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 芋の味で思い出した。俺はこの村に来たことがある。

 いや、はじめからわかっていた。この芋の味は、それを確信へと変えたのだ。

「俺が子どもの時、この村で暮らしたことがあると思う。あんたたち、俺のことを覚えていないか」

 四つの瞳が集まるが、やはりことばは通じていないようだ。みな、すぐに食事に注意を戻す。

 子どもたちが時々なにかをいうが、女にたしなめられて黙ってしまう。食事の時に喋るなという教えなのだろう。意思の疎通ができないことがもどかしい。

 夕飯が終わると、板の間の上に布団を敷いた部屋に案内される。ここで眠れということなのだろう。いい感じに酒がまわっていた。天井がグルグル回り、すぐに眠りについた。


 物音で目を覚ます。日はすでに高い。物音の正体は子どもたちのようで、俺が視線を向けると笑い声とともに姿を隠した。昨日の囲炉裏いろりのある部屋に行くと、女がちょうど入ってくるところだった。顔を洗う身振りをすると、井戸の場所を教えてくれる。顔を洗い、冷たい水で喉を潤す。

 家に戻ると、朝食の用意が整っている。甘い芋に、野草の汁。素朴な味わいだが二日酔いの体には心地よかった。

 居候いそうろうは得意中の得意。食客として、各地の顔役の家を渡り歩くのは渡世人の処世術。飯や待遇に文句はいわない。気に入らなければ、出て行けばいいのだ。ちょうど食事を終える頃、巨人が俺に表に出てくるよう身振りでうながした。家の主人に頼まれたことはやる。これも居候の心得。

 靴を履きなおして表に出ると、巨人は昨日の丸太とすきを担いで待っている。背には大きなかご。農作業でも手伝えということか。周囲を見回して、鋤かくわを探すが見当たらない。仕方ないので、若木の棒を手に取ると、違う違うと首を横に振る一つ目。スッと突き出された右手が指さした先には、俺の大身おおみ槍があった。

 昨日の再戦か、いやちがう。戦うなら鋤など不要。狩りにでもいくのか。残念ながら、俺は獣を狩るのは得意じゃないぞ。

 まあいい。

 なにがあるのかはわからないが、ついて来いというなら、ついて行こう。武器を持っていけということであれば、なにか化け物でもいるのだろうか。鋤を抱えた大男と、二人楽しくお散歩だ。


 山地にある森の木々は高くそびえ、下生したばえがほとんどないので歩きやすい。しばらく進むと巨人は足を止め、なにも生えていない地面をいきなり鋤で掘りはじめた。

 べつに手伝いを求められてはいない。とりあえず観察だ。少し掘っては止め、掘っては止めを繰り返し、なにかを引っ張るような動きとともに、大きな芋が姿を見せた。巨人は、人間の腕くらいの長さがある芋を折れないように引き抜くと、そっと背中の籠へ入れる。

 これがあの甘い芋か。村に畑は見えなかったので、森に入って芋を掘っているのだろう。ならば、なぜ町を襲って家畜を奪うのか。芋の不作が原因なのか。それとも別の――。

 突然甲高い叫び声に思索が遮られる。音は木の上から、そこに何かがいる。

 ましらか。

 木の枝を、両手を器用に使って移動する姿は、大型のましらのようだ。

 再び何かを命ずるような甲高い叫び声が響くと、木の上からバラバラとなにかが降ってきた。

 投げたというより、ばら撒かれたそれは、風を切って我々の頭の上へ降り注ぐ。

 数は多いが、速度はそれほどでもない。大きく間合いを取れば、避けるのは簡単。バラバラと地面に短槍のようなものが突き刺さる。巨人は、丸太をブンブン振り回して落ちてくる短槍を弾き飛ばしていた。

 なるほど、これは槍というより手矢てやの類いだ。粗末な木の棒に石のやじりという簡単なものだが、高さがこの手矢に恐るべき威力を与えている。

 木の上の相手には、一つ目の膂力りょりょくも役に立つまい。ひょっとして、このましらに困っているから、なんとかしろということか。

 半弓でもあれば、あのくらいのましらくらい射落とせるだろうに。一つ目たちは弓を使えないのだろう。仕方ない、一宿一飯の義理だ。

 大身槍を左に持ち替えると、隠し(ポケット)からつぶてを取り出す。少し遠いので、腕全体を使って思い切って投げつければ、ギャッとひと声を残してましらが木から滑り落ちる。

 高さが手矢の威力につながっているのだから、落下は命取り。猿も木から落ちるということ。

 グシャリという音とともにまき散らされる血、血、血。ああ、この高さならすぐには死なないのか。

 もう一つ礫の贈り物。

 ギャッ、グシャ。

 隠し《ポケット》にはあと五つか六つは石がある。それが無くなれば撤退だ。

 また鋭い叫び声。手矢のばらまきは止まり、ましらたちは森の奥へ逃げ出した。

 追撃はできない。仕方ないので、地面へ叩きつけられた二匹へ向かう。

 全身毛むくじゃら。知能はそれほど高そうではない。これだけのケガだと命も助かるまい。楽にしてやると、次のましらの襲撃に備えた。

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