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アサルト・オン・ヤオヨロズ外伝 日華の蕾  作者: ジョシュア
第一話 Echo ,named loneliness.
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1-4 未来にいるかもしれない

 もうちょっと間を置いたら、もっと楽しめるかもね。来月には遠足もあるし。

 なんて会話を三人でして、ドリンクバーで飲み物をとってカラオケルームに戻った。それから七時になるまで目一杯遊んで、一次会は終了。

 さあ、ご飯に行こう、と言ったのは幹事の多村だった。すすきののカラオケにしようと言ったのも彼だ。学校から離れている方がいい、とは言っていたが、場所のチョイスが悪い気がする。彼のセンスについては今後に期待しよう。

 このあとはどうやら適当なファミレスにでも入って晩御飯のつもりらしい。

 さすがにそろそろ耐えきれんぞ、と思い声をあげる。


「悪い、家に飯あるから帰る」

「あ、じゃあ私も!」


 え、と言ったのは声の主以外の全員だ。

 柊さんは朗らかな笑みを浮かべている。邪気もなにもない。

 なんか誤解されそうな気がする。俺はともかく、柊さんは気にしてなさそうなので、明日には誤解が解けていることを祈るばかりだ。

 二人揃って集団から離れる。向かう先は駅だった。なるほど、すすきの駅じゃなくて、大通駅の方面だった。

 俺は南北線を使うからどこでもよかったのだが、東西線を使うという柊さんは、定期券の圏内から出るのが惜しいらしい。


「まさか、大通駅使いたいから高校に入った?」

「そうそう! 友達には、そんな理由で入れる学校じゃないよって言われたけどさ。三年間の楽しみを思えば、いいもんじゃない?」


 それは、ちょっと納得できるような、そうでもないような。

 確かに俺たちにとって三年間はとても大きいものだ。目先のことに囚われないで努力を惜しむタイプじゃないのだろう。


「そういう葉沼くんは? どうして独鹿第一なの?」

「家から近かった」

「え、それだけ? そっちの方が変わってるって」

「そうかなあ」

「そうだよ」


 柊さんは笑う。よく笑う。少しだけまぶしく思える。


「いやあ、葉沼くん面白い。あ、よっしーって呼んでいい?」

「関係を三段飛ばしくらいしてるだろ、それ」

「やだあ、関係って、ヤラシー」


 ぐっ、と俺は言葉に詰まる。それを見て柊さんはさらに笑った。


「けっこう、リアクションがツボに入るんだよね、よっしー」

「……そ、そうか」


 別にどうでもいいが、「よし某」なら「よっしー」というのは安直ではなかろうか。ネス湖だからネッシーみたいなものを感じる。多摩川だからタマちゃんもそうか。

 思えば、背が大きいから八尺様というのも、命名としては同じ系列なのかもしれない。名は体を表す、と言うように、体を名で表すこともある。

 よっしーが安直なのには変わりないけど。


「思ったより話してくれる人でよかった。よっしーも、今日で友達増えたでしょ?」

「まあ、な」


 俺は思うところがあって、はっきりと言葉にしなかった。

 明日のことを話していれば、大通駅の改札までやってきた。この時間は仕事帰りの人が多い。それは大通駅から帰る人も、これから飲み明かす人もいる。

 昨晩の戦いは知られることなく、彼らは安心して酒を飲む。

 そんなことを知っているのは俺だけだ。


「よっしー、学校の近くってことは南北線だよね?」

「いや、帰る前に本屋でも行こうかな」

「そっかそっか。みんなに見つからないようにね」


 ご飯がある、という口実で出てきたわけだし、それもそうか。


「あ、それともウチ来る? 今日ね……家に誰もいないんだ」

「うえっ!?」

「なにその反応、超ウケる。冗談だよ、家に誰もいないのは本当だけど」


 それこそ関係何段飛ばしだよ、と言おうとしたけど、言葉を引っ込めた。

 そんな寂しそうに言われたら、俺が茶化せないだろう。

 ちょっとだけ気まずい空気が流れる。


「うちも誰もいない」

「え?」

「ひとり暮らし、だから。ご飯があるってのも昨日の残りで」


 うまく言えてない気がする。柊さんも、顔真っ赤にしてるし。

 けれども、切り替えが上手いのだろう。彼女は顔を赤くしながらも言った。


「じゃあ、こんど、遊びに行かせてよ。高校で一人暮らし、なんて、ちょっと夢があるじゃん?」

「実際のところ、希望もないけどな」

「友達呼び放題だし……女の子も?」

「センスが、おっさん」

「バレた!」


 歯を見せて笑う柊さん。うん、それくらいでいいよもう。

 なんとなくこの子のノリを理解し始めたあたりで、お開きにすることにした。

 じゃあね、と手を振った彼女を見送る。

 これ以上、俺の家が騒がしくなるのは勘弁してほしいんだけど。みんな考えることは同じなのだろうか。



    ☆



 大通近辺には、有名な大型書店が並んでいた。

 俺の求めている本はなかなか手に入るものではない。

 花に関する本は、趣味の欄に置かれている。購入者の少ないような本は、地元の本屋では注文をしなければならないのだが、そもそもどういった本があるのかもわからない状態だった。

 インターネットを探せばあるだろうが、直感を信じたいときもある。どうにも理屈じゃない。

 そういうとき、本屋で手にとって探すという行為が、自分の勘に形を与えてくれるのだ。


 実家が花屋をやっていたからか、俺は花が好きだった。いまだって、花を見て飾り付けるアレンジメントを趣味で続けている。

 高校生になったら、実家で少しは仕事を任せてもらう約束だったんだけれど、猿神に憑かれてからはそうもいかなくなった。

 一時期はやめようとも思ったけど、いまも続けている。いや、形を変えていまもなお、夢となっている。


 フラワーアレンジメント関連の本を見ていると、雑誌コーナーに目が行った。

 オカルト雑誌が一番前に置かれている。一年前までは想像もできなかった光景だった。『甲府の惨禍』が起こった直後から、陰謀論なんかが流行り始めて、いまでは妖怪だなんだというのは、一般的とは言わないまでも、誰もが目にする話題になっている。

 こういうものは流行るときというのは、世情が不安定なときと決まっている。なにを信じればいいのかわからなくなっているのだ。

 花言葉、というものがある。それは花に意味をつけたものである。薔薇であれば愛、という風に。これが流行ったのはいつ、どこでかと言えば、イギリスで産業革命が始まり、技術革新が進んだ西欧においてだった。起源はともかくとして、体系的に語られるようになったのはフランスにおいてだそうだ。

 ラトゥールなる女性が花言葉辞典を編纂した。花の意味を、見た目や実の味、あるいはギリシャ神話や聖書などから引用して語ってみせる。

 花を扱う以上、俺は花言葉を意識する。複数の花を組みあわせて、複雑な意味を持たせたり、より強い感情を伝えるようにする。

 立派なオカルトだろう、と思う。花に意味なんてない。ただ咲いて、枯れるだけ。そこに美や意味を見出すのは、人だけだ。


 ……魔法みたいですね、と言われたのを覚えている。

 花を生ける俺の手先を見て、鶴喰は自身の感想をそう述べたのだ。

 日ノ本の退魔師が気軽に「魔法」などという言葉を使ってはいけない、と鶴喰に対して珍しく厳しく言ったのは響子さんだった。

 でも、それはたぶん、正解なのだ。

 絵を描くにしろ、歌を歌うにしろ、文章を書くにしろ。

 心の裡にあるものを表に出そうとして、外にあるなにがしかに意味を与え、組み合わせていくのはきっと、魔法なのだ。


 電話が鳴った。静かな書店内で通話をすることには躊躇いがあった。

 けれども表示された名前を見て、その考えは改める。

 Kazuho.H。柊和穂だ。

 SNSの名前、ちゃんと本名にしてくれよ、わからないだろ。

 俺は早足で出口に向かいながら、かかってきている電話に出る。


『あっ、やっと出た』

「どうしたんだ、急に。というか連絡先は」

『グループから追加したの! それより、ちょっと聞いてほしいんだけど……』


 そこまで言うと、柊さんはためらった。


『信じてもらえるかな』

「電話までしといてそれを言うか。聞くだけ聞くから」

『えっとね、その』


 覚悟を決めたのか、彼女はようやく、電話をかけてきた理由を告げた。


『私、いま未来にいるかもしれない』

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