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CHAPTER 1-5

『いいか、ガレリアはあらゆるものを取り込んで、オルゴンじゃないと倒せないことは知ってるな。それにまだ完全な同化はされてないと思うからスペック自体は元の戦闘機と変わらないはずだ』

「ガレリアの波動ってやつをスターファイターが感じ取ってるから捕捉はできている! 千景君、気を付けろ!」

「は、はい!」


 ガレリアに憑り付かれたF-35戦闘機と相対しながら、イーサンと日向のサポートを受けて千景とスターファイターは空戦を開始する。高速で飛び交ってまるで円を描くように飛びながら互いの出方を見ていたが、ガレリアが先に動いてミサイルを放った。何の変哲もない機首が構造上あり得ない形に開口して、黒い矢じりのようなミサイルがいくつか放たれる。

 後部座席にてミサイルの軌道をモニタリングしている日向がすぐさまフレアを放つも効果がなく、8発のミサイルは糸を引くような軌跡を残しながら追尾してきた。地球のミサイルと比べて速力は航空機と同等という遅さであるが、追尾性能や飛行性能は凄まじいものでぴったりと後方について徐々に距離を詰めてきている。


「なんて追尾性能だ! このまま振り切るしかないのか!?」

『こっちのミサイルはこういうのが主流なんだ! それにガレリア共はオルゴンを追尾するようにしてるからデコイの類は効かないし、ステルスも意味をなさない。そこはガレリアの波動をキャッチして捕捉してるこっちも文句はつけれねええど』

「クッ、このままじゃ……!?」

『大丈夫、機銃で迎撃してやるんだ! それに1発貰っても落ちるほどヤワには出来てねえよ』


 ミサイルの束に追われて千景は圧迫感に潰されかけながらもイーサンからの指示ですぐさま実行へと移していき、一直線にフルスロットルで飛びながら追いかけてくるミサイルへ機銃を浴びせた。機体上面には360度の旋回が可能な砲座が備え付けられており、後方へと砲口を向けて迫りくるミサイルをオルゴンのレーザーで次々と撃ち抜く。

 そしてお返しと言わんばかりに胴体下部のハッチを開いてミサイルを一斉発射していき、12発のミサイルが一斉に襲い掛かり、しかしガレリアも急減速と急加速を繰り返してミサイルを翻弄した。それでも数発のミサイルが食らいついてくるので、後部装甲が展開して小型のミサイルらしきものを吐き出して相殺させる。


「アクティブ防護システムとは、なかなか厄介だな……」

『すまん、スターファイターにも搭載予定だったんじゃが、不要なもんだから後回しにしておったんだ』

「なんとか、いけます! 」

『よし、その意気だ千景! ガレリアの残りカスなんぞぶっ飛ばしちまえ!』


 互いにミサイルの効果が薄いと判断したのかガレリアが誘うように加速して一直線に飛んでいき、千景もそれに乗る形で追いかけてその速度は音速の2倍に達した。現代の戦闘機でも到達可能な速度であるが、この状態での戦闘機動は不可能であり、それを容易く可能にして搭乗者へ掛かる加速度も感じない程に制御できている技術に日向は舌を巻く。

 音を抜き去る程のスピードで空に一本の白い線を描きながら2機の航空機が飛んでいき、前方を全速力で進むガレリアを追いかけながらも千景は手汗が止まらなかった。いくら思考による操縦で簡単に動かせて身体的な負荷も殆ど掛からないのだが、ただの学生が初めて飛んでる状態でドッグファイトを行うのは精神的にかなりの負担であり、更にガレリアを倒せなければ街を攻撃されるというプレッシャーも押しかかってきている。

 そんな精神状態ではいくらランナーが持つ高い空間把握能力やストライダーから送られてくるセンサーの情報などの精度が下がってしまい、これまで追いかけていたガレリアが視界から消えた事への反応が遅れてしまった。


「き、消えた!?」

「急上昇したんだ、上からくるぞ!」

「えっ、うわぁッ!?」


 混乱し慌てて周囲を見回すもセンサーを注視していた日向の言葉とほぼ同時に、上方より急降下してきたガレリアF-35の機銃攻撃を浴びせられる。機銃もF-35が搭載してる25mm機関砲のそれでなく、ガレリアの発する黒い波動が弾丸の如く絶え間なく撃ち出されており、スターファイターを覆うオルゴンの障壁を着実に削っていった。

 機体をジグザグに左右へ動くシザーズ機動で何とか振り切ろうとするも、後方をにぴったりと付いてくるガレリアは射撃を止めることなく更に距離を詰めてくる。ついに障壁を破られて左側ノズルの上部に被弾して機体が大きく揺さぶられ、ついに雲海の下へと没した。


「はぁー……、日向さん助かりました」

「あぁ、背中はしっかり守ってみせるさ。しかし次もうまくいくは限らないぞ」

「はい、操縦に専念しますんで、攻撃を任せます!」

「頼まれた!」


 雲海へ落ちたのは攻撃が原因ではなく、日向が咄嗟に雲海へ飛び込むように機体を奏上したからで、本来なら誤作動を防ぐ目的でサブシートからの操縦は受け付けないのだが、今回は訓練中ということでサブからの操作もある程度は可能になっている。マニュアルでの操縦であるが元イーグルドライバーの日向の経験の多さでカバーは十分にできた。

 気を引き締め直して操縦に専念するため攻撃動作を日向へ一任して千景は操縦に専念する。撃たれた損傷はそこまで大きくないので飛行に支障はなく、雲を抜けて水平線がどこまでも続く穏やかな大海原の上空に出た。しかしガレリアも雲を突き抜けて追いかけて来ており、静かな海の上にて激しいドッグファイトが続いていく。


「ガレリア、来ました!」

「オフェンスは任せてくれ! 必ず落としてみせる!」

「はい、お願いします!」


 先ほどと同じく機関砲を放ちながら後方より迫るガレリアへ日向が操作する旋回銃座を後方に向けて乱射しつつ、先ほどより動きのキレを取り戻したスターファイターが縫うように飛びながらガレリアの攻撃を避けた。急減速してオーバーシュートを誘ったり、上下左右へ自在に急旋回を行って後方を取ろうとするもガレリアも細かく動いて簡単に背後を取らせようとはしない。

 そんな堂々巡りな状態に千景は己の非力さに歯噛みした。ガレリアがまだこちらを注視して躍起になっているからまだ良いが、街の襲撃へシフトしたら阻止できるのかわからず、早く倒さなければ思えば思うほど気が焦ってしまう。せっかくレイジや自衛隊の人達が用意してくれた機体も活かしきれず、訓練に付き合ってくれたイーサンにも申し訳無く思って思考がまたもネガティブになっていった。そこへタイミングよくイーサンから通信が入る。


『どうした千景、動きが良くねえな。そんなに肩肘張らずにスターファイターに任せてみなよ』

「イーサン君……、ごめん、みっともなくて……」

『ハッ、そんなこと気にすんな! 空を飛ぶにはなんにも縛られちゃいけねえからな、そうすりゃ最高の自由ってやつをその身で味わえんぜ!』

「……プッ、なにそれ。わかった、その最高の自由ってやつ味わってみるよ」


 ガレリアに後ろを取られて四苦八苦している新人ランナーに対してかける言葉としては適切とは到底言えないもので、無線越しからはレイジのツッコミが聞こえて、後方の日向も何も言えずに頭を抱えた。だが、その一言は千景を吹っ切らせるには十分で、ふっと一息吐いてから瞠目して座席に深くもたれ掛かる。

 スターファイターは不意にエンジンが切られてそれまでの加速による惰性で空を滑るように飛んでいき、そのチャンスを逃すはずもなくガレリアが加速して近づきながら、機銃とミサイルを一斉に吐き出した。風に乗ってゆらゆらと揺れるストライダーは瞬く間に爆炎に包まれていく。

 爆炎が晴れた頃にはスターファイターの姿は跡形もなく、ガレリアは勝利者として悠然と飛んだ。だが、その左翼が突如として上方より放たれたレーザービームで吹き飛ばされ、一転して黒煙を吹き出しながら高度と速度が落ちていく。ガレリアを撃ち抜いたのはスターファイターで、健在である姿を誇示するかのように力強く飛んでいた。


「ふー、うまくいって良かった……」

「あぁ、流石に今のは肝が冷えた。あんまりイーサン君の真似みたいなのはしないようにな……」

『ヒュー、咄嗟に飛蝶跳びを出すとはな。千景よ、いいセンすだ! ってキャプテン、オレの飛び方に不安なわけ?』


 先ほどの失速も全て千景が咄嗟に思いついた策で、ミサイルをギリギリまで引き付けてその爆風を上手く受け流しつつ加速してガレリアの上を取ったのである。エンジンを切って風に乗る飛行方法はランナーの間では“飛蝶跳び”と呼ばれ、そこまでの高等技術ではないが戦闘機動に組み込みづらいものだから、それを見事に決めた千景をイーサンは素直に称賛した。

 片翼を破壊されたガレリアは高度を下げて失速していっていたが、そんな状態ながらも180度ターンしてスターファイターに向かっていく。オルゴンによる攻撃でガレリア特有の再生能力は失われて自壊が始まっている状態ながら、唯一稼働する右翼側機銃を向けた。

 相対した状態でミサイルは自爆の危険性があるので推奨されておらず、このまま旋回して後ろを取るのがセオリーなのだが、千景も日向も無線越しで地上より見守るイーサン達も誰もが正面からぶつかることを選択する。古より馬上槍試合よろしく、白銀の翼と漆黒の翼が互いの“刃”を突き付けあって突撃していった。


『ヘッドオンか、ガレリアにしては殊勝な奴だ。千景、やってやろうぜ!』

「攻撃タイミングはそちらに戻す。存分にやってくれ!」

「はい、いきます!」


 1門だけの機銃をガレリアは撃ってくるがまともに制動できない状態では弾道が安定せず、明後日の方向に逸れて直撃コースのものも千景の細かな操縦で回避される。スターファイターの前方機銃2門と前を向いた旋回砲座はしっかりと狙いを定めて、ロックオンカーソルが重なったところで一斉に撃ち放たれた。

 レーザーの線条はガレリアのボディを貫いてオルゴンによる対消滅が連鎖的に広がっていき、F-35の形状を保てずに崩壊しながら閃光と轟音とともに爆散していく。ガレリアは完全に倒し切ったことを示すように、コンソールにはガレリアの波動を示すが急速に縮小していく様子が映し出されていた。


「ふぅーこれで……。うわぁ!? 何が――」


 ガレリア反応が消失したその瞬間、F-35の機体から殻を破るように真っ黒い不定形なナニカが飛び込んでくる。視界が一杯が真っ暗に染まってモニター越しのはずなのに、まるで呑み込まれるような感覚が千景に襲い掛かった。






「うぅ……、なっ!? どうなってんの!?」


 いきなり視界が真っ暗に塗り潰されて、ようやく意識がハッキリしてきた千景はなぜか浮遊感を感じていて目を見開いて驚愕する。いつの間にか水の中に沈んでおり、口元からは気泡が漏れるが不思議と息苦しさはなかった。あのまま海に墜落してしまったのかと思ったが、どうも違うようで周囲にコックピットはなくてまるで深海の底にいるかのように浮いている。

 まるで水の詰まったチューブを流れに乗っているようで、前方からボンヤリとした光を放つ球体がゆっくりと流れてきて千景の前で止まった。そして球体が明滅すると共に頭の中へ声が響く。


―…………見、ツケ……タ……―

「どこなの、ここは!? それで君は一体なんなの?」


 目の前の発光体が何かコンタクトをとろうとしているのは理解できたが、何を伝えようとしているのか理解できないので千景は口から気泡をいくつも出しながら端的に返した。それらも小さな明滅を繰り返していたが、光を消して小さな黒点まで収縮すると一気に解き放つよう閃光を発して千景を呑み込む。

 強烈な光を浴びてまた景色が一転した。水中にいる感覚はそのままで、パノラマのごとく映像が周囲に浮かんでは消えていく。

映し出されるのは空に浮かぶ巨大な大地でこことは別の世界だと一目でわかり、もしかしたらイーサン達のゲネシスではないかと思えた。そんな空中大陸の上を覆うように黒い影が埋め尽くしていき、それを作り出した黒点の如き無数のガレリアによって視界は真っ黒に塗りつぶされる。次に映し出されるのはそれに空いた巨大な穴へ殺到する蟻の行列に等しいガレリアの大群で、超空間通路からどこかへ進撃する様を示していた。そして千景の見知った世界地図がとある一点から黒く染まっていき、最後は全てが闇に飲まれ消えていく。

 これがガレリアによる侵略の最終的な光景なのかと、千景は先程まで居た水底へ戻ったことを確かめながら戦慄していた。同時にこれを見せてきた意図がわからず、この状況を作り出したのがガレリアならこちらの戦意を挫く為に見せてきたのだろうか。消えかけたランプのような弱々しい光点が最後の力を振り絞ってその答えを指し示す。


―コレガ……未来…………アラガエ……カエロ…………アルベキ未来ナド……存在シナイ―

「変えろって、この未来をガレリアは望んでいないのか!?」

―否。求メルハ自由……ソナタハ鍵。飛ビタテ、向カエ、ソレコソ破滅ニ抗ウ最後ノ手段―

「一体どういうことなの! なんで僕がその鍵に、うわぁ!?」


 この真っ黒の未来を変える鍵は自身にあると光点はそう告げると溶けるように消えてしまい、停滞していた水の流れが一気に動き出して投げかけられた疑問に対する問いも聞かぬ内に千景はなすすべなく押し流されていった。

 水の通路から投げ出されて空中へ放り出される瞬間、まるで青い空が脳裏に浮かぶ。まるで空にぽっかりと穴が開いた、まるで超空間ゲートのようでどこか違うような姿だった。そして、今までのように途切れ途切れでノイズ混じりな声でなく、しっかりとした声で千景の耳へとが届く。


―千景、未来(ここ)で待ってるよ!―






「ハッ!……えっと、ここは……?」

「千景! もう、やっと起きたのね。おはよう、寝坊助さん」

「か、母さん。……おはようございます」


 まるで空から落ちる夢より目覚める時に感じる衝撃を覚えるながら目を開いた千景の視界にまず白い天井と照明が移り、続いて母の顔が見えた。ビクンと痙攣したように身を起こした彼に驚きながらも、目覚めたことが嬉しいからしのぶはいつも通りの感じながら安堵の笑みを浮かべている。近くのテーブルに置かれているリンゴの皮を剥きながら、千景へ事情を説明してくれた。

 ガレリアとの戦闘終了直後に千景が意識を失ったと報告を受けた時はイーサンたち地上の皆は気が気でなかったが、日向の操縦で帰投したスターファイターのコックピットよりいい顔でいびきをかいてるランナーが引っ張り出されたところで大笑いに変わっていたそうな。時計を見ればちょうどストライダーで飛び上がった時間を示していたので、あれかる丸1日ほど眠っていたとになる。


「ねぇ母さん、ちょっと話があるんだ」

「なにーちょっと待ってね」

「なんか凄くどうでもいいんだけど、凄く大事な気もするんだ」

「……そう、じゃあ聞かせて頂戴」


 自身も半信半疑ながら夢で見た出来事とそれを見て決めた事を母へ話そうと千景は姿勢を正し、リンゴの皮むきに注視していた彼女も息子の真剣な眼差しに手にしているものを下ろしてしっかりと向き合った。

 千景は率直にガレリアを撃墜した着後から目覚める時まで見ていた夢の内容を話して、口にしてもおかしいものだが母はただ耳を傾けている。ガレリアが告げた世界崩壊の部分に差し掛かれば2人とも眉を顰め、最後に聞こえた言葉に込められた意味がどんなものか2人で首を傾げた。そして、それを受けて自分のすべき事が定まったことをしのぶへ告げる。


「あの光景が嘘だとは思えないんだ。なんで僕に見せたかわからないけど、あんな地獄絵図を回避できる鍵が僕にあるなら……空を飛ぼうかと思うんだ! ごめん、母さん、こんなこといきなり決めて……」

「そう、全く父さんといい千景といい仕方ないわね! なにナヨってるのよ、決めたならしゃんとしなさい! でも計画とかあるの? まさか裸一貫でいくつもりなの?」

「流石にそこまでの考えなしじゃないよ! ……まーイーサン君頼みなとこがあるかな」

「もーならしっかりお願いしにいかないとね。さーいくわよ~!」

「ちょっと、なんで母さんが仕切るんだよー!?」


 夢で見た未来が本当に来るかわからないが、それでも何かをしたいと思った千景はあのガレリアの言葉どおりこれからも飛ぶことを決めた。そしてその謎を解くべく最後の言葉が示してくれたあの穴を探すことを。これからの進路が想像もしていなかった道を選んだことに親へ申し訳無さが出る千景であったが、しのぶはそんな息子の杞憂をカラッとした笑顔で笑い飛ばした。

 善は急げとこの話を皆に伝えようと立ち上がって、いつものペースで進んでいく母の背中が遠のいていく。なんで仕切ってるのだと千景は掛け布団を跳ね除けて立ち上がると、寝間着のジャージ姿のまま追いかけていった。

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