強く儚い者達へ… 第12話
――――――― 貴方達、元"DEATH-SQUAD"S班のフェンデル・ケイとロキア・ハブパッシュでしょう?
絶対に間違っていないと言う自信に満ち溢れた口調。
デュカの言葉に顔色が変わったのは戯皇だった。
が、すぐさま表情を元に戻すと不敵な笑みを浮かべてこう言った。「そうだ」と。
幸斗は剣の柄に手をかけ、いつでも戦えるよう臨戦態勢に入る。
「まさか昔の名前まで知ってるとはな。餓鬼じゃないと思ってたが…随分長い年月を生きているんだな」
「写真で見ただけだよ。これから話すことは極秘と約束してくれるなら、貴方達にも喋ろうと思うんだけど」
「…いいだろう。幸斗、大丈夫だから落ち着けよ」
緊迫した空気のまま、話は進んだ。
「貴方達はもう分かってると思うけど姉貴は純血じゃない。混血なんだ。主な血は悪魔と妖精、そして人間」
デュカが明かした真実に一番驚いたのはリム本人で、戯皇達は薄々感づいていたみたいだ。
しかし、混血と言えど覚醒しなければ意味がない。
リムのように生まれながら人間の血が濃い場合、覚醒しないことが多い。
混血だからと言って、それがどうしたと言いたそうな幸斗。
「何故外に出た姉貴をこの家に連れて来たと思ってるの?この家に隠してあるんだよ。強制覚醒薬がね」
「!リムを殺す気か!?」
「まさか。飲む飲まないは姉貴の意思だし」
自分を見る弟の目にビクッとする。
顔は笑っているのに凍りついたように冷たい目をしていたから…。
強制覚醒薬とはその名の通り、体に眠る血を呼び覚ますモノらしい。
リムのように弱い生物の血を色濃く受け継いだ生物の治療薬としても使用されているが、半分以上の生物が覚醒時の痛みと苦しみにもがきながら死んでゆく危険な薬だった。
「私は、それで強くなれる?」
「…生き残れば、な。人間以外の血が目覚めればお前は強くなれるよ」
期待に満ちた目で見られるとそう言ってやりたくなる。大丈夫、強くなれる。と…。
できるなら、その薬を飲まずにいてほしい。
だが、リムの希望は強くなり、自分達を襲った輩をその手で殺すことと分かっているから、自分では止める事などできないと戯皇は理解していた。
強い意志の秘められた黒曜石のごとく黒いリムの瞳に自分が写る…。
「覚醒、についても話しておいたほうがよさそうだな…」
ため息交じりで零れる言葉にリムはありがとうございますと頭を下げた。
仕方ないな…と、彼女を見つめていた幸斗の視界の端では何故か物悲しそうな弟が目に入った。
姉を覚醒させるために来たと言っていたくせに、どうしてそんな顔をしているのだろうか?
まるで、薬を飲まないでと言うかのように…。
「覚醒…。簡単に言うと急激なレベルアップってところだ。人間以外の生物には必ず起こる現象で、二段階に分かれている。第一段階、俗に第一覚醒と呼ばれる現象では自分が最も色濃く継いだ血が覚醒して、第二覚醒ではその血が開放される」
「…よく分かりません」
「例えば、お前の場合だと人間、妖精、悪魔の血を継いでいるだろう?それで最も色濃く継いだ血が悪魔だとすると、第一覚醒で悪魔としての特徴が出る。血が青色に変わり、悪魔の翼を手に入れ、能力も格段上がる。第二覚醒では細胞一つ一つが活性化し、第一覚醒とは比べ物にならない力を手に入れることができる」
「つまり、私も覚醒する可能性があるってことですか?」
一応他種族の血を引いているのだから覚醒してもおかしくないのでは?と期待して戯皇をみるが、彼は首を横に振る。
何でも、第一覚醒が起こる為にも必要な戦闘力があり、リムはソレを満たしていないらしい。
人間の血が色濃いせいで魔力が著しく低いためであった。
落胆を隠せないリムにデュカは「薬飲む?」と聞いた。
「…飲むよ。私は、私の生活を壊した奴らを殺すために生き残ったんだから」
予想通りの言葉に、戯皇も幸斗もデュカも諦めた様に肩を落とした。
それにはリムも申し訳なさそうだ。
自分を心配してくれてるのは痛いほど良く分かるから…。
「やっぱり…飲むんだね…!そうだ!ねぇ姉貴、僕が変わりに父さん達の敵を討つから、やっぱやめない?」
デュカも姉を思いとどまらせようと必死だった。
でも、リムは嫌だと首を振る。
止められないと分かっていたが、やるせない表情を浮かべてしまうのは姉を大事に思うから。
デュカはそのまま口を閉ざした。
「ごめんね…デュカ…」
デュカは謝る姉にいいよと言うかのように首を振ると、そのまま「風に当たってくる」と外へ出て行ってしまった。
彼なりに姉を止めようと必死なのだろうと戯皇は人知れずため息を落とした。
リムは申し訳ないと思いながらも頭を切り替え、戯皇に向き直った。
「戯皇さん…"DEATH-SQUAD"ってなんですか?それに、姉さんが狙われた理由…『セスト・ミセルの能力』って…」
「ああ…、ん…セルト・ミセルについては後で、な…。"DEATH-SQUAD"ってのはこの星最大にして最強の戦闘組織で、数少ない法律から背いた者達を処罰・処分する組織だ。まぁ、仕事柄暗殺組織とも言われてるけどな。俺と幸斗はそこに在籍していた」
「S班とか言ってたのは?」
「組織内のランクだ。S、A、B、C班があって、"DEATH-SQUAD"内でも弱いものからC班属して、S班は"DEATH-SQUAD"最強…事実上この星で最強の集団だ」
つまり、戯皇と幸斗はその"DEATH-SQUAD"S班に在籍していたのだから"COOFIN"でもトップクラスの戦闘力を持っていることになる。
だから、あの殺気、あの強さだったのだ。
しかし、納得と同時に疑問も生まれる。
何故、隔離保護地域なんかにいたのだろう?何故、こんなところであったばかりのリムを助けるのだろう?と。
「あの餓鬼も言ってただろ?『元』だって。俺と幸斗はもう500年も前に組織から抜けた。今は気ままな旅人さ」
心を読まれたのかと焦るリムに顔に書いてあるぞと戯皇は笑う。
しかし、500年と今彼は言ったではないか!
聞けば、短命なのは人間だけで他種族は寿命が長いらしい。それも、気が遠くなるほど。
戯皇の話では、リムも一応他種族の血が混じっているため寿命は人間よりは長いらしい。
「お前は過去二度死にかけてるのに驚異的な生命力で生き延びた。それはお前の体に微かに流れる他種族の血のおかげだ。他種族は生命力も人間とは桁違いだから」
「じゃあ、私があの町では女なのに誰よりも強くなれたのは…」
もちろん、リムが混血だから。
そして、その町では他の誰よりも多種族の血が濃かったからだと戯皇は言い切った。
そして続けられた言葉は、いくら人間の中で強いと言っても、例え世界で弱者と呼ばれる混血にすら勝てない。というもの。
悲しいほどに弱く脆い人間という種族…。
事実はさらにリムを辱めた。
思い上がりだと分かっていたが、こんなにも世界が広いとは思っていなかった。
「…私に戦いを教えてください」
真っ直ぐな瞳に戯皇は「そのつもりだ」と笑ってくれた。
未知の世界に飛び込んだ少女を、その背を押した自分達がどうして見捨てる事などできようか。
戯皇の返事は何処か寂しげで、幸斗は二人に気づかれないようにため息を漏らしたのだった。
「まずは…覚醒を起こすことが先決だな。鍛えるだけ鍛えていざ覚醒させようと思って覚醒薬で死んじまったら時間の無駄になっちまう。幸斗」
自分を呼ぶ声に、「呼んでくる」と幸斗は外へと出て行った。
彼自身は、あまりデュカのことを好きになれないが、戯皇が呼んで来いと言うのならといった感じだった。