15.配慮と勘違い
今朝、いつも通りシリウスを起こしに行ったら明らかに拒絶されてしまった。
私…何か気に障るようなことしたかしら?
全く思い当たる節がない。昨日の夜はいつも通りお休みと言って別れた。
そこからの今朝のあの態度だった。
でも…誰にでも体調が悪い時や気分が下がるときがある。
たまたまシリウスは今だっただけ…。
だったとしてもあまりにも彼の態度がよそよそしく、気まずそうにしているから気になった。
「ミリー…」
「はい。どうされました?」
「今日は宿直になったから…夕食は一緒に取れない」
「あら…残念ですわ」
「あと…会議があるから弁当も不要だ」
「そうですか‥‥。分かりました。お仕事頑張ってくださいね」
明らかに嘘だとは分かったけど、問い詰めるのは違うと思った。
今朝の態度からして隠したい何かがあるのかもしれない…。
それはいったい何かしら?
気にはなりつつも私はいつもと変わらない態度で接した。
結果、玉砕だった。
お弁当も夜食もいらないと言われてしまった…。
徐々に仲良くなれていた気がするのにちょっと悲しいわ…。
シリウスを見送った後私は一人部屋で今朝の出来事を考えていた。
どうして急に態度がおかしくなっちゃったのかしら?
うーん…。
朝…私が傍に行こうとしたらびっくりした感じで手を振り払われたのよね~。
いつもならそんな事ないのに。
男性…朝…よそよそしい態度…。
これらのキーワードを私は連想した結果、ある事に気が付いた。
「もしかして…!!男性特有のアレかしら?」
きっとそうに違いないわ!シリウスは若いもの。
そんな現象が起きても不思議ではない…。
私ったらなんてことを?!
「そりゃあ…そんなことになってる時に傍に来たら拒否もしたくなるわよね~」
ああ…。失敗したわ…。
男性経験が豊富な方ではないからすっかり失念していたわ。
そういう生理現象があってもおかしくはない。
むしろ健康な男性なら誰しもがある事だ…。
「だとしたら‥‥シリウスにとって今の生活は…苦痛なんじゃ…」
私は想像して愕然としてしまった…。
まぁ!私ったらなんて自分本位な契約をしてしまったのかしら!!
男性なら欲求不満になって当然だわ…。
あー言うのは本能だから、意志とは関係ないって前に聞いたことがある…。
月に2.3回でも夜の営みを有にすべきだった?でも…子供はいらないし…。
うーん…。
「そうだわ!プロのお店に任せたらいいじゃない!」
うんうん。きっとこの世界にも風俗はあるだろうし…。
別に既婚者が行ってもおかしくはないだろう。
真面目なシリウスの事だ。きっと私に遠慮してそういう類のお店にはいかなさそう…。
きゃー!!申し訳ない事をしてしまったわ~。
私ったら…ついつい自分の事ばかり考えて…。
明日シリウスが帰ってきたら提案してみよう。
行くか行かないかは自由だけど、彼には快適に過ごして欲しい。
私はお手伝いしてあげれないから、できる限り選択肢は増やして欲しかった。
それにしても…シリウスってそっち方面のストレスってあるのかしら?
私はとっても快適に過ごしているけど…シリウスは?
あまり自分の気持ちを言わない人だから知らないうちに我慢させてしまっているのかも…。
「ここは年長者としての気遣いをしなくては…」
『さっきから何をブツブツ言ってるの?』
『シリ…』
『ミリーが悩むなんて珍しいわね』
『そうなのよ~。私は自分の身勝手さについて反省したところなの…』
『何?それ』
私は今朝の出来事をシリに話した。
シリは黙ってわたしの話を聞いてくれた。
『ふーん…。シリウスがね~別にそんな風には感じなかったけど?』
『でもでも…ああいうのはデリケートな問題じゃない?ずっと我慢していたのかも…』
『確かにそれも一理あるかもね~。人間って本当に面倒よね~』
『もう!他人事みたいに!』
『だって~。精霊にはそういう欲求はないもの…そもそも男女の差自体ないし』
『え?そうなの』
『そうよ。精霊は人間と違って交配で生まれないもの』
『交配って…植物みたいに…』
『あら?似たようなものでしょう』
そうだったのか!精霊は欲求不満とか感じないのか。
これはこれで衝撃的な事実だった。
あれ?だったら精霊はどうやって生まれてくるのかしら?
『シリ。精霊はどうやって生まれるの?』
『精霊女王様が生んで下さるわ。人間の出産とは全然違うけど』
『ふむふむ。具体的にはどんな風に』
『うーん…とね、満月の夜にしか咲かない花があってその花に精霊女王様の涙を一滴落とすの』
『満月の夜に…なるほどそれで?』
『その涙で私達は命を吹き込んでもらうの。だから精霊女王様は皆のお母様でもあるのよ』
『そーなんだー!とっても神秘的ね~』
『そうかな?私には人間の方が神秘的よ』
シリはケロリとした表情で話した。
面白いわ~。精霊ってそんな風に生まれてくるのね!
私はノートに思いっきりメモをした。
『じゃあ魔獣はどうやって生まれてくるのかしら?』
『知らないわ。ペンドラゴンにでも聞いてちょうだい』
急に不機嫌になってシリは消えていってしまった。
ペンドラゴン様の事になると急に不機嫌になるよね~。
それにしてもこの世には私の知らない事がまだまだ沢山あるのね!
それを知っただけでもワクワクした。
次の書く小説はファンタジーで決まりね!
私の体験も行かせることが出来るし…それに知識を豊富に持っている人が傍にいる。
これを生かさない手はないだろう。
後はこれに恋愛要素も含めて…。
私はシリウスが悶々と悩んでるなんて思いもせずに小説の構想を練っていた。
だから彼が急にお昼に帰ってきたときはびっくりした。
息を切らして走ってきたらしい。
額に汗をにじませながら話があると彼は言ってきた。
「シリウス…今日は会議じゃなかったんですか?」
「ミリー…話があるんだ今朝の事で…」
「分かりました。じゃあここでは何ですし、二人の部屋に行きましょう」
そんなに思い悩んでいたなんて…。
私は思わずきゅんとしてしまった。きっと午前中ずっと悩んでいたんだわ。
かわいいわ!!シリウス…。
おっといけない。いけない。
私は努めて冷静にいつも通りの態度で接した。
「ミリー今朝は無礼な態度をとってしまって済まない」
「大丈夫です。私は気にしてませんよシリウス」
「いや。俺が未熟なばかりに君に不快な思いを…」
「気にしないで下さい。男性なら仕方のない事ですわ」
「え…?」
彼が申し訳なさそうに謝ってきたことに対して私は考えを伝えた。
「男性の朝特有の自然現象でしょう?私も…配慮が足りなかったんです」
「あの…それは」
「ごめんなさい。私ったらついお節介で…。シリウスも色々ありますものね…」
シリウスはびっくりした顔で黙ってしまった。
ああ…。やっぱりそういう事だったのね。ごめんなさい!シリウス。
「君は…なぜそんなに詳しいんだ?」
唐突にシリウスに質問されてしまった。しまった!!こういう場合って普通は知らないもの?
前世の事は言えないし…。
「えっ?…えーと…精霊たちが色々教えてくれるものですから…」
私は適当な事を言って何とか誤魔化した…。ううう。ごめんなさいシリウス。
嘘をついてしまった気まずさから私は思わず俯いてしまった。
「そうか…。だが今朝の態度は…」
「シリウス。あの‥‥ストレスが溜まっているなら、どうぞ発散してきてくださいね」
「なに?」
「私は何もしてあげれないけど、男性だったらそういうお店も行くのもありだと思うんです」
「‥‥」
シリウス私には遠慮しないでね~。
男の子なんですもの。きちんと解消しないと不健康だわ!!
「ミリー俺は別に欲求不満なんかじゃないんだ…」
「まぁ!そうでしたの」
「今朝のは本当に夢見が悪くて動揺して…それであんな嘘をついてしまったんだ」
「そうでしたか…。良かった~」
「え?」
「私…てっきりシリウスを不快にさせてしまったんじゃないかって思ってて」
「そんな事はない。君といて不快と思ったことは一度もない!」
いつにもましてシリウスが必死になって食い下がってきた。
その態度を見て私はびっくりしてしまった。
でも…良かった。不快に感じていなかったのね…。私はホッとした。
お互いが契約条件を出して一緒にいるんだもの。
気持ちよく過ごして欲しい…。それがパートナーとしての最低限の礼儀だろう。
「それなら今日は宿直ではないんですね?」
「ああ。いつも通り帰ってくるよ」
「分かりました。じゃあ今日の夕食は私が作ってお待ちしてますね」
「本当か?」
「はい♪何か食べたいものはありますか?」
「じゃあ…ハンバーグがいい」
「ふふふ…分かりました。沢山作っておきます」
「ありがとう…ミリー」
不意にシリウスに抱きしめられてしまった。
こっちの世界の人ってスキンシップ多いわよね。外国人みたい…。
それにしても…そんなにハンバーグが嬉しかったのかしら?
ふふふ。可愛いわね~。
やっぱり子供はハンバーグとか好きよね。オムライスやカレーとか…。
それも今度作ってあげよう。
私はそんな事を考えながら彼の背中を撫でた。
不思議と心地よかった。
彼の大きくてがっしりとした体つきは物凄い安心感がある。
久しぶりだわ~この感覚…。
前世で元旦那と別れてからは恋愛からは遠く離れた生活をしていた。
子育てに必死だったって事もあるけど…。
離婚した理由が相手の浮気だっただけに、もう懲り懲りだと感じていた部分もあるからだ。
浮気された分、怒りや不満を小説にぶつけたんだけどね…ふふふ。
おかげでリアルで生々しいいい小説が書けたのよね~。
それから少し話をしてシリウスは元気になって仕事に戻っていた。
何だかやる気に満ち溢れているわね…。ハンバーグ楽しみにしてくれてるのね。きっと!
彼がその時何を決意したのかは私は露程にも知らずに見送った。
その後は大量のハンバーグを作って彼の帰りを待ったのだった。
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