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11.悪くない

俺は腸が煮えくり返っていた。こんなに怒ったのは生まれて初めてだった。

ミリーが通信機を使って休憩室で休むと言って連絡をくれた時

彼女と陛下が話している声が聞こえた。

ミリーは通信機を切ったつもりのようだったが、実は切れていなかったのだ。

そのおかげで陛下がミリーに対してどんな態度だったかよく分かった。


陛下は一体どういうつもりだ?

なぜ…あんなにミリーにこだわる…。

俺と結婚していると知っていながら自分のものにならないかと囁き彼女を誘惑した。

その事実だけで俺は一瞬我を失い、扉を破壊してしまった。

そのことについては謝るつもりはない。なんせ人の妻に手を出そうとしたのだ。

はぁ…。やはりミリーと陛下を引き合わせのではなかった。


二人きりになりにくくするために、わざわざ大がかかりな催し物にして

大勢の貴族たちも参加するようにリゲルが取り計らってくれたというのに…。

何の役にも立たなかった。それもこれも…リゲルが妹と二人になりたい言ったのが始まりだ。

まったく…。あいつにはもう少し考えて行動してほしいものだ。


「シリウス」


「え…」


「大丈夫?もうお家に着いたわよ…」


「あ…」


目の前にミリーの顔が迫ってきて俺はドキリとしてミリーから素早く体を離した。

薄々感じていたがミリーは距離感が近い…。さっき頭を撫でられた時も危なかった。

思わず彼女の唇に触れそうになった…。

リゲルが入ってきた時イラッとしたが入ってきてくれて良かった。


「大丈夫ですか?ぼーっとして…」


「ああ…問題ない」


考え事をしているうちにもう家に到着していた。

ああ俺としたことが…。考えごとをすると周りが見えなくなる癖がある。

気をつけないとな…。

ミリーが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。

さっきの出来事で悩んでいるのを察しているのだろう…。


「今日は色々あって疲れっちゃたわね…。部屋に行ったら美味しいお茶でも飲みましょう」


「ああ…」


ミリーはなんとしてでも俺が守る…。たとへ国王陛下だろうと手出しさせない…。

彼女の傍に居るのは俺だ。


「それにしても国王陛下にはびっくりよね~」


「まったくだ…」


「いつもあんな感じなの?」


「そうだな。だいたいあんな感じだ」


「そっか…」


「ミリー」


「はい」


「俺のせいで巻き込んですまない…」


「シリウス」


俺は頭を下げて侘びた。

ミリーには何も心配せず穏やかに過ごしてほしい。

それが条件でもあるし俺の役割だと思っていた。


「俺が不用意な事を言ったせいで君を…」


「私なら平気です」


詫びる俺の手を握りながらミリーが話してくれた。

俺はハッとなって顔を上げた。

視線の先には笑顔のミリーがいた。


「確かに今回の陛下の振る舞いにはびっくりしたけど…」


「ミリー…」


「でも、私の事を気に入ってくださった様子だったし問題ないわ」


「しかし…」


「大丈夫よシリウス。私にはとっておきの作戦があるから♪」


「とっておきの?」


「ええ。だから心配しないで!ね?」


「わかった」


不思議とミリーが心配ないと言うなら大丈夫な気がしてきた。

なぜだか心が穏やかになり安心した。

それなら俺もミリーを信じて自分のできることをしよう。

そう思いながら彼女の入れてくれた紅茶を飲んだ。



俺とペンドラゴンが激怒した次の日。いつものように仕事をしていたら陛下に呼び出された。


「いやー。昨日は色々済まなかったな!シリウス」


「いえ…俺も無礼な態度をとってしまい申し訳ございません」


「余が軽はずみだったのだ。シリウスは悪くない」


「寛大なお心遣い感謝いたします…陛下」


「で…本題なんだが…」


ニヤリと口角を上げて陛下がこちらを見てきた。

相変わらず嫌な目つきだ…。陛下がこんな顔をしている時はだいたいろくでもないことが多い。

呼び出された内容は大方予想できていた。

やはりミリーの件を話すためだろう…。


「はい。なんでしょう」


「ミリアーティの好きな食べ物は何だ?」


「はっ?」


「だから、好きな食べ物は何だと聞いている」


「なぜ…陛下にお伝えしないといけないのです?」


「それは昨日の件を詫びるためだ。ぜひ直接あって謝りたいのだ」


そうきたか…。

昨日はあっさり引き下がったからおかしいとは思っていたが…。

まぁ、ペンドラゴンがきっぱり言っていた以上何もしないとは思うが…。

やっぱり彼女を会わす事には抵抗を感じる。


「では俺が彼女に伝えます」


「いや、それでは余の気持ちは伝わらん」


「なぜ…そこまでに彼女にこだわるんですか?陛下…」


「決まっているじゃないか…確約が欲しいんだ」


「確約?」


「ああ。ペンドラゴン様が彼女をいたく気に入っているなら俺も気に入れらておきたい」


「それは…どういう」


「有事があった際…確実に戦闘に参加してもらいたいからさ…」


「…」


なるほど…。ミリーを交渉の鍵にしたいのか。

ペンドラゴンは気まぐれな魔獣だ。大概の戦闘には力を貸してくれるが

気が向かない時は殆ど何もしない。

せいぜい俺が死なない程度に守ってくれる程度だ。

だから…彼女を使って交渉できるようにしておきたいのだろう…。


「そんな事をしたらまたペンドラゴンが怒りますよ」


「それはどうかな?ミリアーティ次第じゃないかな」


「彼女を巻き込むのはやめてください!」


「そんなに怒るなよ、シリウス。余はただ()()()()()()と仲良くしたいだけさ」


陛下が鋭い目つきで俺を見据えてくる。

口元は笑っていて声も穏やかだが…これは本気の目だった。


「陛下…彼女を戦争に加担させるような真似は…」


「そんな事はしないさ。それこそペンドラゴン様に殺されてしまうだろう?」


「…」


「あくまで余が個人的に彼女と仲良くなりたいだけさ♪」


「…本当にそれだけですね?」


「ああもちろん♪」


よくも…ぬけぬけと…。

俺が殴ってしまいたい衝動をぐっと抑えてこらえた。

今ここで陛下を敵に回すのは良くない…。それではミリーを守れない。

ここはひとまず陛下に従うしかない…。


「わかりました…それでしたら俺が休みの日に我が家に招待します」


「ありがとう!シリウス。感謝するよ」


「その代わり変なことをしたら…陛下だろうとただじゃおきませんからね」


「分かっている。そんな事はしない…誓うよ」


そう言って俺は部屋を後にした。

はぁ…。何でこんなに気を揉まないといけないんだ?

結婚して間がないのだからもっとウキウキしていてもいいはずなのに。

俺は立ち止まって空を見上げた。


「そもそも…俺が計算外か…」


最初は女除けになればいいと考えていた。

誰にも煩わされず生活できればそれで満足だと思っていた。

だけど…俺はミリーを好きになった。

だから…予想外の事が起きても仕方がない。今さら戻れない。


「俺も…腹をくくるか」


グダグダ考えても仕方がない。

俺はミリーが好きだ。それだけでいい…今は。

俺と彼女の生活が脅かされないよう最大限努力しよう。


『そなたは変わったな…シリウス』


『ペンドラゴン…』


不意に俺の影から出てきたペンドラゴンが話しかけてきた。


『変わったのはお前も同じだろ?』


『うむ…。それもそうだな』


『俺はミリーが好きだ。だから守る』


『そうか…。そなたが望むなら手を貸そう。我もミリーは気に入っている』


『やけに素直だな…ペンドラゴン』


『何を言う。我はいつも素直だぞ。シリウスよりずっとな』


『ふ…そうだな』


『それに何かあればミリーを連れだしてこの国を焼いてしまえばよい』


『お前なぁ…簡単に言うなよ』


それが出来るなら苦労しない。

だいたい国を焼いてしまったらミリーの家族も巻き込むことになる。

それはミリーが悲しむからしたくない。

彼女にはいつも笑っていて欲しい。


花がほころんだように笑うミリーを思い浮かべる。

最初に会った時も今も変わらず彼女は笑顔だ。


『なんにしてもオルキスは…なかなかの食わせ者よの』


『ああ…だから今の座に着けたんだ』


『ふぅ…いつの世でも人間という生き物は面倒なものだな』


『まぁな…。俺も最初はそう思っていたが…今は悪くないと思ってる』


『そうか…』


それだけ言うとペンドラゴンはまた影の中に戻っていった。

本当に気まぐれな奴だな…。

でも…ミリーと一緒にとる食事も、テラスでお茶をすることも今となっては

ささやかな俺の楽しみであり幸せだった。

彼女のちょっとした仕草や表情…どれを取ってみても大切な宝物のように感じる。

ミリーと過ごす時間がこんなにも大切に想うなんて…。

昔の俺なら考えれない事だった。


「でも…悪くない」



俺は止めていた足を動かして再び前へ進んだ。



最後までお読みいただきありがとうございます( *´艸`)

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