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CHAPTER 3-4

「すまないライオット少佐、面倒なことを押し付ける形になってしまい……」

「いえコーウェル提督、どのような命令でも最善を尽くすのが軍人としての責務でありますから」


 コーテックスの中心地であるセントラルシティに置かれた総合官庁ミリタリー・コンプレックスは統合参謀本部や安全保障総局など正規軍の中枢が集まった対ガレリア戦力の頭脳と言える場所であり、一大作戦となるオペレーション・フォルトゥーナを間近に控えて職員が忙しく動いている。

 空中大陸防衛の中心戦力である第1艦隊のオフィスでも連日の作戦会議が続いているが、今は艦隊を率いるコーウェル提督と第11機動中隊隊長のライオット少佐の2人しかいなかった。作戦で中心となるのは第7艦隊で第1艦隊はその後詰めとして不測の事態に備えているのだが、そこに第11機動中隊へ少々面倒な案件が回されてきたのである。


「しかし、アカデミーの学生を参加させるとは上は何を考えているんだ。プライベーティア(PT)に属しているなら学生でも実力は保証されてるからマシだが、よりによって学生からの志願者を受け入れるとは」

「1人でもランナーが欲しいのでしょう。それに最前線ではないので加えても問題ないと判断したのでしょう」

「まったく、うちは託児所じゃあないんだぞ……」


 戦闘経験の学生ランナーを部隊に加える、そんな正規軍上層部からの決定にコーウェル提督は嘆息混じりに毒付いて、ライオット少佐は参加する学生のリストを眺めながら眉を顰めた。参加する学生は総勢20人ほどで誰もある程度の戦績を出しているが、大規模作戦への参加経験は無い者が大半でPTに加入している者は皆無である。

 いくら前線から離れた位置にあるとはいえ戦闘に巻き込まれない保証が無い中へ、実戦経験の薄い者達を部隊へ加えるのは全体の足並みも揃いづらくなるだろう。第11機動中隊隊のライオットにお呼びがかかったのは以前も同じようにアカデミーの学生を実戦で率いた経験を買われたからで、提督が託児所と言いたくなることもわかると苦笑しながらも承諾書にサインを書いて指令を正式に受領した。


「いらぬ苦労を描けるがライオット少佐、君の最善に期待する。こちらの支援が必要と言うなら遠慮なく申してくれ」

「ありがとうございます、提督。早速ですが周辺で展開する部隊の指揮官達とのミーティングを行いたいのです」


 不測の事態に備えられるよう近くにある部隊とも連携をとった方が良いと考えミーティングを打診するとコーウェル提督はすぐに関係者へ連絡を入れ、しばらくしてノックをする音が聞こえて協働する部隊の指揮官が入ってきてライオットに親しげに声をかけてくる。


「よ、ライオット久しぶり……。っと、失礼しましたライオット少佐、第7艦隊戦術打撃群第4飛行隊ディアズ大尉ただいま参上いたしました!」

「ディアズ、そんな堅苦しくなくていい。同期のよしみだ」

「そう言ってくれると助かる、どうも俺は上に嫌われて昇進が遅いもんでな」


 一度正した姿勢をまた崩してディアズ大尉は軍人らしからぬ緩慢な表情と砕けた口調に戻った。ライオットとディアズの2人はアカデミー一般科からの学友で士官学校でも同期として正規軍へ入隊した学友にして戦友であるが、本土防衛の中心として防衛戦に長けた第1艦隊と唯一の対ガレリア外征軍として殴り込み部隊としての性格が強い第7艦隊ではかなり対照的である。

 荒くれ者揃いで実力主義な第7艦隊属するディアズも飄々とした態度とは対照的に多くの実戦経験を持っており、首都防衛のエリート部隊故にコーテックス上層部からの覚えが良い分面倒な案件を押し付けられから、ある程度好きに動ける第7艦隊とディアズが少々羨ましかった。


「それで今回の作戦については第7艦隊うちのブレーンから話は来てるから今更だとおもうが、こうしてみると艦隊配置はかなり重厚になっているな」

「ああ、前衛に無人艦隊を複数配置して中間は第7艦隊主力で後方にランナー部隊という前線艦隊、第3防衛戦から最終防衛戦にかけて第1艦隊が中心の防衛艦隊が後詰にいる。第3に第5も動員したからにはこれは総力戦といえるだろう」


 ディアズが手にしたホロプロジェクターから大艦隊の配置図が浮かび上がり、これがオペレーション・フォルトゥーナにおける戦力分布となる。先鋒の無人艦隊は第3・第5艦隊から抽出されたもので《デザイア》の侵攻ルート上に幾重にも配置させて消耗させていき、丁度そのタイミングで主力となる第7艦隊を中心としたタスクフォースとぶつかる事となった。

 艦隊による濃密な火砲を集中させつつ本命たるストライダー隊が《デザイア》に接近するまで盾となるのが目的であり、ディアズの部隊はストライダー隊の後方を守る位置におかれている。もしこのまま艦隊が突破されてしまっても最終防衛ラインには第1・第3・第5艦隊の主力艦隊が配置されており、鉄壁の守りを敷いていた。ライオット率いる第11機動中隊はこの防衛艦隊の最先端、というかタスクフォースと防衛艦隊を繋ぐ中継点に置かれて有機的な機動を一任されている。


「まーこんな配置だが、ライオット少佐殿はどう見ますかな?」

「そこまで変なものではないね。ランナーといえど実戦経験皆無の学生達を抱えての戦闘となると、ここの配置が最適解だし、もしその時はディアズの部隊にも救援を求められるからな」

「任せておけ、同期のよしみさ」






「ここって武道場だよね。イーサン先輩はよく来るの?」

「うんにゃ、オレとは無縁もいいとこさ」


 アカデミー内の訓練施設は数多く存在するが、その中でも異彩を放っているのが木造の門構えが入り口として鎮座する武道場だ。地上時代に生まれた武術は一部が失伝してまってはいるが、空中大陸に人類の居が移ってからも多くが継承されている。特に武道での精神修練や独自の哲学といった文化的側面は地上時代からの大事な遺産であり、手厚く保護されていた。

 しかし歴史的意義や格闘技に全く興味は持たないイーサンはもとより、オルゴン教の修道院を兼ねた孤児院で暮らすルーテシアも異文化に触れる機会は少ないので興味ありげに木造建築を眺めていく。そんな彼女にイーサンは不躾な疑問を投げかけた。


「なあルーちゃんよ、ここじゃあ昔あった哲学とか宗教とか教えてるらしいけど、オルゴン教的にはどうなん? 異教はダメって感じかな」

「うーん、そんな事はないと思うよ。基本的なところはこの世界を守ってくれているオルゴンに感謝して、ランナーはその祝福を受けた者として率先して義務を果たすってところだね」

「へーそんなもんなのか。ま、オルゴンを崇め奉るもんだからそこまでガチガチな競技じゃないわな。でもよ、ここで教えられてる奴だとほぼマゾ専用みたいな苦行もあるらしいぜ、とんでもないよな?」

「うへー痛いのはいやだよぉ……」


 静かなエリアと不釣り合いで騒がしい2人は木造の武道場のいくつかを通り過ぎていき、ほぼ四角に仕切られている武道場エリアの真ん中辺りまでやってきて目的に到達する。

 周囲の建物と同じく木製で作られた長方形の建造物が鎮座しており、探しているフィオナ・ミードがよく訓練を行っているという場所だ。イーサンはさっそく中へ飛び込み板張りの床を鳴らしながらずんずんと進んでいくもまるで人の気配がなく、やがて奥へと伸びる長方形な広い空間へと到達する。

 部屋の中心に長い黒髪をまとめた少女が座っており、白いチュニックと裾の広がったズボンという武道場でのユニフォームで身を包んでいる。静かに膝をついている姿勢から流れるよう立ち上がってオルゴンで作り出した弓をつがえると、結晶できた鏃が放たれて最奥に立っていた的の中心を見事に撃ち抜いた。見事な射撃な射撃にイーサンとルーテシアは無意識に手を叩き、射手の少女はいつの間にか居た2人の存在に気付く。


「あら、ここにお客さんが来るなんて珍しい。御二人ともいらっしゃい」

「お邪魔してまーす。ここにフィオナ先輩がいるって聞いたので」

「フィオナに用事があるのね。まだ来てないみたいだし、ゆっくりしていってよ」

「じゃあお言葉に甘えて、オレもいっちょ狙い撃ってみますか!」


 既に撃つ気満々なイーサンはホルスターからフギンを取り出しており、片手で構えながら右腕を真っ直ぐに伸ばして狙いをつけた。安定性に欠ける姿勢であるが的までの距離なら問題なく引き金が弾かれてエナジーボルトが閃光を放ち、ターゲットのド真ん中目掛けて飛んでいって外れることはないだろう。

 しかし当たる瞬間にまるで見えない壁にぶつかったように弾かれていき、光弾は斜め上に飛んでいく。ターゲットの周りにはオルゴンが循環する粒子シールドが貼られていると瞬時に判断してイーサンは続けざまに光弾を撃ち込んでいき、僅かな偏差を付けて放たれた5発のボルトは次々と弾かれていくが最後の1発がそのまま直進してターゲットの中心に大きな風穴を開くのだった。


「お見事! シールドの1点に連続してブラスターを当てて突破させるとは、かなりの手練とお見受けいたしますわ」

「いやいや、ただのブラスター使いさ。結晶生成できたりエフェクト扱えたらこんな小細工は不要だしよ。あーやっぱストライダーの砲撃でブッ飛ばすのが手っ取り早えぜ」

「イーサン先輩、それはダメだよぉ……」

「あら、今日はなんだか賑やかね。カレン、新人でもきたの?」


 いつもは閑静と思われる弓道場が騒がしくなっている事を不思議に思っているだろうフィオナ・ミードが入ってきており、ここの主で射手でもあるカレン・フェイエンに初めて見かけた2人について尋ねている。

 先程の演習場で起こったテクニック連続暴発事件の犯人として学園トップたるヴァルキュリーの称号を持つ彼女を疑っている事でここにイーサンとルーテシアが居る理由であり、しかしイーサンはフィオナへ対して率直に言葉をぶつけていった。


「フィオナ先輩、どうしてテクニック暴発なんかさせたんですか?」

「ちょっ、イーサン先輩!? そんな火の玉ストレートな――」

「ハァ……、君が何を言ってるのかわからないが、確かに暴発事故はあったけど、その犯人が私と言うのかい? そう言うくらいなら証拠ぐらいあるんだろう」

「まあ暴発する時の現場全てに先輩が居たのとコマ送りでなにか動作してたのはわかったんですが、これじゃあ証拠にはなりませんよ。ただ閃光のグリムゲルデと呼ばれる貴方なら、他人のオルゴンに自身のオルゴンを混ぜ込んで妨害するのはお手の物だと思ってね。去年の大決闘祭じゃあエフェクト妨害で完封させてたのは見事でしたぜ」

「そう、君はあれを見てたんだね……」

「ええ、もうバッチリ。だからビデオ越しでも見間違えるなんて有り得ませんよ、オレの目は特別ですんで」


 自らの目を指差して不敵に笑うイーサンを不思議そうにカレンは眺めてルーテシアは頭を抱え、フィオナはじっとの目の前に立つ少年の顔を見つめている。しばし2人の間に不穏な空気が流れるもフィオナの方から視線を外して肩を落とし、自身が負けた事を言外にて示した。


「……言い訳に聞こえるかもしれないけど、動機はあるんだ。今のアカデミーの方針は本当に正しいのかい? まだ実戦も経験した事もない子どもを戦場に駆り立てて、ガレリアと戦わせるのは間違ってる! ……だから色々行動したけど上手くいかなくてね、参加者を傷つけるなんて強硬な手に出たんだ。最低だ……」

「フィオナ……」

「うーん、難しい話はわからんっすけど、ランナーが持つ唯一絶対の権利にして義務は自由に飛ぶこと。それを邪魔する奴はアカデミーだろうが誰であろうが叩き潰すのがオレの方針ですんで、まー先輩だけでそんなに悩まなくていいっすよ。それで今日は色々ありがとうっす」

「まったく、君は噂通りだねイーサン・バートレット君」


 堰を切ったように心の内を告白したフィオナに対してイーサンは自らの持論を告げて、その単純明快にして何も考えてなさそうな突拍子もない発言に呆れを通り越して思わず失笑する。ただ純粋に動機が聞きたかったイーサンはこのまま退散するつもりであったが、ちょうど良いタイミングでこれまたこの場に不釣り合いな軽快なメロディーが鳴り響いた。

 ヴィムの着信を伝えるコール音を聞いてすぐさま左のグローブに目を向けて送れてきたメッセージに目を通す。内容を読みながらイーサンは頭をポリポリと掻きむしりながら、フィオナの方へ振り向きながら告げた。


「あー、なんかシオン生徒会長からメッセージが来ましてね、『オペレーション・フォルトゥーナに参加する全ランナーは今すぐ生徒会室に集合するように!』って。また面倒な事ないといいっすけど」




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