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CHAPTER 2-10

「やっぱ気味が悪いわね、ガレリアの中ってのは……」


 真っ黒に染まって無秩序に膨らんだかのように隆起した壁面が作り出す丸い通路をアズライトの駆るレーヴァテインが進んでいく。元々はリグ航行用に作られた通路や搬入口と思われるのだが、ここまで変容しているとまるで巨大な生物の内部へ分け入っているように感じていた。そんな通路が迷路の如く入り組んでいてストライダーも1機がなんとか通れる程度の狭さなのだが、メインシャフトと思われるエリアは広い空洞になっていたのでここを拠点に各通路へ進入することとなっている。

 アカデミー生には正規軍ランナーやベテランプライベーティア達が付いて3機から4機ほどのチームとして内部へ突入していくのだが、アズライトはベテランのサポートは不要ということでオペレーターの指示に従いながら近隣の通路を進むランナーと交信しながら単独行動となった。


『ジュネットさん、協同できて光栄です。もしもの時はよろしくお願いしますよ『ロスヴァイセ』』

「あら、ニコルだって『オルトリンデ』じゃない。それに私よりこういった活動得意なはずでしょ?」


 隣の区画を進んでいるのは同級生でニコル・ローゼンバーグで同じく『ヴァルキュリー』の称号を持っている彼も当然呼ばれており、イーサン程ではないが広い場所での空戦を好むアズライトよりもこうした調査活動に多く参加している。まさに優等生的オールラウンダーということで色々と特化型な集まりであるデアデビルとは対極なので、今回は頼りになる人材というわけだ。

 とはいえ今のところ進入していても抗体ともいえるガレリアの防衛機構の姿はなく、内部探査とコアへの到達は難しくなそうに見える。油断せず周囲への警戒を怠らずに狭い道を奥へ奥へと進んでいき、やがて行き止まりに辿り着いた。


「どうやら私のとこはここで行き止まりみたい……あ、なんとか入れそうだけど、ストライダーでは無理そうね。生身でいけるかしら?」

『僕も何度かしましたが、あまりオススメはできませんね。ストライダーの有る無しは結構大きいですので』

「そう、ちょっと覗いて無理そうなら引き返すわ。それまでレーヴァテインをお願いね」


 行き止まりではあるが壁には亀裂が入っていて人なら余裕で通れそうな隙間が開いており、ストライダーから降りて生身でいけるかベテランであるニコルからの意見も聞いて奥の方を確認するだけということでコックピットハッチを開ける。同時に腰から下げている結晶剣を手にしていつでもブレードを発振できる状態を維持しながら降り立った。

 肉眼で確認しても気味の悪い色合いと形状をしている外壁に警戒しつつ、裂け目より奥の方へと進んでいく。狭い道を1メートルほど歩けばまた開けたところへ出ていき、風景は相変わらず黒塗りの内臓というところだがその先は見通せないほどに長く続いていた。


「こうなると生身でいくのは危険ね……。あの亀裂を広げて進むのも何が起こるかわからないし、迂回路を探すしか――きゃっ!?」

『ジュネットさん、大丈夫ですか? これは、なにか――』

「ニコル、ニコル聞こえる!? うっ! 一体なんなのよっ!?」


 ストライダーに戻ろうと踵を返した途端に強烈な振動がアズライトに襲いかかる。まるで内壁がのたうち回っているかのように前後左右に激しく揺れ動いており、アズライトは立っていられず床か壁もわからなくなった足元にしがみつくので精一杯だった。

 壁の向こうで待機しているニコルからも切羽詰まった通信が入るもすぐに切れてしまい、あとは混線したノイズしか聞こえてこなくなる。とんでもない事が起こっているのだと肌身で理解していてもどうすることは出来ず、アズライトはただうずくまって揺れから身を守るしかなかった。







「……んで、オレひとりでガレリアをぶっ倒したわけさ」

「それで空中プラットフォームを1つスクラップにしたの? ホントに無茶苦茶だよ……」


 たった1機のストライダーで大隊規模のガレリアを相手取った度胸と腕前に感心して、同時に近くにあった建造途中のプラットフォームを武器に盾に使い潰してスクラップに変えたという事実に千景は呆れ果てる。千景とイーサンの2人はただいま巡航艦『ザンザス』や幾多のストライダーとともにガレリアプラットフォームの周囲を飛びながら警戒していた。

 とは言うものの雲海が眼下に広がる快晴でストライダーよりも探知範囲が広い巡航艦の警戒レーダーや更に外周側で警戒する正規軍ストライダーもいるので、安全圏な内側にいるということで2人は駄弁っている。本来なら私語厳禁ということで管制官より注意が飛んでくるわけだが今回は変に飛ばない限りは大目に見てくれていたのだろう、怒声に近い注意は飛んでこなかった。


「もう、イーサンには何かぶっ壊しましたという話しかないの? さすがデストロイヤーなんて言われて――ハッ!? この感じってまさか……!」

「千景どうした? まさか奴らか!? 聞こえるか、敵襲だ!!」


 外の風景は相変わらず青い空であるが、一瞬ノイズが入ったように視界が揺れてビリビリとした空気の振動を千景は感じ取る。これは特殊ガレリアが近づいてきた時に感じるものであり、その様子にイーサンもすぐさまオープンチャンネルであらん限り叫んだ。

 正午の日差しががまるで反転していきなり真夜中になったかのように周囲が真っ黒に塗りつぶされ、黒い雲のような筋が至るところから伸びてくる。イーサンとアズライトが以前に囚われたアモルファスの内部空間であるが、その規模はあの時の比ではない程の規模でプラットフォームはおろか一番外側で警戒していたストライダーすらその腹の中へ飲み込んでいた。


『いつの間に!? 観測手なにをしていた!』

『まるで反応がありませんでした! 何もない空間から突然現れたみたいです!』

『こいつが特殊ガレリア、なんて規模だ……』


 殆どの者が初めて相対する圧倒的な存在に言葉少なになるが、何度か交戦したことのある千景でもここまで大規模なことに肝を冷やす。そんな中でもイーサンは高く速く飛んでいき、以前の経験則よりこちらを捕らえようとガレリアが動くと踏んで囮役を自ら買って出ていた。

 しかしガレリアは誘うよう派手に動いているネクサスに目もくれずに、黒い靄をのたうち回らせながらプラットフォームの方へと伸ばしていく。まるで吸い込まれるように黒い巨鳥の中へ入り込んでいき、傍から見れば取り込まれているのか進んで入っているのか他に別の理由があるのか区別がつかなかった。


「なんなんだ、合体でもしようってのか!?」

『あの中には突入班がいる! このままじゃ巻き込まれるぞ!』

『駄目です! 連絡がとれません!』

『なんてこと……!? う、うわぁあああ!!!??』


 ガレリアプラットフォームへと流れ込むアモルファスの奔流はどんどん大きく太くなってきており、まるで黒光する大蛇の群れか嵐で増水した大河の濁流となっている。それらが襲いかかってくることはないのだが、目的の場所には突入した仲間たちが大勢いるので楽観視などは出来なかった。通信で呼びかけても向こうからの返事はなく、アモルファスが取り付いたプラットフォームは姿を変貌させようとしているのが見える。

 更に悪いことにアモルファスの濁流はストライダーを狙っていないとはいえ最短ルートを最速で進んでいくので、その進路上にいた機体は哀れにも呑み込まれてしまった。なんとか突入チームの救援に回りたいのが、濁流を避けながら飛び回るのが精一杯な状態である。


「クソッ、こうなったら突撃するしかねえな!」

「イーサン、またかい!? これじゃあ無事に…………!?」

「千景ッ!? 待ってろ今行くぜェェェェェ!!!」


 手をこまねいている周囲のストライダーに目もくれずイーサンはプラットフォームへ向けて飛んでいっており、千景は危険と呼びかけながらもその後ろになんとかついていった。もはやアモルファスの靄に覆われて入り込む隙間などないのだが、道理を蹴り飛ばすイーサンにはそんな事は関係なく活路を無理矢理こじ開けるべく突撃体制に移っていく。

 流石に危なすぎると千景は止めようとするも注意が後方から薄れたその瞬間だった。飛び込んできたアモルファスに後ろから突き飛ばされてスターファイターは錐揉み状態で吹き飛ばされてしまい、そのまま濁流に飲み込まれしまう。すぐさま機首のシールドを最大に展開したネクサスは濁流に飛び込んでいき、黒い闇の中を流されていく友の翼を必死に追いかけていった。






「うぅ……。狭いッ……。いい加減にしろっての!!」


 周囲を黒い壁で覆われてアズライトは身動きが取れなくなってしまっている。揺れが収まるまで床にしがみついていたのだが床や壁までもが鳴動したり隆起したりして形を大きく変えていき、動けずないところを巻き込まれて詰まったかのように狭いところに押し込まれてしまった。なんとか抜け出そうともがくも内壁はびくともせず、だがセイバーのヒルトはしっかりと右手の中に収まっているので怒声とともに結晶の刃を発振させる。

 オルゴンによる緑の刃がガレリアで構成されている壁面を容易く斬り裂いて、腕の可動域が自由を取り戻すと更に振り回して2本の光刃でくり抜くように道を開いて抜け出した。先程まで立っていた場所に似た広い通路まで出たのだがその様相は打って変わって、生きているかのように胎動し脈打っている。その悍ましさに嫌でも意識が向いてしまい、アズライトは後ろから忍び寄るものに気づかなかった。


「な、なによこれ……きゃっ!?」


 切り開いた後ろの隙間より伸びてきた無数の細長い触腕がアズライトに襲いかかり、目の前に気を取られてしまっていたので避ける間もなく締め上げられてしまい爪先が地面より離れていく。両手両足や胴体に首筋など全身を縛り付け、触腕は蔦のように細いのだが振り解けないほどに強靭でギチギチと音を立ててアズライトを締め上げていくのだった。

 スーツに身を包んで肌を露出させてはいないが薄い生地越しに生暖かい気持ち悪い触感に、全身を這いずり回る触腕の不快感は相当なもので抜け出そうとする。しかし群がる触腕は更に本数を増していき浮かぶアズライトをまたしても隙間へ入れるように引きずり込んでいった。


「このっ気持ち悪いのよ、早く離れなさいっ!!」


 全身をまさぐられて我慢の限界に達したアズライトは素早く手首のスナップだけでブレードを振るって腕に絡みつく触腕を切り落し、すぐさま再生してもう一度絡みつこうとする諦め悪いガレリアを柄頭が連結したスプリットセイバー・ダブルブレードで薙ぎ払う。バトンのように高速回転させたダブルブレードは迫りくる触腕の群れを次々に斬り裂き、四方八方から伸びるガレリアをスプリットセイバーの分離と連結を巧みに使い分けて近づけさせなかった。

 触腕が出てきた内壁の亀裂より離れていたが、オルゴンの刃を振り回すアズライトを異物と感知してか抗体と思わしき防衛機構が次々と集まってくる。これでは逃げ隠れする意味はないなと確認するとブレードを握り直してアズライトは不敵な笑みを浮かべた。


「お返しよ。みんな輪切りにしてやるわよ!」






「いてて……、ここはどこ……?」


 どこかに打ったのか痛む額をさすりながら千景は周囲を見回す。まるで黒い腸内のような円形の通路にいて、機体の状態チェックをするとスターファイターはなんと一部が壁面に取り込まれて鎮座というか不時着していた。どうやらアモルファスの濁流に呑まれてプラットフォームとの一体化に巻き込まれてしまい、そのまま内部に取り込まれてしまったのだろう。

 スターファイターの素材はオルゴンを含んでいてジェネレーターも始動はしているのでガレリアに侵食されることはないが、翼がめり込んでいる現状では飛行など出来るはずもないから千景は仕方なく外へ出た。肉眼で見るほうがよりおぞましく感じて、護衛兼サポート用のデルが付いてきてくれてはいるがほぼ丸腰に違いないのでもしガレリアと遭遇したらひとたまりもない。


「なんとか合流しないと……。デル、どうしたの? えっ人がいるの!」


 プラットフォーム内には多数のランナーがいるはずなので彼らとの合流を目指して千景は黒い道を抜き足差し足でおっかなびっくりに進んでいき、方角などはわからないがデルのマッピング機能と対人センサーを駆使して丁度よくセンサーに反応があった。

 見れば薄ぼんやりした明かりが見えて誰かが照明を焚きながらこの道を進んでいるのがわかり、急いで合流すべく駆け出していく。人影がはっきりと見えてきて向こうも千景の存在に気付いてか手にしてるランプを前にかざし、照らされたところには30代ほどの年齢か無精髭を生やした男であることがわかった。

 千景が目の前にやってきたことを驚いた様子を見せるが敵対的なところはなく、その男も安心してように表情を和らげる。そしてランプを床に置くと大きな声を張り上げた。


「ここで友好的な人に会えるとは幸運だ! ありがとう少年、ところで出口はどっちかな?」

「実は僕もわからないんです。いきなりここに飛ばされたので……」

「そうだったのか、これはなんという不運! まさか私と同じ境遇だったとは!」

「…………あれ、もしかしてあなたは“ザ・ワールド”ですか?」


 目の前に立つ男にどこかで見た事があると既視感を覚え、千景は記憶を辿っていく。そして行き着いたのはあの危険な飛行を繰り返すスウープのエクストリームプレイヤーで、何よりコーデックスに色々な妨害行為を加えてテロリスト認定された反逆のランナー。

 そんな危険人物を前にして今までの安心感はどこへとともなく吹き飛んでしまい、千景は恐怖で慄く。問いかけに対して否定してほしいと願いながら、男は相変わらず大きな声量で応えるのだった。


「如何にも私があの“ザ・ワールド”だ! こんなところでファンに出会えるとはなんという幸運だ!」

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