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CHAPTER 1-7

 空中大陸の縁を沿うように輸送機は飛んでいき、その雄大な姿に千景は釘付けだ。大陸の底面は高度3000メートルに位置し平均1000メートルほどの岩盤の厚さで最高峰は高度9000メートルにまで達する巨大な大地は、地中に含有する特殊な鉱石が大気中のオルゴンと反発し合うことで浮かんでいる。先ほど通った超空間通路からオルゴンがこちらへ流れ込んでいるが、最近では大地そのものからもオルゴンの噴出が確認され、その噴出孔から虹のような煙が立ち昇っているのが見えていた。

 操縦席からガイド役を担っているイーサンが得意げに話していき、空中大陸というマンガかゲームでしか見たことのないものが実物として存在していることに千景は興奮を隠し切れない。しばらく遊覧飛行のように大陸の縁を飛んでいたが、陸地から離れるように逸れていく。


「さーて、ここからはゲネシス名物の岩礁空域に入るぞ。ここを突破出来て一人前のパイロットと認められるのさ」

「聞きたくないけど、突破出来ないとどうなるの?」

「そんなもんはねえよ。ただ突破できるか、途中で岩盤に激突してオダブツかの2択だけだぜ!」

「うん、そんなものかと思ってたよ……」


 文字通り岩礁空域には大地から分離した岩の塊がいくつも浮かんでおり、そんな空域へ臆することなく突っ込むイーサンに呆れながらも、千景も内心で岩山を避けて飛ぶのを楽しんでいた。浮遊効果をもたらすには鉱石が一定量含有されている必要があるので機体に詰まるような細かな欠片は浮かんでおらず、輸送機の数倍から数十倍もの山のような塊の間を縫うように飛んでいく。

 不規則に並ぶ巨岩の森を抜けた先には大陸から比べれば遥かに小さいが岩山よりは大きい、岩礁ならぬ群島が姿を現した。地肌が丸見えの岩山と違って島には草木が生えて生物が住める環境が出来ていて、ジェットの轟音に驚いてか鳥達が一斉に羽ばたいていく。群島はどこも人気のない無人島のyぷだが、その中で一つだけ何か看板か横断幕のような何かが掲げられている島があった。

 どうやらそこが目的地のようでイーサンは着陸態勢に入っており、近づくにつれて島から人工的に作られた埠頭と光を放つ小さな灯台が見えてくる。上面に緑が生えているのは変わらないがそこにいくつかの建物と風車が立っており、岩肌がむき出しの下層にはくりぬかれた穴が開いてそこが発着場の役目をしているようだ。


「そうじゃ、二人に渡しておきたい物があったんじゃ。ホイ、これじゃ」

「これってフィルムですか? すんごいペラペラですけど、結構丈夫ですね」

「いやいや、イーサンが腕に巻いとるもんと同じ奴じゃ。翻訳機能とかもあるし付けておけばここでの生活には困らないはずよ」


 レイジが何かを思い出したように腰に巻いているバックから取り出した何かを千景と日向に差し出し、それは紙やセロファンみたいに極薄素材でできた腕輪である。着けてみても巻いた感覚はないほど軽いが、この中に翻訳機能や通信機能に立体映像投射など多くの機能を詰め込まれていた。この『V.I.M(ヴィム)』はゲネシスでの生活必需品といえる代物で、イーサンが巻いてる旧式とは性能差はないが常時着用できるように超軽量になっている今の最新モデルである。


「さーてっと、到着だ。我が家へようこそ!」

「おぉ、久々の我が家じゃー。さーふたりともゆっくりしていってな」


 岩壁に切り抜かれた発着場へ輸送機がホバリングしながらゆっくりと進入して3本の着陸脚がしっかりと定位置についた。機体が止まってタラップが下がると千景と日向は荷物を抱えながら降りていき、初めてゲネシスの地に足を踏み入れる。島が丸ごと家になっているのは驚きだが、中身をくり抜いてまだまだ5機以上は積み込めそうな発着場まで備えているのだからかなりの規模だろう。

 イーサンの道案内に従って発着場の隣にある部屋へ入り、多くの作業機械とジャンクパーツが山積みで作業着姿の人達が忙しなく動き回っているので発着場と同じくらい広さはあるのに手狭に感じられた。壁の一面には外の壁面に掲げられていた文字が書かれており、翻訳機能が働いてか『ハイペリオン』と読むことが出来る。メカニックの皆はイーサンやレイジの姿を見ると気軽な挨拶を交わし、初対面である千景や日向にも気さくに声をかけてきた。


「このハイペリオンはじーちゃんの工房なのさ。もともとじーちゃんの個人なものだったんだけど、みんな押しかけてくるもんだから会社にしてみたのよ」

「そうなんだ。確かにレイジさんは凄腕メカニックだもんね、教えてもらいたい事がたくさんありそう」

「たしかにそうだけどよ、みんな振り回されてストッパーになったり大変なんぜ。あ、一番のストッパーの登場だ」


 皆がグレーの作業着を着てる中でワイシャツの上から黄地に黒ラインが入った警戒色な安全ベストを羽織った男性が近づいてきており、明るい茶髪をオールバックに纏めて覇気の感じられない三白眼な中年男性である。どうやらここの責任者のようで最大のストッパー役という評にはいささか頼りなさげに見えるが、親しげに並んだイーサンが衝撃的な一言を放った。


「こちらの目が死んでる御仁こそ実質的にハイペリオンを仕切ってる課長でストッパー役な、キール・バートレットさ。オレのとーちゃんだぜ」

「えっ!? イーサンくんのお父さん!!??」

「ハハッ、そこまで驚かれるとはね、確かに似てないけどさ。イーサンは母さん似だからね。ご紹介の通りイーサンの父でハイペリオンの専務をしてるキール・バートレットです。放上千景君、御堂日向一尉、ようこそ我が家へ。これからよろしくお願いします」

「あ、はい、キールさんこちらこそです!」

「突然の申し出にも関わらず快く引き受けて頂き、本当に感謝いたします」


 イーサンからの紹介を受けて名乗ったキールが千景と日向と握手を交わし、2人もこれからお世話になるということで感謝を示す。風体は無気力そうであるが、人の間合いにするりと入ってくる気安さが醸し出されていて実質的に仕切っていると言われるくらいしっかりと仕事しているのだろう。逆説的に代表であるレイジはあまり仕事してないことを示しているのか、口笛を吹きながら視線を逸らす彼に対しキールは表情を変えぬままぬるりと迫るのだった。

 反対方向に逃げようと身を翻したレイジであったが、それを読んでいたキールによって後頭部を鷲掴みにされてそのまま引きずられていく。久々の我が家だからゆっくりしたいとレイジは駄々をこねるが、1ヶ月も工房を開けていて仕事が溜まりに溜まっているとキールは容赦なく切り捨てる。


「さぁ、お父さん・観念して仕事してください」

「い、いやじゃあぁ!! わしはゴロゴロしたいんじゃ……」

「なっ? 最強のストッパー役だろ、うちのとーちゃん」


 引きずられてく祖父と引きずる父を見せて感想を求めるイーサンは千景はただただ首を横に振る。少なくとも静寂には程遠いところまでやってきたと少し後悔するが、もう来たからには腹をくくるしかなかった。日向も日向で地球にいた時はレイジに振り回されたことを思い出して後でキールへ差し入れでもと思っている。

 騒々しい工房から離れて螺旋階段を上がって上階にいくと、そこは吹き抜けのホールのようになっていて更に上へ繋がるエレベーターや他の部屋へ繋がる通路があった。ここは中継地点となるエリアですべての部屋に繋がる作りとなっており、休憩用のソファーがいくつも並んでいる。その一つにちょこんと少女が腰掛けていた。

 亜麻色の髪を肩に少しかかる程度で切りそろえて白いノースリーブシャツとオリーブドラブな作業用ズボンに身を包んで首にはヘッドフォンをかけている。椅子に腰かけて足をブラブラさせながら投影されたいくつもの画面とにらめっこしてたが、3人の姿を見つけると画面を閉じてパタパタと足音を立てながら近づいてきた。


「ようこそ、地球の人! 兄がお世話になってます。あたしはクーリェ・バートレット、ハイペリオンの天才美少女よ!」

「ハァーまったく……、うちの愚妹がいきなりすまんな。おいクーリェ、みんな引いちまっただろー、自分で天才とか美少女とか言うかふつー?」

「なによー、お兄ちゃんだって自分のこと『超天才ランナー』だってよく言ってるじゃない!」

「おいおい、オレが超天才ランナーなのは紛れもない事実だろ? だいたいお前はな―」

「まあまあ2人とも! クーリェちゃんだね、僕は放上千景、よろしくね!」


 いつの間にか酷く低レベルな兄妹喧嘩が勃発しかけたので、千景は無理矢理割って入ってなんとか宥めさせる。燃えるような赤毛をしているイーサンと容姿ではあまり似ていないが、その自信過剰な言動から2人とも似た者兄妹だ。さすがに客の前で口喧嘩はバツが悪いのかすぐに鎮圧できて、クーリェも関心を千景の方へ向けると先ほどと同じく勝気な笑みを浮かべて自己紹介を続ける。

 曰くプログラム構築に関しては祖父や父を超えて博士号レベルと豪語しており、実際に作ってるプログラムの画面を見せられて、ある程度地球のプログラムを齧っていた千景でも複雑なアーキテクチャだということしか分からなかった。ただある法則性に則って構成されているのは地球のプログラムと大きく変わらないので、覚えれば作るのは無理でもだいたいは理解できるだろう。ただそこら辺に疎いのか日向と同じ世界の住人であるイーサンも眉間にしわを寄せて疑問符を頭上に浮かべている。


「クーリェちゃん、すごいよ! 正直なとこ複雑なアーキテクチャを組んでるとこしか分からなかったけど、それを作れるなんて本当に天才なんだね!」

「ふっふーんその通り! お兄ちゃんなんてコレを全く理解できなくて困ってるのよ。あー千景さんがお兄ちゃんだったらよかったののにー」

「言っとけ。というか学校行かなくていいのかよ、もう始まってるぞ」

「心配ご無用、ちゃんと学校には言ってあるから。それにこれはお兄ちゃんに関係あるんだから、貸し一つね?」


 クーリェから貸しと言われてイーサンは仕方ないと大げさに肩を落とす仕草で肯定した。そのまま椅子に座りなおすとすごい集中力でプログラムの作成に向かっており、こうなると梃子でも動かないからとイーサンに引かれて千景達は邪魔しないように静かに離れていった。地上へ向かうエレベーターに乗り込みながら、千景はこれまであったイーサンの家族について感慨深げに思っている。

 こうしてみるとイーサンの家族はみな一芸に秀でた色々と濃い者達ばかりであり、先程兄妹喧嘩に介入して抑えたようにこれから共に過ごすとなると何かと大変そうだった。だが母子家庭ということもあってかここまで賑やかなで騒々しい家庭というのいは初めてで、どこか楽しみにしている自分もいる。


「すまんな千景、どいつもこいつもうるせー奴らでよ」

「ううん、ここまで賑やかだと逆に楽しみだよ!」


 エレベーターが地上に到達してホールも兼ねた建屋から出ると、一面に緑の生えた庭園が広がっていた。打ちっ放しのコンクリートと金属板で構成されていた地下構造体とは違って自然豊かで開放感があり、短く揃えられた芝生に低木には色とりどりな花が開いている。他にもハーブや家庭菜園もあるようで、円筒形の形をした庭師ドロイドがいつも手入れしてるがイーサンもたまに土いじりをするとのことだ。

 庭園に囲まれて島のほぼ真ん中辺りに2棟の建物が建っており、2階建ての母屋と平屋建ての離れとなる。これから千景達の生活の場となるのがこの離れで、イーサンはテラスやり引き戸を開けて中に入った。


「ここはハイペリオンで働いてるみんなが泊まり込みで作業することあったから用意したんだけど、みんな工房のほうにこもりっぱなしで使わなかったんだよ。掃除とかは行き届いてるし部屋も多いから自由に使っていいぜ」

「ありがとう、じゃあさっそくここを使わせてもらうよ」

「ちゃんと台所や水回りもあるな。丸々使わせてもらうのは忍びないな」

「誰も使ってないから気にせんでいいですぜ。あ、風呂や洗濯はないから母屋のを使ってちょうだい」


 離れは玄関を兼ねるテラスから入ってすぐにダイニングとなる作りでそこに簡易的なキッチンがあり、そこから延びる建物の真ん中を進む廊下の左右に個室が8つほど並んで洗面化粧室やトイレが置かれている。廊下はそのまま母屋へと繋がる渡り廊下となっており、離れにない浴室や洗濯機などは母屋でのものを使うこととなった。

 肝心の個室はどんなものかと千景が中へ入ると広さは8畳ほどで1人用のワンルームなら十分すぎる程で、家具としてベッドと細長い収納棚が置かれている。ほかに必要な家具は地下の倉庫にしまってあるようだが、今のところは必要なく持ってきた荷物もそこまで多くなかったので千景の荷物整理は15分ほどで完了した


「さーてふたりとも整理終わったわけだし、うちのボスに挨拶しに行くぜ。この家を取り仕切ってるばーちゃんにな」

「イーサンくんのおばあさんかー。でもなんでボスなのさ?」

「うちの家事を仕切ってて、あのじーちゃんを一喝して完璧に抑えられる人だぜ、これをどう呼ぶ?」

「あぁ、確かにね……。あのおじいさんを抑え込むなんてどんな人なんだろう」


 荷物の片付けもそこそこにイーサンが家の主と語る彼の祖母に挨拶するべく渡り廊下から母屋へと向かう。平屋建ての離れも広かったが2階建ての母屋も6人家族が住んでいても余裕があるくらいに広い作りだ。外見は木造建築物だが内部にセンサーや人工知能などを搭載したスマートホームであり、ロボット庭師と同型な円筒形のサポートロボが廊下を掃除している。この家事サポートロボや人工知能はおばあさんを主として認識していて、その指示に従ってきびきびと働くのだった。

 10人は余裕で入れそうなダイニングへ入ったイーサンは祖母の姿を探すが見つからず、いつもいる場所にいないことを訝しむ。ちょうどテーブルの上に何か光るものがあり、それはメモ用の立体映像でそこには買い物にいってくると祖母の字で書かれた書置きがあった。入れ違いで出ているので挨拶は出来ないなとイーサンが頭を掻きながら、これからのことを2人へ尋ねる。


「ばーちゃん、買い物に行っちまったかー。帰ってくるまで2人とも休んでくかい、あっちとこっちじゃあ勝手は違うから調子狂っちゃうだでしょ?」

「いや、身体の調子はすこぶる良好だ、日本と時差がほとんどないおかげでな。それに気合い入れてきたわけだから、ゆっくり休むって感じじゃないぞ」

「ですねー。なんかやる気満々って感じ!」

「お、おぅ……、元気なのはいいことだぜ」


 日向はヴィムの時計が午前9時を指しているのを見ながら、時差がないおかげで体内時計がいつも通りで調子が好調なのを伝えた。ゲネシスは東と西とで時差があるので時刻は標準時と東西時間の3つがあるが、現在いる東エリアは偶然にも日本とほぼ時差がないもので異世界から来た千景たちには過ごしやすい環境といえる。

 やる気に満ちているというか初めての異世界でいつになくテンション高めな2人にイーサンは珍しく気圧されてしまい、それを発散できるものはないかと考え込んだ。ややしばらくあって何か思いついたようでで指をパチリとならすと、ネクタイに取り付けていた銀色のピンを取り出した。


「よし、先にメンドイもんから終わらせよう。千景とキャプテン、ヴィムは持ってるな? アカデミーへいくぜ!」






 アカデミーへ行くと宣言したイーサンについて千景と日向は発着場へ戻ってきており、当のイーサンは向かうための乗り物を準備している。そして青いオープンカーに乗ってやってきて、地球の車両と違い4本のタイヤの代わりに降着脚スキッドを持って床面より少し浮かんでいた。

 空中大陸の浮遊原理を機械的に再現した浮遊装置を搭載した『リグ』がゲネシスでは一般的な乗り物で、地球で言う所の自動車や船舶に航空機などの性質を全て兼ね備えている。レイジからのお下がりであるが一番のお気に入りなリグなので、イーサンはこれから乗せる2人へ感想を求めてきた。


「どうだ、カッコいいだろ? じーちゃんはリグのチョイスは微妙なのが多いけど、コイツだけは大当たりだったぜ。なんといっても――」

「ウン、カッコイイネ、スゴイネー」

「……どの世界にもカーマニアっているんだな」

「こらこらイーサン、一人で語ってんじゃないの。ほら、2人とも困ってるじゃないの」


 まくし立てるように愛用のリグを語るイーサンの話についていけずに千景は片言のように相槌を打ち、日向はカーマニアの反応は世界の壁を超えるのだと感心している。そんな単独公演を終わらせるようにツッコミを入れてのはキールで、息子の扱いは手慣れているからすぐに鎮圧され、長話を聞かされていた千景と日向は感謝した。

 父親の無言の圧力に屈したイーサンはそれ以上はリグについて言うことはなく、操縦席に飛び乗って2人も後部座席に乗り込む。だが、ちょっと待ってとキーボードに言われて、安全ベストの内ポケットに手を入れてゴソゴソとしていた彼を待っていると、目当てのものが見つかってかそれをイーサンへ向けて投げ飛ばした。受け取ったのは片手だけの黒い指ぬきグローブで、伸縮素材で出来たよく手にフィットしそうな作りをしている。


「それは新しいヴィムだよ、欲しいって言ってたろ手袋型のを。使い勝手は保証しとくよ」

「サンキューとーちゃん! じゃあいってくるぜ!」

「あぁ、いってらっしゃい。くれぐれも安全運転でね」


 さっそく新しい手袋型のヴィムを右手にはめるとイーサンはハンドルを握ってアクセルを踏み込んだ。ふわりと浮かび上がったリグはある程度の高さがまでくると滑るように発進して発着場から飛び出していき、キールは手を振りながら見送っていく。

 リグの飛び方は先ほど乗った輸送機とあまり変わらないが、屋根がなくて身体がむき出しだから臨場感は段違いで千景はまるで絶叫マシーンに乗っている感覚に襲われた。それにシートベルトもないのだからもしひっくり返ったら真っ逆さまに落ちてしまわないか不安を覚えたが、イーサンはそれを笑い飛ばす。


「大丈夫さ、リグのシートには慣性制御が効いてるからひっくり返っても落ちはしないぜ。それに周囲にシールドみたいなの張ってるから。どんなに速く飛んでもショックウェーブは受けねえぞ!」

「ほんとだ、もう音速超えてる! なのに全然快適だよ」

「しかし、ここまで間近だと怖いな……。おや、あっちに見える光のラインはなんだい?」

「あれがはリグの通り道であるロードラインっすよ。あのラインに乗れば自動で目的地までいってくれるってわけなんですけど、まートロイんでオレは使いませんけど!」


 群島を通り過ぎて大陸に入って高度はより上がって速度も音速に至るも、車体は安定した状態で飛んでいた。自家用車でも軽く音速を突破できる技術力に先程までの不安はどこへやら千景は興味津々で、まだ慣れない日向は遠くを見ようと視線を外に向けて、空中に伸びる光の線を見つけて尋ねてくる。

 リグは搭載された航法コンピュータと航法指令室が管理するロードラインによって自動操縦を可能にしており、目的地を入力すればあとは勝手に動いていった。なので乗るだけなら年齢制限はなく、手動操縦の免許や速度・高度の制限解除を行うのは少数派になる。イーサンが持つA級ライセンスなら速度や高度の制限はほぼなく、ロードラインに近づかない限りは自由に飛べた。

 イーサンがとろいと称したロードラインを眼下に抜き去り、自然豊かな森林地帯の上空を遊覧飛行のように進んでいく。あんまり人の気配が感じられない緑の海を音速で5分ほど走り抜ければ、切り開かれた土地が見えてようやく人の手が入ったエリアに差し掛かった。


「あれが目的地だ! ランナーの為の学園『アカデミー』だ!」

「すごい、ほとんど街だね!」


 イーサンは学園と称したが千景の眼には都市として映るほどににアカデミーの敷地は広く、どこまでも建物や道路が続いている。緑の海にぽっかりと浮かぶ巨大な人口島、それが千景のアカデミーへに第一印象だった。

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