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夏に降る雪

その日の晩、みんなは外に涼みに出かけることにしました。外は夏の装いで、川沿いには成虫になった蛍たちが飛び回っており、暗闇の中で黄緑色の光がぽうっと灯ったり消えたり、なだらかな曲線を描くように移動していたりしました。


 ハールは歩きながら、元の世界の人たちのことを考えていました。学校のみんなのこと、叔母さんたちのこと、それからミタラのこと。


「ねえ、センセイ」

「ん?」

「僕、元の世界でも上手くやれるかなあ」

「わからないなあ。でも今の君なら上手くやれると思うよ。だから自信を持って」

「キューキュー」

 ハールの頭の上に乗りかかったコトリがハールの頭をコンコンと突きました。これまでとは違って愛おしそうな突きかたでした。

「……ありがと」

 ハールは頭から羽根を包み込むようにコトリを撫でました。


「センセイは、海って知ってる?」

 川を眺めていたら、そんな言葉が出てきました。

「ウミ? ウミって何?」

 センセイは呪文を唱えるようにその言葉を繰り返しました。

「この川をずっと下の方へ下っていくと辿り着く所で、この小さな川が見渡す限り広がっていくんだ」

「あ、それ、どこかで聞いたことがある。うみ、海でしょ。ずっと昔そんな場所を見ていたことがあるよ」

「本当?」

「うん、たしかたくさん鳥と一緒に、広いところを飛んでいたよ。魚を採っている船を見下ろしながら」

「じゃあ、センセイって……」

「うーん、でもずっと前のことだから当てにならないよ」

「そうかな? きっとそうだよ。センセイもいつか海を見れるといいね」

 ハールはそう言いながら胸に熱いものが込み上げてきました。必死で笑顔を作り、目元が涙で滲むのを堪えました。

「そうだね」

 センセイはハールの気持ちを知ってか知らずか暢気に答えました。


 いつの間にか空から雪がちらちらと降り始めていました。雪は長年の付き合いがある友人に挨拶でもするように蛍たちに触れては消えていきました。蛍たちも驚く様子は無く、初めての雪の冷たさを楽しむように飛び回っていました。


ありがとうございました

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