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黄金色の日

 空に光が差し込み、辺りが黄金色に染まっていきました。木の上にいたフクロウの親子はいつの間にかその姿を消していました。


 地表には少し霜と雪が残っていました。どうやら少し降ったようです。しかし、朝日とともに暑くなっていき、直ぐに霜と雪はなくなりました。


 黄金色の光が空だけでなく地表にも降り注ぎ、すべてのものが金細工でできたもののように変えてゆきました。黄金の森。黄金の草原。それはとても煌びやかな景色でした。


 ハールは両手を大きく伸ばして背伸びをしました。深く息を吸い込みゆっくり吐き出しました。改めて、ここで楽しい素敵な日が始まるんだということを実感すると空へ伸ばした手を下ろしました。勢いでその手がズボンのポケットに当たりました。すると、ポケットの中になにか硬いものが入っていることに気づきました。何気なくポケットに手を入れてそれを取り出しました。その時、ハールは全部思い出しました。大切な記憶が滝の洪水ようにハールの心に一気に流れ、溢れかえってきました。


 ポケットの中にあったものはミタラからもらった飴玉でした


 もうすっかり形が崩れてべたべたになってしまい、ひどいものへと変わり果てていました。けれども、そのくしゃくしゃになった包み紙の飴玉はハールの気持ちをとても強く揺さぶりました。


 帰りたい


 ハールは心にその思いが浮かび上がりました。それと同時にひどく寂しい気持ちがこみ上げてきました。これまで楽しく過ごしてきたセンセイやコトリたちと別れを告げなければならなかったからです。


 家の前の椅子にはすでに起きているセンセイとコトリの姿がありました。センセイは相変らずゆったりとした佇まいで何か温かいものを飲んでいました。ただ、その中にも何かを悟っているかのような、気づいているような素振りがありました。それはハールの予感でした。


「センセイ」

「ん?」

 やっぱりセンセイはいつもどおりでした。

「あのね……」

 そう言ったきりハールは俯いて黙り込んでしまいました。

「ちょっと待ってて」

 センセイは椅子からそっと立ち上がり、家の中に入っていきました。少ししてカップを持って戻ってきました。カップからふんわりと湧き出る湯気を見つめながら一口、また一口と舌を浸すように飲み始めました。コトリがハールの手にやってきてカップの中に首を突っ込んではハールの顔を見るという仕草を繰り返しました。今ではそんな仕草も懐かしむような気持ちでコトリを見守りました。そして木の実の甘さと薬草の香ばしい匂いの合わさった不思議な飲み物を味わいながらハールは気持ちを落ち着かせていきました。


「あのね、センセイ……」

ハールは一呼吸置いてから、伝えなければならない言葉を解き放つように言いました。


「帰りたい」


 センセイがしばらく黙ったままだったのでハールは失望させてしまったんじゃないかと急に心細い気持ちになりましたが、ハールは続けました。

「どうしたら帰れるの?」

「それなら君はもう、いつでも帰れるんだよ」

「え?」

 ハールはどうして、と言わんばかりにセンセイを見つめました。

「この森から帰りたければ、ただ強く、嘘無く、帰りたいという心持ちを持てればそれだけでいいんだよ」

 ハールは自分の心が見透かされているような気がして少し恥ずかしくなりました。

「さあ、君の季節へ帰りなさい。どうやら君は帰りたい理由を見つけたんだから……」

 やっぱりセンセイはハールの考えていることが分かるのか、意地悪そうな目つきでハールを見ました。


「心を真っ直ぐにして君の季節が呼ぶほうへと進むんだよ。そうすれば自然に帰り道は開くから」


ありがとうございました。

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