CHAPTER 3-1
ストライダーとはランナーの鎧である。高濃度なオルゴン結晶を生み出せるほどのエネルギーを有しているランナーであるが生身の身体はその力を十分に引き出しているとはいえず、そのエネルギー量と身体能力を最大限にまで引き出す為に機械によるサポートを行う鎧こそが最初のストライダーだった。
技術革新や情勢の変化に合わせてストライダーは更に進化や巨大化を繰り返していき、2人のランナーが操る2機の可変式ストライダーを同調・合体させた“ユナイト仕様”が現行の仕様となる。そしてユナイト仕様の基礎を生み出したのが何を隠そう、クーリェの祖父であるレイジ・バートレットその人だ。
「でもおじいちゃんみたいにストライダーそのものを作るより、プログラムを作るのほうが好きかな。なんというか鍋に煮込んでかき混ぜてる感じみたいで、練れば練るほどいろんな顔を見せるから飽きないの」
「いや、凄いよクーリェちゃん。僕が見てもここの数字なんてわからないもん」
「へっへー当然、なにせアタシは天ッ才少女なんだからね! こうしたプログラム1つで性能がグーンと変わるから覚えててそんはないよー」
広大なアカデミー敷地内に併設されている高等技術院にて千景はプログラム製作をしているクーリェの助手をしている。ここでは専門的な技術者の育成が行われて特にランナーを支援する技術に力を入れており、ソフトウェア類からストライダーのパーツといったハードウェア面や武器装備など多岐に渡っていた。
3日後に超大型ガレリア『ディザスター』との一大決戦を控えてここもストライダーの整備や強化改造など技術面でのサポートに大忙しであり、クーリェが属するプログラム部門もミッション用のプログラム作成に奔走している。ホログラムとにらめっこしている彼女は昼食としてサンドイッチを頬張りながら作業を続けていき、いくつも置かれた資料類の中には手のひらサイズなデータカードも混じってあった。
「こんな忙しい中で頼みごとして悪いね。後回しでもいいんだよ?」
「いいのいいのこんなクレッドスティックの解析なんて朝飯前だよ! 今はお昼ごはんだけど」
モグモグと咀嚼しながらスープを流し込みながらクーリェは作業を続けており、その中に千景がガレリアプラットフォームで遭遇した“ザ・ワールド”より別れ際に言われたクレジットが入っていたカード端末の解析も含まれいたのである。クレジットはコーテックスが価値を保証するデジタル通貨で銀行口座と紐付いたヴィムによる電子決済が主流であるが、金の流れを知られたくない人々や決済用登録が出来ない者達はクレッドスティックと呼ばれるスピッツ管やカードといった形の記憶端末にクレジットのデータを詰め込んで使用していた。
千景が助手をしてるのもこの状況で頼み事をしたのだから少しでも手伝いをというわけだが凄まじい速さでプログラムを組み立てていくクーリェに合わせることは不可能で、できること言えば食事の用意か出来上がったプログラムが入ったデータスティックを纏める事と新しい空スティックを用意するぐらいである。
「1番から9番まで、これはアカデミーからの改良依頼が入ってたやつね。次のスティックを!」
「はい、ただいま!」
「うへぇー、飛びてぇ……」
口元を思いっきりへの字に曲げながらイーサンはボヤいていた。その理由はオペレーション・フォルトゥナに参加するランナーは万全を期すという事で作戦開始まで飛行停止とするお達しがアカデミーから来ているからで、3日間ストライダーに乗れないという事はイーサンにとってかなりの痛手となってしまっている。
午後の実習はシミュレーターかストライダーを使わない白兵戦訓練のどちらかになるのでとりあえず訓練アリーナまで足を運んではいたが、イーサンは手持ち無沙汰にフギンを手のひらの中でクルクルと回しながらアリーナの中央へ視線を向けるとそこにアズライトの姿を見つけた。
「おーアズライトだー。って周りの連中がかなりの勢いでぶっ飛んでる!?」
アズライトを囲うようにオルゴン結晶で出来た武器を手にしたランナー複数名がいるも、ロンググリップより結晶の刃が伸びる長剣でその攻撃を全ていなしていく。腰から下げていたショートグリップを放り投げてブーメランのように手元に戻ってくると、ロングと一列に繋げると伸びていた刃が巨大な結晶の塊へ増大するとその大剣を軽々と振り回して迫るランナーをなぎ倒していった。
スプリットセイバーは長短2本のグリップで構築されていてその2つを組み合わせる事で複数の形態に変化していき、二刀流や大剣からグリップを並行して合わせればしなやかなエネルギーの鞭となり、柄頭同士を合わせると刃のない結晶のロッドにもなる。
「うわっ、あの大剣をよく軽々と振り回せるもんだ。とーちゃんの作ったセイバーもよく使いこなせてるな」
「本当にアズライト先輩、すごいですねー」
「おや、ルーちゃんじゃないか。何か用かい?」
「はい、イーサン先輩の胸をちょっと借りたいと思って」
隣から声が聞こえてアズライトのワンサイドゲームから目を離して頭を動かすと、そこには艷やかな金髪を長い三編みに纏めた後輩の少女であった。ルーテシアも白兵戦訓練に来たようであるが、参加してないでイーサンと同じように手すりに身を預けてアリーナの方へ視線を向けている。
どうもこちらに用事があるようで彼女は右の手のひらを上に向けながらジョウントを発動させると、その上に装飾は多く刻まれた銀色の拳銃が現れた。多くの曲線で構成されて上に突き出たハンマーなど歴史書に載っている原始的な火薬弾丸式の火器に見えて、イーサンも物珍しく見つめる。
「ほーコイツはかなり珍しいなー。こいつはルーちゃんのオルゴン武装になるのかい?」
「うん、銃の扱いならイーサン先輩が一番だからコツを教えてほしいんです」
「いいけどオレが使ってるのはブラスターだからオルゴンの銃の参考になるかどうかは……って銃身が生えた!? しかも6つも!?」
手のひらに収まる拳銃サイズであったがルーテシアが銃身を撫でるとそこからオルゴンで出来たバレルやストックが伸びていき、やがて中心の1本の周りに6本の銃身を持つ回転式ブラスターに似た形状へと変わり、生成されてた部分にも複雑なエングレーブが刻まれていた。
小ぶりな拳銃から複雑怪奇な長銃へ変わった事に面食らうも、これもオルゴンによる刃を形成させるスプリットセイバーと同じ原理となる。ランナーはオルゴン結晶をいつでもどんな形状にも変化させて武器を作る事ができるが、その過程を簡略化させるのにある程度作りたい武器の一部を持つことが多く、更に内部へ補助機構を詰め込んで握るだけで刃を出したり配置を変えての多彩な形状変化を可能にしたのがスプリットセイバーだ。
「こいつは面白え武器だ! じーちゃんやとーちゃんが見たら喜びそうだぜ。じゃあ早速射撃場へいこうか」
「はい、イーサン先輩よろしくお願いしまーす!」
アリーナの地下区画にも複数の訓練施設が併設されており、射撃場も置かれているがブラスターの訓練というよりはオルゴンエネルギーの遠距離投射術―エフェクト―の訓練用とし使われている。ルーテシアが風を操ったようにエフェクトは単なるエネルギー放出だけでなく擬似的な自然現象の再現も可能なので、時として有害な物質が不意に出来てしまう危険性を考慮して正方形の施設は床も壁も天井もかなり頑丈に作られていた。
色とりどりの光弾が行き交いそれなりの数のランナーがエフェクトの発射訓練をしていて誤射を防ぐように一部の床が競り上がって分厚い間仕切りを構築しており、2人は端に位置するブロックに移動すると標的となる浮遊ターゲットを上に向けて飛び立たせていく。
「これで準備オッケーだね、よろしく先輩!」
「任せな! ま、どこまで参考になるかわからねぇけど……なッ!」
ターゲットが全て位置についたところで訓練開始としてルーテシアから期待の視線を向けられて居心地が悪く感じながらも、イーサンはジョウントで黒塗りの角張ったライフルを手元に召喚して素早く構えた。瞬く間に放たれた3発の光弾はほぼ同時にターゲットの中心を射抜いてポッドはゆっくりと地面へ下降していき、その早業にルーテシアが感嘆の声を上げている。
オルゴン結晶の生成は出来ないが反射速度などの感覚系を向上させるサイトロンの生成に特化したイーサンは集中すれば周囲の速度がゆっくりと感じられる超感覚を備えており、ブラスターを愛用しているのも相性が良いからだ。尤もこの超感覚はストライダーの搭乗時に最大の力を発揮するものなので、当人からすれば生身で戦う事自体が無駄なものである。
「イーサン先輩、すごい早撃ち! さっすがガンマン!」
「おうよ! まっ、オレは感覚が鋭いからこんなもんさ。さ、ルーちゃんもそのゴッツイやつを思いっきりぶっ放してみな!」
「うん、いっくよ~!!」
緑色と銀色が混ざる6つの銃身に左手を添えて肩に当てたストックと共に銃を固定し、片膝を地面に付けてサイトを覗けるよう顔を寄せたルーテシアは深く息を吸って意識を集中させた。空中に浮かぶターゲットを狙い済まし、そして目を見開いてトリガーが右の人差し指によって引かれる。
轟音とともに中心の銃口から風を纏った緑色の結晶が撃ち出されていき、続いて周囲の銃口からもオルゴン弾が放たれた。適正がある風への変換も行われて音速を遥かに超えた7連射に期待以上のド派手さにイーサンは感動を覚え、撃たれたポッドは力なく落ちてきた。
「スゲーぞ、こいつは! 超音速ソニックオルゴン弾を7連射とはとんでもねえ。あとは前段命中してれば文句なしだったけどな」
「また1発しか当たらなかった……。うぅ、シスターみたいに上手くなるにはまだまだ遠い……」
「シスターってルーちゃんとこの孤児院の人? その人もランナーなのかい」
「うん、もともとこの銃も教会から貰って現役時代に使ってたんだって。それを引き継いだからにはあたしも頑張らないと!」
一発しか当たらず手足を床に付けて項垂れるルーテシアを慰めつつ、イーサンはマスケット銃を手にとって改めて検分していく。これはオルゴン教会が作ったオルゴン武装のようで先代のシスターからルーテシアへ引き継がれていき、本来なら個々人に合わせて作るものだがちょっと手にしてもわかるようにかなり高度な職人技が感じられた。
オルゴンを祀りランナーを支援することを惜しまないオルゴン教会だからこそ出来る高品質な武装であり、それに見合うようルーテシアも努力している。うだうだとくだを巻いているよりも先輩として一肌脱ごうとイーサンは落ちたターゲットポッドを再起動し直してながらマスケット銃をルーテシアへ返却した。
「よっし、そういう事ならとことん付き合うぜ。狙撃が苦手なら乱射制圧もいいし早撃ちだってある。まずはどんな適正があるか見ていかねえとな」
「ありがとう、イーサン先輩! あたしいっぱいいっぱい撃っちゃいます!」
「ヘヘッ、その意気だ。じゃあまずはあの的からブチ抜いていこうか!」
両手を胸の前で構えて意気込むルーテシアに負けじとイーサンもライフルを構え直すと、前方に浮かぶターゲットへ向けて次弾を向けていく。




