CHAPTER 1 エピローグ
「2人とも、やったね!」
「ああ、そっちも復活したようだし何よりだ」
ガレリアの暗雲を切り払った白亜の巨人―アルビレオが仁王立ちの如く空に浮かび、千景を乗せたスターファイターはその周囲を飛んでいた。巨大なガレリアを更に巨大な剣で斬り伏せた巨大ロボの姿を目に焼き付けつけながら千景は動かしている2人へ労いの言葉をかけると、返答とともにイーサンの上半身が立体映像としてポップアップする。
オルゴンを介した短距離通信は妨害されづらく立体映像によりリアルタイムでの交信が可能だから、直接会話してるような感覚で話すことが出来た。イーサンはすぐに通信に出て顔も見せるがアズライトはなぜか反応せず、 ややあってから彼女の声だけが聞こえてきて同時に色々な雑音が聞こえてくる。
「ごめんね、ちょっと通信の調子が……。というか色んなとこからエラー出てるみたい。特にレーヴァテインは完全にダウンしちゃってる」
「あれだけのオルゴン結晶を出してたもんね、オーバーヒートしてもおかしくないよ。イーサン君の方は大丈夫?」
「ああ、こっちは大丈夫だ。アズライト、操縦はこっちがやるからエラーの方に集中しときな。普通に飛ぶよりは遅えけど仕方ねえ、このまま帰るか~」
ユナイトした事で爆発的に増大したジェネレーター出力に戦闘機動で加えられた負荷、そして限界ギリギリまで高めて放出したオルゴン結晶の生成による反動がやってきてレーヴァテインはシステムの8割がダウンしてしまっていた。ネクサス側は操作に支障はないがここまで反動が大きくなったのも、イーサンがユナイトしてこなかったからネクサスもその辺りの調整をしてこなかったのが原因でないかと考えられる。
アルビレオのメイン操縦をイーサンへ切り替えてアズライトはエラー処理に集中し、戦闘できる状態ではないので千景は先行して飛びながら警戒をしていく。通信越しのエラー音はしばらく鳴り響いていたが、どうにか解除できたのかすぐに鳴り止んだ。通信も回復してアズライトも立体映像で通信を入れてきたが、千景は思わず眼を丸くして何が吹き出す音がイーサンのコックピットより轟く。
「ブッハァッ!!!???」
「イーサン!? 急にどうしたのよ!? そんな大量の鼻血出して――」
「あああ、アズライトさん!? み、見えてる、見えてるよ、む、胸が……!」
「見えてるって……ッ!? キャッ! 何よこれ~!?」
立体映像として浮かんできたアズライトの姿はなんと半裸であった。きっちりと着ていたはずのパイロットスーツがビリビリに破れて彼女の豊満な乳房が露わになっており、ギリギリ大事な部分は見えていないが振動で形の良いふくらみがたゆんと揺れる様子は余りに青少年達への刺激としては強すぎるものである。指摘した千景は顔を真っ赤にしながら目を背け、気付いたアズライトもすぐに腕で庇うように隠し、なによりイーサンは鼻から大量の血を噴出させて気を失った。
メインパイロットの意識喪失によりアルビレオは動作を停止してゆっくりと下へ落ちていき、今度を墜落の危機を迎える。スーツがズタボロになった謎と半裸状態という気恥ずかしさを感じている余裕もなくアズライトは慌てて復帰したばかりなレーヴァテインの操縦系統へ切り替え、千景も姿を見なくてもいいようにと通信の立体映像をオフにする。
「えっと、その、ごめんなさい……。バッチリ見ちゃいました……」
「いいわよ、気にしないで。あれは事故なんだし、気づくかなかった私も悪いの。それにしても女の子の裸を見て鼻血流す男なんて初めて見たわ……」
「ハハハ、現実にほんと居たんだね……。それにしてもあれだけ血出してイーサン君大丈夫かなぁ……?」
「いつも不死身だって言ってるしそれに殺しても死ななそうだし、大丈夫じゃない? しっかし、あんなにウブだったとわね、ウフフ」
アズライトの操縦によりなんとか体勢を整えたアルビレオとスターファイターは併走しながら帰路を急いでいた。今回だけで色んな事がたくさん起きてどっと疲れが襲いかかり、千景はシートに深くもたれ掛かる。相変わらず透き通る蒼穹と輝く太陽はちょっと眩しすぎた。
千景達がガレリアとの激闘を制したのとほぼ同時刻、スクランブル発進した2機のストライダーが現場へ急行していた。現場は空中大陸の周囲を飛ぶ防衛用プラットフォームの1基で最終防衛ラインを形成する一部であり、ここを脅かされるということは大陸そのものが危険に晒される事を意味している。しかし、今回のスクランブルの相手はガレリアではなかった。
現着した2機の前に横に広がった空中プラットフォームが姿を見せ、その周囲には防空用の無人機がいくつも空を舞いながら更に小さな飛行物体を追いかけている。それはストライダーともリグとも言えないボードに乗った者たちで、自由気ままにプラットフォームの周囲を飛び交っていた。
「クソッ、好き放題やりたがって! お前達は航空法に違反している! 今すぐ投降しなさい、さもなければ実力で捕縛する!」
「おい、見ろ! 奴らの親玉の登場だ! こちらで引きつけるからオスカー2は連中の捕縛を!」
「了解、オスカー1!」
ストライダーが増援として現れるのを理解していたのか、オスカー分隊が姿を見せた途端に勧告も聞かずにボード達は一斉に離れていく。追いかけようとするもその間に1機の航空機が割って入り、黄金色に染められた派手なストライダーが悠然と飛んでいた。すぐさま二手に別れてエアバイク型のオスカー2はクロースコンバットモードに変形しながらボードを追いかけ、航空機型のオスカー1はそのまま金色のストライダーへ向かっていく。
移動先を見据えてレーザー砲とミサイルを織り交ぜた偏差射撃を行っていくも黄金のストライダーは鋭角なターンで避けると、一気に加速しながらプラットフォームへ向けてミサイルの雨を降らした。オスカー2とともに捕縛へ向かっていた無人機はそのすべてを落とされて、プラットフォーム自体もレーダーを損傷して捕捉が困難になってしまう。これ以上はと追いかけながら攻撃を続行するも黄金のストライダーはプラットフォームの間をすり抜けるように飛びながら距離を離していった。
「すまない、取り逃がしてしまった。どうやら奴らの母艦も来ていたようだ」
「またしても逃したか! おのれ『ワールド』め!!」
雲間から姿を見せたのは純白に塗られて翼と首を伸ばしたまるで白鳥のような空中戦艦でこちらに向けて威嚇砲撃を数発撃ち込み、その間にストライダーとボード乗りを回収して雲の中へ再び姿を消していく。悔しそうにオスカー1はシートに拳を叩き、オスカー2もいいようにやられたのはこれで何回目だと溜息を漏らした。
―ワールド―あの黄金のストライダーを操るランナーであり、危険なエクストリームスポーツの第一人者でもある男。反体制的な態度を隠さないながらもアカデミーの規則に従っていたランナーであったが半年前に行った新造戦艦の強奪を皮切りに、同じエクストリームスポーツプレイヤー達を集めてバーテックスに対して妨害するような危険行為、バーテックスや各セクターが持っていた機密情報を大々的に公開するなど、今やワールドとその一党は世界的に指名手配されているテロリストになっている。
ゲネシスにはガレリア以外にも多くの問題や火種を抱えており、それを全て纏めて持ちながら空中大陸は静かに浮かぶのだった。




