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14.誤解を解くならお早めに

「シリウス…」


「ん…ミリーか…」


深夜の寝室で、ミリーに揺り動かされて俺は目が覚めた。

どうしたんだ…いったい。

起き上がるとミリーが傍に立っていた。今にもはだけそうな夜着を着て…。

俺はびっくりして飛び起きた。何が起きてるんだ?


「ごめんなさい…寝ている時に」


「いや構わない…どうしたんだ?」


「あの…眠れなくて…」


「え…?」


心臓が大きく何度も跳ねる。手に汗もにじんでくる。

どうしたんだ…ミリーは?

これじゃあまるで…。


「ちょっとだけでいいんです…一緒に寝てもらえませんか?」


「わ…わかった」


上目遣いで頬を赤く染め懇願してくる姿はとても艶やかで扇情的だった。

ごくりと生唾を飲む。

いいのか?本当に…一緒に眠るって…意味わかってるのか?

彼女がゆっくりベットに上ってきて俺の上に覆いかぶさる。


「シリウス…私…」


「ミリー‥‥」


俺は彼女に手を伸ばして彼女の頬に触れようとする。

すると手は空を仰ぎ彼女の体をするりと抜けた。


ー‥‥

ー…


瞼を開けるといつもの天井が飛び込んできた。

夢か‥‥。俺はゆっくりと上体を起こした。


「最悪だ…」


ため息が出た。まさかあんな夢を見るなんて…。

そんなに欲求不満なんだろうか…俺は。


「何が最悪なんです?」


「え?」


振り返るとミリーが傍に来て俺の顔を覗き込んできた。

思わず俺はベットから落ちそうな勢いでのけぞった。


「シリウス!大丈夫ですか?」


慌てた様子で俺の手を引こうとするミリー。

彼女に触れられそうになったとき、さっき見た夢の光景を思い出して

思わず反射的に彼女の手を振り払ってしまった。


パシン


乾いた音が寝室に響く。

びっくりした顔でミリーは俺を見つめていた。

しまった!咄嗟に手をはたいてしまった。


「すまない!ちょっと夢見が悪くて…」


「そうだったんですね…。朝食は食べれそうですか?」


「あ…ああ」


俺は居た堪れなくなって慌てて隣の部屋に移った。

扉を閉めた途端その場にへたり込んでしまった。


「はぁ…。駄目だ…まともに顔を見れない」


彼女を見るとどうしても思い出してしまう…夢の姿のミリーを…。

せっかく…国王陛下の誤解も解けてこれから積極的になろうとしていたのに…。

こんな状態では彼女の傍にはいられない。

自分が何かしでかしそうで怖い。

今日は…宿直にしよう。俺はそう決めて着替えて部屋から出た。


ミリーは変わらない様子で部屋の外で待っていてくれた。

彼女の方がよっぽど大人だと思った。


「さ!朝食を頂きに行きましょう」


「ああ…」


彼女をエスコートしていつも通りダイニングへ向かった。

そっと彼女の様子を伺ったが特に変わった様子はなかった。

俺はホッと胸をなでおろした。


「ミリー…」


「はい。どうされました?」


「今日は宿直になったから…夕食は一緒に取れない」


「あら…残念ですわ」


「あと…会議があるから弁当も不要だ」


「そうですか‥‥。分かりました。お仕事頑張ってくださいね」


全部嘘だった。

でも彼女は何も言わず、ニコニコしながら俺の嘘を受け入れてくれた。

物凄い罪悪感がこみあげてきた。キリキリと胸が痛い…。

本当は一緒に居たいし…彼女の手料理も食べたい。

だがこんな状態ではとてもじゃないが冷静でそばにはいられない。

少し離れて落ち着くのを待った方が良いだろう。


「あの…お夜食を持っていくのもだめですか?」


「え…」


「宿直って夜通しで警護をするんですよね?」


「ああ…」


「それなら小腹が空いたときに何かつまめるものでも持っていくは…」


「いやいい。夜は危険だ…それに何か口にすると眠気がくるから食べないようにしてるんだ」


「あ…そうですよね。じゃあ…お家で大人しくしてますね…」


ミリーが少し寂しそうな顔をして俯いてしまった。

俺はグッとフォークを握り締めて食事をつづけた。

彼女を傷つけてしまったかもしれない…。せっかくの好意を無下にしてしまった。

何とも言えない苦い思いだった。

喉の奥がチリチリと焼けるように痛い‥‥。

こんな気持ちになったのは初めてだった。


「じゃあ…行ってくる」


「はい。お気を付けて行ってらっしゃいませ」


笑顔で手を振り俺を見送ってくれたミリー。

俺は居た堪れなさから彼女の目を見て話すことが出来なかった。



「はぁ…」


「なんかあったのか?団長…ため息なんかついて」


「レグルスか…なんのようだ」


「何の用だとは冷たいな。お前がこの書類を欲しいと言っていたから持ってきたんだろ」


「ああ…そうか。すまない」


彼はバサッと書類を無造作に机の上に置いた。

レグルスは俺の騎士団養成学校時代の同期で、数少ない友人の一人だった。

俺と同じくらいの背格好で、緑色の長い髪を後ろに一つにまとめている。

【電光石火のレグルス】と呼ばれているほど雷の魔法に長けており

雷を操る魔獣と契約している。


「で?なんでそんなシケた面してるんだよ。嫁さんとでも喧嘩したのか?」


「いや…喧嘩はしていない」


「だったら何でそんな落ち込んでるんだよ。新婚なんだからウキウキのはずだろう?」


「それは…そうなんだが。俺の態度がおかしいせいできまずくなってしまったんだ…」


「おかしい態度ってどんなだよ?」


ドカッと豪快にソファに腰かけ、じっくり腰を据えて話を聞いてくれる様子のレグルス。

彼は口の悪さとは裏腹に面倒見が良い。


「俺が一人で意識してよそよそしいというか…ぎこちないというか…」


「ふーん…。で、嫁さんとギクシャクしてるのか」


「ああ…俺だけな」


「なんじゃそりゃ」


「俺が勝手に気まずくなって…勝手に落ち込んでるんだ」


歯切れの悪いセリフをつらつらと並べてレグルスにこぼした。

情けないが、こんな話をできるのは彼しかいなかった。


「プっ‥‥あはははは!!」


急に腹を抱えてレグルスが大声で笑い出した。

俺はムッとして怒鳴り返した。


「なんだ!何もそこまで笑わなくていいだろ!」


「あの冷酷非情で爆炎の支配者とか呼ばれてるお前が…そんな事で悩むなんて」


「だから困ってるだ…今までこんなに悩んだことはないから…」


「なるほどね~。本気で惚れてるだその嫁さんに…」


「ぐ…」


「へぇ…ふーん…お前がね~」


レグルスがニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んできた。

まるで面白そうなおもちゃを見つけた子供のような顔だった。


「いいね。やっと人間らしくなったじゃないか」


「良くない!見っともない所を見られてしまったんだ」


「良いじゃないかどんどん見せてやれ。嫁さんの前で強がる必要ないだろう」


「できるか…そんな事!格好わるい…」


「あのなぁ…。人は鏡なんだ。お前がそんな態度だといつまでたっても、嫁さんはお前に心を開いてくれないぞ」


もっともだと思った。

レグルスはいつもこうだった。普段は口が悪く文句ばかり言うのに

たまに確信をズバリとついてくることがある。

しかもそれは正論で、何も言えないから質が悪い。


「悩め悩め!お前が成長できるいい機会じゃないか。それに死ぬわけじゃねぇんだ」


「それは…そうだが…」


「分からないなら、どうしたらいいか分からないとそのまま言えばいいんだ」


「そのまま…」


「嘘ついたり誤魔化したりするから後々ややこしくもつれてくるんだ」


「‥‥」


この意見ももっともだと思った。

しかし…すでにもう嘘をついて誤魔化してしまった…。

しかもあの夢の話をするのは少し気が引ける…。

ミリーに嫌われたりしないだろうか。


「まぁ、何せよお前が素直になるのが一番だよ」


「そうか…分かった」


それだけ言うと、レグルスは部屋を出て行った。

俺は彼に言われた言葉を思い返しながらこれからどうするか考えた。

話すなら…早い方が良い。

きっと今朝のよそよそしさはミリーにも伝わっている。

変な誤解を生む前に話しておいた方が良いだろう。

夢の内容は言えないが…。

俺は急いで仕事を終わらせて、昼休憩に家に戻れるようにした。


家に着くとミリーは驚いた様子だったが、温かく迎え入れてくれた。

俺はホッと安堵した。


「シリウス…今日は会議じゃなかったんですか?」


「ミリー…話があるんだ今朝の事で…」


「分かりました。じゃあここでは何ですし、二人の部屋に行きましょう」


ミリーに促される形で俺は部屋に向かった。

物凄く緊張した。騎士団入団試験の時でもここまで緊張はしなかった。

俺は深呼吸して息を整え自分を落ち着かせた。


「ミリー今朝は無礼な態度をとってしまって済まない」


「大丈夫です。私は気にしてませんよシリウス」


「いや。俺が未熟なばかりに君に不快な思いを…」


「気にしないで下さい。男性なら仕方のない事ですわ」


「え…?」


ニコニコしながらミリーは今朝の俺の行動について話し出した。



「男性の朝特有の自然現象でしょう?私も…配慮が足りなかったんです」


「あの…それは」


「ごめんなさい。私ったらついお節介で…。シリウスも()()ありますものね…」


彼女の言っていることがだんだんと理解できてきた。

どうやら俺の今朝の行動を男性特有の()()だと勘違いしているようだった。

まぁ…近いものはあるが…。


「君は…なぜそんなに詳しいんだ?」


「えっ?…えーと…精霊たちが色々教えてくれるものですから…」


彼女は恥ずかしそうに目を伏せて俯いてしまった。

あ…。しまった!!今のは聞かない方が良かった。

また俺は…配慮のない事を言ってしまった。


「そうか…。だが今朝の態度は…」


「シリウス。あの‥‥ストレスが溜まっているなら、どうぞ発散してきてくださいね」


「なに?」


「私は何もしてあげれないけど、男性だったら()()()()お店も行くのもありだと思うんです」


「‥‥」


ミリーは何を言ってるんだ?

というか…本当に18歳の女性なのだろうか…。

彼女の提案はあまりにも衝撃的過ぎて俺は何も言えなかった。

冗談かとも思ったが彼女の表情を見る限り真剣だった。

真剣なだけに複雑な気持ちだった。

俺に外で欲求不満を解消してきてもいいと言っている事…。

それが自分でなくても大丈夫と言っている事。


ミリーは俺が外で女性に触れてもいいと思っているのか…。


俺はグッと強く拳を握り締めた。

悔しかった…こうまで意識されていないとは。


いや…違う。彼女の解釈はもっともだ。

この結婚の条件に愛情は不要といったのは俺だ…。

だったら彼女が俺の事を異性として見ないのは当然だ。

だがこの誤解だけは解いておかないと。


「ミリー俺は別に欲求不満なんかじゃないんだ…」


「まぁ!そうでしたの」


「今朝のは本当に夢見が悪くて動揺して…それであんな嘘をついてしまったんだ」


「そうでしたか…。良かった~」


「え?」


「私…てっきりシリウスを不快にさせてしまったんじゃないかって思ってて」


「そんな事はない。君といて不快と思ったことは一度もない!」


俺は思わず前のめりになって彼女に主張した。

一度だってミリーに対して嫌な気持ちになったことはない。

彼女はいつも誠実に真っ直ぐに俺と接してくれている。

だから…こんなに好きなんだ…。


その言葉を俺はグッとこらえた。



「それなら今日は宿直ではないんですね?」


「ああ。いつも通り帰ってくるよ」


「分かりました。じゃあ今日の夕食は私が作ってお待ちしてますね」


「本当か?」


「はい♪何か食べたいものはありますか?」


「じゃあ…ハンバーグがいい」


「ふふふ…分かりました。沢山作っておきます」


「ありがとう…ミリー」


俺は嬉しくなって思わず彼女を抱きしめた。

とても優しいいい香りがした…。

彼女は俺の背中を優しく撫でてくれた。まるで子供をあやしているみたいだが…。

今はこれでいい。

これからじっくり彼女を攻略してやる‥‥。

そして俺を異性として意識させてやる。


彼女を抱きしめながら俺はメラメラと闘志を燃やしていた。


最後までお読みいただきありがとうございます( *´艸`)

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