CHAPTER 2-12
『ガレリアの反応、いまも増大中! とんでもない数です、このままだと周りを囲まれてしまいます!』
『狼狽えるな、砲塔の全てを外に向けろ! 狙いはつけずにいい、これなら撃てば必ず当たるぞ!』
「へーあの艦長さん、思いっきりがいいじゃないの。よっしゃ、こっちも一働きといきますかッ!」
プラットフォームより離岸した強襲揚陸艦ゼノンであったが、その直上から前後左右までガレリアに囲まれている危機的状況は続いており情報を伝えるオペレーターから悲鳴に近い声で報告が上がっている。そんな中でも艦長は激励するように声を張り上げながら支持を出していき、言葉通りに全方位へ向けられた火砲や対空砲にミサイル発射管が一斉に火を吹いて近づくガレリアに攻撃を仕掛けていった。
その様子を直上で眺めながら通信を聞いていたイーサンも操縦桿を大きく倒して、ロールしながら降下してガレリアの中へ突っ込む。無数に飛び回る小型種ガレリアに加えて狙いがつけられず飛び交う砲撃が四方八方から降り注ぐ中をスピードを緩めことなく垂直に落下していき、機体側面の2門のレーザー機銃が唸りを上げて眼前に見えてきた編隊を蜂の巣にして撃ち落とした。
「まずはおひとつッ! おっと、お友達がわんさかやってきやがったぜ! だが今更遅いッ!」
縦横無尽に飛び回るネクサスに対する脅威度を改めてか、鋭角な猛禽類を思わせる鳥型ガレリアと菱形の機首を持つ矢じりのようなガレリアによる編隊が次々と迫ってくる。レーザーとミサイルにそして尖った機首による突撃を武器とするアローヘッドが牽制と誘導を行い、制空戦において主力となる鳥型のスカベンジャーをサポートする小隊編成はよくみるものだった。
ありきたりの編隊で来るとはなめられたものだとイーサンは鼻を鳴らし、ネクサスのエンジンを全開にして急加速していく。アローヘッドが機首からレーザーやミサイルを生成して放ちながら追いかけてきて、誘うようにわざとらしく機体を振りながらガレリアの編隊とゼノンの弾幕が入り乱れた空域へまっすぐに突撃した。機体のすぐそこを光弾が掠めて目の前に飛び出してきた爆ぜたガレリアの残骸を紙一重で避けながら弾幕エリアを抜けていけば、アローヘッドは全て破壊されてか黒い灰のような残骸しか残さず、しかし回り込んでいたであろうスカベンジャーが爪を立てながら真正面にいた。
「チキンレースだ、ビビった方が負けって奴よッ!」
避けるどころが更に加速してスカベンジャーへ向かって突っ込んでいき、向こうも避ける気は毛頭ないようでレーザーとミサイルを無茶苦茶に放ちながら下肢から爪を大きく尖らせる。そしてネクサスとスカベンジャーが正面衝突する寸前、イーサンは操縦系統の全てを停止させた。大きく機首を下げて機体は失速してガレリアが迫るも、吹き荒れるソニックブームに押されてネクサスはまるで木の葉のように舞いながらスカベンジャーの横をすり抜けていく。
その瞬間を見逃さずイーサンは姿勢制御とFCSのみを立ち上げてすぐさま攻撃態勢に移り、ロックオンと同時に機首を左右分割式に開いて最大火力を撃ち放つ。事前に溜めておいたチャージショットが照射ビームとしてスカベンジャーを覆い隠し、高密度なオルゴンエネルギーを数秒間受け続けたガレリアは跡形もなく消失していた。
「よっしゃ、まだまだ行けるぜ! この程度で終わりじゃねえだろうなッ!」
『まったく相変わらず無茶苦茶な男だな、デアデビル。ガレリアの分厚いクラウドもお前を止めきれないか』
「なんだなんだ、今更登場とか重役出勤かー。もうオレが全部倒すとこだったぞ」
『そいつは実に残念だ。こちらもクラウドには苦戦したが誰かさんが無理矢理突破したおかげで、薄くなっている突入点を作れたがな』
ネクサスがガレリアの編隊を叩き潰したのと同じく降り注ぐミサイルの雨とそれに続いていくつものストライダーが単縦陣を組みながら舞い降りてきており、後続の機体も続々と重く垂れ込む暗雲を突破してきている。ガレリアの群れから距離を取りながらミサイルを放つ者や敵編隊に突撃してはレーザーを浴びせて即離脱する一撃離脱戦法を行う者など、ランナー達はそれぞれ得意な戦法で膨大なガレリアへ数の上での不利を思わせぬ猛攻を仕掛けていった。
突入部隊第一陣を率いているランナーはイーサンとも協同経験のあるプライベーティアに属しており、その無謀に等しい飛び方に呆れつつも反撃の突破口を開いたことへの感謝を示す。相変わらず大言壮語を叩きながらネクサスはスピードも攻撃も緩めることなく次々とガレリアを屠っており、その言葉は誇張であっても決して虚言とは思わせなかった。
「ところで中への突入はまだできねえのか? そろそろアズライトや千景を迎えに行きたいんだが」
『周りを見ろ、敵が多すぎて下手に突入したら後から撃たれるし、脱出できたところで蜂の巣にされるのが関の山だ。まずは逃げ道を確保しておく、それに突入した奴らは精強揃いだ。お前のお仲間もそうだろう?』
「あったりまえよ! あいつらならきっと中のガレリア全部ブッ倒して出てくるに決まってらぁ!」
『やれやれ、お前みたいな奴は1人で十分なんだがな……』
まるで生きているかのように膨張と収縮を繰り返すガレリアプラットフォームを見下ろしながらイーサンは中にいる仲間に気を向けつつ、ランナーに言われた通り脱出した際の安全確保するため外のガレリアを排除することに専念する。共に空をゆく千景とアズライトならこんなとこでやられるはずはないと、2人の強さに信頼を置いていて何よりただじゃ転ばない奴らだと信じているからだ。
「アズライトさん、無茶です! コアを破壊するなんて!? 今は仲間との合流を目指しましょう!」
「嫌なら付いてこなくていいのよ。合流しようにもこんなじゃ埒が明かないから、無理矢理でも切り開いていくべきだわ!」
狭くて気味悪く脈動している黒に染まったプラットフォームの通路を燐光による残像を残しながら、レーヴァテインが突き進む。目的地はガレリアの集合体を纏め上げるコアブロックであり、その場所はクラウドの濃密さから大体の位置は把握できた。しかしその道中まですんなりと通してくれるはずもなく、壁と一体化しているガレリアが触腕や壁などに変化しながら妨害を繰り返している。
目の前に立ち塞がるガレリアの一切を両腕に握ったレーザーブレードで斬り裂きながら、コアへの最短ルートを無理矢理開きながらレーヴァテインは駆け抜けていった。その後方からニコルがあまりに無謀だと止めようとするがアズライトも承知していた上で動いているので、結局前に立つ少女のサポートしていくようになる。
「ここでアズライトさんを1人にしておけるわけないじゃないですか。あ、前から自動砲台4つ来ます!」
「ありがとう、ならさっさと抜けるわよ!」
天井から伸びる砲台より打ち出される爆発性エネルギー弾を回避して一気に踏み込みながら斬り裂き、残っていた放題もレーヴァテインを影にして近づいていたニコルのカレットヴルフの銃撃で狙い打たれて沈黙した。狭く曲がりくねった道がずっと続いていたが、ようやくゴールが見えてきてアズライトは一気に飛び出していく。
その先に広がっていたのはプラットフォームの中とは思えない幻想的な空間で、淡い青の光が壁面や天井から漏れ出していて構造物の全てがガラスのような透明感のある結晶で出来ていた。見惚れてしまいそうな光景であるが結晶に詰まっているのはガレリアクラウドであり、それらが血液のようにプラットフォーム全体へ行き渡るよう次々と送り出されていく。
「ここが中心、さしづめ奴らの心臓ってとこね」
「こうな風になっていたのか……。ガレリアにはまだまだ謎が多いですね」
「1000年付き合ってこれだもんね。さぁ、コアは近いわ。このガラスの奥に――なッ!?」
コアの反応が結晶の間の先にあることをセンサーが捉えて、そのさきへ進もうとした途端。周囲のガラスが全てひび割れ砕け散りながら、その破片が降り注いできた。
「ワールドさん、これは一体……?」
「見ての通り、君らがアモルファスと呼ばれる特殊ガレリアが通常種のガレリアを取り込んでいるんだ。ああなってしまったら最後、ガレリアは全てを喰らい尽くす暴威と化す」
ガレリアがガレリアを食らっているというおぞましい光景を前にして千景はしばしの間言葉を失ってしまっていたが、おそるおそる目を話して傍らにいる“ザ・ワールド”へ尋ねる。先程までまとっていた道化師の仮面を外して世界への反抗を行うレジスタンスの首魁としての顔を浮かべながら、ワールドは目の前の壁を睨みつけながら言葉を続けた。
地上を覆い隠し人類から地上を奪ったガレリアであるが空中大陸に人類の生活圏が移ってからオルゴンによる守護がるあとはいえ、その侵攻速度は地上のそれと比べて緩慢と呼ぶにはおこがましいほどに1000年もの時間が過ぎ去っている。なので10年前に起きた大侵攻“暗黒星”事件はあまりに予想外の出来事であり、それまでガレリアが空中大陸にまでやってくることはないと信じられていた。
「私は確信している、暴威状態のガレリアは“暗黒星”事件は非常に酷似している。そしてそれを引き起こした黒幕がな」
「く、黒幕ってそんなのが……。もしかして“ハンター”ですか?」
「“ハンター”か、奴はただの実行役に過ぎないだろう、我々の重要目標であることには変わらないが。我々の本当の目的は特殊ガレリアとそれを使役する存在の正体を暴きの根絶させることだ」
地球とゲネシスを繋ぐ事となって千景の父を始めとした多くの人命を奪ったあの大事件が何者かの手によって引き起こされたと聞いて、千景を衝撃を覚えて頭を揺さぶられたような感覚に襲われる。同時にアモルファスを撒き散らしてグリフォンズのデルタチームを壊滅させ、千景自身もその並外れた機動に翻弄されたストライダーを思い浮かべるも、ワールドはそれほどの相手なのだがワールドは単なる尖兵に過ぎないと断言した。
特殊ガレリアを生み出してあれほど強力なランナーを従わせる存在を隠蔽する秘密組織など、傍から聞けば陰謀論か三流ゴシップ記事の隅に載る与太話にしか思えないだろう。しかし真剣に語るワールドの表情と声色からそれが虚構だとは千景には到底思えず、事実彼はそのために戦っていると感じさせる。だがここで1つ疑問が湧いてきた。
「それじゃあワールドさんは特殊ガレリアを追ってるんですよね。じゃあなんでスウープを使って正規軍を妨害するような事を?」
「うむ、真の目的を悟られないようにするためだ。それに私の見立てでは連中はコーテックスの内部に根を張っていると思ってな、ある程度の阻害にはなるだろう」
「そうでしたか、でもそれはとばっちりなんじゃないですか」
「そうだな、千景君の言う通りだ。だがうちの若い衆はコーテックスに不満を持ってる者が多いからあまり止めるわけにいかなくて……。現場の兵士たちには悪いことをしている」
「本当ですか? 結構ノリノリに見えてんですが」
表向きにしている大々的な妨害行為はどうもパフォーマンスの一環らしく本人も乗り気でない雰囲気を出しているが、動画で見た感じはどうも一番気合が入っているのはワールドだと千景には思える。そんな彼の批判めいたジットリとした視線を向けられ、否定するようにただただ首を横に振り続けた。
既に特殊ガレリアは通り過ぎてしまったのか小さな通り道の向こうには何も居らず、ただ食い散らかされたガレリアの残骸がいくつか転がっているだけである。脅威度のある存在がいなくなった事を確認したワールドはすぐに移動しようとそそくさ立ち上がり、コレ以上の追求は無意味ということで千景もそれに従ってついていくのだった。




