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川のお客さん

「おはよう。センセイ」

「おはよう。ちょっと悪いんだけど、川へ水を汲みに行ってくれないかな。ちょっと手が離せなくてさ」

「うん、いいよ」


 コトリと一緒に外に出ると、柔らかい日差しが差し込んできました。あちこちでは植物たちが様々な形で花を咲かせていました。地表すれすれから咲かせている赤紫の花、台座のような形をした茎から左右対称に花をにゅっと突き出している不思議なものもあれば、地表に葉っぱを貼り付くように茂らせ、その上に黄色い花を咲かせているのもありました。 


 ハールは自分がこの森にやってきたときのことを振り返りました。みんなどうしてるのかな? 僕がいなくなって心配してるのだろうか? それともいなくなったことすらどうでもいいと思ってるのかな? 

 そんなことを考えながら歩いていると、桃色の花を咲かせた木が並ぶ道に出ました。



 川には先客がいました。細長い足を少し折り曲げるようにしてじっと佇んでいる青い鳥や、その周りをゆるゆる泳いでいるカモの親子、川に落ちないようにと岩にへばり付きながら水を飲もうとしているリスがいました。

 みんなハールたちがやって来るのに気づくと振り返りました。けれど、ハールにおびえる様子もなくまた自分の目的に没頭しました。


 どうぶつたちを横目にハールは川に近づき水を汲もうとしたら、丸い岩の間に黄緑と赤の混じったカラフルなカニが挟まっていました。カニは身動きが取れず小さいフォークのようなハサミをぶんぶん振り回していました。

 ハールは自分の住処で翻弄されているのをおかしく思いながら、棒きれをひょいと差し出しました。脱出したカラフルなカニはハールの前でハサミをゆっくり広げたり閉じたりしました。どうやら感謝のしるしのようです。


 ハールがカニとそんなやり取りをしていると、いつも間にか周りにいたいきものたちがハールの近くにやってきました。ハールはどうしていいのか分からずオロオロしていると頭の上にいたコトリが鳴きだしました。それに合わせるようにみんな鳴き声を上げました。どうやら会話をしているようです。言葉はわからないけれど楽しそうな雰囲気が伝わってきました。



 ハールが川で水を汲み終わり、帰ろうとすると雪が降りだしました。ハールは急ぎました。あの桃色の花を咲かせた木々にはすっかり真っ白な雪が降り積もり、その細長い枝をしならせていました。急がなければいけないのですが、ハールはそこで立ち止まりました。


 あの花が咲くのを見ると、これからもっと温かい季節に向かうはずなのに、寒くなって雪まで降っている、異様な光景。不安に駆られるのが普通なのに、どうしてもあの柔らかな色をした花が雪の白さでより艶やかに見えました。


 その鮮やかな風景にハールはどうしても愛らしさを感じられずにいられませんでした。


ありがとうございました

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