CHAPTER 2-15
『クラウドの濃度が爆発的に急上昇しています! こんな事が有り得るなんて!?』
『小癪な! 最期の悪足掻きに過ぎん、全砲門を開いて一気に片を付けるぞ!』
「おいおい、射線上にはオレがいるんだぜ? ま、構いはしねえけどな!」
まるで蒼穹に浮かぶ一点の黒点の如く肉体を構築させるクラウドを濃縮させていくガレリアは怪しげな脈動を繰り返しており、何か行動を起こされる前に潰す事を意図して巡航艦は全ての砲口を向ける。その射線上には同じくガレリアへ向かっているネクサスもお構いなしに砲撃する気なのだが、全部避け切れる自信があるイーサンは気にすることはなかった。
まばゆい光とともに燐光の嚆矢が無数に撃ち出されて球体のガレリアへ向けて放たれ、ネクサスは後方から迫る砲撃をすいすいと避けながらそのまま近づいていく。巡航艦に主砲は矢継ぎ早に放たれて小さい目標ながら殆どが命中していくが、イーサンが目視で着弾を確認できた部分ではダメージを見つけることは出来なかった。
「23センチオルゴンレーザーをざっと10ダース受けて無傷とは……。ならゼロ距離からブチ込む事に限るぜ!」
遠距離攻撃では効果が薄いと感じたのか巡航艦の砲撃は止み、代わりにストライダーの編隊が次々とガレリアに向かっていきその最前線にはネクサスが飛んでいく。ミサイルの射程に入ったので挨拶代わりに撃ち込むがまるで見えない壁に当たったように虚空で爆発してしまい、レーザーも物理兵装も通用しないようだ。
なら高出力のチャージレーザーを至近距離から叩き込むか機首エナジーフィールドを全開にして突っ込むのが有効だとイーサンは考えていたが、それよりも早くガレリアが動き出す。球体状から鋭角のような棘がいくつも伸びた星型がいくつも重なった形状へと変わり、中心に浮かぶ小さな星型が高速回転し始めるのだった。
「まだ隠し玉があるってか!」
『何をする気だ……、高エネルギー反応!? 各機ブレイクだ!』
中心点より何かが集束されているのが確認できたのと同時に高いエネルギーが発生していることを知らせるアラームがコックピット内に響き渡り、間髪入れずにガレリアから高出力なエネルギー波が放たれる。目に見えるレーザーの直径は10メートルほどであるがエネルギーの余波による加害距離はその5倍にも及んでおり、先頭をいくイーサンは機首を90度下に向けた急降下でギリギリで回避した。
後続のストライダー達もなんとか散開して避けていくのだがネクサスと同じように膨大なエネルギーに煽られてしまい、まっすぐ伸びっていた光芒は巡航艦の下方を掠めて更に後方にあったプラットフォームの残骸すら貫き通す。
『くっ、被害状況を知らせろ!』
『下部エンジンブロック被弾! 推力低下してますが、航行には問題ありません! ただ救出部隊との通信途絶し、向こうの被害状況は不明です!』
『すぐに反撃開始――なんだ!?』
「チっ、今度は範囲攻撃かよ!」
集束されたレーザーが止まったと思ったら中心の星型は更に高速で回転し始めて、雨霰の如く数百もの細く小さなレーザーを放ってきた。狙いをつけて撃っているわけでないが圧倒的な弾幕で近づけるのは至難の業で散開していたストライダーは編隊を編成し直す間もなく散り散りになっていく。
小型で高速で動けるストライダーはなんとか避けてはいるが艦艇は避けることが出来ず、レーザーの暴威を真正面から受け止めるしかなかった。揚陸艦はプラットフォーム残骸の後方に隠れているのでなんとか凌げてはいるが、巡航艦の方はシールドを張っていたが耐えきれず被弾した各所から火が吹き出ていく。
『メインジェネレーター出力低下、損傷率70%を超えました! これ以上は持ちません!』
『仕方ない、艦を放棄する! ストライダー隊、退避の支援を頼む』
『了解、っと言いたいとこですが、この状態ではなかなかキツいですな。編隊を組み直せ、フラフラしてると蜂の巣にされちまうぞ!』
「これじゃあジリ貧だな……。じゃあ、いっちょ一肌脱ぎますか!」
矢継ぎ早に行われるガレリアからの攻撃に部隊は右往左往して反撃もままならぬ状態であり、沈みゆく巡航艦からの脱出を支援するべくイーサンはネクサス急上昇させながら浮かぶ黒点へ向けて大型対艦ミサイルを撃ち込んだ。残っていた最後の1発は真っ直ぐに伸びてガレリアもそれに気付いて迎撃のレーザーを浴びせてくるが、より高速なマイクロミサイルもばら撒いて相殺させて対艦ミサイルを守り抜く。
中心点に撃ち込める段階になってガレリアは星型がいくつも重なった姿から元の球体へと姿を戻し強固なシールドを張り直し、対艦ミサイルは見えない壁に阻まれて直撃することなく爆散してしまった。お返しと言わんばかりに鋭角なフォルムへ姿を変えると今度はネクサスを狙い撃つかのようにレーザーを集束させてくる。
「食い付いたか、どんどん来やがれ! それに攻撃と防御は一緒に出来ないってとこだなガレリアさんよぉ!」
針のように細く鋭い黒いレーザーが狙いすまされて降り注ぐ中を縦横無尽で隙間を縫うようにネクサスは飛んでいき、とりあえず友軍は射程外になったので立て直しに専念できるだろう。攻撃中はコアが剥き出しなのでチャンスだがそれにはこの濃密な弾幕を突っ切る必要があり、防護スクリーンを発生させられたらネクサスの兵装はどれも通じなさそうでうまい攻撃方法が思いつかずにいた。
その時、ガレリアに向かって三日月状のオルゴンエネルギーの塊が飛んでいき、レーザーの雨霰が一旦止んで防御形態へシフトしてガレリアは防ぎ切る。光波が飛んできた先を確認すると燐光を放つ純白のストライダーがオルゴン結晶の剣を携えており、続けざまに光波を放ちながら純白のストライダー―レーヴァテイン―がネクサスの近くまで飛んできた。
「アズライト、無事だったか!」
「無事だったかじゃないわよ、コアを壊して脱出できたと思ったらいきなりアンタがガレリアとやりあってるじゃない!」
「そう言いながらもすぐに来てくれるのは有り難いぜ。さ、ちゃっちゃと片付けちまおうぜ!」
「ええ、一気にいくわよ!」
防御シフトから攻撃シフトへ切り替わったガレリアが再び容赦のない弾幕を放ってくるが、ネクサスとレーヴァテインも細やかな動きでくぐり抜けながらガレリアへ接敵していく。ミサイルと光波ブレードを同時に放ち、砲撃の間隙を突いたその一撃は五方へ伸びるガレリアのうち一方を切り落とした。
まるで鮮血のように黒い靄を斬られた箇所から噴き出して空を黒く染めていくが、それらはまるで針のよう鋭く伸びると向かってくるストライダーへ降り注ぐ。しかも今度は撃ちっぱなしではなくこちらをどこまでも追尾してくるとんでもない代物だった。
「まだまだ隠し玉があるとはな、このガレリアとんだ根性してるぜ!」
「感心してないで撃ち落として! オルゴンで相殺は可能よ。それに向こうも相当無茶した大技みたいね、5つあった角がもう残り2つまで減ってるわ」
「ならこのまま逃げて消耗させるか――って、んなわけねえだろ!」
追尾ミサイルに対してレーヴァテインは光波を浴びせてネクサスは旋回砲を後ろに向けて撃ち落としていきながら、アズライトはガレリアの形状変化から消耗状態であることを見抜く。いくら凶暴で非常識な特殊ガレリアであっても自身を構築するクラウドを出し続ければいつかは必ず尽きるのは当然で、こちらへの対処はミサイルだけに任せて本体が砲撃してくる様子はなかった。
このまま飛び続けて持久戦に持ち込めばじきにガレリアは自然消滅するだろう。しかしそんな事を待つ2人などでなく、イーサンはエンジン全開で突っ込んでアズライトもそれについていく。
「同感! ユナイトして真っ二つにしてやるわ!」
「あぁ、そうこねえとな!!」
ミサイルのほとんどを落とされて近付てくるストライダーを感知してガレリアは砲撃を再開して局所的ながら濃密な弾幕が瞬く間に構築され、その中でありながらネクサスとレーヴァテインはお構いなしにユナイト状態へ移行した。
高いシンクロ率による相乗効果で溢れ出すオルゴンがガレリアの攻撃を打ち消してその勢いのまま、アルビレオは両腕に握ったウイングブレードを突き出して向かっていく。ガレリアも攻撃から防御へ切り替えてスクリーンを展開していくが、完全に閉じきる直前にブレードの先端が滑り込んだ。
「ようやく捕まえたぜ! 出力最大だ、ぶちかましてやれええええ!!」
「言われなくても! これで、トドメ!」
どうにか閉じようと左右から凄まじい力で挟み込まれているが、2人のランナーの共鳴によるオルゴン増幅がアルビレオのジェネレーターを最高に稼働させ、膨大なエネルギーがブレードへと集中していく。アズライトの一言とともにオルゴン結晶の刃が真っ直ぐに伸びて、閉じかけたスクリーンを無理やり引き裂いた。
それは同時にガレリアのコアにまで到達しており、横薙ぎに真っ二つ斬り裂かれたガレリアは断末魔を上げること無くゆらゆらと空中を漂うと溶けるように消えていく。一瞬の静寂の後、無線機の向こうから割れんばかりの喝采が鳴り響いた。
「ふぅ、これでどうにか終わったようね……」
「いやー今日もたっぷり飛べたぜ。オレは大満足だったぜ!」
「もう、これだから飛行バカは。ま、私も言えた義理じゃないけどね」
「本当にワールドさんの言う通りだ。プラットフォームの崩壊が始まってる……」
スターファイターもコックピットで待機している千景はいつでも飛び立てる準備をしており、そのように助言していたザ・ワールドの言っていた通りにプラットフォームを構成していたガレリアは崩壊を始めている。
壁に埋め込まれていた翼端も既に解放されていて天井も裂け目が広がっていき、上に向けて飛べるほどの隙間が開いていた。スターファイターは浮かび上がってゆっくりと上昇していくが、同時に通信が入ってきて送信主がワールドと確認する。
『やあ、千景君。無事に脱出できそうかい、こちらはなんとかいけそうだ』
「はい、大丈夫です。なにかあったんですか?」
『いや、一つだけ伝え忘れていたことがあってな。君は確かソレスシティのスラム街でゴタゴタに巻き込まれたそうじゃないか?』
ワールドが何故ソレスシティで依頼を受けた先でサイボーグ少女と遭遇した事を知っていたのは謎だが彼の情報収集力の高さが理由だろうと納得し、その事を肯定するとワールドはホロデータを一緒に送ってきた。
そこに移るのは板状の装置で千景は見覚えがあり、それはサイボーグ少女に殺されてしまった謎の男が持っていたクレジット通貨のデータが入っていたカードである。
「確かにこのカードはイーサンが回収してましたが、なにかあるんですか?」
『ああ、これは我らと君等がおっている連中に繋がる代物なんだ。その中を調べてみると何か手掛かりが見つかるかもしれない。それじゃあ気を付けて脱出してくれよ』
「はい、そちらもお気をつけて」
そこで通信が切れて上昇していたスターファイターはプラットフォーム上空に出ており、エンジンに火を入れて飛びながら仲間との合流を目指す。ちょうど脱出してきたストライダーはいくつも飛んでおり、小型のリグの揚陸艦の周りに集まっているのが見えた。
そんな集まりから少し離れたところを白と黒のストライダーは並んで飛んでいてスターファイターはそれを目指して加速していき、2機も近づいてきて通信機から嬉しそうな声は響く。
「千景! 無事で何よりだぜ!」
「うん、2人も元気そうだね。なにかあったの?」
「まぁね。今日は疲れたし早く帰りましょう」




