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4-3 人工龍脈浄化作戦

 緊急作戦会議である。

 急遽、鶴喰を呼び出した橘支局長は、会議室にてプロジェクターに映し出された札幌の地図を見せる。


「ここ数ヶ月に起こった、主な怪異事件をマッピングしたものがこれだ」


 地図に赤い点が表示される。

 少なくとも、俺が中心的に関わった事件だけでも大通公園、すすきの、南八条、そして麻生。それ以外にも細々とした事件をまとめると、二十近くの点が生まれる。大通公園の中心から、南北へと集中しているのが見てとれた。

 この札幌の地において起こる怪異事件とは、現代怪異である。内地のような古くから伝わる妖によるものではない。自然発生的、あるいはそれらに吸い寄せられてしまう意思の弱い者たちによるものだ。

 論理はなくとも、統計的に何かがあることは見て取れた。


「咲楽井捜査員が集めた情報を照らし合わせると、こうなる」


 そして、南北へと描かれる青い線は、マッピングした点へと重なる。


「ぬかったわ。こんな単純な仕組みを見落としていたなんて」


 その青い線は札幌の地下と通る空洞であるのだと言う。札幌内部にはいくつか分岐する線があったが、大通公園周辺を出ると四方に一本ずつ、おそらくは地層によって何度も曲がっているのだろうが、空からの地図にして一本の線に見える図が浮かび上がってきた。


「札幌という街は、京都をその元として作られているの。碁盤目状に道が作られているのもそのためよ」


 札幌の都市の元の形を考案した島義勇は「三面山囲一面開、清渓四繞二層堆、山渓位置豈偶爾、天造心期来。」と詠んだ。響子さんがその言われを説明する。

 その地形こそはすなわち、南北に反転しているが京都に似ているのだという。あるいは、鎌倉もまた似た理由で建てられた経緯がある。

 軍事上は攻めにくい場所、一方で風水上ではこれ以上のない霊地となりうる基盤があった。

 そこに道を敷くことでこの地に対する霊威を強化し、巨大な気場としたのだ。


「これが札幌に……」


 鶴喰は唖然としていた。自分が暮らしている街、愛している土地の地下にこのようなものがあるとは、ついぞ思わなかっただろう。


「この度、お前たちに行ってもらうのは人工龍脈浄化作戦だ」

「龍脈の浄化って、聞くだけで恐ろしいんですが」


 霊気の流れと言えば簡単かもしれないが、それが大自然のものであるならば別である。

 いわば、川そのもの。その流れを整えるとなれば教科書に載るほどの大事業だ。江戸時代に、川の氾濫による被害を減らすため、利根川の流れを変えたのは有名だろう。

 龍脈もまた同じだ。何者かは不明であるが、過去に札幌を造った者たちが人口的な龍脈を生み出したのも大きな事業である。それに挑む、というのは並大抵のことではない。

 まして、向かうのは学生ばかりだ。響子さんはともかく、俺は素人に毛が生えた程度だし、鶴喰だってベテランと言えるほどではない。


「人口的に造られたのであれば、そこには制御するための仕組みもあるはずなのよ」


 龍脈が川であるならば、その仕組みはダムだろう、となんとなく理解する。


「大通公園の中心、南北と東西に走る線の結節点に、それがあるっていうんですか」

「その通り。大胆すぎでそもそも発想がなかったのだけれど、いま札幌を覆っている冷たい空気の正体もおそらくはこれ。この場所は未だ、シアンカムイの支配下にある」


 ぞくり、と俺は心臓が震えたのを覚える。それは心拍だろうか。

 かつて札幌を襲ったシアンカムイは多くの傷跡を残していた。そのひとつが俺の心臓であり、かの怪獣の凍気によって、俺の心臓は呪われたのだ。


「竜の生命力を侮ってはいけない」


 橘支局長が俺にいつもかける言葉だ。そしてこの会議のときにまた、繰り返すように言った。


「水気が強すぎる、から冷夏に……」

「本当はもっと複雑な要素なのよ、龍脈というのは。でも、それを単純化する仕組みが札幌にはあった」


 そして、と響子さんはプロジェクターに映し出された画面の側に立って言う。


「一連の事件の、犯人がここにいるわ」


 結節点を指差す。

 犯人。その存在が明白に浮かんできたのは、コックリさんの事件からである。

 しかし現代怪異の事件はいずれも、何者かによって仕組まれたものである可能性があるという予想が立てられていた。

 なにせ、複数の怪異が絡まって起こる事件が多すぎる。それぞれの妖が単独で動くのであれば理解ができるし、その結果として複数の妖が鉢合わせるなどということはあるかもしれない。

 しかし、明らかに手を組んで、あるいは複数の怪異が重なって現れる事象というのは珍しいのだ。


「コックリさんの石を渡し、儀式を教えた人物か」

「響子さんは見当がついているのですか」


 鶴喰が尋ねると、響子さんは首を縦にも横にも振りはしなかった。

 あのコックリさん騒動のとき、響子さんは俺たちが狐と戦っている裏で石の出どころを探っていた。

 ある程度の手がかりを得たとして、整理を行ったがあと一歩及ばず。しかし石の流通がどこまで行き渡っているかは目星がついたと言って、この二週間はその回収を行っていたのだった。


「推測を確信が持てないまま言ったりはしないわ」


 というのが、響子さんのスタンスである。

 坂芝さん然り、一時の安息のために言葉を吐くことはしない、というのはいかにも呪術者らしい姿勢であると、この数ヶ月で俺も学んでいたところであった。


「作戦はこの後すぐだ」占いのこともある、と橘支局長は付随する。「一時間後、大通公園で再集合すること。以降の指揮は鶴喰捜査員に」


 地下から連絡する手段はない。途中に中継器をいくつも設置するなら無線も通ろう。地下鉄の中であれば電波も通じるようになるだろう。

 だがその地下空洞からは外界に対し、連絡をとる手段はない。

 解散、と言われ、響子さんはすぐに会議室を出た。それを追うように支局長も退出する。二人は作戦にあたり準備は多いだろう。

 俺は自分の手を見た。いよいよ、なのか、ようやく、なのか。

 友達を、鶴喰を傷つけた者と対峙する。

 それはいままで戦ってきた妖や、シアンカムイと戦ったときとは明確に違う感触だった。

 おそらくそれは、相手が明確に「人」であることからなのだろうか。

 俺はそのとき、きちんと戦えるのだろうか。


「ぱいせん、大丈夫ですか?」


 鶴喰が声をかけてくる。憔悴しているように見えていただろうか。

 色素の薄い瞳が俺を見つめる。顔が近い。呼吸が止まりそうになってしまったのは内緒だ。


「問題ない。そっちはどうだ」

「大丈夫ですよ。あのとき以来、荒事は少なかったですから」


 コックリさんのときに受けた呪いは全快し、学校での憂慮も少しは晴れて、むしろ調子は良さそうに見える。

 俺はふっと笑う。それがかえって鶴喰を不安にさせてしまったようで、彼女は顔を曇らせた。


「なら、いいんだ」


 それでいいのだと、俺は心の中で繰り返す。

 寄せては返す波のように穏やかならぬ俺の心は落ち着かないまま、作戦までの時間をゆっくりと過ごしたのだった。

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