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アサルト・オン・ヤオヨロズ外伝 日華の蕾  作者: ジョシュア
第一話 Echo ,named loneliness.
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1-9 おかえり

 宮丘公園の中を走る。夜も更けて、時刻は午後の十時半。

 柊さんに電話をすると、どうしてかそこを待ち合わせ先に指定された。

 俺は支局長に頼んで、車を出してもらった。南八条からこっちまで、おおよそ三十分ほどだ。

 響子さん曰く、すでに妖怪の類は近くにおらず、迎えに行くのは俺と支局長だけでも問題なかろうということだった。


 鶴喰の一撃で、八尺様は斬り裂かれた。ぽぽぽ、という断末魔とともに霊体は霧散し、俺たちにようやく安寧が訪れた。

 案の定、とでも言うべきか。俺という楔によって繋ぎとめられた八尺様は力の多くを封じ込まれていたようで、最期は呆気ないものであった。


 果たして、八尺様を倒したことで未来が変わったのか。そのことで柊さんはこっちの世界に戻ってこれたのか、向こうに放置されたのか。

 わからないが、電話口の柊さんの様子は至って落ち着いていた。

 そのことに安心を覚えた。八尺様と戦っている間は、この感覚さえ信用できなかったが、倒した今となれば、ありがたさがわかるというものだ。

 柊さんは、宮丘公園にある上手稲神社にいるという。神社近くの駐車場で降りた俺は、すぐ近くにあるにも関わらず走って向かっていった。

 ベンチに一人、座っている女の子がいた。見知った制服を着ているその人は、間違いなく柊さんだった。


「え、うそ、本当に来たんだ……」


 驚いたように柊さんは言った。立ち上がろうとして、ふらついたのを俺は手で押さえて、強引に座らせる。


「はは、ごめん。腰抜けっちゃって、休んだら大丈夫かなと思ったんだけど、まだ立てないや」


 力なく笑う柊さん。これは、もう少しここで落ち着けた方がいいかもしれない。


「どうやって戻ってきたか、覚えてる?」

「それがよくわかんなくて。変な駅に着いたのは覚えてるんだけど、そこから先がけっこうあやふやでね。よっしーと電話を何回かしたのはわかってて、でも中身までは覚えてないや」

「そう、か」

「で、なんか着信があってね。そっち行くから待ってて、って言われて、待ってたはずなんだけど、気がついたら歩いてたんだよ。そしたら全然違う景色で。ちょっと歩いたら宮丘公園だ、ってわかって、安心して座り込んじゃった」

「それはそれで、恐いな」

「ねー、ほんと、恐かった、恐かったよ」


 笑顔を浮かべる柊さんであったが、それは笑うしかないという風であった。

 怪異に出会ったとき、人はいろんな反応を示す。記憶が混濁したり、逆に鮮明すぎたりする。ひたすら泣く者もいるし、笑い出してしまう者もいる。いきすぎれば精神的な障害にだってなってしまう。

 その点で言えば、柊さんの反応はいくらか安心のできるものだった。きちんと自分の状況を把握している。記憶の混濁も、おそらくは未来が改変されたからか、異界から戻ってきた際に何かが影響したのかもしれない。

 いくつか気になることもある。着信というのは、俺以外の誰からか、とか。駅とはまったく無関係な宮丘公園に戻ってきたのはなぜなのか、とか。

 いま聞いても、柊さんを混乱させるだけだろうから、やめとくけど。


「あ、でもね。お母さんに会ったような気がする」

「……お母さんに?」

「うん。会ったばかりの人にこんな話はするべきじゃないんだろうけど、私のお母さん、亡くなってるんだよね。私が小学校に上がる前くらいに」

「家に誰もいないっていうのは、そういうことか」

「うん。私のお父さんの方は、新聞記者なんだ。たまに家にいなくてね」


 でも、懐かしいな、と柊さんは神社を見渡して言った。


「宮丘公園、よく来てたんだ。だからかな、お母さんに会ったような気がするの。あの変な駅も天国でさ、まだ来ちゃダメだよって言ってくれたのかも」


 清々しく柊さんは言う。俺は、本当のことを知ってるから何も言えなくなる。

 柊さんが迷い込んだのはおそらく未来の世界だ。八尺様が様々な人間や妖怪を食らっていき、手がつけられないほど大きくなり怪獣となってしまった世界だろう。

 そして最後の一人まで食い尽くして、未来の札幌は気づけば無人の都市になってしまった。誰も知らない間に。

 そんな可能性の世界が、柊さんが迷い込んだ世界だ。

 けれど、俺たちが倒したからその未来は消えた。そう解釈することにしている。

 柊さんが見た母親らしき人というのも、八尺様だ。

 あの妖怪は柊さんにとって都合のいい夢を見せた。彼女が一番求めて、一番見たかった景色を見せたのだ。

 あまりにも優しく、残酷な夢を。この普通の女の子を食らうために。

 なんとなく、わかった気がする。柊さんは俺とは違うけど、俺と近い感覚を持っている。

 孤独感とか、疎外感とか、そういうものだろう。

 誰かと一緒にいるはずなのに一人でいるような気がしてしまうとか、馴染めないでいるような気がするとか。そういう感覚があるんだ。

 たぶん、近石もそんな思いがある気がする。


「……おかえり」

「もう、なにそれ。ただいま」


 俺の言葉に、それでも柊さんは嬉しそうに答えた。


「よっしー、いい人過ぎて騙されないか不安」

「なんだよ、それ」

「だってさあ、まともに話したの今日が初めてなのに、変な電話しても真剣に心配してくれるし、来てって言ったら来てくれるし。変な女に引っかかっちゃうんじゃない?」


 すでに今日だけで八尺様に騙されてるので、あまり強く言い返せない。


「それに、いや、いまになって笑えてくるんだけど。何で両頬とも真っ赤なの? ウケる。合コンに行ったこと、彼女さんにバレた?」


 俺は思わず頬を押さえる。片方は八尺様の幻惑から引き戻されたときに、響子さんにビンタされたもので、もうひとつは戦いを終えた際に、鶴喰に叩かれたものだった。どっちも俺が悪いんです。


「これは、彼女とか別にそういうんじゃない。必要な犠牲だった」

「よくわかんないけど。うん、ほんと……ありがと」


 急にしおらしくなる。調子狂うな、と思うも、気が動転しながらもこれだけの元気があるならば、明日にはケロっとしてそうだ。

 もうすこしいろいろ聞き出そうとも思ったが、それは後日でも構わないだろう。俺もそういうのが得意なわけではない。

 時計を見た。もうすぐ十一時だ。別に、何時になろうと俺は構わないけど、柊さんは早く送って休ませるべきだ。


「知り合いの車で来てるから、送ってもらうように言うよ。行こう」

「よっしー、どうして、そこまでしてくれるの?」


 柊さんの言葉は、何かの確認のようだった。

 そう聞いてしまう気持ちは、わかる気がする。優しさとか、そういうものに触れたときにどうすればいいのかわからなくなる感じ。

 俺は、俺が納得することしかできないけれど、もしその理由でいいならば答えよう。


「こっちに来てから初めて出来た友達だからな」

「そうなの?」

「まあ、訳あって、去年の十二月に北海道に来たんだけど、おかげでまともに友達も作れなかったんだよ」

「ふうん、そっか。そうだったんだ」


 柊さんはそう言うと、立ち上がった。そして俺の腕をとると、いたずらっぽい笑顔で言う。


「私、よっしーの初めての人かあ」

「言ってて恥ずかしくないのか」

「めっちゃ恥ずかしいけど、よっしーのその顔見れたならお釣りも出るよ」


 すっかり調子を戻した柊さんに、むしろ不安になった。

 この一年間で、社会的に殺されるのではなかろうか、俺は。

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