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前編

 死っていうのは唐突にやってくるものだ。

 そう、俺みたいにな。

 急に起こった事故……例えばそう、トラックが突っ込んできたりしてな。

 雨の日、信号待ちをしていた俺にスリップしたトラックが突っ込んできて……俺はあえなく命を落とした。

 ああ、転生するなら剣と魔法の世界がいいなぁ。

 チート能力貰ってウハウハか、あるいは王族に転生するとか……



「エイル、ただ今をもって、君との婚約を破棄する!」


 婚約者であるスルル家の令嬢、スルル・エイルに婚約破棄を言い渡した次の瞬間、俺は前世の記憶を取り戻した。


「そんな!レオン様、一体なぜ!?」


「あー、えー……うん。あー……なぜかと……言う…と……」


 いや、このタイミングで前世の記憶蘇ってもなぁ……

 俺が転生した先、それはこの国では第2王子として育てられたアラドヴァ・レオンだった。

 確かに俺願ったよ?

 剣と魔法の世界だし王族だ。

 転生のタイプとしては赤ん坊に転生して前世の記憶なし、途中で蘇るパターンだ。


「えーと……君が陰でモニカにそれは陰湿な嫌がらせをしていたと……いた……と!?」


 俺は自分にすり寄ってくる女を見る。

 うーん……いや、多分これってこいつの嘘だよな。

 エイルを陥れて自分が彼女の後釜に収まろうとしている。

 そんな感じだ。そんな顔だ。

 パッと見、気弱な純朴娘を装っているが多分違う。

 

 見れば見るほどこのモニカという女、悪そうな顔だ。

 間違いない。エイルは嵌められた。

 今のナシ!といきたいところだがちょっと待てよ?

 あー、このままだと色々マズイということに気づいてしまった。


「……ということなんだがまあ、何というか……」


 なぜ俺が……これってあれじゃねぇか。

 よくある婚約破棄だろ?

 この後、ざまぁ展開とかあるのだろうが、どう考えてもざまぁされるの俺じゃん!!

 もう定番の展開来るよ?

 実は破滅フラグ俺に立ってるよ!?


「ちょっと気分が悪いのでしばらく待ってくれ!!」


「えぇ!?」


 周囲がどよめく中、俺は逃げるようにパーティー会場を後にした。


□□


「やべぇ、こいつはマジでヤバすぎる!!」


 何がまずいかと言うと、だ。

 今回の婚約破棄騒動の1週間前に遡る。

 学園の中庭で俺は泣きはらしたモニカに会った。

 どうしたのかと問う俺にモニカはエイルから陰湿な嫌がらせを受けていると告白される。

 そこでバカな俺は憤りモニカの話を親身に聞き、やがて何やかんやあって……関係を持ってしまったのだ。

 そして今日の婚約破棄になるわけだが……


「控えめに言ってやべぇよ……何やってくれてんだよ俺ぇ」


 転生した俺には当然今までの十数年間、この異世界で生きて来た者としての記憶がある。

 それによるとこの世界は女神信仰が強く不貞は凄まじい重罪なのだ。

 芸能人が不倫で干されるとかそういう次元ではない。

 もう人としてマジでどうなの!?と石を投げられるレベル。

 それが王族ともなると投獄、下手すれば死刑だ。


「やっちゃったのがマズイよなぁ……」


 あのモニカという女は間違いなく性悪だ。

 前世の記憶が戻る前は全く気が付かなかったガキな俺が恨めしい。

 俺はモニカに弱みを掴まれている状態だ。


 正直言ってエイルとヨリを戻した方がどう考えても今後安泰だ。

 だがそんな事をすればモニカにより不貞をばらされ俺は詰む。

 かといってモニカと結婚しても間違いなく詰む。


 あれはそういう類の女だ。

 前世でああいう女に引っかかったことがあるのでよくわかる。

 間違いなく彼女は浪費家で破滅に導くタイプ『ファム・ファタル』だ。

 

 そもそもエイルとの婚姻は有力貴族であるスルル家に俺が婿入りする為のもの。

 第2王子の俺が生きていくにはそうやって有力な貴族と政略結婚をしてその家に入る必要があるのだ。


「ともかくエイルとの間をどうにかしないと……」


 迷った挙句、俺は兄のコネで護衛に入った猟団の団長を呼びだした。

 ドードーという強面かつ筋肉ムキムキの男だった。

 やべぇ、一度顔合わせしているが改めて見ると無茶苦茶怖い。


「殿下、どうかなさいましたか……」


「えーと……あの、恋愛ごとで相談があるんだけど……団長さん女心とかイケる方?」


「あー、俺どっちかって言うと男の方が専門なんでなぁ……」


 ダメか……ていうか不穏な言葉が聞こえた気がするぞ? 

 男が専門かぁ……え、この状況ってマジでヤバくない?

 思わず尻を押えちゃったよ?


「一応連れて来ている団員に女が一人いるんでちょっとそいつ呼びますわ。いいですか?」


 構わない、と許可を出す。

 そうか、女性ならいいアドバイスをくれるかもしれない。


「それなら……おーい『チェシア』上がってこい」


 団長は胸元のブローチに呼び掛ける。

 どうやら通信機のようなものらしい。

 間もなく、俺の部屋をノックするものが居た。

 勿論入室の許可を出す。


「それでは……うぇ?あれれ?開かないな、押すのかな引くのかな?」


 あ、そう言えばこの部屋建付けが悪くなって扉が開きにくいんだった。

 直させようと思っていたところだった。


「えーと、開けるにはコツがあって……」


「わかった!スライドするんだ!!!」


 ベキバキバキ……

 鈍い音を立て木の扉が真ん中から真横に引き裂かれる。


「うぇー……ドアノブ外れちゃった?仕方ないなぁ……えいっ!」


 どんっ!

 ボロボロになった扉が蹴りで開いた。

 開いたというかこれは『壊れた』だ。


「バカ野郎!どう見てもスライドドアじゃねぇだろ!ていうか木の扉をドアノブごと横に引き裂くとかどんな馬鹿力だよ!!」


「うえいいっ……これでもキョウダイの中では真ん中の方だよ?」


 えっ、もっとヤバいキョウダイいるの?

 申し訳なさそうに頬を掻きながら栗毛色の髪を三つ編みにした女性が入ってきた。

 肩には笑うネコをアレンジしたような紋章が刻まれた当て物をしていた。


「……殿下、扉の事は申し訳ありません。この馬鹿力がチェシアです」


「チェシアです。馬鹿力ってひどいなぁ……それで団長ボクに用っていうのは?」


 どうやら彼女はボクっ娘らしい。

 俺よりも少し年上な様だがボクっ娘とはポイントが高い……じゃなくて


「えーとな、殿下が女性に関する問題で相談したいことがあるそうでな。ほら、でお前……女じゃん」


「えー……確かにボクは女だけどさ、そっち方面で役に立つかなぁ……」


 そんな事言わず協力してくれよ。


「あー、お前ん家って基本脳筋だからなぁ」


「団長、今さらっとウチの家をディスったよね?」


 ジト目で団長を睨むチェシア。


「ボクだって乙女の端くれ。恋愛経験のひとつやふたつ……えーと今思い出すからさ、ちょっと待っててね」


「無理するな。お前がガキの頃から知ってんだ。お前に男が居たことなんか皆無だ!」


「うえぇぇ……」


「す、済まないが本当に困っているんだ。実はこれまで婚約していたエイルに婚約破棄を言い渡したのだがあれは……その……モニカに騙されていてその……」


 ああ、歯切れが悪い。

 だってさ、モニカと致しちゃったなんて今やこの世界の価値観を理解する俺としては顔から火が出るくらい恥ずかしいわけよ。


「じゃあエイル様とヨリ戻したらどうですかい?」


「それが出来たら苦労はしない。モニカにはその……弱みを握られていて……このままじゃ俺は破滅なんだ。あいつさえいなければ……」


 チェシアはしばらく考えていたがゆっくりと口を開く。


「……どんな弱みかは知らないけど、レオン様って何かヤな人だなぁって」


「え?」


「だってさ、いきなりわけも分からず婚約破棄を言い渡されたエイル様はどんな気持ちだったろうね。それ、考えてなかったでしょ?」


「うっ……」


「弱みって事は殿下のせいだよね?自分のせいでこうなったのにやれモニカが悪い、エイルとヨリを戻すとか、勝手じゃないかな?それって人の上に立つ王族としては勿論、人としてどうなのかなって……」


 その言葉に俺は雷で撃たれたような衝撃を受けた。

 そうだ、俺は自分の事ばかり考えていた。

 民の上に立つ王族として転生したというのにこれでは……


「チェシア、それくらいにしておけ。言葉が過ぎるぞ」


 窘められチェシアが肩を落とす。


「すいません。つい無礼な事を言ってしまいました……」


「いや、いいんだ。君の言っていることは確かに合っている……そうだな、俺は人としていけないことをしていた。決心がついたよ」


「どうする気で?」


「恥ずかしい話だが俺はモニカと不貞を働いてしまった。その上で彼女はエイルを陥れる為、嫌がらせをでっち上げたのだ。わかっている。許されない事だ。その事を告白し、エイルの汚名をそそいだ上で自分は彼女に相応しくないと宣言しよう。それが過ちを犯した俺が彼女に出来るせめてもの償いだ」


 間違いを犯したのは紛れもなく俺だ。

 前世の記憶が甦っていきなりこれとはハードモードだ。

 だが、仕方ない……


 立ち上がり、会場に戻る。


後編は本日、20時ごろ更新予定です。

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[気になる点] 「えーと……君が陰でモニカにそれは陰湿な嫌がらせをしていたと……いたと……」 していたと、いたと、二回言ってます↑  実は破滅フラグ俺に立ってるよ!? 「ちょっと気分が悪いのでしば…
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