06.シリウスだけ前途多難な結婚生活について
婚約が決まってからの三ヶ月間は楽しく過ごせていたと思う。
少なからずともミリーには好感は抱いてもらえていたと思っていた。
俺自身もミリーとお茶しながら話すのとても楽しかった。
彼女と過ごす時間は、とても居心地がよく心穏やかになれる時間だった。
これまで出会ってきた女性達と違いミリーはなにもねだらず、見返りを求めたりしなかった。
だから…思いのほかショックだった。
ショックだと感じている自分にもかなり驚いた。
そんなに…気になっていたのか?まだ出会って三ヶ月だぞ?
ただどこかで期待していた部分はあった。
彼女を抱くことはできなくとも共に寄り添って眠りにつけるのではないか…と。
「あら?言ってませんでしたっけ?シリに頼んでこの部屋に別空間を作ってもらったんです」
彼女の一言でその淡い期待もあっけなく砕け散った。
いつものように、きっぱりとはっきりとにこやかに…。
彼女は最初から一緒に眠るつもりはなかったのだ。
それも…そうか。俺たちは元々は契約結婚だ。
しかも彼女の条件には子供は作らないとあった。
そういう間違いが起こらないように予め予防線を張っていたのか…。
「はぁ…俺は馬鹿か…」
俺はぐったりとベットの上になだれ込んだ。
部屋を別にすることは当然で当たり前だ。彼女は悪くない。
俺が勝手に期待して…勝手に落ち込んでるだけだ…。
はぁ…。自分で言ってて情けなくなってきた…。
期待するぐらいに俺は彼女に惹かれていたということだ…。認めよう。
認めたら少し…気持ちが楽になった。
「…ハハハ!」
そうか…。俺は彼女が好きなのか。そう考えてておかしくなってきた。
こんな気持は初めてだ。でも悪くない…不思議な心地だった。
少なくとも彼女には嫌われていないし、結婚しているから他の男に取られる心配もない。
今から好いてもらうには十分可能性はある。
これからじっくり時間をかけて彼女に俺を知ってもらったらいい。
俺はそう心の決めて眠りについた。
「あ…おはようございます!シリウス」
「ああ…おはよう。ミリー」
まだ意識がぼんやりとする中で、眩しい彼女の笑顔が飛び込んできた。
ああ…。結婚したらこんないい朝を迎えることができるのか…。
そんなことを考えながら俺はゆったりと上体を起こした。
「昨日は良く眠れたか?」
「はいもう…ぐっすりと。シリウスは眠れましたか?」
「ああ。俺も眠れたよ…ちょっと待ててくれ今着替えてくるよ」
「ええ。慌てませんわ」
そう言って俺は隣の部屋に行き寝間着から部屋着に着替えた。
今日はなにをして過ごそうか…?
結婚式から1周間は休みをもらっている。
新婚旅行へ行くものもいれば、自宅でゆっくり過ごすものいる。
彼女に確認しないとな…。
「またせたな…」
「いいえ…ちっとも。さぁ朝食を食べに行きましょう」
「ああ」
俺は手を差し出してダイニングへエスコートした。
「まぁ!朝食もおしそうですね♪」
「そうだな…」
『我も食すぞ』
『わたしも食べるわ』
給仕をするするメイド達が魔法を使い料理を次々と運んでくれる。
テーブルに付いた時点で、ペンドラゴンとシリが一緒の席についてきた。
本当は彼女と二人きりがいいが…。まぁ仕方ない。
今はこのままで我慢しよう。
『おはようございます。ペンドラゴン様』
『うむ。おはようミリー。よく眠れたか?』
『はい!とっても♪』
『そうかそうか…。ククク』
『ペンドラゴン様?』
『いや何でもない気にするな!さぁ食するとしよう』
ペンドラゴンがニヤニヤと腹の立つ顔でこちらを見てきた。
あいつは昨日の出来事を知っている。おれががっくりしていたことも…全部。
憎らしいことにあいつはこの状況を楽しんでいる。
『ミリー。今日はなにをする予定だ?』
『特に決めてなんですけど…、久しぶりに王都に来たので遊びに行きたいなと思ってます』
『そうか…ならば俺も一緒に行こう』
『はい。ぜひ!新婚さんですもの。一緒にいて仲のいいところを知ってもらいましょ』
『ああ…そうだな』
契約結婚するにあたって、ミリーから提案を受けていることがある。
それは夫婦仲が良好だと言うことを世間に認知させるということだった。
これはあくまで俺の女よけ対策の一環なのだが、新婚なのに不仲説が流れると
それに付け込もうとする輩がいるため、最初の三ヶ月くらいは極力一緒にいよう。
というものだった。
そうだ…今の状況は俺にとっては願ったり叶ったりだ!
この期間にミリーと親密になり、1年後の契約更新時には俺の条件は変更してもらおう。
もしくは契約結婚自体を解除してもらって本当の夫婦になれるようにしよう…。
このどちらかの選択ができるように持っていくこと。
これが直近での俺の目標だった。
「それでは行こうかミリー」
「はい!あなた」
「…っ!!」
俺は恥ずかしさのあまりまた顔をそらしてしまった。
すごいな…「あなた」の破壊力は…。
なんだかミリーが自分のものだけになったような気がしてソワソワする。
「大丈夫ですか?シリウス…」
心配そうにミリーに顔を覗き込まれてしまった。
行けない。正気を保たなくては…。
「問題ない。行こう」
俺は彼女を馬車までエスコートした。
都心部までは馬車で15分ほど走らせたところに大きな市場や
ショッピングができる整備された街が広がっている。
ルビアンと王国は殆どが精霊使いの魔法で運用されている。
馬車の運転はもちろん、郵便物の配達、道路の整備など
生活に必要なものありとあらゆるものすべてが精霊使いの魔法で賄われている。
俺たち魔獣使いは生活に必要な魔法はほとんど使えない。
彼らの働きがあって暮らせていて恩恵を受けている。
「わぁー!久しぶりに来ましたけど、綺麗な町並みですね」
「ああ…そうだな」
俺の隣で楽しそうに窓の外を見ているミリー。
ふわふわした綺麗な金色の髪が、彼女が話すたびにゆれる。
一瞬触れてみたいという、衝動に駆られたが自制する。
まだ…そこまでの関係性ではないだろう…。
「さっ…着いたぞ。どこから回ろうか?」
「そうですね…。食べ物を持ち運びできるようなバスケットがほしいです」
「よし。それを見つけに行こう」
「はい!」
馬車から降りて、二人で街を散策しながらミリーの求めている品を探した。
特に行き先は決まってない。
目に止まった店に入っては物色し、気に入ったものがなければ次の店に行く。
これをずっと繰り返していた。
ミリーはとても楽しそうにしていた。興味が惹かれるものは積極的に店員へ質問し
それをすかさずメモしていた。相変わらず彼女は、小説のことになると熱心だ。
「そういえば…。なぜバスケットが欲しいんだ?」
「来週から、シリウス様が職場へ復帰するでしょう?お弁当の差し入れを持って行こうと思いまして」
「え…」
「あ…職場への差し入れは駄目でしたか?」
「い…いやそうではない」
「シリウス?」
キョトンとした顔をされてしまった。
無理もない。彼女が弁当を差し入れてくれると言われただけで
心が浮き立っているのだから…。今は言えないが…。
「差し入れは…問題ない」
「良かったですわ♪妻からのお弁当だなんて新婚さんって感じしません?」
「ああ…そうだな」
「何か食べたいものはありますか?」
「君に任せる」
「わかりました!」
いけない…。うっかり勘違いしそうになった。
そうだ差し入れはあくまでアピールのためだ…。
俺のためではあるが…。契約結婚の条件のためだ…。
そう思うと胸のあたりに痛みを感じずっしりと重く感じた。
こんな感覚は今まで味わったことがなかった。
「あ…!あのお店に入ってもいいですか?」
「ああ」
そう言って彼女は俺の手を引いて目の前にあった雑貨店に入っていった。
温かい…。彼女の手は柔らかく小さい。俺はぎゅっと手を握り返した。
さっきまで感じていた胸の不快感は不思議と消えていた。
ミリーは本当に…不思議な女性だ。
「これなら、沢山入りそうじゃないですか?」
「そうだな…」
「うーん。形はこっちのほうが使いやすそうですよね…」
「両方買えばいい」
「駄目ですよ。もったいない」
「構わない、金額はきにするな」
「それなら、こっちにして残りのお金は二人でお茶にしましょう♪」
「わかった…」
俺は彼女の手にしていたバスケットを手にした。
四角い頑丈そうな蓋と持ち手がついたバスケットを持って支払いに向かった。
やっぱりミリーは欲が殆どない。
普通なら欲しいものは何でも欲しがるのが女性じゃないのか?
特に貴族の女性は遠慮というものがない。
当たり前だ。彼女たちはありとあらゆるものを与えられながら育っているのだ。
欲しいものは何でも手に入ると考えても不思議ではない。
でもミリーはそんなことをせずに、余ったお金でお茶をしようという…。
謙虚なところが健気で可愛い。
もっとなにかしてやりたくなる。彼女が喜ぶなら何だってできそうな気がした…。
「ありがとうございます!シリウス」
「ああ。良いものがあってよかったな…」
「はい!」
支払いをしませて俺とミリーはまた手をつないで喫茶店へ向かった。
買ったバスケットはミリーが空間魔法で預けてしまった。
本当に魔法とは便利なものだ。
通りから少し離れた場所にあるこじんまりとした小さな喫茶店だった。
ミリーはこの店が好きで時々訪れているのだそうだ。
「ここのシフォンケーキは絶品ですよ」
「じゃあそれを2つ頼もう」
「ありがとうございます」
彼女の勧めてくれたシフォンケーキと紅茶のセットを注文した。
入っている客は少なく、オレンジ色の照明に照らされた店内は居心地が良かった。
「この店はどうやって知ったんだ?」
「実家のメイドに聞きました」
「そうか…」
「シリウスは来たことがありますか?」
「ないな…」
「男性はあまり来ないですよね…」
ミリーが少し悲しそうな顔をした。
しまった!俺が来るのを嫌がっているとでも思っているのだろうか…。
俺は慌てて訂正した。
「普段は来ないから…その…新鮮だ」
「ほんとうですか?」
「ああ。嫌じゃない」
「よかった~。誘っておいてあれなんですけど…急に不安になって…」
「…問題ない。だから気にする必要はない」
「ありがとうございます」
そう言ってミリーが笑って答えてくれた。
それだけで胸が熱くなり鼓動が早くなる。人を好きになるとはこんな変化があるのか…。
俺は今まで女性を好きになったことがない。
何度か付き合いをした事はあるが長くは続かなかった。
どの女性も俺の見た目や立場ばかりを見て俺自身を見ていないからだった。
でも…。ミリーは俺の事を優しいという。素敵だいう…。
王国騎士団団長ではない俺を見てくれていると感じた。それがとても嬉しかった。
俺はケーキを食べながらくるくるまわるミリーの表情を楽しんだ。
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