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酒盛りの日

 虫たちに葉っぱをやりに行った後、家に戻ると、センセイが何やら手に持って「そろそろ頃合いかなぁ」と呟いていました。よく見ると手に持っているものがチカチカ光りました。どうやら瓶のようなものでした。


「何してるの?」

「うん、後でのお楽しみ」


 振り返ったセンセイの瞳はとてもキラキラとしていて、それはもう悪い輝きを放っていました。


 ハールはどことなく悪い予感がしました。瓶をそっと棚にしまうセンセイの姿が悪魔に魂を捧げて結託する従者のように見えてきました。こんなセンセイは見たくなかったのですが、仕方ありません。現実から目を逸らさず、自分の中に湧き上がる感情--深い悲しみと憐れみとほんの少しの軽蔑の感情--を素直に受け入れることにしました。


 センセイを残してハールは作物の見回りを兼ねて外に出ました。


 水が引かれた田んぼには、稲のまわりで飛び交うトンボや水面を滑るアメンボの姿がありました。畑では蝶々が作物のまわりをひらひら舞っていました。


 一通り見回り、細い道を歩いていると道端で辺りをキョロキョロしているカラスがいました。カラスはハールが近づいてくるのを察知すると、羽根を少し広げ、足をぐっと引き寄せました。さらにハールが近づくと森の中へ飛んでいきました。


 ハールは森の中へ入り追いかけました。よく人の家のゴミを漁っていて、どんなに追っ払っても人の気配が無いのがわかるとまたゴミに近づいて漁っていく、汚らしい鳥。ハールはカラスにそんな嫌悪感を持っていました。


 しかし、森の中で見つけたカラスは、とてもおとなしくひっそりと暮らしていました。木の陰に身を隠しながら木の実を咥え、雨が上がった後に残った小さな水たまりに嘴を浸してゆっくりと水を飲み、わずかにできた窪みに羽根を折りたたみ目を閉じて眠ったりしていました。その姿は、まさに野生というべき自然の中に溶け込んで暮らす生き物そのものでした。嫌悪感どころかいとおしい感情さえ持ちました。


 この奇妙な発見でハールは向こうの世界ではあの鳥たちがなんであんな振る舞いをするのか不思議でしょうがなくなりました。いつの日かわかる時がくればいいなと思いながら、もうしばらくその場の景色を楽しんでいました。




 家に戻ると、センセイたちは食事を始めていました。


「おーい。遅いよう。何してたのさあ」


 よく見ると、センセイの顔は真っ赤で、すっかり出来上がっていました。側ではコップが転がって、酒の残りがテーブルの上に広がっていました。


「ちょっと、森で……」

「いいから、早く座って。森なんかどうでもいいでしょ」

「あー……」

 ハールは面倒くさくなりました。それでも相槌を打っては話を聞きました。


 二人が面倒くさいやり取りをしている側で、コトリがコップの中に入り込んで行きました。そしてくちばしを液体に浸していました。

 センセイの態度はさらにひどいものになりました。なのでハールはセンセイの話を聞き流し始めました。


 すると、コトリがハールの頭に乗っかってきました。しかし様子が変です。やたらハールの頭をつつきはじめました。


「いたい、いたいよ」


「クエッ、ケッケッ」


 さらにコトリは変な鳴き声を上げました。挙動もおかしくなっているようで、視線が定まらず、首を振り回し、ハールの頭だけではなくあちこち動き回りました。机をつつき、フォークやスプーンを引っ張っては放り投げ、暴れまわっていました。


「どうしたの」

 ハールはコトリの暴れっぷりに困惑しました。


「あー、酒飲んじゃったのかぁ」

 センセイはどうでもよさそうな態度でそう言いました。よく見るとセンセイの顔はすっかり赤くなっていました。


「……ハールもさ、どう」

 センセイに酒を勧められたハールは断り続けましたが、一歩も引く様子がないセンセイにあきらめて少しだけもらうことにしました。


「うわぁ」

 ハールは初めての酒に顔をしかめました。よく飲めるなあ、こんなもの。そう思いましたが今回は本当に何も言わないようにしました。


「ダメだよ、飲めるようにならなきゃ」

 たちの悪くなったセンセイが得意げに何か喋ってきましたが、話が頭に入ってきません。


 だんだん頭がぼうっとしてきて何も考えられくなってきました。センセイとコトリの騒音が子守歌のように聞こえてきました。すうっと心地よい眠気がやって来てハールはテーブルに突っ伏してしまいました。


ありがとうございました

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