CHAPTER 1-4
御統市の近郊には超空間通路から最も近い場所にあるということからいくつかの軍事基地が存在しており、自衛隊が駐屯する軍民共用である御統飛行場のほかに、沖合から50キロに築かれたメガフロートには在日米軍の基地が築かれている。名目上はゲート防衛施設を支援するための国連施設であるが、国連軍自体がアメリカが仕切ってるからこの基地も実質的にはアメリカ軍の管轄下にあった。
戦力として海軍の艦艇や空軍の戦闘機を中心に配備されており、海上にあることで運用の制約を受けにくいようになっている。先日のガレリア侵入の際にもスクランブル発進しており、それよりも早くストライダーが落としてその後の処理も自衛隊が行っていたが、次に備えて24時間体制で警戒していた。
「哨戒機からの報告では異常なし、引き続きの警戒態勢を……なんだアレは?」
管制塔では哨戒機から送られてくる情報や備え付けられてるレーダーで警戒を続けながら、スクランブル発進する戦闘機のローテなどを管理している。レーダーの網に引っかかる機影などはなく、引き続きスクランブルも待機状態が続いているのだが、管制官はおかしなものに気付いた。
待機命令中のF-35戦闘機がなぜか滑走路上をタキシングして許可なく離陸態勢に移っており、それに気付いた管制官は慌てて飛行中止を呼び掛ける。だが、戦闘機側からの返答はなく、滑走路で今にも飛び立つ姿勢を見せ、幸いこれから離着陸する機体はなくて滑走路はがら空きだ。
「機体照合、C-5番機、一体誰が乗ってるんだ!?」
「それが、誰も乗っていないんです! C-5はオーバーホール中で飛ばせる状態にないと整備班から報告がッ!」
「なんだって!? じゃああれは一体――」
すぐさま機体や搭乗員を照合するも、パイロット達は全員が所在の確認をとれて当該機はオーバーホール中でとても飛べる状態ではない。今起きてる状態と矛盾する報告に管制塔はさらなる混乱に見舞われ、それをよそにF-35は悠然と飛び立った。
こうなればやむを得ず、管制塔は対空設備へ撃墜命令を下して戦闘機隊も順次発進するように指令を下す。怒号や砲声が鳴り響く地上と対照的に、黒い翼は悠々と空を飛んでいくのだった。
「よしっ、仕上げはこれで完了! 遂に地球初のストライダー“スターファイター”の完成じゃ!」
手にしていた工具を工具箱に戻してほっと一息ついてから大きな声で宣言し、一緒に作業していた整備士を始め格納庫内にいた全ての者たちが歓声を上げて腕を振り上げたり飛び跳ねたりと喜びを全身で示す。その中にはイーサンや千景も混じってお互いにハイタッチして、専用機たるストライダーの完成を祝すのだった。
完成の喜びで浮かれた雰囲気ながらも整備士達は次のステップである試験飛行の準備を始めており、ランナーである千景も喜びや不安を感じながらも飛ぶのを楽しみにしている。だがここで一番空を飛びたいと思っているのは1週間も空を飛ぶのを禁止されていたイーサンに他ならず、スターファイターのメインは千景で決まっているがそのサブシートの座を狙っていた。
「メインはお前さんできまりだけどよ、コパイはオレに任せてくれ! この経験豊かでハイパーグレートな超天才ランナーが、手取り足取り教えてやんよ」
「悪いがそうは問屋が卸さないぞ、イーサン君。コパイは自分が務めさせて頂く、責任者だからな」
「えーキャプテン、そりゃ職権濫用ですぜ! オレは1週間空飛べてなくてもはや禁断症状出ちまって、手がこんなに震えて……」
「飛行依存症なんてものはないと思うが……。これは我々の機体だから済まんが処女飛行は我々の手で行うべきだろう。それは空に長けた君にもわかると思うが」
そうと言われればイーサンも納得して、飛べないのは実に口惜しいが潔くコパイの座を日向に譲る。ブランクがあるとはいえ凄腕のパイロットであるから任せても安心で、一応コパイ側にも手動で動かせる簡易的な操縦システムはついていた。
SCSの確認と調整がしたいからと千景は整備士に呼ばれてコックピットに入っていき、その様子を2人で眺めている。特に日向は感慨深げな表情を浮かべており、内ポケットから取り出した古ぼけた写真にも目を向けている。ちらりと覗き見すればそこには5人の男女が移っており、真ん中には若い日向の姿があった。
「その写真、前に言ってた10年前のお仲間ですかい?」
「あぁ、みんないい奴だったさ、俺だけを残して逝ってちまったけど。…………イーサン君、一緒に飛んでた仲間が目の前で落ちていったことはあるか?」
「幸いなことにオレはボッチなもんで、そういう事はまだないな。ただ同じ空域で小隊組んだ奴が落ちてくのはいつものことでな、5機で突入したはずが気付いたらオレしか飛んでなかったってこともあったぜ。ストライダーで飛んでりゃあいつ死ぬかわかったもんじゃねえ。だけどよ、それでも飛ぼうとしてるオレなんかは全く度し難い人種なんだろうな」
言葉少なげに日向は10年前からの後悔を口にして、イーサンは相変わらずの調子で割り切った姿勢を見せる。たとえ何があっても自分を抑えられずに空を飛ぶだろうという確信めいたものがあり、自分が納得できれば生き様も死に様もどんな感じでもよいというのがイーサンのロジックだ。
単純明快を旨とするイーサンの在り方には日向も素直に共感するが、イーサン当人は難しいこと考えるのが嫌いなただの飛行バカなだけと素っ気なく答える。同じ空を飛ぶ者でそして千景と同世代だからこそ聞きたいことがある日向はまた一つ投げかけた。
「単純で思いっきりがいいのは良いことだと思うよ。でも戦う相手が人間だったら、生きてる人間が飛ばしてる航空機が相手でも同じように君は割り切れるのか?」
「そいつはなかなかキツイ話っすね。でもオレは自分から喧嘩を売るつもりは全くないっすけど、売られた喧嘩はきっちり買いますよ。自己防衛は必要だし何より仲間守んなきゃですからね。千景なら大丈夫っすよ。そういうことが起きないようキャプテンたちがいるんでしょ?」
「……そうだな、いやつまらないことを聞いてすまん」
空を飛ぶ上で千景には戦闘に巻き込まれず、ましてや誰かを落とさなければいけない事態に直面させるのは絶対に防ぎたい。そんな日向の心内に気付いてイーサンを指鉄砲を作って撃つ仕草を見せ、ここには千景を支える面々が揃っているから心配ないことを示した。
ちょうどSCSの調整も終わらせた千景がこっちに向かってきており、次の指示出しをするために入れ替わりで日向が離れていく。2人が話し込んでいたのが見えていたようで、何か様子も違っていたから気になる千景は尋ねてくる。
「ねぇ、2人で話してたみたいだけど、何かあったの?」
「なーにお前さんのお守りの相談したのさ。さぁ、新米ランナー千景よ、鳥になってこい!」
「うん!」
いよいよついに試験飛行ということで千景はロッカールームで渡された飛行服に着替えていた。レイジが用意したという専用のそれは宇宙飛行士が着ている船内服に似たオレンジ色のジャンプスーツで、表地と裏地の間にはオルガナイトを埋め込んでオルゴンを扱えない千景をサポートし、SCSとの接続も補助できるなど他にも色々と機能を有している。
着替え終えたところで日向がロッカールームに顔を見せ、彼も航空自衛隊の航空服へ着替えていた。元イーグルドライバーということもあってブランクを感じさせない程に着こなしているが、当人はあんまり着心地は良くなさそうである。
「いやはや、久々に着るとここまで窮屈とはな。」
「そんなことありませんよ、御堂さんよく似合ってます!」
「そうか、ありがとう。ところで放生君、――いや、早く行こうか。みんなが首を伸ばして待ってるはずだ」
日向がどこか遠くを眺めるように目を細めたが、すぐに元に戻してロッカールームを出ので、何かとは聞かず千景はそのすぐ後ろを追った。完全な状態に仕上がったスターファイターはいつでも飛び出せる状態で格納庫の真ん中に鎮座し、外へ繋がる全開となった大扉の向こうは青い空と白い雲がどこまでも続く絶好のフライト日和である。
しっかりとパイロットの格好をした2人がコックピットへ乗り込むと千景はSCSを起動させて、日向はサブシステムを作動させてモニタリングを始めた。システムはオールグリーンで問題なく、スターファイターのエンジンに火が入ってゆっくりとタキシングしながら滑走路へと入っていく。
そして離陸するときの待機位置にまでついて、発進許可の合図を待った。格納庫の方ではイーサン達が無線機を設置して地上から助言を行うこととなってる。ついに管制塔より離陸許可が降りて飛び立つ時が来る。
こちら管制塔、離陸を許可。タイミングをスターファイターへ譲渡します』
『あんまり気張りすぎるなよ、練習通りにやりゃ上手くいく』
「うん、では……、スターファイター、離陸します!」
千景の宣言とともにエンジンの出力が上がって爆音を轟かせながらストライダーが滑走路を滑走していき、上を向くような浮遊感とともに大空へ飛び込んだ。グングンと高度が上がっていくのと同時に無線機越しからは歓声が響いて、地上の無線口の近くにいるイーサンからも喜びを顕にした言葉が届く。
高度は1000メートルを超えて試験飛行を行う空域に達した。試験と言えどただ自由に飛んでいればよいものだから、千景はイーサンとの訓練を思い浮かべながらスターファイターを操縦していく。SCSによる思考をダイレクトに反映させられることで、まさに手足の如く機体を動かせ鳥になったみたいだ。
「すごい、こんなに自由自在に動かせるなんて……!」
「確かに、本当に初飛行とは思えん見事な飛び方だ。これがストライダーにランナーか」
『当たり前よ、それにウルトラハイパーな超天才ランナーであるオレが教えたわけだからな! あとほかにはな……』
「すまないがイーサン君、飛行に集中したいから一旦通信を切らせてもらう」
やかましいイーサンからの通信を切ると千景は順調に飛行を続けて日向は計器を確認しながら状態を見ながら試験飛行を続けていく。そんな中で日向は先程イーサンと話していた内容を語り始め、空を飛ぶ上での覚悟について訪ねてきた。
千景にとって空は憧れであり、また父が死んだ場所として恐ろしさも感じるというな複雑な感情が渦巻いた場所となる。ただ日向が心配してくれているような誰かを傷つける真似は絶対にしないと誓って、飛ぶなら父のように誰かの為に飛べる男になりたいと思っていた。そんな率直な気持ちに後方で聞いていた日向は嬉しそうになんども頷く。
「そうか……。君のお父さんは10年前、あのゲートが現れた時に巻き込まれて亡くなったと聞いていてね。そしてランナー候補者に君の名前があった時は本当に驚いたよ。これはあの人の導きなんじゃないかってね」
「はい、そう聞きました。…………御堂さんは父を知ってるんですか!?」
「……あぁ。あの時、あの空に俺もいたんだ」
まるで心の奥に突き刺さって抜けなくなった棘を無理矢理引き抜くような重々しい口調で日向は10年前のあの時、地球にゲートとガレリアが出現した時のことを語り始めた。超空間ゲートは最初に突如発生した低気圧と見られていたが、同時に無数の機影と近くを飛んでいた航空機から何かに攻撃されているというメーデーを受けて、当時日向が率いたF-15部隊にスクランブル発進して空域に現着したんぽだが、そ0こで日向が目にしたのはこの世の光景とは思えぬ、闇夜を包み込むように空を埋め尽くして空飛ぶ闇そのものだったという。
レーダーに映らずミサイルも機銃も通用しない未知の敵に対して、日向達は1機また1機と落とされていく。せめて民間機だけでも守ろうと必死に飛んでいたが、その旅客機も攻撃を受けていてエンジンは全て停止した上に尾翼が破壊されてまともに飛ぶのも難しい状態だった。それでも日向は機長とコンタクトを取りながら空域からの離脱を目指していき、迫ってきたガレリアと正面からぶつかった日向はその衝撃で射出座席で外へ弾き飛ばされて、海面に落ちて気付いた時にはあの旅客機が炎を上げて真っ逆さまに置いていく姿が見えていたのだった。
結局、あの戦いで生き残ったのは日向ただ1人だけで膝の負傷と、何より誰も守れなかったという重荷が彼の翼を封じ込める。そして月日が流れてガレリア対策室にて地球製ストライダー製造とランナーの選定が秘密裏に始まったその時、候補者として資料にあった少年の名前があの時の民間機の機長と同じなのに目が留まり、調査でそれが事実とわかってそして彼がランナーに選ばれたことを運命と感じ、その封印されていた翼が解かれようとしていた。
「そう、だったんですか。父さんらしいや、最後まで乗ってる人達を守ろうとしていたんだから」
「済まない、今まで黙っていて。そしてこれも俺の単なる独り善がりに過ぎないのかもしれない、それでも君を守るために全力を尽くしていく。それはこれからも変わらない、戒めで誓いなんだ」
「いえ、そんな、ありがとうございます。父さんは最後まで父さんだったってわかって嬉しいんです。僕も飛ぶなら父さんみたいに誰かの為に飛びたいって。だからこれからもよろしくお願いします!」
「あぁ、こちらこそだ!」
父がよく見せていた仕草であるサムズアップを見せて日向も同じく応える。10年間抱えていた棘はまだ抜けきれていないが、ある程度のわだかまりが取れて彼の表情からも安堵感が出ていた。そこへ先程から切られていたイーサンからの通信が入ってきたので回線を開く。
どうも飛行中のストライダーのデータが欲しいとレイジが喚いてるということで日向はすぐにデータを地上に送信した。地上からもフライトの情報が確認とれるので交信が切れていても大丈夫であるが、詳しいデータで問題ないかのチェックとより改良するのに必要な点は無いか調べるのも責任であるとレイジは力説している。
『まったくじーちゃんが煩くて構わんぜ。そっちは気にせず好きに飛び回ってくれよ』
「うん、そうするよ。後でイーサン君も飛んで見る?」
『お、そいつは嬉しいね! でもそのスターファイターはお前さんのだ、オレは家に帰ってから自分のに乗るさ』
「そっか、イーサン君もそろそろ帰んなくちゃいけないよね」
イーサンとレイジはこの試験飛行を見届けたらゲネシスへ戻ることとなっており、破壊されたストライダーに代わる新型も前々から用意されているそうだ。もう少し一緒に居たかったが事情があるので仕方なく、イーサンもいつでも遊びに来ていいと豪語してたまにはこちらにもくるつもりらしい。
そんな時、千景の背筋に悪寒が走った。まるで何か恐ろしいものが近付いてきてる感覚がして、SCSを通じてスターファイターが何かを感じ取りそれを伝えてきたのだろう。そして遥か眼下にいるイーサンも何かを感じ取っていた。
「おい2人ともどうしたんだ、何かあったのか!?」
「はい、何か嫌な予感がします!」
『キャプテン、敵だ! この感じからしてあん時のガレリアだ、野郎生きていやがったのか!』
「なんだって!?」
千景とイーサンの2人が何かを感じ取った反応を見せて日向もレーダーに目を向けるが、モニター類には何も映っていない。しかしスターファイターのセンサー類と直結してる千景と、ランナーとして高い能力を持っていたイーサンが迫りくる敵を感知していた。
それはイーサンが1週間前に撃破し落ちた残骸も増幅させたオルゴンで消し去ったはずのガレリアであり、倒したはずのものが蘇ってきたことにイーサンは歯噛みし、近付いてくる黒点が視界を目視でも見れる距離まできて黒塗の戦闘機と交差する。
「あれはF-35、米軍の戦闘機じゃないか!」
『らしいな。だがビンビンガレリアの感じがするぜ。……んと、今その米軍から通信が入ってな、F-35が1機勝手に飛び立って迎撃も振り切ったって話らしい。どうもガレリアの破片が取り付いて操ってるようだな』
地上の管制塔からも情報が伝わってきており、今から数分前に在日米軍洋上フロート基地よりF-35が無断で飛び立って追撃を振り切って本土を目指していた。その際に1000発近い対空砲火に数発の対空ミサイル、更に迎撃機から最低でも8発ものミサイル攻撃を受けても動じず、むしろそれを取り込んでいく。以上の観点からF-35はガレリアもしくはガレリアの侵食を受けたものと判断されて、ゲート前線基地にいるストライダーへ出動要請してあうが、ガレリアの上陸のほうが確実に早かった。
スターファイターは今すぐに迎撃できる距離にいるが、武装はレーザー砲のみで操縦者は実戦経験もない素人ということ、何より千景をガレリアと戦わせたくない日向はすぐに撤退を選択する。しかし、それは千景によって拒否されてスターファイターはガレリアの後をついていった。
「なんてことだ! 放生君、一旦引くぞ!」
「いえ、このまま戦います! このままだったら街に出てしまいます、そうなったら……。僕も誰かを守る為に戦います! だから支援お願いします!」
「わかったバックアップは任せろ! これでも元イーグルドライバーだからな」
『オレもいるぜ! こっちの不始末だけどよ、しっかり支援するぜ!』
「みんなありがとう! ……こちらスターファイター、交戦に入ります!」
エンジンをフルスロットルで飛び出すスターファイターと妖しく黒光りするガレリアがぶつかり合い、蒼穹と大洋に挟まれた水平線上にて銀翼と黒翼が絡み合っていく。