CHAPTER 1-12
「君等がグループを組むというの? まあまあ問題児が揃い踏みね」
「マイヤ先生、この中で問題児なのはイーサン・バートレットだけだと思います」
「ところがね、アズライト・ジュネット君。あなたは後輩にちょっかいを出したっていう男子生徒3人を相手に大立ち回り演じて、第3アリーナを半壊させたじゃない。それを問題児と言わないでなんと言うの?」
「あれはあいつらが悪いのです、セクハラ野郎は悪即斬というのが私の方針です!」
チームを作ったということで次は担当する教官を探そうと4人は第3アリーナから離れて、武道場にいるマイヤ・レイヤーズ先生の元を訪れていた。彼女はイーサンに格闘訓練をつけてあの体捌きを教え込んだ教官であり、よく知っている人物でもあるので頼むわけである。武道場へ車での道中にてマイヤ先生に関することをイーサンが教えてくれたのだが、格闘戦に関しては現役時代も教官時代も変わらず鋭いものの一方、私生活では大酒飲みな酒豪で二日酔いのまま訓練を行ったという伝説を残した、教官はもとより教師や大人としてだいぶマズイものであるがそのおかげか逆に生徒から親しみを覚えられ、イーサンもそうした1人なのだ。
イーサン達の顔を見るなり一行を問題児と放言してアズライトが反論するが、過去の出来事を出されて少々窮しながらもそちらに対しても反論する。先程の模擬戦で見せた力を考えればあのアリーナを半壊させるのは可能だと千景は想像でき、暴れたのも後輩の為という事だからアズライトは面倒見が良い人なのだと再認識した。
「まー生徒会長もいるから問題はなさそうだし、あたしも色々やらかしててこれ以上問題抱えても関係ないしね! あとは放上千景くんが決めればいいだけよ。アッハハハハ!!」
「な、中々いい先生だろ? オレこういうとこが好きなんだよ」
「ハハハ、なんかすごいね……。僕としても3人から教わるのは大賛成、改めてよろしくね」
生徒同士でチームを作るのはお互いを鍛え合う為だが、今回は新入生である千景を3人が先輩として授業や訓練をサポートしていくパートナーシップ制度とも合わせることで万全な体制を作ろうとクラリッサは提案してきたのである。教える側も評価されるものだからイーサン達に異論はなく、千景にとっても顔見知りが付いてくれるのは心強いので断る理由はなかった。
概要を聞いたマイヤ先生も許可をくれたので早速明日からローテで千景のパートナーをしていくのだが、イーサンはまだ座学のカリキュラムが溜まっているのでそちらが片付くまではクラリッサとアズライトの2人が担当することとなる。ちょっと残念そうなイーサンを慰めているマイヤ先生であるが、あることに気づいて3人へ尋ねてきた。
「そう言えば3人ともまだ相棒が決まっていないんじゃない? グループは任意だけど、こっちはほぼ強制なはずだけどね~」
「そのエレメントというのはアカデミーの制度なんですか?」
「うん、そだよー。ランナーというかストライダーはね、2機1組となることで最大限の力を発揮できると言われててね、相性が良い者同士で組んでるのよ。現役時代の相棒も相性良かったわ、ただ全く飲めなかったんだけどねアイツは」
アカデミーにおいてもストライダーの性能を発揮させる面だけでなく訓練と言えどガレリアとの遭遇する可能性があるので単独飛行を禁止させ、早い段階から相性の良い者同士をマッチングさせていくエレメントを組ませる制度が作られており、大抵はすんなりと相棒が決まるものなのだがこの3人はその埒外にいるイレギュラーなのである。
まずイーサンはその類まれなストライダー操縦技術と比例した我の強さから合わせられる者が学生におらず、そもそも単独での飛行中にガレリアと遭遇しても多少の数なら返り討ちにすることが出来た。アズライトは少々喧嘩っ早いところはあったが、面倒見が良くてクラスメイトや後輩たちからも慕われているので人格面でエレメントを組む上で何も問題はない。しかしランナーの能力の面から見ると彼女はあまりにも高すぎるものだから彼女の全力に合わせられる者がいないという状態で、アズライトの為に一肌脱ぐという者もそれなりにいるが無理はさせられないと彼女から断っているのが現状だ。クラリッサはランナーとしても素養はあるし会長らしく指揮者もあるのだが、前線に出るよりも後方での指揮や管理者として学んでいるのでそもそもストライダーで出撃するという機会がほとんどなくて故にエレメントを組んでいない。
「まぁ組めなくてもあんまり気にしてねえしなオレは。もし組むならその時は千景、よろしく頼むぜ~」
「うへぇ、イーサン君に付いてくのは大変そうだ。こりゃ精進しないと……」
「指揮者にエレメントは不要。必要ならアズライトと組むだけ」
「それはいいけど、クラリッサがストライダー動かしてるの見たことないから不安だわ」
誰もエレメントがいないことを気にしておらず、そもそもコイツらと組めるやつはそうそういねえよなとマイヤ先生も匙を投げかけていた。こんな一味で大丈夫なのかと不安を覚えつつも千景は3人に引かれてアリーナへ向かていったのである。
「それで千景君、アカデミーの方はどうだった? 勝手が色々と違うから覚えるのは大変だと思うけど、それはこっちも同じだな」
「まぁはい、歴史や地理なんかは一から覚える必要はあるんですが、物理とか数学なんかはそんなに変わってなくて似たようなところは多いですね。日向さんも色々やってたみたい?」
「ああ、この部屋を借りて通信設備の拡充をな。これで地球とも交信可能になるさ。イーサン君、ここ使わせてもらって良かったのか?」
「じゃんじゃん使ってくださいよ。ここはデアデビルの事務所ですけど、ほとんど物置になってたんで。これでようやく本格始動ってね!」
帰宅した千景達が顔を出したのは発着場に連なるそれなりに広い部屋で、そこでは日向が地球との連絡装置を設営していた。イーサンが言うようにここはプライベーティア『デアデビル』の事務所であるのだが、デアデビルのメンバー自体がイーサンだけだったので殆ど使われていなかったからこれを機に有効活用しようとしたのである。
千景も日向もこれからはデアデビルの一員でもあるから活動しやすく事務所の整理も出来ており、目的であるガレリアの調査の為に情報収集を開始していた。大陸各地を飛び回るヴァリアントに聞き込みを頼み、処理能力の高い大型ヴィムも備え付けてゲネシスのネットワークシステムである『ナーヴス』より情報を集めることが出来る。
「情報収集はヒューミントとシギントが基本なのはこっちも変わらないな! まぁ、そんな大それたものよりはオシントに近いけども」
「ふーん、よくわからんが、これでキャプテンがこっちに来た本懐を果たせるわけね。オレはいつでも飛べるぜ!」
「気が早いねぇ。今はまだ情報収集だけだよ、それよりもイーサン君は座学終わらせないとでしょ?」
「うんうん、これなら千景君の学生生活もよく行けそうだな」
新たな学校生活に千景が馴染んでいる様子に日向を腕を組んで何度も頷きながら、感慨深そうな表情を浮かべていた。アカデミー帰りの2人がデアデビルの事務所に顔を出してるのは改装具合のチェックだけでなく、隣接する工房に壊れた武器を持ち込むのも目的である。イーサンが持っている拳銃の片割れである銀色のムニンはバレル交換で色々な機能を持つのだが、その近接戦闘オプションであるトンファーがアズライトとの模擬戦で破損してしまっている。
愛用の2挺拳銃フギン&ムニンはキールが息子であるイーサンの特性と趣味性を汲んで作った特注ブラスターで、工房内では事務職的立ち位置な彼なのだがレイジの一番弟子ということもあるから技術者としての力量も高く、ブラスターからヴィムまで特にこうした武器装備については専門家だ。トンファー部分の修理を終えてオプションパーツを収めたアタッシュケースを手にして、キールが3人の前に顔を出す。
「みんなお揃いだね。ほら修理完了したよ、オルガナイトの刃に力押しで対抗したって、もっと装備を労って使ってくれよな。ま、そうならないように結構頑丈に作ったつもりだけどさ」
「ありがとう、とーちゃん! 大丈夫、こいつはかなり頑丈だからしっかり使いこなしてみせるぜ!」
「ならいいんだけど。あ、日向さん、そっちの設備も問題ないですか? 余り物ですが性能は悪くない奴ですが」
「ええ、まったく問題ないですよ。自分は機械音痴なとこありますから、これからもお願いします」
「おー、野郎ども集まってるねー! おばあちゃんが夕飯できたから早く来いってさー!」
パタパタと足音を立てながらひょっこりと顔を見せたクーリェが男だらけな室内を揶揄しつつ、夕食が出来たことを大声で告げてるとちょうどイーサンの腹の虫が大きな音を上げるのだった。
「今日はわたしが担当。ついてきて」
「うん。よろしくね、クラリッサ」
午前中の授業が終わりお昼の弁当箱をちょうど空にしたタイミングで千景のもとにクラリッサが顔を見せてきて、今日のコーチ役は彼女ということである。早速訓練といくが向かった先は先日のアリーナではなく背丈を超えるほどの棚がいくつも立ち並ぶ図書館であり、間仕切が円形に並んだスペース―ここは視聴覚ブースらしい―も人もまばらだから余裕に座れた。クラリッサはイーサンやアズライトと違って動くのは苦手だから今回は座学の延長線上と言うと、ヴィムから図書館のデータベースにアクセスしていく。
視聴覚ブースの名前通り、間仕切であるカーブの入った板もプロジェクターの機能を持っているのでクラリッサの操作に従って映像を映し出し、浮かんできたのは3Dで作られたのっぺらぼうで全身タイツを着たみたいなデッサン人形だ。
「ではこれからランナーの能力についての講義を始める。この3Dモデルを使って解説していく」
「ランナーの能力……、ストライダー操れたりオルガナイト出せたりするだけじゃないんだね」
「そういうこと。ランナーは脳力の特性ごとに4つに分かれるのだけど、まずは誰でも使える基本的な部分から」
同時に浮かび上がるデッサン人形が動き出して右の手のひらを前に突き出し、そこから何かの波動が放たれたようなエフェクトや逆に吸い込むようなエフェクトが映し出される。これこそランナーが扱う異能のうち最も基本的と言える『念動』であり、オルゴンエナジーにより斥力や引力を発生させて物体を動かすことが出来た。
続いて映るのは遠くにある物品を手元に呼ぶ寄せる『ジョウント』でこれはアズライトやイーサンから実物を見ており、この2つがランナーにとって基本的な異能となる。効力の範囲や規模に関しては個々人の素養や訓練次第で違ってくるが、基本的に意識を集中させて発動させるものだから咄嗟に使いづらいものだ。
「念動はイーサンが小物類動かす時に使って、アズライトなら意識を集中させてたら大岩なんかを浮かせていた。2人とも直接戦うのか好きなのか、戦闘中にはあまり使わないけど」
「うーん念動かぁ……。スプーン曲げなんかなら出来たことあるけど」
「そんなに悩まなくていい。基本とは言え使えないランナーもいるから。では次にランナーの能力分類について」
クラリッサはそう言うと指を4本立てながらランナーの能力は4つに分けられると説明する。同時に3Dモデルも動きながらポーズを変えていき、ちょうど武術の構えをとると漫画的演出のように身体の周囲からオーラを吹き出していた。精製されたオルガナイトのエネルギーを活用して肉体強化や武器を作り出す『物理型』で、直接的な攻撃を得意とするもので扱うランナーも多くアズライトもこのタイプになる。
対ガレリア戦の主力がストライダーとなってきてる現代ではそこまで重要視されない白兵戦能力であるが、常人離れした身体能力はストライダーの操縦において高G下などの極限環境へ強い耐性を示していた。生身でもストライダーでも高い戦闘力を発揮できるからこの特性を極めていく者は未だに多い。
「なるほどー、これがアズライトさんやイーサンくんの身体能力の秘密なんだね。昨日のアレで自信喪失しちゃいそう……」
「あのバカたちの真似は不要。それにイーサンは肉体強化使ってたけど、そこまであるわけじゃない。彼は五感を高めて認識能力を上げてる『感覚型』であの戦い方はその活用。千景、あなたもここのタイプ」
「あー、それがストライダーに適した適性って言ってたものだね。感覚強いと操縦しやすいのはよく知ってるよ」
ロボットアニメで見たことあると千景は言うとその通りとクラリッサが頷き、立体モデルも瞑想をするようなポーズで周囲に何か念を送っていた。感覚型は特殊な脳波である『サイトロン』をオルゴンが増幅させてそれによって五感や空間認識能力が向上し、高い反射神経や優れた判断力をもたらしたり先読みとして発揮され、極めれば未来予知や読心まで可能となり直接的戦闘力はなくとも圧倒的な優位性を作り出す。
特にイーサンはこの感覚型の特性をストライダーの操縦に全て振り分ける形で修練しており、自身のオルゴンをサイトロン増幅に特化している体質と相まって、生身でも十二分に戦えてストライダーに乗れば天下無双なわけだ。
「本人はサイトロンじゃなくて自分の腕前だと豪語してるけど。イーサンが凄腕なのは皆が認めるところ、命令違反や風紀を乱した数も多いけど」
「……色々大変そうなんだね。さ、次のに行こうか!」
「えぇ、今は考えたくない……。3つ目の特性は『遠距離型』、その名の通り遠距離攻撃を得意とする。こんな感じに」
人差し指を立てるとその爪先に渦が生まれて野球ボールサイズなエネルギーの球体を作り出しと、パッと消していく。遠距離型はオルゴンエナジーを形状変化させたり火や雷といった自然現象に形質を変化させ遠くへと打ち出すという、千景が持っている知識の中で魔法という言葉が一番しっくり来た。
特異な能力者として一番らしい能力に千景も興奮するもいちいち能力を発動させるのに集中力が必要だとクラリッサは面倒くさそうに目を細め、手の内に嵐を作り出すと炎から雷に変化して最後に氷の結晶が生まれてパッと消える。クラリッサはこの遠距離型の使い手で燃費や発動時間についても訓練次第に克服可能で、極めれば固定砲台の渾名の通りに圧倒的火力を投射できた。
「遠距離型を習ったのは動かずに済むから。イーサンはちょこちょこ避けるのは癪だけど」
「でもここまで出来るなんてすごいよ! それで最後の能力はなんだろうな~」
「ノリがいい教え子は嫌いじゃない。でも次は分類不明、つまりよく分からないもの」
胸の前でバツ印をクラリッサが作ると頭上に浮かぶ3Dモデルも腕をくんで首を傾げながら疑問符をいくつも浮かべており、2人(?)のリアクション通り最後の系統は分類不明ということである。物理型・感覚型・遠距離型の3つにカテゴライズできず、余りに特殊性が強かったり属人的な能力はこのカテゴリー4に置かれるのだ。
事例が少ない分なかなかぶっ飛んだ能力も多いからとかなり資料も多いようで、図書館の一角に専用の棚があるらしい。一通りランナーの能力を見てきたがどれも良い意味で現実味外れたものばかりだったので、千景は知識としてあるゲームやアニメなんかと比較して見ることが出来た。
「今回は能力分類の触りについて。細かくはまた次回からやっていくから、実践が見たいならアズライトに頼むといい。くれぐれもイーサンに頼んじゃダメ、日が暮れるまで振り回される空の上で」
「そ、それはマズそうだね……。それじゃあよろしくね、クラリッサさん」
「疲れたぁ~~……。もう頭使いたくない……」
「お疲れ様。でも座学を貯めてたのが悪いってクラリッサさんが言ってたから、これからは貯めないようにね」
「終わったならいいさ。千景君の方はこの1週間はどうだった?」
「覚えることばかりでしたよ。クラリッサさんが理論とか教えてくれてアズライトさんが実践を見せるという形で、ランナーの能力についてはだいぶ把握できたと思います」
千景がアカデミーに入学して初めての週末、イーサンや日向とともにデアデビルの事務所に集まっている。お互いこの1週間の事を報告して置きたいということであるが、丸々補修で潰れてしまったイーサンは力尽きており、千景のサポートもアズライトとクラリッサの2人に任せっぱなしだった。
通信設備を置いて情報収集に徹していた日向もガレリアの動向についての情報を噂レベルであるが入手でき、本来の目的―ガレリアの調査―も学業を疎かにしないという日向の方針で調査の日程は週末となっている。気を取り直すとイーサンは頭をブンブン振って出発しようとするが、そこへレイジが顔を見せた。
「おーみんな揃っとるな! ちょうどよかった」
「なんだいじーちゃん、オレ達これから調査だから付き合ってる暇はないぜ?」
「フフフ、これを聞いたらそんな態度はとれんぞ。イーサン、お前さんの専用機がついに完成したぞ!」




