叔母さんの家
ミタラと別れてからハールは叔母さんの家に向かいました。叔母さんはハールのお母さんの妹で、少し前に姉が病気で亡くなったことを知り、身寄りが無くなってしまったハールを快く引き取ってくれたのでした。自分の姉妹が亡くなって悲しいはずなのに気にかけてくれることを、ハールはとても感謝していました。
「ただいま」
家に着くと、ご飯の支度をしていた叔母さんが迎えてくれました。
「あら、おかえり。なにかいいことでもあった?」
「どうしてそう思うんですか?」
ハールは叔母さんへの敬意からなのでしょうか、丁寧な言葉遣いで返事をしました。
「そんなにかしこまらなくてもいいっていつも言ってるでしょ。まあいいや。いやね、特に理由はないんだけど、なんとなく嬉しそうな顔をしていたから、どうしてかなって」
「そんなことはないと思いま……うけど……」
ハールは不自然な言葉遣いになりそうになって、慌てて治しました。
「そう? わたしの気のせいなのかな。あ、もうすぐできるから部屋にかばんを置いて戻ってきなさい」
叔母さんにうながされてハールは自分の部屋に向かいました。
かばんを机の上に置いて椅子に座るとさっきのことを思い返しました。どうして叔母さんはあんなことを言ったのだろう?しばらく考えてみましたがどうしても思い当たることがありません。そうこうしているうちに叔母さんの呼ぶ声がしたので居間に向かいました。
居間に向かうと、叔母さんが料理を運んでいました。ハールも手伝おうとしました。
「ありがと、でももうすぐ終わるから大丈夫。座っててよ」
「でも」
引き取ってもらっている以上、何もしないわけにはいかないとハールは食い下がりました。
「いいから、いいから」
叔母さんはハールの両肩をポンと叩いて椅子に座らせると、残りの分を運びに戻りました。
そんな叔母さんの姿を眺めていると、ハールは自分のお母さんのことを思い出しました。お母さんは、他所の子たちにからかわれては塞ぎこんで家に帰ってくる自分を慰めてくれました。長い時間一緒に過ごした姉妹だからでしょうか、叔母さんの仕草にお母さんの姿が重なってしまうのでした。抱き着いて甘えている自分の姿を想像しては、「いけない」と顔をぶんぶん振り、そんな自分を意識の隅っこに追いやりました。そんなことを繰り返しているうちに叔母さんの家族が集まってきました。
夕食は賑やかに進みました。温かいチキンのスープに香ばしいバターロール、甘いミルクが並べられたテーブルの上でみんなが和気あいあいといろんな話を交わしていました。ハールも加わりたい気持ちがあって会話に乗ろうと試みました。
しかし、どうしても自分が他所の子であることに気が引けてしまい、テーブルの隅っこで食べ物を頬張るだけになってしまいました。叔母さんが親切にしてくれるからこそ、変なことをしてその場の空気を壊したくない、そういう恐れを抱きました。おいしいはずの叔母さんの料理には味が感じられなくなり、テーブルの上に灯された蝋燭の炎の熱さばかりがじりじりとハールに伝わってきました。
「そうそう、ハール。今日はどうだった?」
唐突に、叔母さんが話しかけてきました。
「え?」
ハールはスープを掬おうとしてた手を止め、顔を上げました。
「学校のみんなとは仲良くできてる?」
「うん。今度教室の外で授業をしま……するよ。季節のことを考えながら森の中を観察するんだ」
「へえ、それはまた変わったことを考えるんだねえ。あの先生も。でも、ハールがうまくやれているようで安心したよ。あと、ミタラちゃんにも感謝しないとね。ほら、いつもお前のことを気に掛けてくれるじゃない」
「えっと……」
急にハールは口ごもってしました。意味もなく視線をあちこちに向けてオロオロし始めました。それから、残りの食べ物をばくばく食べ始めました。みんなはそんなハールの姿にキョトンとしてました。
叔母さんはそんな慌てふためくハールの姿に、ハールらしさが出ているような気がして嬉しそうにしてました。
読んでくれてありがとうございます。もう少しなだらかな話が続くと思います。