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CHAPTER 1-13

「これがイーサン君の為に作られた専用機……」

「そうじゃ! ワシらハイペリオンが技術の粋を集めて作り上げたカスタムストライダー『ネクサス』だ!」


 工房と発着場をシームレスに繋ぐ通路上に1機の航空機型ストライダーが千景達の前に鎮座していた。ボディ一面はダークグレーに染められてアクセントとして翼端や機種が白くなっており、前の機体に大きく描かれていたファイヤーパターンの赤やオレンジといった派手なカラーリングだった前の機体から比べるとずいぶんシンプルになっている。

 主翼の先端が前方へ伸びる前進翼が最も目を引く特徴で、この形状は空力特性で運動性能に優れていると千景は聞いたことがあった。隣で見ている日向も前進翼と色合いからロシア製戦闘機であるSu-47との類似性を口にしており、ついに完成した実機の姿に工房スタッフも感慨深そうにしている。だがこの場で一番感情を爆発していたのは無論この機体を操る、イーサン・バートレットその人だ。


「ネクサス!! オレの13番目の相棒! 待ってろ、今すぐ飛ばしてやるからなああぁぁぁぁ!!」

「ホントにはしゃいじゃって……。ん? 13番目って、イーサン君そんなに乗り換えてるの?」

「そうなんじゃよ。アイツの操縦が荒っぽくてな、最初に乗った訓練機なんぞ1度の飛行でオシャカになっちまってよ。こうしてワシらでカスタム機を出してるわけじゃ、ソイツらも寿命短かったがな!」


 イーサンの操縦についていけるようにハイペリオンが総動員してカスタム機を造ったり整備をしていたが、それでも消耗が激しく更に機体を顧みない無茶な機動も重なって1機の寿命は3ヶ月持てばいい方らしい。好きにカスタム出来るから歓迎だとレイジは盛大に笑うが、他の工房スタッフ達はげんなりとした顔を浮かべていたのでどうやらイーサンのカスタム機の製作及び整備に相当手を焼いていたようだ。

 今回の13代目ネクサスはこれまでの経験を踏まえて主翼などの外装はフルスクラッチで内装系もその殆どをチューンナップしており、イーサンに追従することを最重要視した設計になっている。カスタムパーツだらけということによる整備性の低下には機体各部が細かくユニット化されているというストライダーの特製をフルに活かして、各部位をまるごと交換する方式にして解決した。元々は既製品のポーツを組み合わせた機体をそのまま使っていたがすぐに破損して飛べなくなったので、カスタムパーツにチューンナップを施し挙句の果てにはフルスクラッチとなっていき、聞いてるだけの千景にもその苦労が目に浮かぶ。


「おいおいじーちゃん、ゴタゴタしたことはいいんだ! 要はコイツがどんな飛び方をするか見せればいいだけだろ! さぁさぁいくぜー!!」

「気が早いやつだなー。よーし、ゲートオープン確認。バックブラスト展開確認、退避エリアに全員いるな! イーサン、こっちはオッケーだ!」

「了解! 視界よし、周辺に人影なし。クリアードフォーテイクオフ、ネクサス出撃!」


 地上の安全を確認してからネクサスに火が入って双発のノズルより爆風が吐き出され、黒い翼は蒼穹へと飛び込んでいった。一直線に飛んでいく機影はすぐに見えなくなったので発着場にいた皆は空がよく見える上層へ向かっていき、その道中でレイジが無線機で飛行中のイーサンへ呼びかける。

 しかし無線を切ってるのかイーサン側からの返答はなく仕方なく無線機を仕舞い込むと、上の方から歓声が聞こえてきた。何事かと浮島の外へ張り出すバルコニーへレイジ達も顔を出すがと先にいったスタッフ達が見上げており。同じように3人も空を見上げてれば黒い翼が空を悠然と飛び回っていた


「おーアイツ楽しそうだなー!」

「全くいつ見ても驚かされますね、イーサン君の操縦センスには……。ん? 何をしてんだ」

「すごい、あんな機動できるのか……」


 青空という舞台をいっぱいに使って黒い鳥は飛んでいき、その飛び方は直線的に進みつつバレルロールで回転を加えながら鋭角的に降下したり上昇したり左右に曲がっていく。翼端からは飛行機雲が伸びていき、複雑な機動から生み出された軌道を白い筋を生み出した。

 無軌道に作られた白い筋だったがだんだんと形作ってきていき、やがて巨大な青いキャンパスに白い線によって巨大な鳥の絵が描かれていく。今までの機動はこの絵を描くためでもあったということに、眺めていたギャラリーは歓声を上げながら指笛を鳴らして空に向けて囃し立てた。


「あ、あんな鳥の絵を飛行機雲で描けるなんて……。メチャクチャだ」

「ハハハッ、ワシらの技術を作り上げたネクサスとアイツの操縦センスが合わされば、これくらい余裕なのだ!」

「もう驚くのは疲れたよ……」


 バルコニーに立つ皆に向けて機体を上下に揺らして返礼するような挙動を見せ、鋭角にターンしていくと同時に機首を一気に下げて真っ逆さまに降下して見えなくなると、バルコニーとは反対側から一直線に急上昇していく姿を見せていく。

 まだまだ飛んでいたいのか鳥の絵の周囲をくるくると周回しており、先程の雲を引くほどの機動力は見せないながら優雅に飛んでいた。そこでようやく通信に出る気になったのか、無線機越しに興奮した様子なイーサンの声が聞こえてきた。


『このネクサスすげーぜ! なんというかぴったりフィットして思うように飛べてる! さすがハイペリオン製!』

「満足頂き何よりだ! それで試運転とか色々あるんだろ? 武装のチェックなんかもしなきゃな」

『そういうのは飛びながら覚えるさ! じゃあこのまま調査に出るから千景、お前さんもスターファイターで出な!』

「えっ!? あ、確かに今から向かう予定だったけどさ、この状況で出るのはなかなか無茶振りだよぉ……」


 イーサンとしては一緒に飛びたいだけなようだが、空に鳥を描く様を見せられたら自身を無くしてしまう。スターファイターも飛ぶ立てる準備は出来ているとレイジに背中を押され、有無を言わさず千景は地下の発着場まで降りてきた。宣言通りにスターファイターも発進できる状態で鎮座していたが、レイジはそのまま工房の奥へ引っ込んでいってしまう。ややあって戻ってくるとその手にはオレンジ色のジャンプスーツがあった。

 元々イーサンのために用意した飛行服でストライダー操縦のサポートをする機能が盛り沢山なのだが、彼がポリシーを理由に袖を通すことなくそのまま埃を被っていたものを千景用にカスタムしたものだ。早速ロッカールームで着込むと丁度よいサイズでしっかりフィットし、白地に赤のラインが入ったヘルメットも渡されて一端のパイロットになった気分である。無論千景は間違いなく前からランナーであるが。


「おー似合っとるよー! この服、イーサンの奴は袖も通さんでな、その分使ってほしい。アイツはどんな時もあの格好は変えないからなぁ」

「ですよね。あれ以外の格好したイーサン君なんて想像できません。それじゃあレイジ博士、いってきます!」

「おー、気張らずに空を楽しんでこいよー!」


 気楽なレイジの声に幾分か肩の力が抜けてリラックスした状態でコックピットへ入れた。マニュアル通りに機動シーケンスを立ち上げればスターファイターのエンジンに火が入り、離陸可能となると同時に発着場も離陸に向けた状態へ移行する。ブラストシールドが後方に展開されて前方の発着口の左右にはガイドビーコンが展開され、空への道案内をしていた。出力も十分に高まり機体が軽く浮いた状態になると離陸可能のサインが点灯し、千景は右手のレバーを前に倒す。


「システムオールグリーン。スターファイター、発進します!」


 ジェットの轟音を響かせながら銀色のストライダーも空へ飛び込み、コックピットに座る千景も初めてオラクルの空というものを肌で感じ取ることができた。イーサンが描いた空の絵に近づくと彼のストライダーも近づいてきて歓迎するように周囲を飛んでおり、そんな2人へ無線機より日向の声が響く。

 このまま調査エリアへ飛んでいくこととなるが、その場所についての情報はイーサンの母であるクリスが輸送機ヴァリアントでの貨物運びの傍らに集めていた情報である。この空域でこれまで見られていたものとは違う未確認のガレリアが目撃したという証言が得られ、今回の調査対象となった。


『こちら司令室(CP)。これから目的地に向かおう。マップデータを送るから2人とも気を付けてくれよ』






 オラクル大陸の周囲はオルゴンに満ちておりその中へガレリアは侵入することは出来ないが、大陸中心部から離れていくほどに薄れていって境界線となるエリアがガレリアとの主戦場で今回の目的地である。イーサンもよく訪れるエリアであるが千景にとっては初めての空域なので不安はあるも、サイトロンによる操縦は安定しており飛行には問題なかった。

 通常のガレリアでなく特殊なガレリアを追う理由は地球へやってきて彼にコンタクトしたガレリアは今まで見たことの無いタイプであり、これからの調査活動をする上で接触すべき物はそういう特殊なガレリアとする。その方針を打ち出したのが千景本人で、イーサン達もそれに賛同して探す事に賛同してそのように動いているのだ。


「千景、順調そうだな。まー気張りすぎず気楽にいこうぜ」

「了解、でもこう飛んでるとパリッと緊張するんだよね。そっちこそ新しい機体だから……大丈夫そうだね」

「そうよ! コイツも最高の機体だから、こんなのも余裕だぜ~!」

「もう、はしゃいじゃって……」


 イーサンは飛ぶ喜びを示すように空を駆け抜けていき、千景の頭上を飛んだと思ったらロールしながら一気に急降下したり直角に曲がるように上昇してくる。複雑で機敏な機動を見せるイーサンにツッコミを入れながらも、超音速で飛ぶ航空機は着実に目的地に向かっていた。

 目撃されたエリアはある程度限られているがそれでも広いエリアであるので、到着する前よりイーサンはセンサーを強化して観測を行っている。同じように千景もセンサー感度を上げて周囲を索敵するとこちらに近づいてくる複数の機影が見て取れて、ガレリアの編隊かと思い身構えるもその機影より通信が入って敵でないことが示された。受け答えを行うイーサンの前に赤と黒に染められたエアバイク型のストライダーが向かってきており、その機体に千景は見覚えがある。


『こちらはグリフォンズ・デルタ小隊。現在当空域にて任務遂行中につき所属及び目的を伝えたし』

「こっちはデアデビルのイーサン・バートレットだ。目的はここいらで目撃された未確認ガレリアの調査だ。つまりそちらさんとは同じ目的さ、アズライト」

『……まさか仕事でもばったり合うとかどんな縁があるのよ? それで、その黒い羽つきがあなたのストライダーで、後ろの銀色が千景君なのね』

「そういうこと、最大手であるグリフォンズが出張ってきてるということは目的も同じようだし、一緒にやろうぜ」

「イーサン君、それはさすがに仕事の邪魔にならない?」


 警戒しながら周囲を飛ぶストライダーは地球でアズライトと初めて出会った時に乗っていた物と同じであり、通信機から聞こえる声から彼女本人だとわかった。今のアズライトは自身が所属しているプライベーティアでの仕事の真っ最中であり、そこに混ざるのは迷惑じゃないかと千景は待ったをかける。

 アズライトが属するグリフォンズはイーサンが言ったようにランナー派遣会社では最大手であり、その規模は数十人のランナーを有して同等のストライダーとそのサポート要員を持つ大企業だ。プライベーティアの規模はグリフォンズのような大規模な所は多くの人員を充てられるので仕事をこなせることが多く、デアデビルのような個人規模では公的機関や大企業では対応しづらい細かな依頼を受けやすいなど、それぞれが長所を活かしている。


『千景君の言う通りよ。そもそも、そっちは独自の調査でこっちはコーテックスからの正式な依頼なの。さっさと帰りなさい』

「えー、マジかよ。そういうのを決めるのはお前さんじゃなくて隊長さんじゃないの?」

『その通りだな。私が指揮を取るデルタ小隊長のデッカードだ。デルタ5,アズライトの学友だな。ここはアカデミーの延長線ではないのでね』

『隊長! そうですよ、このバカにバシッと言ってください!』

『同行を許可する。なに、先日のゲートでの戦闘で手伝ってもらったお返しだ』


 通信に入ってきたデルタ小隊に隊長がイーサンを一喝して叱り飛ばしてくれると期待していたアズライトであるが、それと反する答えが出てきたことに目が点となってしまった。ゲートでの戦闘とはイーサンが地球へやってくる直接の原因となったゲート前でのガレリアとの戦いで、その時ゲートの防衛を行っていたのがデルタ小隊でイーサンはその救援である。

 元々ゲートの防衛機構は強固であるのだが件のガレリアは今まで確認されていなかったステルスタイプだったので防衛機構は無力化されてしまい、哨戒活動していたデルタ小隊と偶然近くを飛んでいたイーサンが防衛に加わったのだ。そこでイーサンの無軌道な行動は問題になったが結果的には大惨事を回避できた功績は大きく、デルタ小隊長のマードックも彼の行動力を評価している。


『さすがにコーテックスのお偉方も空中要塞2基でも防衛できなかったのは重く見ててな。近々更に強固な要塞を作るらしい。これで防衛が楽になればいいのだがな』

「ソイツはいいですねぇ。ま、オレにかかれば要塞だってぶっ飛ばしてやりますぜ」

『何言ってるのよ、要塞は味方でしょアンタ……』

『ハハッ、ソイツがあの時のストライダーのランナーか。アズ、面白い奴と知り合いだったんだな』


 見ればデルタ小隊と思われるストライダーが集まってきており、隊長機のデルタ1とデルタ3が千景達と同じ航空機型でデルタ2とデルタ4にデルタ5であるアズライトがエアバイク型の計5機の編成だ。元々は4人だけでアズライトは学生ということで臨時の編成であるが彼女も実力のあるランナーだから小隊の一員として迎えられ、しっかり鍛えられながら可愛がられている。

 姉御肌なデルタ3はイーサンの事を気に入った様子で真っ先に今回の協同に賛成の意を示し、僚機でどこかお調子者な感じあるデルタ4も続く。冷静な副隊長であるデルタ2も部外者が加わるのに難色を示しつつもイーサンの実力については承知してるので、こちらの指揮下に入るということで了承するのだった。


『まさか姫とあの時のぶっ飛びストライダーのランナーがボーイフレンドとはな。こりゃ面白え、俺も賛成しますぜ』

『ちょっとジョニー、じゃなくてデルタ4、コイツと私は同じクラスメイトじゃなくてただのクラスメイトなの。変なこと言うとまた股間蹴り飛ばすわよ?』

『まったく、デルタ3には荒治療が必要ですね。自分としては部外者を加えるのは反対ですが、彼の戦闘力についてはこの眼で見てますので問題ないと判断します。ただこちらの指揮下に入ることが条件ですが』

『ああ、というわけでこちらの指示に従ってもらうが問題ないか?』

「大丈夫っすよ。経験豊富なプロの判断に従いますぜ。自由裁量のとこは好きに飛ばしてもらいますけど」


 デルタ小隊がどうするか考えている間に千景達も本部にいる日向と交えて話し合いをしており、デルタ小隊に従うという判断を選ぶ。誰かの下に付きたがらないと思われていたイーサンがあっさり了承したのですぐに決まり、調査活動はデルタ小隊とデアデビルの協同任務となった。

 調べなければいけない空域はストライダーが全速力で飛んでも30分はかかる程に広いのだが分散して動くとなると未知なガレリアとの遭遇の危険があったので、出来る限りは集まって行動したい。そこでデアデビルの2機が加われば部隊を2つに分けても十分な戦力を確保することが出来た。


『ありがとう。それでは西端と東端に分かれて中央に向かって調査していくことになるが、西側担当の君たちにはアズライト、デルタ5をつけるよ。勝手知ったる仲な方が動きやすいだろうし学生に混ざるのは大人げなさそうだしな。それでいいか?』

『了解です隊長。それいうことだからよろしく、……はぁ、ここでもアンタ達と組むことになるなんてね、ホントに赤い糸でもあるかしら? でも、こうして3人で飛ぶのは初めてになるわね』

「そうだな、アズライト、お前さんと一緒に飛ぶの楽しみにしてたぜ!」

「うん、僕もそうだよ。足手まといになるかもしれないけど今日はよろしくね!」


 即席に出来上がった連合部隊は4つと3つの白い筋が左右に分かれて飛んでいく。千景達が振り当てられたのは大陸に近い西側となり背中からの奇襲を防ぐ意図があり、デルタ小隊側が危険な方を引き受けた。ベテラン揃いな彼らがついてるなら心強いので初めての任務であるが千景に強い阜陽が襲いかかってはこないで済む。それよりも3人で一緒に飛べる楽しみの方が勝っており、飛行機雲を伸ばしながら飛んでいく2人の後をしっかりと付いていくのだった。

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