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アサルト・オン・ヤオヨロズ外伝 日華の蕾  作者: ジョシュア
第一話 Echo ,named loneliness.
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1-6 戦う理由

「もしもし、柊さん?」

『よ、よっしー、あのさ、ちょっとやばいかも』

「どうしたんだ?」

『……寂しくなっちゃって』


 え、と俺は言いそうになったのを堪える。鶴喰の表情がみるみるうちに曇っていくのが見えた。

 やばくなったら連絡するとは言ってはいたが、先に精神的に参ってしまったか。


『ふつーじゃないよ、これ。なんか、寂しくて、胸が痛い。どうしちゃったんだろ』

「大丈夫か? 体調とかは」

『体調はなんともないんだけど。お腹の中がぐるぐるして、何かが足りないって感じがする。たぶん、寂しいんだと思う』


 寂しい、と柊さんは言う。

 なんだろう、その感情は俺もつい最近、抱いたことある気がする。

 それどころかずっと付き纏っている感覚だ。

 痛いくらいにわかる。わかるけど、どうして柊さんがいま、その感情を抱いているかはわからなかった。

 恐怖でもなく、悲しさでもなく。

 たったひとりで、未来にいるという異常な状況で湧き上がる感情というのは、寂しさなのか。


『あと、なんか塔が近づいてきてる気がする』

「……え? 形とか、わかる?」

『うん。だんだん見えてきた。あれは塔じゃなくて、人っぽい感じ。腕はちゃんとある。脚は見えないけど』


 そこまで言ったとき、柊さんは、何かに気づいたように「そうだ!」という言葉を連呼した。


『わかった! よっしー、わかったよ!』

「なにがわかった!?」

『あれは、あれは、ママだ!』


 ぞわり、とした。まるで支離滅裂なようでありながら、この場において俺にだけ通じてしまうような言葉だった。

 鶴喰と響子さんが怪訝な顔をする中、俺は電話口に向かって叫ぶ。


「違う、それは違うぞ! お前の母さんなんかじゃない!」

『あれはママだよ。右手がないのが変な感じだし、帽子もママの趣味じゃない気もするけど……ううん、あれは、ママだ。間違いなくママだ。迎えにきてくれた!』


 柊さんは必死に肯定しようとしている。

 ぶつり、と電話が切れた。柊さんが意図して切ったのか。それとも電池切れか。

 わからないが、これでもう彼女との連絡はとれない。


「ぱいせん?」


 鶴喰が俺の顔を覗き込んだ。

 いま、俺はどんな顔をしているのか、鶴喰の瞳を通じて知る。


「まずいことになった」

「もしかして、柊さんは」

「まだ無事だ。だけど……間違いない。いま柊さんを襲っているのは、俺が昨日、仕留め切れなかった八尺様だ」


 俺の言葉に、場が凍りついた。

 失意に沈んでいく。

 俺が逃した妖怪が、回りに回ってクラスメイトを襲う。

 いいや、そういうことは、あるはずだった。だから絶対に逃してはいけなかったんだ。あのときに倒すべきだったんだ。

 自分の不甲斐なさが自分に返ってくるならいい。

 それで誰かが死ぬかもしれないなんて、目も当てられないだろ。

 舐めていた。これが妖怪ハンターという仕事だ。現実に起こる、戦うべき理由というやつだ。


「くそっ、鶴喰! いま八尺様がいる場所はどこかわかるか?」

「さっきの待機中に響子さんが探してましたが、まだちゃんとした場所までは把握できてません。そう遠くない場所にいるとは思いますけど、見つけてどうするんです?」

「倒す」

「それで柊さんは救われるんですか!?」

「わかんねえけど、柊さんがいるのが未来なら、助けられる可能性はある。そうだろ、菜々実?」


 俺が問いかけると、菜々実は頷いた。それも満面の笑みで。


「如何にもよ。彼女のいる場所が本当にこの先の未来であるか、あるいは分岐した先の別世界か、未来世界の再現空間であるか、様々な可能性を考えることができますけど、いまの時点で八尺様を倒すことができるならば、未来を変えられるわ。その子が怪異に襲われている、という事実そのものを改変することもできるかもしれない」


 でもね、と言って菜々実はクッキーを取り出した。それ、俺がおやつで持ち込んだやつだろ。どこから取り出した。


「このクッキーを、私が一口で食べようと、割って食べようと、少しずつかじっていこうと、お腹の中に収まるという事実は変わらないのよ。その異界駅から逃れられるとは限らない」

「それでも、やらないよりマシだ」


 俺の言葉に、その通りね、と菜々実は吐き出すように言った。

 だって、それしかできないだろう。いまの俺には。

 だが、どうする。八尺様を倒して、連れ戻す手立てを考えているうちにまた何かに襲われてしまったら。スマホの電池が残っているかも不明な状況で、どうやって安否を確認するんだ。

 問題は山積みだった。手に力が入る。

 机に叩きつけた拳に、手が添えられた。

 鶴喰が、俺の手を包んでいた。触れ方は優しいが、彼女の目はとても厳しく俺を見ている。

 焦っちゃダメだ。そう言っているのだ。

 驚くくらい、ストンと落ち着いてしまう。

 びっくりしてしまって、焦っている感情がどこかに行ってしまったと言うべきだろうか。

 そうだ、まだできることがある。全部やりきってないのだから、諦めるにはまだ早い。

 まずは八尺様を倒す。それしかない。


「……見つけたわ。南八条の駐車場」


 響子さんが目を開いて言う。鶴喰も自分のスマートフォンを見た。


「支局長も車を出してくれてます。急ぎましょう」


 相変わらず準備のいい人だ。いや、もともと八尺様を追う算段だったのなら、準備していてもおかしくはないか。

 俺が扉の方に向かおうとすると、今度は響子さんに引き止められる。

 なんだ、と思って振り向くと、彼女は険しい顔をしている。


「珍しいわね、そんなに必死になって」

「そこまで俺、無気力キャラなつもりもないですけど」

「答えなさいよ。何があんたを駆り立てるの?」


 三人に注目されて、俺は少し緊張した。

 それでも気が楽だったのは、たぶん、みんな何も求めていないからだろう。

 俺の答えに、意外性も納得性も求めてない。

 だから、俺は簡単に答えた。


「友達って言ってくれたんだよ」


 たった一回、遊んだから友達なのか。

 席が前後なら友達になれるのか。

 あだ名をつけて、呼び合えば友達なのか。

 わからないけど、ちょっとだけ救われた気がした。


「わかりました。そうしたら、ぱいせん、今度のお花見、場所取りよろしくお願いしますね」

「……待て、どうしてそうなんだよ」

「ぱいせんからの依頼で動くわけですから、今日は。ゴールデンウィーク最後の日です。お忘れないように」


 それが嘘であることは、なんとなく察せられた。

 鶴喰の気遣いなんだ、と思う。決して花見の場所取りが面倒だからとか、そういうわけではないはず。


「それは名案ね。私もお弁当作るし、時間が多いに越したことはないわ」

「意外と乗り気ですね、響子さん」

「なんか言った?」


 凄まれるので、さすがに怖い。

 ……そうだ。結局やることはいつもと変わらない。確実に怪異を倒す必要があることも変わりない。

 ただひとり、俺に戦う理由が一個多くあるというだけだ。


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