二人の邂逅
俺の言葉の意味を悟るなり、相楽の弟は俺たちの居場所を聞いて、通話を切った。頼みそびれたが、きっと来てくれるだろう。
俺は何をしたらいいかわからずに、ただ呆然としていた。閉ざされた瞼の奥の色に思いを馳せ、胸が苦しくなる。
程なくして、近くの中学の制服を着た俺や相楽より頭一つ分くらい背の低い少年が来た。相楽に全く雰囲気は似ていないが、この人物が相楽の弟なのだろう。電話口の印象と違わない、きつい印象を与える眦をしていた。
「あんたが、幸葵か」
「そう、です」
声が喉に詰まるように上手く出せなくなった。
けれど、罪の吐露は俺に科された贖罪の一環。俺は状況を簡単に説明し、無言で頭を下げた。
ごめんなさい、の一言はそう簡単には出てきてくれなかった。けれど、頭を晒すことは殴られようがどうしようが構わないという意思表示だ。
殴られても仕方ない、と俺は思っていた。
しかし、彼は殴ることはせずに、顔を上げろ、とぶっきらぼうに告げた。俺は言われた通りに顔を上げ、真っ直ぐ彼を見つめた。
「あんたはこの後、どうするつもりなんだ?」
「警察に連絡したので出頭しようかと」
「ああそう」
自分から聞いてきたにも拘らず、興味なさそうに聞き流した彼は、早く行けば? と道を開ける。救急車のサイレンの音がした。早く行かないとややこしいことになるだろう。
冷静な彼の判断に感心しながら、俺は教室の戸に手をかけた。
「おい」
しかし、そこで呼び止められる。
なんだろうと思って振り向くと、彼はつかつかと俺に歩み寄り──それから右腕を俺の頬に向けて振り抜いた。
もちろん、避けるなんて真似はしなかった。当然の報いだ。むしろ、これでは足りないくらい。
けれど相楽の弟はそれ以上何もせず、俺は去りながら、頬の痛みと口内の苦い味を噛みしめた。
嫌な予感はしたんだ。
兄貴は普段携帯電話なんて使わないから。
おれはそいつの声と名前を聞き、一気に頭を沸騰させた。
恐れていたことが起こった。
全て、兄貴にもっと忠告をしなかったせいとも言えた。
もしかしたら平和な学生生活を送れるんじゃないかという、おれの見通しが甘かったのだ。
おれは一も二もなく、兄貴の学校へ向かった。
そこで見たのは乱れた机、椅子、倒れて血の気の引いた顔の兄貴。
その傍らに立つ、やけに秀麗な男。
そいつが幸葵と知っておれは、出頭するというそいつを一発だけぶん殴った。
胸が透くことはなかった。それで兄貴が息を吹き返すわけでもない。
それに暴力は人を傷つける。その「人」というものには自分も含まれるのだ。
それを証明するように痛みに苛まれる右手を握りしめながら、到着した救急隊に付き添った。




