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カプリコン10

作者: きる
掲載日:2021/08/25

「ついに人類が火星に行くことになった。私たちは人類の負託に応えるためにこのミッションを完遂しなければならない」


船長は6人の仲間に向かっておごそかに宣言した。


「諸君、出発のときだ」


宇宙船に乗り込みカウントダウンのチェックリストを始める。整備士が感極まった表情で”がんばって”と言って最後にハッチを閉めた。


世界中に生中継される打ち上げ。画面がアップになるとロケットの表面には世界中の会社の広告が書かれていた。天文学的費用をいくら国際協力で進めると言っても限界がある。

そこで今回のミッションには世界中からタイアップ企業を募り費用を集める必要があったのだ。


「いよいよ火星に向けて初めての人類が旅立ちます!」


感極まったアナウンサーの声がテレビに流れる。当然こういった放送権も売りに出されている。


ロケットが発射された。飛行機雲を引きながらぐんぐん上昇するロケットを、地上から次々と望遠レンズを切り替えて追っていく。上空に待機した飛行機から更に上昇していくロケットを追ってカメラが切り替わる。

そして、地球から離脱し宇宙空間で安定飛行するロケットを外から写す。


「なんで宇宙を飛んでるロケットを外から写してるんだよwww」


ネットにはそういう突っ込みが溢れたが、これは放送権を買ったテレビ局がクルーを宇宙に待機させていたからなので何の不思議もない。テレビ局は全行程をドキュメントとして放送できるように伴走するロケットを用意しているのである。

莫大な独占放送権を払ったのだ、単なる生中継だけでは元が取れない。生中継に密着ドキュメント、最後には映画化してDVDを売るまでしゃぶりつくさないとならない。


「これ絶対地上のスタジオで撮ってるだろwww」


そういう疑惑が起きるほど、見事に客観的な画像が次々に地球に送られてきた。


往復に約2年もかかるミッションである。途中で何度か補給を受けるので心配はないが、非常に長い時間の航行中は宇宙空間でのミッションもたくさんある。直接火星に関係のない調査研究をたくさん請け負うことで費用の一部にしているのだ。


「モルモットにエサをあげなきゃ」


クルーは実験そのものだけでなく、実験に使う動物の世話もしなくてはならない。


無重力区画でコカコーラを飲むクルーが居た。


「やっぱり宇宙でもコカコーラはおいしい」


カメラに向かってサムアップする。これもミッションである。この画像は地球に送られCMに使われるのだ。


「ペプシコーラのおかげで辛いミッションにも耐えられる」


別のクルーがカメラに向かってにっこりと笑う。こんな調子でたくさんのCM用動画を撮ることもミッションに含まれている。


宇宙船に伴走するカメラクルーも次々と印象的な画像を送っていた。光り輝く星の大海原をゆっくりと進んでゆく宇宙船を遠景からとらえたり、宇宙船に接近して画面の左から右へ通過してゆく大迫力の映像や、赤く光り輝く火星へ向けて画面の下からせり上がってくる宇宙船の画像など、まるでSF映画のCGのような美しい画像の数々。


「ちょwwwこれCGだろww」


そういった画像が送られてくるたびに地上では疑惑説が持ち上がるが、世界中の天文学者や通信の専門家は間違いなく宇宙から送られていることを説明していた。


いよいよ火星に到達し、火星を回る軌道に入った。母船から着陸船が切り離されて降下してゆく。母船からの画像が切り替わり上空から降りて来る着陸船の画像になる。


「おい誰が地上から写してるんだよwww」


ネットではそういう突っ込みがあるが、当然先に降りたカメラクルーが写している。人類初の火星着陸だ、印象的な画像は当然抑えておきたい。


カメラが狙ったところぴったりに着陸船が降りる。しばらくしてはしごが下ろされ船長が降りてくる。テレビクルーが近寄り、船長が火星に降り立った瞬間マイクを突きつけて感想を貰う。


「人類の英知と協力のもと、ついに火星に足跡を印すことができた」


船長はマイクに向かってそうおごそかに言った。もちろん宇宙服ごしなのでマイクの意味はないが、マイクに書かれた放送局のロゴを見せるためと、やはり取材してる雰囲気作りのためなのだろう。


「火星に人類最初に降り立ったのはカメラクルーではないのか」


さすがにこの疑問は当局に投げかけられた。


「本ミッションを撮影するという目的であるので彼らは黒子である。公式には船長が人類最初の火星到達者になる」

「当社のクルーが最初であるのは事実だが、栄誉は船長たちにある」


テレビ局は栄誉を放棄した。当然だろう、船長に栄誉を与えないと”人類初の火星着陸”という画像の意味がなくなり価値が下がるわけだから。


数日間にわたり、船長と降下クルーは忙しくミッションをこなす。剣先スコップでざっくりと穴を掘ると砂の下から大量の氷が出てくる。そんなシーンをカメラクルーたちが撮影して回る。

着陸船に戻りつかの間の自由時間、地平線に暮れてゆく太陽がきれいな青い夕日を見せてゆく中、船長が持ち込んだアコースティックギターで”峠の我が家”を弾きながらしんみりとする。さすがにそろそろ地球が恋しくなってくる。そんな画像も地球に送られる。


やがて帰る日が来る。いろいろな調査のほかに、次にやってくるものたちのための準備もする。次は基地建設だ。それまでに酸素や燃料などを火星の水から作りだす装置を設置しタンクに貯まるようにする。

事前に無人で送りこんでいた着陸船で、軌道へと戻る。当然その姿は地上から写される。火星を離れて地球に向かう宇宙船。火星をバックに宇宙船がだんだん大きくなっていく画像は印象的だった。


帰りは何隻もの補給船とランデブーできるので搭載量に余裕が出てくる。帰りがCMミッションの本番だ。

最初の補給船とドッキングすると船長はまっさきに冷凍庫を開けた。中からウーバーイーツの大きなバックが出てくる。


「宇宙で出前を取れるのは、ウーバーイーツのおかげだ」


バックを開けると大量の冷凍ピザが出てくる。


「クルー諸君、これは俺のおごりだ。ピザパーティを始めよう」


船長はカメラに向かってにっこりと笑う。ミッション番号5250番、終了。

補給船から補給物資を母船に移すと、たまっていた廃棄物を補給船に移して切り離す。補給船はそのあと火星を目指し、スイングバイで地球に向かい大気圏に突入させて焼却される。


地球に近づくにつれて搭載量はどんどん余裕が出てくる。CMミッションはどんどん加速していく。


「今日は大量の水が補給できたので、久々のハリウッドシャワーができます」


クルーはじゃばじゃばとシャワーを浴びる。


「くぅ-!気持ちいいな。宇宙でこんな贅沢できるとは思ってもいなかった。ビオレのボディシャンプーで宇宙の垢を落とします!」


ミッション番号7420番、終了


やがて地球への降下だ。母船から切り離された大気圏突入カプセルは、大気との摩擦で光輝く。摩擦熱がなくなると減速用パラシュートが開き太平洋上に無事着水する。

空母から飛び立ったヘリが乗員を回収する。甲板に降り立ったクルーたちは空母の乗員たちに抱きかかえられながら記者会見の椅子に座る。


「おかえりなさい。火星はどうでしたか?」

「素晴らしいフロンティアでした。今後のミッションが楽しみです」

「大気圏突入はすごい衝撃でしたでしょう?」

「ええ、とてつもないGを感じますが、この西川の羽毛まくらで体を支えていたので助かりました」


ミッション番号9999番、ラストミッション終了


地上に帰ってから、ネットでは「スタジオでの撮影疑惑」が指摘されていた。当局はいろいろな証拠を出して否定していたが、一番の証拠は費用だとした。


「もしこれがCGやスタジオ撮影だったとしたら、もっと費用は抑えられる。ねつ造したほうが安くすむがそんなことをしても意味がない」


人類初の火星到達、もし1国でやったとしたらねつ造する意味はあるが、今回は国際協力である。ねつ造する意味は確かにない。

だが、みんなグルになっているとも言えなくはない。


信じる信じないはあたな次第です。

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