強く儚い者達へ… 第11話
「この星にはほとんど法律がない。盗み・殺しは当たり前。弱い者は虐げられて死んで逝く…この世界では戦闘力の高さがすべてだからな」
「あの、さっきから言ってる戦闘力って?」
「ああ、強さのバロメータだ。個々人の身体能力・知能・魔法力を考慮してはじき出されるモノだ」
身体能力とはその名の通り、筋力・スタミナ・瞬発力といったもの、知能は頭の良し悪し。そして、魔法力とは精神力のことだと言う。
戦闘力が高ければ高い程この星では勝者らしい。
「この戦闘力によって自分がどんなタイプか系統分けされる。身体能力が高ければ戦士タイプ、知能が高ければ学者タイプ、魔法力が高ければ魔術師タイプ。すべてが均等でかつ一定値以上を戦闘タイプ。反対にすべてが規定値以下ならノーマルタイプと系統分けしてる。…それでだ、この星では"BLOOD"、"TYPE"、"CLASS"って言う3つのステータスがある。"BLOOD"は己の体に流れている血の種類を示して、"TYPE"はさっき説明した系統を、"CLASS"は系統のランクを示している。例えば、"BLOOD"天使、人間、精霊"TYPE"魔術師"CLASS"術師、って奴ならどんな奴だ?あ、術師とかそんな言葉の意味はまた後で 教えてやるから気にするな」
「えっと…天使と人間と精霊の血を引いていて、魔法力が規定値を満たして…魔術師のランクが術師」
いきなり話を振られて驚いた。
戯皇はしどろもどろになりながら答えるリムに理解力はあるなと観察する。
「ここまでで分からないところは?」
「"CLASS"ってのが分かりません…」
「"CLASS"種類が多すぎるから、おいおい説明していくつもりだ。今は、強さのレベルだと思っとくだけでいい」
その言葉にリムは素直に頷いた。
初めて知る事ばかりで少々混乱するが、分からないところが出てきたら遠慮なく聞いていいと言ってくれたので安心する。
沈黙を守る幸斗とデュカ。
「あの、じゃあ…どうやってその"BLOOD"とかがわかるんですか?"CLASS"とか、月日がたつにつれて変わるものなんじゃ…」
「いいところに気がついたな。個々のステータスを知る為には"ネームプレート"ってものがあるんだ」
ネームプレート。その名の通りのものらしいが、使われている金属は特殊で記憶合金と呼ばれるものらしい。
母の腹から生まれ落ちた時に赤子が握っている金属がある。
その金属を赤子本人の血液に浸すことで完成するネームプレート。
そのネームプレートには名前と"BLOOD"をはじめとするステータスが浮き上がってくるという。
持ち主の戦闘力が変わると同時に刻まれている情報も変化するという不思議な金属・記憶合金。
何千年経とうとも、持ち主が生きている限り情報を刻み続けることからその呼び名が付いたと戯皇が説明してくれる。
「私、そんな物持っていない…」
持っていないと自分の戦闘力が今どれほどかが分からない。
リムは縋る様に戯皇を見るが、こればっかりは仕方が無い。
ネームプレートは、本人が持って生まれる金属だから同じモノ等この世に無存在しないのだから。
戯皇が「どうしよう」と空笑いを浮かべて幸斗を見るが彼も肩を竦ませる。
今更入手することなどできないものだと言うかのように。
そんな三人を見かねてか、静かに言葉が投げられる。
「持って無くて当然だよ。安心していいよ、姉貴。僕が持ってるから」
デュカが差し出したのは何も刻まれていない金属板。
戯皇と幸斗はどういうことだと問いただす。何故、彼が持っている?と。
「本当は、姉貴はずっと内の世界で生きるはずだったんだ…だから、これは要らないだろうって父さんが…。でも、もしも姉貴が外の世界に出てしまったら、その時は、僕がこれを姉貴に渡せと託されたんだ」
父は何時かこうなるのではないかと予想していたらしい。
リムが生まれた時から…。
「何も刻まれてないのは、まだ姉貴の血に浸してないから。これに記憶が刻まれたら、姉貴の情報はこれを手にした者すべてにわたってしまうのを避けて…この星で弱いという事が周りにバレてしまうとどうなるか、貴方達なら分かっているでしょう?」
デュカの言葉の意味が分かるから、戯皇と幸斗は何も言わなかった。
ネームプレートに刻まれたリムの情報が漏れるという事は、それは恐るべきことだから…。
弱い者は虐げられるこの世ではより弱い者を虐げようとする連中が多く存在する。
それからリムを守るために、父は隔離保護地域へと移り、ネームプレートにリムの情報を刻まなかった。
来るべき時が来るまで…。
しかし、リムはともかく戯皇と幸斗には引っかかるデュカの言葉。
デュカは、リムが生まれる前から、この世界で生きているのでは?と言う疑問。
だが、疑問を口に出すことは無い。
何故なら、今リムに不安を与えるべきでないから。
「あるなら話は早い。幸斗」
戯皇は剣を鞘から抜き、幸斗はキッチンから小さな器を探してきた。
リムの手をとると袖を捲り、鍛えられた彼女の腕を外気に晒す。
リムは少し怯えた様に戯皇の名を呼べば、大丈夫と微笑まれる。
「ちょっと痛いけど、我慢な。幸斗、すぐ回復してやれよ」
出血量の多い手首に刃を当て、スッと皮膚を抉れば赤い液体が遠慮なく溢れ出す。
器にそれを受けるとデュカは持っていた姉のネームプレートをそこに浸す。
幸斗は言われた通りリムの傷に回復魔法をかけてやる。
「さて、しばらくすればお前の情報が浮き上がってくるだろう…とりあえず超基本知識はこれ位かな…次は何を聞きたい?」
「…私は、強くなれますか?」
一番リムが心配なことだった。スタンとフレアをこの手で殺してやりたいのに、自分でできないかもしれない…。
自分は、人間と言うこの星で最も弱い生物だから…。
この質問には戯皇も言葉を濁す。
いくら混血と言えどリムのようにここまで人間の血が濃いと戦闘力の上昇はほとんど望めないということを彼は良く知っていたから。
それでも、戯皇は彼女が望めば限界まで戦闘力をあげてやるつもりだった。
この世界では雑魚と称される程度だとしても…。
「リム、言いにくいんだが…」
「なれるよ。僕はその為に姉貴を待っていたんだから」
事実を教えようとしたとき、デュカはおもむろに口を開いた。
彼の瞳は何故か目の前の戯皇を写して…。
挑発されているのか?戯皇は直感的にデュカは危険だと判断した。
彼の緊張が隣にいた幸斗に伝わり、空気が変わる。
「…胡散臭いのはお互い様ってわけか…まぁ、いいけどね。落ち着いて聞いてくれない?僕まだ死にたくないし」
何処までも人を見下したように喋るデュカ。
戯皇も幸斗を宥め、続きを促す。
間に挟まれたリムは何故戯皇達がデュカを、デュカが戯皇達を敵視しているのかまったく分からず。
「間違ってたらごめんなさい。貴方達、元"DEATH-SQUAD"S班のフェンデル・ケイとロキア・ハブパッシュでしょう?」