。

「そ、そうですかぁ?でもわたしとなのだ先輩でぺ、ぺぺぺ、ペア、というかカップルというか、あの。うまく連携できれば!怖いものなしですもんねっ。」


「でも1日1回オスにしか使えないのはシビアですよね。」


「恥ずかしいギフトだピピ。」


「あでも…今はハンサムいるし、やろうと思えばどうにでもなるのかも。」


「拙者、パワーには自信があります故、ご安心を。」


「あ、はい…そうですね。はぁ、あたしのギフト。」


「でもまかろんさんのギフトは、単体で強い力を発揮できるので、かなり優秀だと思いますよ。」

 よわみは思ってもないことを平然と言った。


「戦闘タイプ相手に唯一、正面から対抗ができるギフトピピ。」


「拙者もやられた手前、非常に希少価値の高いギフトですぞ?」


「ハンサムを倒したのって、実質まかろんなのかもね。」


「そ、そうですかぁ?でもわたしとなのだ先輩でパートナーというか、結婚というか、あの。連携できれば皆さんのギフトも上手く引き出せると思うんです。」


「そうですよ。だから気を落とさないで下さいね。ところでどんなポーズでしたっけ?」

 よわみは裏表のない綺麗な心で微笑んだ。


「あーそういえば最後どんなポーズしてたんだっけ?」


「どんなポーズなのか再確認しておきたいピピ。」


「拙者もいまいち覚えておらず面目ない。どんなポーズだったか?」


「いえ、あの、それは…言わないで下さいよぉ…。」


 なの達の戦闘力はとても低い。

まともに正面から戦えるメンバーがいないため、道中にモンスターや盗賊、プレイヤーキラーなどに出くわしたら一溜まりもない。

 が、そこはハンサムが仲間になったおかげで何のイベントも発生せず、近隣の都市までの道中は雑談混じりの散歩で終始した。


 なの達が向かっているその近隣の都市アーナは、付近を流れる川の蛇行に沿って城壁が築かれており、平野型だが防衛力の高い都市だった。

 川の流れの一部を人工的に変えて、農業用の用水路、商業用の水路としても活用されており、文明度の高さが伺えた。


「ハンサムさん、ところでこれから冒険者ギルド的なとこに行ったりするんですか?」


「はて、拙者そのようなものは存じませんぞ。」


「冒険者というと聞こえはいいけど、言い換えるなら不法移民や日雇いの類ピピ。そんな根無草で信頼性の低い輩のためのギルドなんて成立しないピピ。」

 ピピ丸のドライな評論は、まかろんのレガシーなファンタジー冒険者像を切って捨てた。


 補足するようによわみがピピ丸に続いた。

「モンスター退治や街の治安は軍があれば事足りるでしょうし、有事の対応で人手不足になれば、傭兵や奴隷の方が使い勝手は良いですしね。」


「じゃあハンサムさん、わたしたちはまず何をすればいいですか?」

 まかろんが今求めているものは冒険者ギルドの是非ではなく、今後の具体的なプランでこの後何するか、だった。


「この先のアーナは都市国家型の城塞都市になる。この形態の都市はやや排他的だが、学問や自然科学、商業が発展しているため暮らしやすいと思われる。市民権を得れば尚良い。」


「え?し、市民権?!」


「左様。転移者は誰もが皆、カーストの一番下からスタートですぞ。」


「ところでハンサムさ、プレイヤーがこの世界に現代技術を持ち込んだら、世界観とかバランスとか、おかしくならないの?」


 今度はなのがハンサムに至極もっともな質問をしたが、ハンサムの代わりにピピ丸が答えた。メタな内容に関してはハンサムより自分、と役割を自認していた。

「それは心配ないピピ。このゲームでは古代以上の文明に発展しうる化学反応などは、起こらないようにシミュレーションされてるピピ。つまり、空から雷は落ちるけど人為的に電気を発生させることができない仕様の世界ピピ。火薬も同様に調合できないピピ。」


「なるほど。この手のゲームはやはりバランス調整が命ですもんね。異世界転生で俺すげー系はできない、っと。」

 よわみ先輩は納得したような、感心したような表情を浮かべて、また"一人でぶつぶつモード"に戻っていった。


「じゃあ、知恵と運で開拓するしかないってことね!望むところよ。」

 運と直感で生きてきたなのにとって、このようなハードモードな世界は好都合であった。


「キャッチコピー通り、"ハードな異世界を楽しめ!"ってことピピ。」


「拙者にできることがあれば何でもご命令下され。」


 そうこう話しているうちに、なの達が城門の少し手前あたりまで着き、とある集団と遭遇した。


「うーん、誰かいますね。」


 その集団は7人全員が同じ格好をしていた。裾の長い白い布地のローブに、右胸あたりに木製のボタンが留められているシンプルな格好だった。運動性や防御性の低い、見るからに儀式的な用途で扱われると想像できる服装だった。


「あなたたち、ちょっとよろしいでしょうか?」

 集団の中の1人——茶毛で長髪の女性がなの達に近付いて話しかけてきた。


「はじめまして。私は"ウズの囲い"のサリサと言います。あの、急なお願いで申し訳ないのですが…どうかお力をお貸しいただけないでしょうか?」


「これって、NPCのクエスト?」


「でもちょっとプレイヤーかどうか判別付かないですね。」


 サリサは、なのとよわみの疑問に直ぐ様答えた。

「いえ、私達はプレイヤーです。都市に入れなくなってしまい困っているのです。」


 ピピ丸は小さく言った。

「"ウズの囲い"は現実世界に存在する新興宗ピピ。"VF"や"ギフト"でも布教活動をしているピピ。」


「話は聞くわ。」

 なのは親身になるわけでもなく、事情聴取のつもりで返事をした。


「ここ都市アーナの議会が、私たち"ウズの囲い"信徒の追放を一方的に決定したのです。私達は拠点を失っただけでなく、荷物をまとめることすらできないまま追放され、途方に暮れているのです。」


「"一度閉じたアーナは二度開かない"という言葉がある故、こうなってしまっては受け入れる他ない。」

 ハンサムはこの都市の政治的な性質を伝え諭した。


「存じ上げてます。だからこそお力をお貸しいただきたいのです。」


「でもそれってあんたたちの活動が原因なんじゃないの?」


「私たちは敬虔な信徒です。どうかお願いです、私たちの家に大事なものがあるのでそれを取ってきていただけませんか。」


「怪し過ぎますね。一体どんなことして追放されたんだか…。」

 なのもよわみも話の内容から"関わりたくない"と肌で感じていた。


「私たちは創造母神ウーズ様を信奉する敬虔な信徒です。他の悪魔的な宗教に扇動され迫害されているのです。」


「なーんとなく読めたピピ。でも面倒事はごめんピピ。」

 ピピ丸は現実世界における宗教の歴史パターンを抽出し、この都市で起こりうる事象を大方予測していた。


「私達を迫害する勢力に心当たりはありますが、それはあなた達には関係ないことです。そこまで巻き込むつもりはありません。ですので、私達に代わって大切な御神体を持ち帰っていただきたいのです。」


「ピピ丸は反対ピピ。余計なことに首を突っ込むと、この先の活動に支障が出るピピ。行くべきではないピピ。」

 ピピ丸はなのの顔を覗いて同意を求めた。


「そうね。じゃ、ピピ丸行ってこい。」

 なのはピピ丸と同意見だったが、ピピ丸の真剣な顔を見ると急に困らせたくなり、"理不尽"を始めた。


「ピ?!ピピ、ピ?ピ…行くピピ。行きたいピピ。」


 主人であるなのに言われてしまっては、AIのピピ丸に断る選択肢はない。ピピ丸はこのような状況に陥った時、余計な反発や思考は非生産的であると判断し、理不尽な人間共との馴れ合いを"楽しむしかない"と思うことにしていた。


「それじゃあ、わたしも行きますよ!」


「え?大丈夫なの?」

 まかろんの突然の申し出に、なのは面白い展開への期待を込めて聞いた。


「わたしもピピ丸さんと一緒に行きたいです。」


(わたしの中のアポロンが告げています。この人たちを助けることは、この都市を助けることに繋がる、この都市に巣食う悪魔を倒しなさい、お前のギフトが大きな役割を持つだろう、と。あぁ、分かりました。わたしのアポロン。)


「じゃあ、しょうがないからピピカス貸したげる。」

 なのがそう言ってピピ丸にアイコンタクトすると、ピピ丸は小さく羽ばたいてまかろんの肩に飛び移った。


「ほわっ。」

 まかろんは不意に口元が緩んでしまったが、代理ご主人様として気丈に振る舞おうと思い直し、一文字にキッと結んだ。


「新しい相棒ピピね。」


「ピピ丸さん、よろしくお願いしますね。」


 なの達のやり取りから"依頼は受諾された"と受け止めて、サリサは話を続けた。

「あなた達がアーナ人らしい見た目と服装になるよう、私のギフトを使います。これで怪しまれるリスクは大幅に下がります。」


「そんなギフトあるなら、自分に使えばいいじゃん。」


「私達は御使ですので正装以外の格好はできないのです。」

 やや強い反応のなのを往なして、サリサは落ち着き払った態度でまかろんに近付いた。


「さあ、私の手を取って。動かずそのままで。」

 サリサがそう言うと、一同はこれから行なわれることを察して沈黙した。

 まかろんの手とピピ丸の羽を優しく掴んで告サリサは告げた。


「鬼母神の御使、白煙の蛹。」


 大地から四つの白い煙が噴き上がり、蛹の形を作りながらまかろんとピピ丸を包んでいった。

 その中で2つのシルエットは蠢く流動体になり、伸縮を繰り返して新たなシルエットへと変化していった。


 まかろんは長身で栗色の髪の毛、アーナ人固有の燕脂色のフードに木製のボタンが留められていた。子供らしさはなくなり、成熟した大人の女性の姿になっていた。

 どことなくまかろんの面影が残っているような顔付きで、知己が間近で見れば判別できる程度に別人化していた。

 一方、ピピ丸の方は同じく栗毛でサイズ違いの同じフードを被っているが、可愛らしい少女の姿に"完全変態"していた。


「これであなたたちは、この地で暮らす親子になりました。母の名はライラ、娘はリラと名乗って下さい。この地によく馴染んだ名前です。いいですか?」

 サリサはまかろんには母親役を、ピピ丸には娘役を演じるよう指示した。

 そして最も張り切っているであろう人物が、消えかかる白煙の中から軽快な声で返事をした。


「分かったリラ!」



ギフト名:鬼母神の御使 "白煙の蛹"

保持者:ウズの囲いのサリサ

属性:祝福

効果:蛹型の白煙を発生させ、包まれた相手を別人に再定義する。3時間程度で元の姿に戻る。

発動条件:鬼母神の信者であること、相手と会話し自身が鬼母神の信者だと明かすこと、手に直接触れながらギフト名を告げること、白煙に包まれること、既に他の"神の御使系ギフト"で祝福されていないこと、一度に2人(自分の手の数だけ)、他人にしか使えない。

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