課外授業 森に出かけよう
「みんなそろいましたね。それじゃあ行きますよ」
課外授業の日、校舎に先生の声が響き渡りました。みんなは先生の後について森へと向かいました。いつもと違う場所で行われる授業にみんな興奮を隠しきれないようでした。自分の体ほどあるリュックサックにそれぞれ思い思いの荷物を詰め込み、背負ったリュックをがしゃがしゃ揺らしながら歩いていきました。
ハールをからかったあの二人組の子たちも最初は緊張していたのですが、ハールを見つけると、先生の目を盗んでは何かを言い出し、にやにや笑いました。その二人を見ているとハールは気が滅入ってしまいました。特につらかったのは二人の話を聞いていた周りの子たちもこそこそと笑っていたことでした。
ハールは暗い気持ちになりました。それでもみんなに遅れないように、後ろからついて行きました。
先生は何かを見つけると立ち止まり、みんなを集めて説明をしました。目に映るものだけでなく、動物たちが発する鳴き声や、においといったものまでありました。
時折、生徒が疑問を口にしたときも、立ち止まって説明することもありました。先生は意図的に自分から答えを言わず、生徒自身で解るようにうまく誘導していました。
「あれはなんだろうね? どうして鳴いたんだろうか? そういうこともあるかもしれませんね」
ハールはそんなやり取りを後ろからつまらなそうに眺めていました。すると、みんなの横に大きな岩があることに気づきました。日の当たらないところに生えている苔が不思議な色をしているくらいでどこにでもありそうな岩なのですが、まるで何かが乗り移って意思を持って、こちらを見つめているそんな気がしてハールはぶるっと震えました。
みんなはその岩の存在など知らないといった具合に次々と通り過ぎていきました。ハールは恐る恐る大岩の前まで近づくと、立ち止まって下から見上げました。岩の窪みが織りなす光の印影の具合やそこから植物が生えている、といったことが不思議で圧倒はされましたが、特に怪しいものは見つかりませんでした。それでもハールは岩に対する怖れの感情を拭うことはできませんでした。
「そんなところにいないで、行こうよ」
ミタラがやってきて声を掛けてきました。
「……いいよ。僕はここでいいよ」
ハールはふてくされてしまいました。
「……そう。じゃあ、気が向いたら来なよ」
ミタラはそう言って、先生のもとへ駆けていきました。
ハールは、その後ろ姿を睨みつけるように見送りながら、石ころを蹴り飛ばしました。
(ああ、どうして僕はあんなふうに楽しむことができないんだろう)
みんなが一緒になって真剣に先生の話を聞いているのを見て、ハールは自分でもわからないほどさみしい気持ちになりました。初めて知ることへの感嘆の声や楽しそうに笑い合う声が聞こえるたび、自分だけどこか遠く離れた別の星にいるような気がして、この場にいることが惨めで堪りませんでした。
いつの間にかハールはみんなから少しづつ遅れていきました。
ありがとうございました。次から話の展開が変わると思います。




