CHAPTER 3 プロローグ
「こちら第7観測班、依然目標は侵攻中。ポイント736への到達は誤差3カウント以内と予測できます」
『了解した。予定通り300カウント後に攻撃を開始する。引き続き観測を継続せよ』
雷鳴を湛えた暗雲がいくつも立ち込めるここは空中大陸とそれを包むように存在するオルゴン領域から離れた圏外圏、特にガレリアが生み出される超空間ゲート方面に向いた航路図が存在しない未知空域と言える場所である。そんな未踏査の空域を横切るように巨大な積乱雲がゆっくりと通り過ぎていくが、それは気象現象などではなかった。
超大型級ガレリア。そうとしか形容できない真っ黒な塊は縦横ともに数十キロはくだらない大きさで、球体と菱形が上下で繋がったような歪な形をしている。これ程にまで巨大なのだから人類側の監視網に引っ掛かるのも早く、正規軍の第5艦隊がオルゴン領域への到達前に殲滅するために動いていた。
「来たな。ディストラクター運搬専用輸送機『アルバトロス』25機、こんな大編隊は初めて見るな……。被害範囲からは離れているな?」
「はい、影響範囲から既に10キロ以上離れています。残りカウント100ですが、他の観測班も退避済みと連絡が入ってます」
まるでブーメランのような形状をした全翼型リグの大編隊が頭上を飛んでいき、その船体の下方には大型ミサイルが4発分吊るされている。それこそ今回の作戦の要となるであり、この超大型ガレリアを殲滅する為に半径5キロ圏内を完全に滅却できるクラスAディストラクター100発による絨毯爆撃が行われるのだ。
ガレリアの動向を探っていた観測班は既に後方へ下がって一番最前線にいる第7観測班も影響範囲から遠くに位置しており、攻撃準備に入ったアルバトロスの背中を眺めている。通信員がカウントの読み上げを始めて爆撃開始時刻が近づいていき、残り1桁となったところでディストラクターの推進機が炎を上げて0と同時に第一陣となる25発が同時に発射された。
「対ショック及び対閃光防御作動中。いま着弾を確認しました!」
「凄まじい光景だな……。まるで世界の終わりみたいだ」
もう一つの太陽が生まれたかのような強烈な閃光が轟き、遅れて爆風と押し出された空気が一気に吹き荒れる。幸い観測機を今回の作戦に合わせて防護が施されて爆心地からの距離もあって少し揺れる程度であるが、浮かび上がる巨大な火球には誰もが息を呑んだ。
第1射により生まれた小さな太陽が消えぬうちに第2射が発射されて再び強烈な閃光が迸り、破壊の光芒と暴風が駆け抜ける。その超大型ミサイルは更に放たれた事により巨大な火球は空に10分以上もの間に存在し続け、その熱量と破壊力の前に耐えきれる存在など無いと誰もがそう思っていた。
「火球が薄らいでいきます。もう少しでセンサーや目視でも観測できますが、ここまでされたら跡形もありませんよ」
「フッ、そうだな。それで観測は――」
「そ、それが、目標は依然健在ッ!! 全くの無傷です!」
「なんだと!? クラスAのディストラクターを100発も受けたんだぞ!?」
火の玉が消えていくとその代わりに黒い球体が姿を表し、それが攻撃目標であった超大型ガレリアだとわかる。外観から損傷は確認できず攻撃手段を失っている爆撃隊は慌てて踵を返し、観測班はガレリアの測定など忘れてただ呆然としていた。
大量破壊兵器による絨毯爆撃すら意に介さない巨大なガレリアはそんな人間達の有様などお構いなく、悠々とオルゴン領域へ入り込み人類を守護する聖域への侵攻を果たす。
「ふぅー、今回も色々あったみたいだが、皆無事で何よりだ……」
プライベーティア『デアデビル』の事務所にて日向は溜まりに溜まっていた事務仕事を片付けながら、今回も依頼を受けて飛んでいるイーサン達から短いメッセージを受け取っていた。なんでもプラットフォーム探索中に特殊ガレリアの乱入してきて一悶着あったがしっかり元凶を倒して帰還中とのことであるが、部隊を率いていた巡航艦が大破してしまったので戻るにはまだ時間がかかるらしい。
またしても厄介事に巻き込まれてしまったがとにかく無事な事に安堵して、主にネクサスの整備にかかった費用が記載された出納帳に目を通した。あまり桁違いな数値に頭を抱えながらも最大の難物をなんとか片付けて一息つくと、ちょうど来客があり黒いセーラー服姿の少女が入口辺りから顔を覗かせている。
「いらっしゃい、ウィンストールさん。済まないがまだイーサン君たちは帰ってきてなくてね。とりあえずお茶でいいかな」
「お気になさらず、ここで待つので」
顔を見えたのはアカデミーの生徒会長でイーサンの幼馴染でもあるクラリッサで、日向が彼女と対面するのは初めてアカデミーを訪れた時以来だ。こうして2人だけで話し合うのは今までなかったのでお互いぎこちなく、入口近くの椅子にちょこんと座るクラリッサへ日向はイーサンがストックしてあったティーパックから濾した紅茶を差し出す。
自分で育てたハーブと茶葉と合わせたブレンド紅茶を作ったり植木鉢で草花を育てたりするのがイーサンの趣味だと聞いて意外なものと驚かされたが、おかげで作業の合間の飲み物には困らず昔馴染みであるクラリッサも親しんでいるもののようだ。カップを手にしながら目線を先程片付けた帳簿が載っているディスプレイへ持っていき、日向の仕事を労う。
「御堂一尉、おかげでデアデビルがしっかり回ってます。イーサンの管理は難しいと思いますが、どうかこれからもよろしくお願いします」
「いやいや、こちらこそゲネシスでの生活では頼りっぱなしだよ。それに千景くんやアズライトくんがしっかりフォローしてくれてるおかげさ」
「ただいまー! ってクラリッサも来てたのか?」
イーサンの破天荒さに振り回されていたのか眉間にシワを寄せる仕草を見せるクラリッサに思わず笑みが漏らし、そこへ件の張本人が外で散々遊ぼ回った子どものように帰ってきた。後ろではアズライトが3機のストライダーをドッグ入りさせており、ネクサスは今回も無茶な機動でオーバーホールが必要な気配にまた帳簿との睨み合いが始まるなと頭を押させる。
デアデビルのメンバーが皆が事務所に集まったところで注目を集めるようにクラリッサがすくっと立ち上がり、円形の机の真ん中へ形態式のホログラム投影機を滑らした。そこに浮かび上がる映像は大艦隊と戦うこれまた巨大なガレリアの姿であり、率直言うと現実味が薄い荒唐無稽な姿だった。
「おいおいおい、キロ単位でありそうじゃねえか! こんなバカでかいガレリアなんてありえんのかよ?」
「うん、第5艦隊によるディストラクター殲滅を免れて今もこっちに向かって侵攻中。コードネーム『ディザスター』―この超大型ガレリア迎撃作戦『オペレーション・フォルトゥナ』がたった今発令されたの」
またしても大波乱がやってくると誰もが表情を固くしていく。その中でイーサンだけは口角を上げて不敵な笑みを浮かべていた。




