Ⅲ
マイラの店を出ると半弓と矢をジェレーオへ渡し、かわりに柄の長い剣を受け取る。
帯に剣を差すと、ひと安心。これから出入の可能性が高いのだ。腰にこいつがないと、どうも体が軽すぎる。
「もし戦いになれば、敵の弓手を射て欲しい。相手に弓持ちがいなければ、俺から離れた場所の相手を射てくれ。流れ矢をくらうのは御免だぞ」
かたい表情のジェレーオは、ぎこちなくうなずいた。
「もし、相手がお前の方へくれば、逃げてもかまわない。逃げることができればな」
家がまばらになり、ポッカリと開いた鉱山の入り口が見えてくる。そして、少なくない人影。二十人、いや三十人はいる。数を揃えればいいと思っているのだろうが、そうはいかない。
「ゴドリエル巡察官。あなたが本当に、国王の勅命を受けているということの確認が取りたい。鉱山の所有者として、本物かどうかわからない巡察官に鉱山へ立ち入らせるわけにはいかないんだ」
ベンヤンの後ろには、三十人ほどの男たち。ツルハシを持つのは鉱夫か。槍、剣、円匙。弓は見えない。
懐からフゲンのオッサンに渡された書類を取り出し、高く掲げる。これ、正式な書類なんだろうな。
「これが勅命の証だ。これを見た上で拒否するとなれば、王への叛意があるとみなすことになるぞ」
少しも驚かないベンヤンに、意外な思いをしながら返答を待つ。
「それが本当の書類であると、どうして私ごとき下賤のものがわかるんだ。確認のために使いを町へ送る。その後で、本物とわかれば調査してもらおう」
一理ある。が、本当の巡察官だったらどうするつもりだ。勅使をぞんざいに扱うとは、死罪になっても文句はいえないだろうに。
「正気か。王に逆らうとは、ただでは済まんぞ」
ああ、自分の口から出たとは思えない。権威に阿り、他人の力を背に虚勢を張る。侠客にあるまじき発言だ。
「問い合わせされると困るのはお前の方だ。ゴドリエルというのもどうせ偽名だろう。そんな人相の悪い巡察官がいるかよ。おおかた、金のにおいに釣られてきた詐欺師なんじゃないか」
なるほど、はじめから巡察官と思っていなかったのか。俺の演技がよほど下手だったんだな。
剣を抜き、槍を構え、ツルハシを担ぎ上げる。三十人の男たちが、ジリジリと動き始めた。
「ジェレーオ!」
放り投げられた大身槍を右手に掴むと、トンと石突きを地面に叩きつけて鞘を外す。
「王の巡察官を襲うとは、いい根性をしてるな。金のために親分を殺めるような仁義知らずに、俺が殺せるか」
啖呵を切ると、大身槍を構える。
ギョッとする男たち。
だが、多勢に無勢。数を頼りになんとかなると思っているのだろう。武器を構えてにじり寄ってくる。
三十対二。
鎧兜の兵士相手なら別かもしれないが、相手は烏合の衆。
ひと声上げると石突きの近くを握り、大きく槍で薙ぐ。
大身槍は、鉄棒の先に剣がついているようなものだ。触れれば斬れるし、縮地の技でもなければ懐に飛び込むこともできまい。
潮が引くように、敵が一斉に後退る。
だが、それだけでは足りない。一歩踏み込んで手首を返すと、一番左にいた槍を構える男の喉元へ穂先を繰り出す。横薙ぎをかわし、ホッとしたのも束の間。自分がまさに死なんとしていることに気がつき、驚くような表情で男は倒れた。
衆を頼みに、安心していた敵が怯む。
裂帛の気合。
さらに一歩踏みこみ、もう一度腹のあたりの高さを右から左に薙ぎ払う。今度は体ごと力一杯だ。
一人、二人、三人、四人、五人目で槍が止まる。
骨の手応え。
穂先が肋に食い込んだのだ。身を守るために腰を屈めたのか。
手首をグッと捻ると、槍から重さが消えていく。助かった。骨に穂先を噛まれると、槍を捨てなければならなかったところだ。
右の四人が腹を押さえる。革の胴当てでもつけていればよかったな。黄色い脂の間から血を流す男、腸がこぼれ出ないように両手で押さえる男、跪く男。肋まで斬り込まれた男は、そのまま奇妙に左へ傾いて倒れた。
槍を引くと、もう一歩踏み込んで左の男の腹を突く。握っていたツルハシを落し、男が根元まで突き刺さった槍の柄を反射的に両手で握るのを見てから、穂先を地面に向けて押し下げる。
死にたくないという気持ちは、腹の中の槍が一寸たりとも動くのを許さないもんだ。男の手が下がる穂先を止めようとした瞬間、今度は槍を思い切って跳ね上げた。
残酷な曲芸。
一人の人間を槍一本で持ち上げる為には、よほどの剛力が必要だが、相手が体を持ち上げるのに協力してくれるなら俺にでもできる。槍で串刺しにされた男が空高く舞い、グシャリと地面に叩きつけられた。
三回呼吸する間に、七人の男が戦闘不能。
さあ、どうするベンヤンよ。




