CHAPTER 2-1
「千景、そっちに行ったぞ!」
「うん、任せて!」
眼前にいくつもの黒い点が飛び交うのが見えて、それがガレリアの編隊であることは明白だった。隊長機と思われる“スカベンジャー”は鋭角なボディにブロック状の翼を1対を持つ猛禽を思わせる姿で、その後ろに付く4機の“アローヘッド”はその名の通り矢じりのようなくさび型をしている。そんなガレリアの群れへ真っ先に突っ込んだのはイーサンが操るネクサスで、隊長機であるスカベンジャーへミサイルを叩き込んだ。
ミサイルを避けつつ加速して機動戦に入っていく2機を追いかけるようにアローヘッドも動いていくが、これまで静観していた千景のスターファイターが間を遮るように攻撃を仕掛ける。意表を突いた一撃に対応しきれずにアローヘッドの1機が爆散し、1機は隊長機を追いかけて残る2機が反転してスターファイターに向かってきた。
「このガレリアたちは……。よし、このまま!」
後方より黒いレーザーを放ってくるアローヘッドの感じを見ながら相手を引きつけさせるべく一旦速度を落とし、距離を詰めて迫るガレリアを背中越しに睨みつつ頃合いを見計らう。後方よりレーザーとミサイルが放たれてきたその時、エンジン出力と機首を一気に上げてほぼ垂直に近い角度で急上昇していった。
ガレリアのレーザーはなにもない空間を通り過ぎていきミサイルは目標に向けて急なターンをしながら追いかけてくるが、急上昇したスターファイターは折れ曲がるように今度は機首を思いっきり下げて急降下する。眼下にいる2機のガレリアめがけて上方よりミサイルとレーザーの雨を浴びせていき、避けようとブレイクするアローヘッドは1機は避けるがもう1機は撃ち抜かれて2発のミサイルを受けて爆散していった。
そのまま爆煙を通り抜けて一気に下降していくスターファイターを追いかけようと残ったアローヘッドは追ってきて、その横にあの時放たれたミサイルもそのまま追尾を続けていて横に並ぶ。その一瞬を逃さずスターファイターは正面をガレリアに向けるようターンしていき、その時にかかる強めのGを受けつつ千景は狙いすまして引き金を引いた。スターファイターのレーザー機銃は追ってきたミサイルを撃ち抜き、その爆発に巻き込まれてアローヘッドは閃光に呑まれて爆ぜていく。
「ふぅ……。イーサンはっと、もう終わってたかぁ」
「おうよ、これくらいの数なら問題ねえ。それにしてもハイGターンに狙い撃ちとは、うまくなったじゃないの!」
千景が見上げればダークグレーの翼を広げたストライダーがおり、その後方では2つの黒い煙が静かに下へ落ちていくのが見えた。どうやらスカベンジャーとアローヘッドを容易く倒したようで、千景のマニューバも見ていたのかその上達ぶりに感心している。
アモルファスの決戦から1週間、本格的にマニューバを習得するために千景は飛行訓練を黙々と行っていた。そこへ整備が終わったネクサスの試し飛行とガレリアの編隊が近郊に現れたという報告を受けて2人で出動したのだが、これにはもうひとつ別の目的も兼ねていたのである。
「それでコイツらがいつもよく会うお友達なんだが、どう感じた?」
「うーん、なんていうかな。地球のガレリアはなんか柔らかくてアモルファスは悪意しかなくて尖ってる感じだったけど、今のガレリアからは何も感じない。なんか反射的に飛んでて攻撃してくるみたい」
「反射的にか。ガレリアは感情を持たないってのがこっちの定説だけど、それに合うなぁ。じゃあ地球とアモルファスだけが特別なのか、似たような別種なのか……。うーん、わからん!」
「まだこれしかわからないし悩んでも仕方ないよイーサン、さぁ帰ろう」
千景が持つというガレリアの感情や情念を読み取る能力を試すということであり、イーサン達がよく遭遇する通常のガレリアはどのような感じなのか知る為だった。ただ交戦してみたがアローヘッドからおおよそ感情らしきものは感じられないどこか機械的なもので、何かを伝えようとして地球のガレリアや悪意で動いていたアモルファスは特別な存在なのかと思える。
無い頭を必至に過動させてウンウン唸ってるイーサンがオーバーヒートしないか心配なので、結論はもっと情報を集めてからだということで2機は帰路につくのだった。
「あら、おかえり。早かったじゃない?」
「ただいま、アズライトさんも戻ってたんだね」
「まーオレらのコンビにかかれば一編隊程度どうってことねえさ! おーそれが新しいレーヴァテインか!」
「新しいというよりは古い方と言えばいいかしら。これがレーヴァテインのオリジンよ」
バートレット邸がある浮島の下方で剥き出しな地肌をくり抜いて作られた発着場にスターファイターとネクサスは着陸し、そこにちょうど戻ってきたばかりのアズライトが居て2人を出迎える。彼女の横には愛機であるレーヴァテインが置いてあるが、その表面は純白に塗られていた。この機体はレーヴァテインに間違いないのだが、今まで乗っていたモノとは別種になる。
これまで乗っていた黒と赤のレーヴァテインはアモルファスとの戦いでネクサスとユナイトした時の負荷でシステム系統の大部分は修理が必要となったのだが、そもそもアズライトの全力に耐え続けることが出来ないと判明した。その為一から新たに作り直すか改良するかの選択を迫られたが、アズライトはレーヴァテインがもう1機あることを思い出したのである。
元々アズライトのおばあさんが現役のランナー時代に使っていたストライダーが純白のレーヴァテインであり、そのカスタム機はかなりの操作難度を誇っていたからアズライトには限界性能を下げて扱い易くしたレプリカモデルを渡していたのだった。おばあさんが亡くなりガレージでホコリを被っていたそのオリジナルが、この純白のレーヴァテインで新たな乗機となる。
「おばあさんの愛機を引き継ぐのって、なんかいいよね」
「確かにな。それでこのオリジナル、乗り心地はどうだった?」
「かなりのじゃじゃ馬だけどさすがはおばあちゃんの愛機、一通り飛んだだけでちゃんと馴染んでくるわ」
新たな愛機を前にしてアズライトもいつになく興奮気味でその性能にもご満悦で、これより細かな調整に入るということで移動用パレットに載せて工房へ持っていった。アカデミーへ今回の報告書をまとめるということでイーサンは事務所に向かい、千景もこのあと用事はないからアズライトの後ろについていく。
発着場と地続きな工房は相変わらず皆が忙しなく動いており、レーヴァテインの姿を確認すると一斉に集まって早速調整作業に入っていった。その陣頭指揮を取るのはイーサンの妹で天才的プログラマー少女なクーリェであり、いつも仕切ってるはずのメカニックマンで祖父のレイジの姿がなくて手伝う事はないか尋ねつつ事情を聞いてみる。
「手伝いに来ました! 今日はレイジ博士じゃなくてクーリェちゃんが仕切ってるんですね」
「おーちょうど良かった、スターファイターのプログラムを改良したいからデータの吸い取りお願いするよ。……実はさ、博士は今寝込んでるのさ。どうやらセクハラしてボッコボコにされたのよ、クーリェちゃんに」
「え、本当ですか……」
データが入った円形デバイスを受け取りつつ整備士がこっそりと教えてくれた。それは一昨日のこと、レーヴァテインの修理に行き詰まっていた時でアズライトも手伝っていてくれたのだが、その時のレイジが目にしたのはアズライトが着ていた破れたパイロットスーツなのである。彼女が本気によるオルゴンの放出にスーツもレーヴァテインも耐えれなかったのが原因であるが、彼はあろうことか『こりゃ胸圧で吹っ飛んだんだな。そのおっぱいなら仕方ないな、ガハハ!』と言い放ってその瞬間に空気は凍りつき、アズライトも急にそんな事を言われて顔を赤くしていた。
そんな空気を吹き飛ばしたのがクーリェであり、同時に飛び膝蹴りでレイジの股間を打ち抜いて物理的にも吹き飛ばしたのである。曰くセクハラするなら容赦なく吹っ飛ばすと宣言し、アズライトにもそう対応するようにアドバイスしていた。そんなわけで負傷したレイジに変わってクーリェが指揮をしていて、内容もソフトウェア関係だから彼女の方が適任でもある。
「そうだったんですか……。間違いなくレイジ博士が悪いですが、僕、アズライトさんがイーサンの股間を蹴り飛ばしたとこ見てますんで、それにイーサンにも握られたり……」
「そうか……千景君も大変だったな……」
2人とも思い浮かんだ光景は違えど想像した痛みは同じであり、庇うように股間を押さえていた。セクハラダメ絶対を心に刻みつけると幻肢痛を振り切るように作業へ集中していき、千景も腕に巻いたヴィムの方へ目を落とす。ストライダーのレスポンスを高めるにはランナーのサイトロンと機体の制御系との同調率が重要で、その補助や微調整を行うプログラムは過去現代の飛行データで随時最適化させていくのが重要だ。
受け取ったデバイスへヴィムの中にある飛行データを移していき、今日の飛行で感じたスターファイターの追従性もクーリェ謹製プログラムの補助が効いていたのでかなり良好なレスポンスである。これ以上更に高めたら逆についていけるか余計な心配を浮かべつつも、レーヴァテインの調整作業を続けるクーリェへデバイスを手渡す。
「はい、今日の飛行データだよ。今のプログラムでもすごく反応が良かったよ、こうぐっとフィットした感じで。いつも調整とかプログラム作ってくれてありがとね」
「フフーン、この天才少女のクーリェにかかればチョチョイのチョイですよ! でも、こうして感謝してくれのが千景さんだけなんですよ。お兄ちゃんったらそういうところ全く気にしてないんですよ~!」
「それはダメだね、僕の方からも言っておくよ」
「うー、千景さんがお兄ちゃんだったら良かったなー」
ソフトウェア関係には疎い兄に対して悪態をつくクーリェへ、兄妹っていいものだなと千景はどこか暖かな眼差しを千景は向けていた。そうこうしている内にレーヴァテインの調整作業が終わったのか、アズライトとともに実際の動作確認へ移っていく。邪魔にならないように脇へどけると2人を載せたレーヴァテインが発着場へ向かって飛行準備に入っていき、整備チームはモニタリングしながら一息ついた様子だ。
発進したレーヴァテインと入れ違いで円形のレドームを取り付けた飛空船が発着場に降り立ち、中からは少々疲れ気味な日向が出てくる。元々輸送機だったものに電子機器やら通信設備やらを載せて擬似的な早期警戒管制機へ仕立て上げ、デアデビルの指揮機として日向が乗っているのだが、こういった機体を持っていない小規模プライベーティアからのレンタル依頼が相次いで機長たる日向がデアデビルの稼ぎ頭になっていた。
「日向さんお疲れ様です。はいお茶でもどうぞ」
「ふぅーありがとう、流石に3件掛け持ちは疲れたよ。おかげで色々と仕入れてきたものはあるけど、どうも『ハートブレイカー』って名前は慣れないな」
ハートブレイカーというコールサインは代表であるイーサンの命名で、ハートを割ったエンブレムとデアデビルのマークが機体側面にでかでかと描かれて宣伝も兼ねている。機体そのものも輸送機を改造したAWACSモドキという事で初見の時は開いた口が塞がらず、性能面も純正機に劣らないもので操縦系統も無人化されていて乗ってからも日向は驚きっぱなしだった。
差し出された銀のコップに入っていたお茶を飲み干すと報告があるということで日向は事務所の方へ向かっていき、お茶の入ったカップを片手に持ってシミュレーターのシートに腰を降ろす。難度の高いマニューバにチャレンジするにはもってこいなので最近は手持ち無沙汰な時に使っていて、シミュレーターの精度も上げていくことも出来た。
イーサンが使っていたマニューバを研究目的で再現しようと四苦八苦していると、試験飛行を終えて戻ってきたレーヴァテインが見えてコックピットから飛び出してきたクーリェの反応を見るに良い結果だったのだろう。すぐにプログラミングマシンに向かってまた作業に没頭していき、アズライトはそこから離れていくつも積まれたトランクケースの前に立っていた。
「このれってアズライトさんの荷物なの?」
「ええ、そうなのよ。必要な物はもう持ってきてるんだけど、他の荷物もレーヴァテインと一緒に持ってきておいたの」
元々グリフォンズの社員寮に住んでいたが退職したので引き払ってこちらに移ったのだが、アカデミーの学生寮も候補にある中でデアデビルのシェアハウスを選んだのだろうか。トランクケースの一つを持ち上げつつ聞こうとするも、ギチギチに押し込まれたトランクの留口が限界を迎えて千景が持ち上げたの同時に口を開いて中身をぶちまけた。
飛び出してきたのはふわふわとしたぬいぐるみであり、相当押し込められていたのかかなりの数になっている。そのどれもが可愛らしいがどこか変な形をしている、いわゆるキモカワ系といった具合であった。どうやらゆるキャラ的なものはオラクルでも流行っているらしい。
「あっちゃー、やっぱり詰め込みすぎたかしら」
「すんごく圧縮されたよ……。これってアズライトがみんな集めたの?」
「そうよ。見かけるとついつい買っちゃうのよね。部屋が手狭になっていたからちょうどよかった~」
社員寮ではぬいぐるみを堂々と飾るのは憚れるし置き場も少なく、学生寮も似た感じだ。その点シェアハウスなら多く置けるということで、ここへ越してきた理由を図らずに知ることとなり、千景はぬいぐるみを拾い集めながらキモカワ一色に染まる内装を幻視するのであった。
「ストライダーで通学なんてなんか慣れないね」
「そうね、レーヴァテインなんて今まで出撃する時ぐらいしか乗ってないもの」
「ダメだなふたりとも。常に慣らしてストライダーを半身だと思うぐらいが大事なんだぜ?」
飛行場に降り立った3人はアカデミーの学舎に向かっている。通学はストライダーで行っているのであっという間に到着するのだが、大事な機体をこんな風に使っていいのかと疑問が出てきたが提案したイーサンにもしっかり考えがあった。
ストライダーはランナーと神経接続して動かしていくのでもう一つの身体とも言えるもので、その身体を使っていかないと鈍ってしまってここぞという時にベストな力を出せない。千景はまだランナーとして日が浅くてより親和性を高める必要があり、イーサンとアズライトもこれまでの蓄積データはあるが機体そのものは新しくなっているので馴染ませていくことも重要であった。
「それにいくら寝坊してもぶっ飛ばせば数分で届くしよ! こっちはアカデミーの練習機使えねえって事情もあるしな」
「確かにアンタが乗れば修理不可能になるまでメチャクチャにされるもんね。さすがはサ・クラッシャーよ」
ランナーとしては2年に満たないがイーサンの飛行時間が多いのはこういう考え以外にも、練習機を壊しまくった影響で自前で持つことになったのもあるだろう。これまではレーヴァテインを格納庫入りさせていたアズライトも一理あるからとのってくれて、慣れないとは有意義であるのは千景にも理解できた。
滑走路と校舎の間には並木通りがあるので真っ直ぐ進めば5分ほどで到着できて、道行く学生の数も多い。千景はブレザータイプの制服に身を包んでアズライトもブラウスとスカートにボレロジャケットというアカデミーの指定服であり、イーサンだけが強制じゃないということでいつもの私服姿で通していた。
「オレの浮いてると思ってるなー。このベストにワイシャツ、スラックスにネクタイこそ男の正装なんだぜ。いつだってこれがオレの流儀なのさ! ……おんやぁ?」
「別に思ってはないよ。ただいつも同じようで微妙に変えてるんだねと思って――え?」
「――ぁぁぁぁきゃあああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~」
「う、うわあああああぁぁぁぁぁーーー!?」
もう少しでアカデミーに入る、そんな時に上から声が聞こえてきてなんだと思って千景とイーサンが顔を上げると、そこには悲鳴を上げながら豊かな金髪を広げた少女が目掛けて降ってきていたのである。




