CHAPTER 1-16
「ねえ、あれでよかったの?」
「まーしゃあないだろう。本人だって迷ってるわけだし、そんな状態で飛んでもいいことはねえ。それに答えを出す為にとことん悩むべきなのさ、そこに他人が口を挟むのは論外ってわけよ」
ネクサスとレーヴァテインの2機がデルタ小隊の残滓を探しに向かう中、その操縦を続けながらもアズライトは置いてきた形となった千景についてイーサンへ尋ねていた。デルタ小隊メンバーの死を目の当たりにして大きなショックを受けており、このままランナーとしてストライダーを動かして戦えるか悩んでいる。そんな彼を敢えて突き放すように出撃してきた事のイーサンの真意を聞きたかったのだ。
サイトロンによる操縦に切り替えてコントロールレバーから手を離して座席に持たれながら、千景がストライダーを操縦できる状態にないとひと目でわかるぐらいで、日向もレイジも一緒になって止めていたのだろう。ただそこまで長くはかからずに答えを出してくれるはずだと千景をシンジている。
「さ、さくっと終わらせて帰ろう。そうすればあいつも心配しないはずさ。で、反応はどうなん?」
「もうビンビンよ。みんなが使ってた識別信号が無秩序に流れてるわ、一体何が目的よ……」
1週間前に突入した空域へ今回も真っ直ぐに入ったのだが、微弱に感じられていたデルタ小隊の識別信号がより強くなっているのをセンサーが捉えた。信号の発信場所を探すべく周囲へ意識を巡らせるようにセンサーの感度を上げて信号以外の反応を探していき、かつての仲間に擬態している不届き者がどこにいるかと眼を光らせる。
しかしどこを見ても平穏な空そのもので敵機らしきものは何一つ映らないが、その状態こそが一番恐ろしいのだと2人は感じ取っていた。一体どこからくるのかと上下左右と360度に気を配るが、一瞬だけ外の風景が歪む。ストライダーは周囲の映像を機体のカメラより取り込み密閉型コックピット内のモニターに投影する方式であり、カメラの不調を疑うも問題はなくてセンサーが示す異常値を叩き出して外の風景がモニター通りだと示していたのだ。
何事かと警戒する2人を機体ごと飲み込むような渦が発生して大きく揺れていくが素早く切り返して安定を取り戻すも、外の情景は一変している。青空はどこへいったのやら光が一切届かない闇に包まれて、まるで分厚い暗雲の中に突っ込んだみたいだった。
「いきなりなんだ!? この闇、どこまであるんだ! これもガレリアってのか!?」
「空域そのものになりすまして信号で誘き寄せる、どこまで悪知恵が働いてるのよ……! しかもなんで先が見えないのよ!? 」
闇に覆われた空域から抜け出そうと飛んでいくがまるで果ての無い洞穴を進んでいくようで突っ切ることなど出来ず、更に周囲に立ち込む分厚い雲が鋭い針のように機体へ突き刺さってガリガリと削られていく。間違いなく立ち込めてる黒い靄は高濃度なガレリアクラウドであり、いくらオルゴンで守られたストライダーといえど長時間内部に留まっていれば跡形もなく分解されてしまうだろう。
期せずしてガレリアの胃袋へ飛び込んだ形になるが攻撃手段は失われていないので、ネクサスよりミサイルとレーザーの雨が雲海の壁を焼き払うように炸裂した。しかし靄が僅かに削れるだけですぐに覆い隠されてしまい、攻撃に反応してか靄は形を変えて唸る触手を伸ばしてきた。穂先の形状は棘がびっしりと生えたものから鋭利な刃物のように怜悧なものまで様々だが、どれも機体に干渉して外装を削り取っている靄とは比べ物にならないほどの濃度を有していて当たればひとたまりもない。
「クッ、これじゃあジリ貧ね……! イーサン、なんとかならない!?」
「ハッ、この程度苦境でもなんでもねぇ! 要はこの靄を全部吹き飛ばせばいいんだろ! 駆けろネクサスゥッ!!」
通信機も沈黙して外部と完全に遮断され代わりに流れてくる信号の一定なリズムがまるでこちらを嘲笑するような笑い声にも聞こえてきており、実際にガレリアも哀れにも閉じ込められて無駄な足掻きを続ける2人を笑っているだろうとアズライトは珍しく自虐的に笑った。しかしイーサンはまだ諦めていないようで、ネクサスのエナジーフィールドを全開にして真っ赤な矢じりとなって黒い壁にぶつかっていく。
いくらフィールドで守られているとはいえ高濃度なクラウドにぶつかっていくのは愚の骨頂だと止めようとするが、ネクサスは靄の壁の縁ギリギリを飛んで直接触れないように飛びつつ靄が薄いところを削っていた。妨害するようにガレリアの触手がいくつも伸びて襲いかかるが、それを見事に回避していき、更に目の前にも伸びてくるが正面衝突寸前に紅い閃光が走って根本から切り倒される。レーヴァテインをクロースコンバットモードに変形させ両手に握る真紅のレーザーブレードを振り回し、迫る触手をすれ違いざまに斬り伏せてゆくのだった。
「サンキュー、助かったぜ!」
「何もせずに諦めるのはらしくないわね……。イーサン、あなたのやり方に乗ったわ、いくわよレーヴァテイン!」
「どうした、ぼーっとして。考え事かい?」
「えっ、あ、はい。そんな感じです。ちょっとですね…………」
視線を中空に泳がせていると不意に肩を叩かれて千景は驚いたように振り返るとそこにはキールが立っている。彼はいま発着場の隅に置かれた長椅子に腰掛けてそこからどこまでも続く蒼穹を眺めていたが、意識は別の所に向けられていた。ガレリアと戦う上では避けては通れない死に直面して、このままストライダーを操って飛べるかわからなくなってしまったからである。
その事はデアデビルを含めキール達バートレット一家も知っていたのでこの1週間は相談役を買って出ながら見守っており、今回も飛び立ったイーサンとアズライトを見送った彼が気になって声をかけたということだ。不意を突かれて驚いた千景も何か言いたいことがあるようだが、どこかか口籠っている様子にキールの方から尋ねてくる。
「いや、そんな難しい顔しなさんな。ただおじさんに話せばいいさ、変な話は聞き流すから」
「ありがとうございます……。これはまだ誰にも言ってないんですが、ストライダーに乗るのを躊躇ってるのはデルタ小隊のことだけじゃないんです。地球で戦ったガレリアは確かに怖かったんです、だけどあの声を聞いたらなんか安心したというか敵意を感じれなかったんです。だから、ここのガレリアが容易く人を殺すのがショックだったし、あの声はただ僕を騙していたのかなんて。逆にあのガレリアにも意志などを持っていたらと考えてしまって……」
「そうだったのかい。僕らは1000年近くガレリアと関わり戦ってきた。だからこそ個別の意志を持ってるなんて考えたことはなかったよ。そういう思考の差異は別の世界からきた人間の特権だね」
ガレリアにも意志があって生きているかもしれないから素直に撃てなくなった、そう言ったらどんな目で見られるのかと思っていたがキールはその着眼点の違いを素直に感心していた。地球で遭遇したガレリアは飛び回って戦闘機などを取り込んでいりしていたが直接人を害することはなく、最後に垣間見た警告じみたイメージに呼びかける声から悪印象を千景は持っていなかったのである。
しかしゲネシスにいるガレリアは人間を地上から駆逐して10年前には空中大陸やゲートへ大攻勢を仕掛けて多くの犠牲者を生み出し、そして千景の目の前でデルタ小隊の命を奪っていった。そのショックと合わさってガレリアへの認識にブレが出てしまい、ストライダーに乗って戦うことへ疑問が出て今悩んでいる。
千景の悩みを聞いたキールはゲネシスの人間では出ない疑問を持って悩む彼の姿は好ましいものと思って、それを否定することはなく頷き更に問いかけた。
「千景君はガレリアに接触してその意志に触れた唯一の人間になる。それは地球唯一のランナーなんて称号が霞がかるくらいに希少なことで、意義があることだと僕は思う。もしかしたらガレリアとの意思疎通を可能になるかもしれない、それが千景君の才能でここへ来た意義なんじゃないかな」
「ガレリアとの意思疎通……、僕にそんな事が出来るんですか?」
「正直に言うとわからない。でも戦うだけがストライダーとして飛ぶ理由じゃないってことさ。これはイーサンからの受け売りだけど」
自分にしか出来ないことを提示されて千景はその意味を飲み込むように顔を傾ける。何はともあれ彼が一歩先に進める手助けを出来てキールは満足そうであり、千景は発着場にて静かに鎮座する銀翼へ目を向けながらじっくりと考え込んでいた。
そんな2人のもとへ通信のため事務所に詰めていた日向が駆け足で近づいてきており、何か会ったのかと不安がよぎる。そしてそれは的中し出撃したイーサンとアズライトとの連絡が途絶えてしまったのだ。
「さっきまで普通に通信が出来ていたんだが、空域に突入した途端音信が途絶してしまったんだ。あの2人がやられたとは思えないけれど、ガレリアと交戦した可能性が高い。キール主任、輸送機の方は!」
「すまないが改修中でまだまだ動かせない。……いくのかい?」
「千景君、行けるのか!?」
「……まだ戦う心構えなんて出来てません。でも僕だけが出来ることがあるというなら、行きます!」
話を聞いた途端に事務所のロッカーへ走り出した千景はオレンジのパイロットスーツに身を包んでヘルメットを抱えて出てきて、日向は驚きキールを確かめるように尋ねる。その返答を聞いて満足そうに頷いてスターファイターへの道を開き、千景はただまっすぐに駆け出してコックピットへ飛び乗った。
不安げに見送る日向の肩を叩きながらキールは心配ないと告げる。彼の杞憂を吹き飛ばすようにスターファイターのエンジンは轟音を上げながら蒼穹へ躊躇せずに飛び出していく。
「大丈夫、彼なら大丈夫です」
「そうですか……。ありがとうございます、主任のおかげです」
「なーに答えを既に彼は出していて、その手伝いをしたまでですよ。それに今回は杞憂で終わるかもしれません。なにせうちの息子はトップクラスのランナーですから!」
「うおっと! ちょっと今回はマズイかもなぁ!」
「正直に言ってジリ貧よ! なのになんでそっちはそんなに楽しそうなの!?」
「さぁな! ただ逆境になればなるほどテンションが上がる質なんでね!」
ガレリアの生み出した暗黒空間に囚われて抜け出そうと四苦八苦するイーサンとアズライトであったが、ついに限界が見えてきた。暗雲の壁へと突撃を繰り返していたネクサスはフレーム損傷率70%を超えてエナジーフィールドを貼るためのオルゴン残量も僅かで、攻撃用触手を悉く斬り伏せてきたレーヴァテインもブレード1本をあと数分程度しか維持できないほど消耗している。普段なら大気中のオルゴンを取り込んでほぼ無尽蔵にエナジーを得られたが、ガレリアクラウドで覆われたこの一帯ではオルゴンの補充など出来るはずもなく、体内で生成するオルゴンでなんとか賄っているがそれも限界だ。
一挙に数十本の束となって襲いかかる触手をいなしながら壁の薄い部分への突撃を繰り返すが、それもあと1回が限度だろう。この状況を打破できるとっておきの隠し玉があるのだが、それを出すためにはある程度攻撃を受けない状況が必要であり、何より2人とも実戦で試した事は一度もない大博打というわけだ。
「イーサン、こうなったらユナイトよ! それしかないこのガレリアを突破できないわ!」
「おいおい、自慢じゃないがオレとユナイトしてマトモに済んだ奴はいねえって評判なんだよ! そっちは大丈夫なのか!?」
「ええそうよ、こっちだって似たものだもん! だったらマイナスとマイナスでプラスにしていけばいいの!」
「おい無茶苦茶だぞ! だけど、それしか無いみてえだな……!」
冷静さを欠いてバーっとまくし立てるアズライトにイーサンも流石にツッコミを入れ、緊迫感など欠片も無いが迫る触手を2人とも容易く回避している。とっておきのユナイトについてだがイーサンも何度か試してはいたが、毎回相手の方が真っ先に音を上げてしまって失敗ばかりだったので実戦でのユナイトは全く経験がなかった。それがアズライトの方も同じような事を聞いて不安はさらに高まってのは言うまでもない。
しかしこの状況を突破するにはユナイトしかないようだから、コンディションも経験も最悪ながら一か八かに賭けてみるのも悪くないとイーサンは思っていた。ネクサスの向きを変えてレーヴァテインに突っ込んでいくような姿勢を見せて向こうもそれを受け入れる態勢を作ったその時、2人は同時に近づいてくる何かを感じ取る。姿は見えなくとも分厚い雲の向こうにいるのがハッキリと分かったそれは敵でなく、共に飛んでいる銀翼の流星だ。
「これって、来てくれたのね!」
「全く一番美味しいとこを持ってくとはな、千景!」
『2人ともこの中にいるの!? 大丈夫なの!』
存在をしっかりと認識したのと同時に阻害されづらい短距離通信にて呼びかけてきた千景の声にイーサンは思わず歓声を上げる。どうやら外から見れば真っ黒な積乱雲のようなガレリアでその中に居るわけだから、度肝を抜かれたのだろう心配そうな声が聞こえた。どちらも健在だと示すとネクサスのエナジーフィールドを全開にして最後の突撃へ向かう。
「千景いいか、そっちが脱出のキーマンだ。こっちのネクサスの位置は確認できているだろう、そこに向かって最大出力のトライハウリングをぶち込んでくれ! そうすりゃこっちのフィールドとの相乗効果でガレリアに穴開けるくらいのオルゴンを出せるはずだ!」
『わ、わかった! でも危なくないの、これ?』
「危ないに決まってるじゃねえか! だけどよ、いつも命懸けなんだからこんなの当たり前だぜ!!」
「その思いっきりのよさだけは真似したいわね。後ろの事は考えなくていいから、アンタは突っ込んで道を開くのだけ考えなさい!」
『わかった。ハハハ、相変わらず無茶苦茶だねイーサン君は。だから信じてるよ!!』
千景の力強い返答を聞いてイーサンは残るエナジーを全てつぎ込んで分厚い雲の壁へと突撃していき、機首が内部へ突き刺さるのと同時にスターファイターより放たれたトライハウリングが暗雲の外側より進んでくるのを感じた。そして薄い部分を両側より攻められてついに壁に穴が空き、極太のレーザーがそのままネクサスに降り注ぐ。全開にしたフィールドとぶつかりあいレーザーが周囲に拡散して小さな穴だった突破口を切り開いていき、双方のエナジー尽きたと同時に後方のレーヴァテインがネクサスを押して出口に突っ込んだ。飛び散ったオルゴンは大部分がガレリアと対消滅して消えていくがわずかに残った残滓を取り込みネクサスもエナジーを僅かながら復旧させてエンジンに再度火を入れる。
逃さないとガレリアは触手を伸ばして突破口を閉じていくが、スターファイターの援護射撃もあってネクサスとレーヴァテインの2機は無事にガレリアの腹の中から脱出することに成功した。そのまま振り切るようにスピードを上げていき、スターファイターとすれ違うとイーサンは千景へ通信を入れる。
「助かったぜ! あともうちょっと時間稼いでくれ、お返しのためにとっておきの準備するからさ!」
「え、えええっ!? ちょっと早くしてよ、こんなのと1対1は無理だよぉ!」
「大丈夫、すぐに済ませるからさ。いくぜアズライト、さっきの続きだ、《ユナイト》でいくぜぇ!!」
「もうぶっつけ本番ね……、でもこういうのは嫌いじゃないわ! それにやられっぱなしで仲間の信号も利用されまくりで引き下がるのはお断り、さっさとコイツをぶっ倒すわよ!」
「あぁ、いくぜ――!」
ネクサスとレーヴァテインは音速を突破としながら飛行機雲を引いていき、それを追いかけるように雲のようなガレリアは姿を激しく変形しつつ腕のような触手を無数に生やして逃さないと強い意志を見せた。それと相対したスターファイターは攻撃を縫うように飛んで操縦する千景も必死なところもあるが、その動きは間違いなくランナーのものである。
半ば無理矢理囮役を買って出るハメになった千景であるが、ガレリアと相対して地球で戦ったガレリアと同じようにその意志を感じようとした。しかし向かってくるガレリアからは雄叫びのような敵意とどす黒い悪意だけが吹き出しており、倒さなければいけない相手だと確信した千景の思いに応えてスターファイターはミサイルを発射して迫りくる触手を次々と吹き飛ばしていく。
「悪意しか持たないお前なんてあの時のガレリアと大違いだ! ふたりとも、なんだかわからないけど思いっきりやっちゃって!」
「待たせたな! では刮目せよ!」
飛行機雲を伸ばしていたレーヴァテインは速度を緩めてエアバイクから人型へと変化し、そのままの速度で飛んでいったネクサスが180度ターンすると2機は互いを正面に置いて距離を詰めた。このままでは正面衝突という状態でレーヴァテインは手足を折りたたんで胴体部と頭部だけという格納状態といえる姿へ更に変化し、ネクサスに至っては機首が左右に分割すると機体前半部が脚部や腰部に変わっていき、前進翼が機体から外れて内部に収納されていた腕部が持つ形になると推力ノズルも下方に移動していく。
航空機から頭部と胸部が無い人型へと大きく様変わりしたネクサスとちょうど喪失部分を埋めるような形状に変化していたレーヴァテインが、空中で衝突―パズルがカッチリはまるように合体した、鋼鉄の巨人として一つとなった。そんな変形合体と巨大ロボ登場という一部始終を目撃していた千景は興奮を隠しきれず、というよりも少年の心をくすぐられて大興奮する。
「ががががが合体したぁぁぁぁ!!!?? そ、それがストライダーの本当の姿というか、機能なの!? 本当にあったんだ、スーパーロボットって……!」
「おうよ、2機のストライダーが合体することでその性能を2乗化させる切札だ! ふぅー、ぶっつけ本番だったけどうまく言ったぜ、あとはアズライトがオレに付いてこれればいいんだがな」
「ついてこれるか、ですって? そっくりそのままお返しするわ、アンタの方こそついてきな!!」
ユナイトした事で性能が2乗するという言葉に偽りはなく、これまで受けていた損傷も全て修復されていた。オルガナイト合金はオルゴンが供給される限り自動修復できるがこの短時間で全身を修復できるのはそれほど大量のオルゴンを生成してる証であり、機体色もレーヴァテインの真紅やネクサスのダークグレーから白へ変わり全身へ巡るオルゴンの緑がラインカラーの如く映っている。
これほどのエナジーゲインを誇るマシーンをメインパイロットであるアズライトは果たしてあつか切れるかとコパイとなったイーサンだったが、それは杞憂で終わった。両手に握られた主翼は今では鋭利な物理ブレードでオルゴンを纏えば切れ味は更に上がり、アズライトは最初から全開で振り回すと斬撃の衝撃波だけで迫る触手を消し飛ばし、巨大なガレリアの本体すらも横一文字に両断してみせる。
機体制御を専門に扱うイーサンでもその衝撃には目を剥いて合わせるにはかなりキツいので機体制御に集中しつつも、自然と口角が上がって興奮の笑みをこぼした。雲そのものなガレリアはすぐにくっついて何事もなかったように再生するが、一振りが全体攻撃という桁違いの斬撃に細切れにされつつ再生を繰り返してオルゴンとの対消滅により体積が徐々に減っていった。
「くうぅぅぅぅっ! なんてパワーだ、こんなじゃじゃ馬女に合わせられるやつが居ないのも当然だぜ! でもオレにかかればまだまだ余裕のよっちゃんだ、この『ネクサス・オブ・アルビレオ』の実力をこれぽっーーちも引き出してねえからな!」
「言ったわね! そっちこそじゃじゃ馬野郎の名前がお似合いよ! 制御係数が右に左に振りまくってるじゃない、私みたいな凄腕じゃなかったら受けきれなかったわ! でもこのアルビレオはいい子ね、こんな乱暴な操縦する奴より私のほうが相応しい!!」
「ハァー……つまり、2人とも息ピッタリなナイスコンビってわけなんだね!」
「「違う!!」」
否定の言葉が双方よりでるも先程の通りマイナスとマイナスをかけてプラスになった2人組は間違いなく最高の組み合わせであり、アルビレオの機体性能を最大限に引き出している2人の精神テンションは競い合うという形で最高潮に達している。それを示すように機体周辺へと漏れ出すオルゴンはオーラの如く纏い付き、半端なガレリアなら近づくだけで消滅するほどのものだった。
一撃で暗雲のガレリアを消し飛ばす。そこまで溢れ出るオルゴンを更に2本のウイングブレードへ集束させて剣先に緑色の結晶が掲載されて徐々に膨張していき、まさに一撃必殺の一振りが今振り下ろさんとされていた。無論ガレリアも妨害しようと触手にレーザーやミサイルと暴風雨のような形振り構わず攻撃するも、迷いを吹っ切れた千景の動きに対応できず攻撃の大半を相殺されて届いた半数も見えないオルゴンの壁に阻まれてただただ消え去る。
チャージが完了して両腕を天上に伸ばしたアルビレオより放たれたオルゴンの結晶がその全高の10倍は優に超えるブレードを形成してみせた。アルビレオ本体にイーサンとアズライトも丸ごと吹き飛んでしまいそうな猛烈な力を全力で御しながら、2人の雄叫びとともに燐光の巨刃が蒼穹を文字通り一閃する。
「「いっけええええええええええ!!!!」」
オルガナイトの刃はガレリアを真っ二つに引き裂くと同時にオルゴンを放出しながら崩壊していき、最後まで振り下ろした時にはすっかりなくなっていた。それは全てのオルゴンがガレリアに叩き込まれた事を意味しており、真っ黒な暗雲は燐光に包まれながらやがて白色の粒子と変わる。まるで雪のように舞うガレリアだったものは最後を示すかのように輝きを見せて、間もなく跡形も残さす空へ溶けていくのだった。
これで全てのガレリアは消滅したことになるが唯一残ったものがある。それはガレリアの核として使われていたストライダーの残骸、つまり識別信号を流していたデルタ小隊のストライダーだった。もはや残っているオルゴンの残滓でなんとか浮遊しているだけの鉄塊でしかないが、アズライトにとっては仲間の最後を看取るもので、彼女は一つ溜息を吐き出すと断ち切るように一刀のうちに両断する。
「いいのかい、これで?」
「ええ、いいのよこれで。だって、空はどこまでも繋がってるんだから」
迷いや葛藤を振りほどいた事を示すように空はどこまでも雲一つ無い快晴で、銀翼の鳥と白銀の巨人を包み込んでいた。




