09.国王陛下への謁見
シリウスから国王陛下への謁見を打診されて2週間が経過した。
今日はその謁見の日。私は朝からその準備に追われていた。
最初聞いたときは国王陛下とシリウスとの三人でごじんまりと会うのかと思っていたけどどうやらそうではないらしい…。
他の公爵家も招待されていて結構な規模感で謁見することになったそうだ。
まぁ私としてはどちらでも良かった。
大人数であれば沢山の人達の観察ができるだろうし
小規模であれば国王陛下と話す機会も増えるだろう。
どちらにしても小説の題材には事欠かないから私としては有難い限りだった。
「駄目だ。その恰好では露出が多すぎる」
「かしこまりました。旦那様」
「これくらい普通じゃないシリウス…」
「いいや。駄目だ…もっと地味で肌の出ていない服にしてくれ」
さっきからずっとこの調子だった。
マーサが何度も選んで着付けてもらったドレスは全部
シリウスにダメ出しされている。なんでも肌が出ている服はNGなのだそうだ。
これで何着目かしら‥‥。
まだ時間に余裕があるとはいえこの調子でやっていたら日が暮れるわ。
「うん。それなら妥当だ」
「よかった…」
私はホッと胸をなでおろした。15着目にしてようやく着ていく服が決まった。
こんなに着替えたのは初めてよ…。ふぅ…。
「ミリー…今日は決して傍を離れないでくれ」
「ええ。分かったわ」
「いいか。絶対にだぞ」
「はい!約束します」
そんなに念を押さなくても…。
私ってそんなに信用ないのかしら…。
いつにもましてシリウスが過保護な気がする。
よっぽど国王陛下と会う事に警戒しているのね…。
「旦那様はよほどミリー様の事を心配してらっしゃるんですね~」
「何だかそうみたい…変よね~」
「変なものですか。愛されている証拠です!」
「ホホホ…それもそうね」
マーサは私とシリウスが契約結婚している事を知らない。
客観的に見れは妻を心配する夫に見えているのだろう。
マーサは髪型をセットしながらシリウスがいかに素晴らしい夫であるか熱弁していた。
私を大切にしてくれているシリウスがよっぽど気に入ったのね。
男性にうるさいマーサがここまで褒めるなんて…。
「いいですか!ミリー様のような自由奔放な人を奥様にと言ってくれる貴重な方なんです」
「ええ、ええ。そうですとも」
「絶対にぜーったいに手放してはいけませんよ!」
「はい!肝に銘じておきます」
「それならよろしい!」
私の返事に満足したのか、髪型のセットが終わってマーサは部屋を出て行った。
ふぅ…やれやれ。
マーサが言わんとしている事も分かるから、素直にいう事は聞くけど…。
契約結婚してるからな~。
私が良くてもシリウスが私の事を嫌いになったら、契約破棄になってしまうし。
最低でも3年は夫婦生活を続けたい。
それくらい経てば離婚しても問題視されることもないだろう。
「それまでは私も努力しないとね!!」
私は鏡の前でガッツポーズをして気合を入れた。
今日は沢山の人が集まる日だ。思いっきりシリウスとの仲をアピールできる日。
それに国王陛下にも認めてもらって盤石なものしたい。
決してヘマは許されない。あくまで自然に仲良くしなくっちゃ!
「ミリー…入るぞ」
「どうぞ」
ノックの音がしてシリウスが部屋に入ってきた。
彼の準備も終わったらしくいつもの団長服に着替えていた。
髪型も普段と違ってきっちりとセットされていて凛々しく見える。
「シリウス!今日は一段とカッコいいですね♪」
「そ…そうか」
「はい!凛々しくて素敵です」
「ありがとうミリーも…き…」
「き?」
口をパクパクさせて何か言いたげなシリウス。
どうしたのかしら?
「き…綺麗な色のドレス…だな」
「ふふふ。ありがとうございます」
わーい♪こんな若い子に褒められるなんて~。
頑張って試着したかいがあったわ~。ふふふ。
やっぱり若いっていいわね。こんな素敵なドレスを着れるんですもの。
髪もボリュームあってツヤツヤしているしお肌にも張りがある。
飾りがいがあるってものよ~。
「はぁ…じゃあ行こうか」
「はい。あなた」
なんだか落ち込んでいる感じのするシリウス。
この前からちょくちょくこんな表情をするようになった。
すごくびっくりした顔をしたかと思ったら急に真っ赤になったりして…。
最初会った時に比べたら随分表情が豊かになったわよね~。
やっぱりみんなでご飯食べたりしているからかしら?
私はシリウスと一緒に馬車へ乗り込み王城へと向かった。
いよいよ!国王陛下と会えるんだわ…。楽しみだわ~。
こう言う公式の場に出るのは何年ぶりかしら。
10歳くらいまではよく父に連れられて顔を出していたけれど
ここ数年はパッタリと社交界には顔を出さなくなった。
理由は一つ。兄が猛烈に反対したからだった。
何でも私をよその男の目に触れさせれるのが死ぬほど嫌だったらしい…。
まぁ私としても部屋で本を読んだり小説を書けるから別に良かった。
強いて言うなら人間観察が出来なかったのが残念。なくらいには思っていた。
「そうだ…ミリー」
「はい。シリウス」
「これを耳に着けていてくれ」
「イヤリング…ですか?」
シリウスから手渡されたのは綺麗な赤い宝石が埋め込まれたまあるいイアリングだった。
金色の金具に縁どられてとても綺麗な宝石だった。
「見た目はそうだが通信機の役割も兼ねている」
「まぁ!すごいですね」
「女性騎士が潜入捜査でよく使うものだ」
「そうなんですか…なんでまた」
「何かあったら俺に連絡がくるようにしてる」
「なるほど~」
そんな大げさな!とちょっと思ってしまったけど
何だかスパイみたいで面白そうだから素直に受け取ることにした。
片方が普通のイヤリングでもう片方が小型の通信機が埋め込まれている。
赤い宝石のボタンを押すと通信できるようになっているそうだ。
ふむふむ。これも…小説のネタになりそうだわ。ホホホ。
「ミリーくれぐれも国王陛下には気を付けてくれ」
「分かりました。二人きりにならないようにします」
「よし!では行くぞ」
「はい!」
シリウスにエスコートされて私はお城の中へと入っていった。
大きな玄関を抜けると大理石で埋め尽くされたエントランスがあり
その先には大きな階段があった。
私とシリウスはその階段を上って右手にある部屋に案内された。
中にはすでに沢山の貴族たちが来ていて、思い思いに過ごしていた。
「ミリー!」
「リゲルお兄様!」
久しぶりに見た兄がこちらに駆け寄ってきた。
兄も今日は軍服を着ていてカッコよく髪型もセットしている。
うーん…わが身内ながらイケメンね…。
アイドルが衣装を着て歩いているみたいだわ…。
「久しぶりだねミリー!会いたかったよ」
「お久しぶりです。お兄様もいらしてたんですね」
「ああ。僕も国王陛下から招待されているんだ」
「まぁ…そうでしたの。今日は何の集まりですの?」
「最近結婚した若い公爵家の夫婦とその家族を招待してくれてるんだ♪」
「なるほど。だからお兄様もいらっしゃるんですね♪」
「ああ。国王陛下から直々にお言葉を頂ける貴重な機会だよ」
「それは光栄ですわね」
国王陛下も心が広いのね~。国務でお忙しいでしょうに…。
周りを見渡せば年齢層がかなり若い人達が大半を占めていた。
皆とても綺麗に着飾っていて見ごたえのある人達ばかりだ。
ああ…。煌びやかでいいわね~。映画の中にいるみたいだわ!!
物凄くスケッチブックでメモを取りたいけど…。今は我慢よ私。
「静粛に!!オルキス・ジルバッテン・ウィンター国王様からのお言葉です」
賑やかな会場が一気にシンとして静かになった。
声のする方を見ると会場の上には国王陛下が立っていた。
綺麗な顔立ちね~…。まさに王道の王様って感じ!!
オルキス国王陛下は金髪碧眼のイケメンだった。
サラサラの綺麗な金髪。切れ長でまつ毛の長い青い瞳…。
それは…それは女性にモテるでしょうね~。
「諸君。今日は余の為によく集まってくれた…感謝する。存分に楽しんで行ってくれ」
さらりと挨拶をしてその場を立ち去ってしまった。
意外とあっさりした人なのかも…。
うーん…写真がこの世界にもあったらな~…。
精霊たちの魔法で何とかできないものかしら。私はそんな事を真剣に考えていた。
「ミリー大丈夫か?」
「えっ?」
「さっきから黙っているが…気分が悪いのか?」
シリウスが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
まぁ!イケメンのアップだわ~。眼福だわ~。ホホホ。
「大丈夫です。ちょっと考え事をしていただけです」
「そうか…あまり無理するな」
「はい。ありがとうございます」
「シリウスがここまで気に掛けるとは…よほどうちの妹に惚れているのだな!」
「リゲルお兄様…」
「リゲル…君には感謝している。俺達の結婚を認めてくれたからな」
「当たり前だ。他の奴に取られるくらいならシリウスの方がいくらかましだからな!」
「お兄様…そんな失礼な言い方は止めて」
「ごめんよ~ミリー…怒らないでくれ」
相変わらずシスコンな兄リゲル…。
結婚すれば少しはましになるかと思ったけど前よりも悪化している気がする…。
「ミリー…せっかく会えたんだ、久しぶりに兄妹で過ごそう!」
「駄目よ…。私にはシリウスがいるもの」
「いいよ。俺はここにいるから少しリゲルの相手をしてやれ」
「さすが!わが友シリウス。よく分かっているな」
「はぁ…分かりました。ごめんなさい…シリウス」
「気にするなミリー…」
私は兄にエスコートされて挨拶がてら会場を回っていった。
兄はとても満足そうにしていた。
ふぅ…。仕方ないわねまったく…。
仮にも人妻なのにこんなに妹にべったりだなんて…。
「お兄様、いい加減に妹離れしてくださいませ」
「ミリー…どうしたんだ急に…僕は何か気に障る事でもしてしまったのか?」
「いいえ。でもお兄様もいい歳ですし、妹に構っていないでご自分の幸せを考えてくださいな」
「僕の幸せはミリーと一緒にいる事だよ!」
「はぁ…そういう事ではなく、ちゃんと人生のパートナーを見つけくて下さい」
「それは無理だ。今はミリーの事で頭がいっぱいだからね」
物凄くいい笑顔で返されてしまった…駄目だわ…全く噛み合わない。
兄との会話は時々こんな感じで交差しない。
私の事を大切にしてくれているのは分かるけど…あまり私に依存していてはね…。
どうしたものかしら…。
「ミリーどこへ行くんだい?」
「ちょっと休憩室へ行ってきます…」
「じゃあ僕も…お兄様はここで素敵な女性でも探してくください」
「でも…」
「でないと一生口ききませんから!」
「なっ…!!」
それだけ言うと私は兄を置いて休憩室へ向かった。
休憩室に言ったらシリウスに連絡してきてもらおっと…。
この広い会場では特定の人を探すのは難しい。
彼に通信機を貰っておいてよかった。これならいつでも連絡できるものね…。
日本みたいにスマホがあれば便利なのにな~。
私はそんな緩い事を考えながら一人休憩室へ行った。
これが大きな間違いだとは気づかずに…。
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