魔法使いになりたい猫
ある町の古い古い薬屋に一人の老婆と一匹の黒猫が住んでいました。
老婆の名はグラミーに黒猫の名はプルー。
グラミーは町に住む皆んなに分け隔てなく親切に接し売る薬も一粒飲めばたちどころに治ってしまう事もあり沢山の人に好かれていました。
黒猫のプルーは自由気ままでいつも好き勝手で悪戯をして遊んで泥だらけになった足で店の中を歩き回りいつもグラミーに怒られて町の皆んなからはよく笑われていました。
その事もありこの町でグラミーとプルーを知らない人は誰もいません。
しかし町の人達は知りませんでした。実はグラミーはただの優しい老婆ではなく魔法使いである事に。
グラミーはその手に持つ銀色の猫じゃらしを軽く振るだけで酷い雨を止ませる事も雑草だらけの庭を全て美しい花々に変える事も何でも出来ました。
そう。グラミーの飲めばたちどころに元気なる薬は飲んだ人が元気になる魔法をかけた魔法の薬だったのです。
この事を知るのは一緒に住む黒猫のプルーだけ。
そしてプルーはそんなグラミーの事が大好きでいつか自分もグラミーの様な魔法使いになりたいといつも願っていました。
そんなある時です。皆んなが家やお店でお昼ご飯を食べる時間、プルーは一人店の外に出かけて原っぱに生えた猫じゃらしを一本取るのに必死になってグラミーの待つ店に帰る事を忘れていました。
「ニャー」
うー、全然猫じゃらしが取れないよ。
プルーはその手の爪で引っ掻いたり噛んだりしますが中々取れません。
そして時間はどんどんと過ぎてやっと猫じゃらしをとる事ができました。
「ニャー!」
やったー!猫じゃらしが取れたぞ!
プルーは嬉しくて猫じゃらしを咥えて一人飛び跳ねていました。しかしプルーは太陽が沈みかけている事に気づき猫じゃらしを咥えたまま急いでグラミーの薬屋に帰りました。
「ニャー!」
ただいまグラミーさん!
そして帰ってきたプルーは店の扉を前足を器用に使って開けるとそう言いましだが、いつも「おかえり」と言ってくれるグラミーの声も姿もありませんでした。
おかしいとプルーは思うと駆け足で店の奥に向かうとそこにはグラミーが倒れていました。
「ニャー!」
グラミーさんどうしたの!返事をして!
必死に呼びかけますがグラミーは一向に反応しません。それでプルーは怖くなり誰か人を呼ぶために店の外に大慌てで飛び出しました。
プルーは近くの家の扉を引っ掻いたり窓を叩いたりして何とかグラミーが大変だと伝えようとしますがプルーを見た人達は皆んな口々に言いました。
「はは、プルーまたグラミーさんに隠れて悪戯してるんだな。あんまりグラミーさんに心配かけちゃダメだぞ」
「もう、プルー今日はもう遅いから遊んでほしいのならまた明日ね」
「ほらほら魚だぞ。食べるかプルー?」
誰もグラミーが大変だとわかってくれる人はいませんでした。
プルーは道の真ん中で、どうしようどうしようと今にも泣き出しそうに慌ててもしもグラミーさんに何かあったらどうしようとそれだけ考えていました。
そんな時です。プルーはある事を思い出しました。
それは以前グラミーから聞いた何でも願い事を一つ叶えてくれる妖精の湖があるという話でした。
妖精の湖のある場所は隣町を超えたお化けの森の奥にあるとプルーは思い出すと一目散にそのお化けの森に向かって走り出します。
もう太陽は沈み空は暗く星がきらきらと光る夜道をプルーは必死に走りました。例えどんなに走るのが辛くなっても足の裏が痛くなっても走り続けました。
そしてプルーは隣町に辿り着くと周りは人の声がいっぱいで皆んな楽しそうでした。
駆け足で町の中を見て気づきましたがどうやら今この町はお祭りをしていたようでした。
だから町からは声だけではなく美味しそうな食べ物の匂いが周りから沢山してきてプルーのお腹はグゥグゥ鳴り出します。
プルー今日、お昼から何も食べていません。段々とお腹の音は大きなり食べ物がほしく仕方なくなり匂いのする方にプルプル震える足が進みそうになります。
しかし、その時プルーの頭の中に倒れたグラミーの姿が浮かびました。
「ニャー!」
だめだ!ご飯なんかより先にお化けの森に行かないと!
プルーは顔を左右に振って必死にご飯を我慢してまた走り出しました。もうご飯が気になって止まらないように真っ直ぐ町の中を走っていきます。
やがて大勢の人の姿や声、そして食べ物の美味しそうな匂いもなくなりプルーは隣町から出る事が出来ました。
そして目の前には風でギシギシと音を立てながら揺れ霧がかかった化けの森が見えてきした。あと少しだけ頑張って走れば辿り着ける。
しかしプルーは道中その場で倒れてしまいます。
足は痛くてお腹は減りもう一歩も動けそうになくなります。
疲れきったプルーはお化けの森を目前にして道端で倒れて目が閉じそうになります。
ですがその時プルーの耳にグラミーの声が聞こえたような気がしました。
気のせいだったかもしれない。しかしプルーには聞こえたのです。「プルー頑張れ」と言う声が。
目を閉じかけたプルーはもう一度目を開けて震える足でどうにか立ち上がり、ふらふらと体が揺れながらもお化けの森に向かって歩き出します。
「・・・・・・ニャー」
僕が、頑張らないとグラミーさんのために僕が。
そして大好きなグラミーのためにプルーは霧が広がっているお化けの森に足を踏み入れました。目的の場所はこの森の奥にある妖精の湖。
ふらふらになったプルーの進む先は霧が濃すぎて何も見えません。もしかしたら今自分は右に進んでいるかもしれない。いや左かもしれない。
そう思ってしまいそうな霧の中をプルーはふらつきながらも自分が進んでいるのは真っ直ぐだと信じて進みます。この先に妖精の湖が願いを叶えてくれる場所があると心から信じて。
そしてそんなプルーの進む先はいつの間にか霧が晴れ目の前には小さな湖がありました。
プルーはその湖にふらつきながらも頑張って速く歩きます。そして近づくと湖から蛍の様に光る何かが出てきました。
そしてその蛍は何とプルーに話しかけました。
「よく来ましたここは妖精の湖、そして私はこの湖の妖精、何でも一つあなたの願いを叶えてあげましょう」
その声を聞き疲れきったプルーは言います。
「ニャー」
どうかグラミーさんを助けてください。
プルーのその願いを聞いた妖精は不思議そうに言いました。
「本当にそれでいいのですか?願えばあなたのなりたい魔法使いになる事も出来ますよ?」
願えば今すぐになりたかった魔法使いになる事が出来ると言われるがプルーの願いは変わらない。
「ニャー!」
願いは変わりません!グラミーさんを助けてください!
そう言うと妖精は優しい声でプルーに言います。
「いいでしょう。その願いを叶えてあげましょう」
そして妖精がまるで太陽のように眩しく光りだすとプルーはもう立っている事も辛くなりバタリと倒れてしまいました。
心の中でグラミーさんを助けてほしいという願いを聞いてもらえてよかったとだけ思いながら。
それからどれだけ時間が経ったのでしょう。へとへとになったプルーの体を温かい何かが包みました。
その事に気づいたプルーはゆっくりと目を開けます。そして目に映ったのは見覚えのある薬屋に自分を抱っこするグラミーの姿でした。
「ニャー!」
グラミーさん!もう大丈夫なの!
プルーは慌ててグラミーにそう言うとグラミーは笑いながら言いました。
「ふふ、私は元々大丈夫よ」
「ニャー?」
え?どう言う事?
困ったプルーにグラミーは優しくプルーを撫でながら言いました。
「これはね貴方が魔法使いになれるかどうかの試練だったの」
「ニャー?」
試練?
「そう、妖精の湖は魔法使いになりたい人を試す試練なの。もし湖の妖精に自分を魔法使いにしてほしいと願えばその人は魔法使いにはなれない。けどそれ以外の大事な願いを言えばその人は魔法使いになれる」
「ニャー?」
じゃあ僕は?
「おめでとうプルー。今日からお前は魔法使いだよ」
グラミーは優しく笑いながらプルーが取ってきた猫じゃらしを出すとそれを輪っかにしプルーの首にかけました。
すると猫じゃらしの輪っかは銀色に変わりました。
猫じゃらしが銀色に変わるのは魔法使いになった証明。ここに一人、いえ一匹の魔法使いが誕生しました。
最初はそれがよく分からなかったプルーですが段々と夢が叶った事に嬉しくなり薬屋からプルーの嬉しそうな泣き声が町中に響き、魔法を使って満天の星空を駆けるのでした。